願い事一つだけ |
「確かですってば!」 何時も元気な正義娘アメリアが、剥きになって叫んでいる。 「落ち着けアメリア。で、この町にあるって神殿の噂、本気で信じているのか?」 「本当に本当なんですってば!この神殿に伝わってるんですよ、この神殿にその人が本気で願う事を一つだけ叶えてくれるんです!」 ゼルガディスの言葉にアメリアは真剣な表情で答える。それを溜息混じりに見詰めるリナとガウリイ。 「分かったわよ、その噂が本当かどうかは別として、付き合ってあげましょうよゼル。」 「リナさん!」 「そうだな、それでアメリアが満足するなら良いんじゃないか?」 リナとガウリイがゼルガディスに向かって話し掛けると、ゼルガディスは頬を少し赤らめながら仕方無いなと呟いた。 「ここですよ、ゼルガディスさん!」 ニコニコ微笑むアメリアにゼルガディスは苦笑いを浮かべ、リナとガウリイは顔を見合わせてニッコリ笑う。 「アメリアちゃ〜ん、そんなに必死になって何をお願いするのかなぁ?」 意地悪なリナの質問にアメリアは顔を真っ赤にして答える。 「ダメですよ、今口に出しちゃったら願いが叶わなくなっちゃいます!」 「あ〜はいはい、大体想像出来るけどね。ほ〜んと幸せ者ねゼルちゃんは。」 リナの言葉にゼルガディスはフンと横を向く、そんな時、アメリアの絶叫が聞こえてきた。 「どうしたアメリア?」 ゼルガディスの問い掛けに、アメリアは大きなアメジストの瞳をウルウルさせてゼルガディスにしがみ付く。 「ごめんなさいゼルガディスさん、今ここの神殿の方に聞いたんですけど・・・・・・願いが叶っても一日だけなんですって」 泣きそうになるアメリアに、リナは彼女の願いを口にした。 「アメリアはここでゼルの体が元に戻るようにお願いするつもりだったのね?」 その言葉に小さく頷くアメリア、ゼルガディスはニッコリ笑うとアメリアの頭を優しく撫でてやる。 「バカだなアメリア、俺の事より自分の願いを叶える事を考えろよ。まぁ、折角来たんだ。何か願い事をしていこうじゃないか、なぁリナもガウリイの旦那も。」 「そ、そうね」 「・・・あぁ」 そうして全員が願い事を叶える為に神殿の奥へと向かった。 (リナが俺の本当の気持ちに気付いてくれますように) ガウリイが真剣な顔で願い事をしているその横で、リナは彼を盗み見ながら願い事を考えていた。 (お宝ガッポリ入ってきますようにって、ダメか一日だけだもんね。じゃあ胸が大きくなりますように、って・・・次の日に元に戻ったら虚しいだけじゃん。はぁ・・・・・ガウリイがあたしの事子供扱いしなくなるようには・・・無理か。せめてあたしがガウリイと同い年なら子供扱いされないんだろうけどなぁ) 「おいリナ、何真剣に拝んでるんだ。もう皆終わったぞ。」 ガウリイの声に、思わずリナは顔を上げる。そこには何やら意味ありげにニヤニヤ笑うゼルガディスとアメリア、それとキョトンとしているガウリイ。 「あ・・・あはは、だってさぁ、本当一つなんてケチ臭い事言わないでドーンと百や二百叶えてくれたって良いじゃない。ねぇ?」 「・・・・・あのなぁ」 「リナさんらしいですね」 「・・・だな」 呆れる三人に顔を赤くしながらリナはニッコリ微笑む。 「さ〜て、お腹空いちゃった。お昼ご飯食べよう!」 リナの提案に全員頷き、仲良く町に戻って行った。そして次の日事件は起こった。 「うきゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 願いを掛けに行った次の日の朝、突然のリナの悲鳴にガウリイとゼルガディスとアメリアがリナの部屋に飛び込んで来た。そして目の前に入って来た光景に暫し呆然とする一同。 「り・・・・・・・・・・・・・リナ、だよな?」 最初に声を出したのはガウリイだった、驚きに目を丸くしながら目の前のリナに話し掛ける。 「あ・・・あたし、どうして成長してんのよぉ!!??」 そこに立っていたのは栗色の髪に赤い瞳、小さい可憐な唇、スラリとした身体つきの美しい20代の女性だった。 「リナさん、ですよね?」 「年の頃なら・・・・・ガウリイと同じ位だな。」 ゼルガディスの言葉に、リナは思わずピクリと反応する。 (まさか・・・昨日の願いが叶っちゃったって事???あたし・・・そんなにガウリイに子供扱いされるの嫌だったんだ!?) 思わず顔を赤くするリナに、ゼルガディスはコホンと咳払いをすると自分のマントをリナに差し出した。 「そのな・・・目のやり場に困るから取り合えずこれを着ててくれ。」 ゼルガディスの言葉に、リナは自分の姿がパジャマのボタンが弾け上着がはだけている姿だとゆう事に気が付いた。 「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!バカ、H!早くガウリイ出てってよ!!」 リナはゼルガディスのマントを掴むと、大声を上げて全員を部屋から追い出した。 「服・・・どうしましょう、リナさん?」 あれからコッソリ呼ばれたアメリアが困った顔でリナと話している。 「うん、多分・・・昨日の願いが叶ったんだから明日になれば元に戻ると思うのよ、今日だけの為に服買うの勿体無いし、でも・・・これじゃあ、外に出られないじゃない。」 取り合えずリナは何時もの服に着替えたものの、背も伸び、胸も幾分か成長した(それでもアメリアには負ける)所為で服がピチピチになっているのだった。男が見れば絶対視線クギ付け間違い無しな格好である。 「仕方無いですね、今日は大人しく部屋で居た方が良いですよ。そんな格好で出歩いたら町が崩壊しちゃいますよ。」 「あたしは猛獣かぁ!!する訳無いでしょそこまでは!」 (分かってないなぁ、ここまで鈍いとガウリイさんが可哀想です。絶対今のリナさんが町に出たらナンパな男達が寄って来て、リナさんの魔法とガウリイさんの剣でこの町崩壊しちゃいます) 「アメリア!!」 アメリアがそんな事を考えていると、突然ドアが開け開かれた。飛び込んで来た者の正体はゼルガディスだった、リナの今の格好も目に入らないのか、彼にしては珍しくかなり興奮している。ゼルガディスはアメリアの肩を掴むとこう叫んだ。 「喜んでくれアメリア、今聞き込んだ情報何だが・・・ここから少し行った町にクレアバイブルの本体への入り口に足を踏み入れた奴が居るらしいんだ!」 「本当ですか!良かったですね、ゼルガディスさん!」 「あぁ、偶然に足を踏み入れて怖くてすぐ引き返したらしいが、そいつの話を聞いた奴の話だと以前リナが言っていたクレアバイブルの入り口と似ているんだ!」 アメリアとゼルガディスは完全に二人の世界に浸っていた。リナの存在を完璧に忘れている。 「アメリア、俺はこれからその町に行ってその男に会ってくるつもりだ。・・・・・その、お前さへ嫌じゃなきゃあ――――――」 「わたしも行きます!ゼルガディスさん、こうしては居られません!早速その町に出掛けましょう!全は急げです!」 ゼルガディスの言葉を遮り、アメリアがガッツポーズをしながら言い切った。それを見てゼルガディスは一瞬呆れた顔をするが、すぐに満面の笑顔を浮かべる。 「そうだな、じゃあ急いでくれ。出来れば今日中に着きたい。」 「分かりました!あ!ごめんなさいリナさん、すっかり忘れてました!」 既に居ないゼルガディスにハッキリと答えてから、リナに向き直るアメリア。そして彼女はニッコリ微笑んで口を開いた。 「後の事はガウリイさんにお任せしますから、じゃあ行って来ます!何時か又会いましょうね!」 「頑張ってねアメリア・・・・・・・・・・・・・・・・って、なにぃ!!!」 (ちょっと待て、ガウリイに後任せるって・・・出来るかぁ!!んな恥かしい格好、ガウリイにどうしろって言うのよ!!) 思わず自分の体を抱き締めるリナ、するとドアをノックする音が聞こえてきた。 「ヒッ!」 思わず小さな悲鳴を上げるリナに、今度はガウリイの声がドアの外から聞こえてくる。 「リナ、入って良いか?」 暫しの沈黙、そしてリナは震える声で答えた。 「・・・・・・・・・・・どうぞ」 少しだけ戸惑った気配がしてからガウリイが入って来た、そしてガウリイの動きが止まる。 リナに視線を向けたまま暫しの沈黙が続く。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、アメリアとゼル、今宿出たぞ」 やっと我に返ったのか、ガウリイがあさっての方を見詰めたまま呟く様にリナに報告する。 「・・・・・・・・・あ・・そ、そうなんだ、良かったよねゼル、これで元の人間に戻ると良いわね。」 「あぁ、アメリアが喜ぶだろうな。何しろあのお姫様はゼルの幸せが自分の幸せみたいだしな。」 ウインクをしながら言うガウリイにリナは思わず顔を赤くする。 (うぅ・・・何でこんなにガウリイがカッコよく見えるのよ?) 「なぁリナ、お前さん・・・どうして成長するのを願ったんだ?」 突然ガウリイの顔が近くに来た事に、驚いて顔を更に赤くしてプイっと横を向くリナ。そんなリナにガウリイは苦笑いを浮かべながら耳元で囁く。 「リナ・・・教えてくれないか、どうして『俺と同じ位の年齢』まで成長する事を願ったんだ?」 「・・・・っ!あ・・・あたしは、その・・・そ・・そう、成長したら胸がどれだけ大きくなるか、知りたかったからだけよぉ」 ガウリイの表情が一気に悲しそうな物になる、彼の表情を見てリナは胸に鋭い痛みを感じた。 「・・・・・・・・・・・ごめん、本当は嘘。ガウリイに子供扱いしてほしくなかったからなの」 リナの言葉にガウリイは優しく微笑み、リナを優しく抱き締めた。 「・・・・・・顔赤いぞ」 「うっさいわよ!」 ガウリイの腕の中で怒鳴るリナに、ガウリイは苦笑いを浮かべ優しく囁く様に口を開く。 「お前さんだけの願い事を聞くのは不公平だよな、リナ俺の願い事も聞いてくれるか?」 「・・・・・・仕方無いから、聞いてあげるわ」 更に顔を赤くしながらリナが言うと、ガウリイはリナを抱く腕に力が入る。 「俺の願いは・・・・・リナに、俺の本当の気持ちが伝わりますように」 「本当の・・・気持ちって?」 リナが静かな口調で問い掛けるとガウリイはリナを腕から解放し、左手でリナの肩を掴み引き寄せ、そして右手でリナの顎を摘み上げるとゆっくりとリナの唇に己の唇を重ねた。 驚きに目を見開くリナに、ガウリイは又ゆっくりと唇を離して言う。 「リナ・・・・・俺はお前を愛している。」 「嘘よ!だって、あたしの事・・・ずっと子供扱いしてたじゃない!」 「・・・・・・・それは、そうでもしないと・・・・お前を襲っちまいそうで・・・俺は一度だってお前を子供だ何て思った事は無い。」 「あたしが・・・大人になったから、今告白したの?」 リナの言葉にガウリイは小さく首を横に振る。 「違う、俺は・・・リナだから告白したんだ。お前が逆に小さくなってたとしても、告白してた。」 「でも・・・・今じゃなくても良かったじゃない」 リナはガウリイに自分の本当の姿の時に言って欲しかった、ガウリイはニッコリと笑いながら言葉を紡ぐ。 「それは・・・リナの気持ちが分かったからかな。」 「あたしの気持ちって?」 「お前何時も子供扱いするなって言ってたろ、で・・・今日のこの姿だ。それってリナが俺を意識してるって事だろ?だから、今日告白した。リナの気持ちに応えたくて・・・」 何時もより少しだけ自分に顔の位置の近くなったリナに、ガウリイはもう一度キスをする。 何度も何度も啄むような優しいキス。リナも瞳を閉じ、それを受け入れる。 「リナ、今日はキスまでだ。」 「え、あ・・・うん」 頬を染め照れるリナに、ガウリイはニッと意地悪な笑みを浮かべながら口を開く。 「明日にはリナも元に戻るだろ?だから、明日からリナを抱く。」 「んな恥かしい事をサラッと言うなぁこのエロクラゲ!」 懐から取り出したスリッパで思い切りガウリイの頭をぶん殴るリナ、息を荒げながらリナは部屋を出て行こうとするがガウリイが慌てて止めた。 「どこ行くんだリナ!」 「・・・トイレよ、それにお腹も空いたし。」 「俺も付いてく。」 照れながら言うリナにガウリイはキッパリ言い切る、流石にそれには呆れるリナ。 「何言ってんのよ!まんだあたしを子供扱いする気?」 「俺の女扱いしてるから付いてくって言ってるんだ!お前今の姿どれだけ男どもがそそられるか分かってないだろう!?」 言われてリナは自分の姿を思い出した、そしてガウリイが行き成りリナの肩を抱き寄せドアに向かって歩き出した。 「ちょ・・・ちょっとガウリイ」 この姿を他の人に見られるとゆう恥かしさと、ガウリイの行動に戸惑いながらも力でリナが敵う訳が無くガウリイのしたいがままになるリナだった。 「トイレ行くんだろ、おれが一緒に行って待っててやるよ。もしリナに声を掛ける男が居たらその場で殺す。」 ニッコリと怖い事を平気で言うガウリイに、リナは顔を引き攣らせて笑うしかなかった。 「それから、昼飯と晩飯は部屋に運んでやるから一緒に俺の部屋で食べような。」 「ちょっと極端すぎるわよ、あんたは!?」 今までの子供扱いから一気に恋人扱いする隣の男に、完全にパニックになるリナだったがガウリイの次の言葉に更に驚いた。 「そうかぁ、あ、そうそうリナ。もう急に成長するなよ、お前さんを色んな意味で成長させて良いのは俺だけなんだからな。」 (もしかしてあたし・・・とんでもない奴を好きになっちゃったのかしら) 「バ・・・バカ言わないでよね、あたしはあたしよ!あんたなんかに簡単に変えられないんだからね!」 ベーと舌を出すリナに素早くキスをするガウリイ、唇を舐めながらニコニコ笑い口を開く。 「ご馳走さん、へへへ、そう言うリナも愛してるぞ。まぁ時間はしっかりあるんだ、じっくりゆっくり俺無しじゃ生きられない身体と心に教育してやるから覚悟しろよ、リ・ナ」 「変態、バカ、クラゲ・・・・・・・じゃあ、あたしもあんたを教育してやるんだから、あたしが居ないとダメになる様にね。」 リナが仕返しとばかりに言い返すと、ガウリイは満面の笑みを浮かべこう言った。 「安心しろリナ、そんなのとっくの昔になってるよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・バカ」 顔を赤くしながら呟くリナに、ガウリイは幸せそうに微笑んだ。 次の日、リナは元の姿に戻り、ガウリイに早速教育されてしまったとさ。 めでたし・めでたし 因みに、アメリアの願いは『ゼルガディスさんが元の体に戻る情報が一日でも早く見付かりますように』で、ゼルガディスの願いは『アメリアの願いが叶いますように』でした。 おわり |