眠れる森のガウリイ





















  それは、夕食を済ませた宿の一室で。

   「ねえ、ガウリイ」
  あたしは目の前の彼に小さな丸薬を差し出した。

  「なんだ?」
  彼は不思議そうに顔を傾けてこちらを見ている。

  「何も聞かずにこれ、呑んでくれない?」

  彼の視線があたしの手のひらに落ちる。

  「呑まなきゃだめなのか?」

  戸惑う彼。

  あたりまえだ。
  いくら何年も旅をしてきた相棒とはいえ、いきなり得体の知れないものを呑め、と言われて『うん』と言う奴はあまりいない。

  「理由は言えない。でも、できれば呑んで欲しい」

  我ながら無茶だなぁ、と思いつつもいまさら後には引けないし。

  「う〜ん、リナは呑んで欲しいんだな?」

  こちらを伺う彼の瞳。

  やっぱりだめよね、と引っ込めようとしたその手を。

  「分かった」

  そう言いながらパシッと掴んでそのまま自分の口元に持って行き。

  ゴクン、とためらいもなく呑み込んだ。

  「これでいいか?」
  あたしの手を離して、にこっと微笑みながら聞く彼に。

  「・・・ガウリイ、あたしの事疑ったりしないの?」思わず聞いてしまう。

  「リナが真剣に話す時は、必ず理由があるからな」

  だから、呑んだんだ。
  言った後に、小さなあくびを一つ。

  「なぁ、なんだか急に眠くなって来たんだが・・・」

  もうだいぶ瞼が下がってきている。

  「いいの。そのまま眠って・・・」
  ふらつく彼をベッドに導き、横たえる。

  「・・・リナぁ、・・・盗ぞくいぢめはやめ・・とけ・・・ょ・・・」
  くう、と軽い寝息。



  ・・・なんでこんなにあっさりと信用するの?
  もしかしたら毒かもしれないんだよ?
  このままあんたを置いて、ブラストソード持って逃げるかも知んないんだよ?
  なのにどうしてあたしの心配ができるのよ・・・。
  

  胸が締め付けられるように苦しい。
  彼のあたしへの信頼は、本当に絶大で。
  ・・・でも。
  ごめんね。
  あたしは・・・あんたを裏切っちゃうよ?
  有りのままのあたしを受け入れようとしてくれてる、あんたのきもちを。
  


  薬の所為で深い眠りに落ちているガウリイを見つめる。
  いつもあたしを見守ってくれる、優しい蒼の瞳は薄い瞼の下に。
  端正な顔立ちは、まるで天才の手による彫像のよう。
  金色に輝く長い髪は、シーツの上に波のように広がっている。
  大きな手、剣を掴むためにあちこちに剣ダコができていて、いかにも剣士の手。
  そこから続く腕は、あたしとは比べ物にならないほど筋肉が張り詰め、鍛え上げられている。
  呼吸のたびに上下する、無駄なものなど一切ない厚い胸板。
  ・・・そこに、あたしは倒れこんだ。
  

 
  あったかい。

  トクトク、と、心臓の音。
  密着すると、ガウリイの匂いがあたしを包んでくれる。
  決して嫌じゃない、それどころか安心してしまう匂い。
  いつもお日様のような笑顔であたしの横を歩いている、大好きな人。

  いつの頃からかは分からない。
  自覚したのはフィブリゾにガウリイを攫われた時。
  あたしは、ガウリイを男として好きになってしまっていた・・・。
  その後、新しい剣を求めて2人で旅をするうちに。
  あたしは、段々と耐えられなくなってしまったのだ。

  ・・・いつまでも、被保護者扱いされる事に。

  あたしだって、もう結婚していてもおかしくない年になっている。
  ガウリイだって、そろそろ腰を落ち着けていても不思議はない。

  でも、告白はできなかった。
  もしも返事が拒絶だったとしたら、今の心地よい関係を壊すことになる。
  たとえ恋人になれなくても。
  今のままなら一緒にいられる。
  今のままでも十分幸せ。

  ・・・そう、自分に言い聞かせた。

  言い聞かせていたはずだったのに。
  ドンドン強くなる、胸の痛みに。

  耐えられなくなってしまったのはどうして・・・。
  

  さっきガウリイに飲ませたのは、ブルーリーの実を精製して作った睡眠薬。
  そこに呪文でアレンジを加えてあるので、
  いくら体力馬鹿のガウリイでも2時間は目が覚めないだろう。

  身を起こし、サッと目を走らせて、ドアの鍵が掛かっているのを確認する。
  窓はしっかりとカーテンが閉めてある。
  ・・・ここは今、完全な密室。
  更に念を入れて、呪文で結界を張る。
  これで準備は万全。

  今、この空間にはあたしとガウリイの二人きり。
  そしてガウリイは眠っている・・・。


  
  再びあたしはガウリイの胸に頬を当て、鼓動を聴く。

  トクトクトクトク・・・・・・。

  生きている証。

  ギュッと腕を回してガウリイの身体を抱きしめる。

  ボロッ。

  あたしの眼から、大粒の涙が零れ落ちた。
  グイッと腕で顔をこすって、彼の顔を見つめる。
  胸が、とてつもなく苦しくなる。

  今なら、あたしが何をしてもガウリイは知らないまま。
  今なら、何をしても今の関係は壊れない・・・。
  穏やかに眠るガウリイの唇に、そっと自分のそれを触れさせた。
  ピクリともしない、ガウリイ。

  「・・・愛してる・・・、あたしはあんたがいないとダメなの・・・」

  本人には決して伝えられない、言葉。

  「お願い・・・ずっとあたしのそばにいて・・・」

  ギュッと服を掴む。

  「あたしにはこんなことを言う資格はないけど・・・。
   あたしは、ガウリイがいないと生きてけないよ・・・」

  ひっきりなしにこぼれる涙はガウリイの上着に吸い込まれて、
  染みを作っていく・・・。



  いつしかあたしの思いは抑えきれなくなって、 気を許したとたんに
  口から零れそうになる。
  道を歩いている時。
  ご飯を食べている時。
  盗賊と戦っている時にさえ。

  「 好き 」と言ってしまいそうになる。

  でも、言ってしまうのは恐ろしい。
  たった一言で、彼を失うかもしれない。その考えが頭を離れない。
  でも、もう限界だった。
  側にいるだけで、もう冷静でいられない自分に気が付いた時。
  卑怯な手段を思いついたのだ・・・。



  月の女神は、恋した若者を眠りに付かせて愛でたという。
  それなら彼は気が付かない。
  目覚めた時には、いつもどおりの朝。
  何が起こっていたのか、若者が知る術はない・・・。
  


  そうして、あたしは実行に移した。



  やさしく髪を手で梳いて、健やかに眠る頬にもキス。

  「愛してる、大好きよ・・・あたしはあんただけが好き・・・」

  日頃、絶対に言えない言葉を彼の耳元で囁く。

  そっと手を取り、自分の指と絡めて手の甲にも口付けを。
  そのままスリスリと自分の頬をガウリイの手に擦り付ける。

  「ガウリイ・・・いつまであたしといてくれるの?」
  整った顔を見つめる。いつもならこんなにジッと見つめようものなら
  あっという間に顔が赤らんで怪しまれてしまうけど。
  今はこんなに近くにいられる。
  それが一方的な思いでも。
  それでも、あたしは良かったのだ・・・。


  
  もし、あたしの気持ちを伝えたなら。
  もし、ガウリイがあたしの気持ちを受け入れてくれたなら。

  
  夢想する事はいくらでもあった。
  『俺も、リナが好きだ』そう言って抱きしめられる夢。
  『愛してるぞ、リナ』そう言って口付けを受ける自分。
  もっと、それ以上のことも・・・。
  現実にはありえない事、そう分かっていてもガウリイを見るときに
  つい勝手な期待をしてしまう浅ましい自分。
  そんな自分自身に耐え切れなくて、とうとうこんな手段を取ってしまった。
  

  それに。
  


  想いが通じたとしても、あたしはいつか身を引かなきゃいけないんだし。
  ならば、始めからこの思いは伝えるべきではない。
  そう自分に言い訳をして、今日、計画を実行したのだ。
  
  「ガウリイ・・・」
  
  日頃素直になれないあたし。
  本当はガウリイを誰にも渡したくない。
  他の女なんか見ないで欲しい。
  それがたとえ依頼者でも。
  通りすがりの町娘でも。
  ほんの一瞬でも、彼の関心を引くような女は許せなくなる。

  ・・・なんて醜い独占欲。

  いつまでも彼の側にいられるわけもないのに。
  ガウリイの事を愛しているのなら、一刻も早く別れるのが得策なのに。
  色々と過去の悪行からの二つ名に惹かれ、復讐と功名心に燃える盗賊ども。
  あたしが生きている限り命を狙ってくる魔族。
  望む、望まないに関わらず飛び込んでくるトラブルの数々に。
  本当ならガウリイは巻き込まれなくても済んだ筈なのに、
  あたしと共に在る所為で命の危険にさらされる羽目になる。

  なら。

  別れればいいのに。
  理性はそう告げ、心は離れたくないと悲鳴を上げる。
  あたしが本気で泣きつけば、きっとガウリイは側にいてくれるだろう。


  ・・・彼は本当に優しいから。

  たとえあたしに恋愛感情を抱く事がなくても。
  無茶ばかりして、放って置けないからと。

  だからこそ。

  決して、あたしは本音をガウリイに漏らしてはならないのだ。
  
  だから今だけ。

  ガウリイが眠っている、今だけは。
  あんたの胸で、泣かせて。
  甘えさせてね。
  弱い、ズルイあたしを助けて。
  あんたが目を覚ます頃には、いつもの自分を取り戻すから・・・。
  「愛してる・・・あんたが欲しいよ・・・ガウリイ・・・」


  

  
  
  
  
   







  ・・・ここは。

  ゆっくりと意識が浮上する。

  まだ重い瞼を何とか上げる。

  何かが胸の上に乗っかっているようだ。

  やっと開いた目に飛び込んできたのは、栗色の髪。
  ふと、俺の手に重なるリナの小さな手に気が付く。
  その手は、離すまいというかのようにしっかりと握られている。

  「・・・・ぃ・・・す・・・ぃ・・・」

  小さな呟き。
  リナは眠っているのだろうか・・・。

  ふうっと息をついたとたん、ピクンっ!!とリナの体が跳ねた。

  「・・・がうり?」

  こちらを伺うような、か細い声に、俺は狸寝入りを決め込んだ。
  ここ最近様子のおかしいリナの本音を知りたかったから・・・。

  「・・・薬が切れるには、まだ大分早いよね・・・」

  そう言うと、むくりと顔を俺の胸から上げようとする。
  リナに気付かれないよう目を閉じて、悟られないように注意をしながらリナの気配を探る。
  リナは、俺の顔を覗き込んでいる。
  そっと、空いている手で頬に触れてくる。

  「がうり・・・」

  いつもよりも、ずっと幼い声色で。
  涙に濡れた声で。
  そうして、ゆっくりとリナの顔が近づいてきて・・・。
  
  ふわん、と唇に触れる暖かく柔らかなそれは。
  
  リナ?!

  
  「ガウリイ・・・愛してる・・・。今だけだから・・・
  こんな弱いあたしは、今だけだから・・・許して・・・」

  ぽた、と鼻の頭に滴が落ちてきた。

  ・・・泣いてるのか?

  俺が目覚めている事に、リナはまだ気付かない・・・。

  「ごめんね・・・本当は早くあんたを自由にしてあげないとね・・・」

  「ごめん・・・あたしの我が儘で縛り付けて・・・。
   ごめん・・・あんたの人生を狂わせてしまって・・・。
   ごめんね・・・あんたを好きになっちゃって・・・」

  ・・・啜り泣きながら、何度も何度も俺に謝罪を繰り返すリナは、
  いつもの自信に満ち溢れた彼女ではなく、脆くて弱い年相応の娘のそれ。

  小さな身体で、重すぎる運命を背負っている彼女は普段、けして弱音を吐かない。
  いつも前向きに。
  どんな困難にも全力で立ち向かう強い魂。
  そして、その紅色の瞳は喜びも悲しみも、今まで関わってきた総てを
  真っ直ぐに見つめて濁る事はない。
  
  ・・・そう思っていた。
  
  
  しかし今、俺の胸で泣いているリナは今にも消えてしまいそうなほど儚くて。
  

  あれだけ、辛いなら半分背負うって言ったのになぁ・・・。

  俺はちっともリナを護れていなかったんだな・・・。

  さっき飲まされた薬はきっと睡眠薬。
  意識のない俺にしか、心からの弱音を吐けないなんて。
  まだまだ俺は、頼りないのか・・・。

  リナは、自分が俺を救った事を知らないから。

  俺の本心を知らないから、だからこうして一人で泣いているのか。

  俺はリナを自分だけの物にしたい。
  誰の目にも触れさせたくはない。
  綺麗な瞳も、豊かな髪も華奢な身体も。
  強い所も弱い心も全部ひっくるめて愛してる。
  どこか二人だけになれる場所にお前を閉じ込めて、離したくない。
  街中で不躾にリナを見つめる男どもを見つけるたび。
  依頼人という立場を利用して彼女に触れる野朗も。
  仲間であるはずのゼルやアメリアにさえ、沸き起こる嫉妬心。
  出会ったときに使った保護者という口実を乱用して、お前を雑魚どもから引き離し続けた。
  俺の中にある醜い感情を、お前を独り占めしたいと思う心を。
  保護者づらせずに打ち明けた方が良かったのか?


  リナは、自分が俺を巻き込んだと思っているようだけど。
  俺からすれば、望んで捕まったようなもの。
  あの日、森の中でリナに逢っていなくても、きっと俺はリナを見つけていただろう。
  そして、お前に総てを捧げていただろう。
  だから、ちっとも気に病むことはないのに。
  それどころか、お前が俺を愛してくれていると知って無茶苦茶嬉しいんだぞ!!
  
  だから。

  こんな風に一人で泣かないでくれ・・・。

  
  「・・・ガウリイ、起きた?」

  ピクッ、と身体を緊張させてリナが囁く。
  まだ駄目、もう少し本音が聞きたい。

  「ガウリイ?」

  俺に何が足りないのか、教えてくれよ。

  「・・・もうそろそろ効き目も限界かな・・・いつもの自分に戻んなきゃね・・・」
  そう言って、静かに俺から身体を離すリナを。

  「俺も限界だ」

  言いながら離れかけたリナをがっちりと捕まえた。
  
  

  「リナ、俺の胸で泣きたいのならいつでも貸すのに。
   俺はそんなに頼りにならないか?」
  真っ赤になっているリナの顔を覗き込む。
  


  「ええええええっっっっ!!!」
  
  真っ赤になって必死に俺から離れようとするリナの身体を抱きしめる。
  
  「リナ、さっきの薬は睡眠薬か?
  で、眠ってる俺にいったい何してたんだ?」

  怒っていないと判るように微笑みながら、じぃっとリナの瞳を覗きこんで囁いてやる。
  
  「そ、それは・・・」

  所在なさげにおろおろと紅い瞳が彷徨って。

  「・・・いつから起きてたの?」

  恐る恐ると言った感じで聞いてきた。



  「起きたのはさっきだけどな、リナが泣いてたのとキスしてくれたのは知ってる」

  答えを聞いたとたん、泣いていた所為で縁まで真っ赤になっていた目から
  ぽろぽろと暖かい滴が溢れて落ちてきた。

  「ごめ・・・ん、ごめんね・・・。卑怯なまねして・・・
    もうしないから・・・お願い、許して・・・怒んないで・・・」

  グズグズと鼻を啜りながら泣き出したリナの頭をいつもみたいに撫でてやる。

  「リナは、俺の事好きなんだな?」

  コクン。

  リナが頷く。

  「で、最近態度がおかしかったんだな?」

  コクン。

  「で、リナは、俺がリナをどう思ってるか知りたくはないか?」

  ビクッ!!

  きゅっ、と手を握り締め目を瞑る。

  聞きたくない、という無言の意思表示。
  でもな、聞いといてお前さんに損な事にはならないぜ?

  「リナ」

  真剣な俺の声にハッとこちらを向いた彼女に、
  「リナ、俺の話を聞いてくれ。
  俺とずっと一緒にいたいと願ってくれるのなら逃げないでくれ」
  そう告げて、リナの小さな頭を胸の中に抱え込んだ。

  「これなら顔が見えないから恥ずかしくないだろう?
   ・・・俺もリナのこと、一人の女性として愛してる。
   リナは俺を自分の運命に巻き込んだって思ってるのかもしれないけどさ・・・。
   俺はそんな事全然気にしてないんだ。
   本当はな、リナと会うまで生きてるって実感がなかった」


  過ぎていく日を、ただなんとなく流していくだけだった俺。


  「光の剣だって、こんなもんがあるからみんな不幸になるんだって、
   何度も捨てようとしてたしな・・・。
   それがさ、リナに出会って初めて光の剣を持っていて良かったって思えたんだ。
   リナに出会って、初めて命をかけて護りたいって気持ちが理解できたんだ。
   何も感じずに、ただ食って、寝て、それだけの日々がさ、いきなりめちゃくちゃ
   楽しくって、ドキドキさせられてなんていうかものすごく充実した日々って奴?
   もちろん危ない事も沢山有るし、きつい事もあったけど。
   でも、リナと一緒なら。
   俺はなんでもできるしなんだって嬉しいんだ。
   いまさらお前と離れたって、俺は幸せになんかなれないぜ?
   リナと生きていく人生だけが、俺の望みなんだから」
  
  俺の腕の中、胸に顔を擦り付けながらリナが泣いている。
  でもそれは、哀しいからじゃなくきっと嬉し涙で。
  
  「がうり・・・。ほんとにあたしでいいの?
   あたし、これからだって無茶するし、わがまま言うしお金に汚いし・・・」
  
  「でもリナがいい」

  「それに、む、胸だってちっさいしあんまし色気ないし」
  
  「俺はリナにしか魅力感じないから」

  「あ、あの・・・」

  「リナ。俺、今すぐでも、お前をモノにしたい」
  腕の中の体温が一気に上がった。

  「うんとかわいがって、すっごい啼かせたい。俺の触れてない所なんて無い位に。
  俺のこと以外、何も考えられないようにトロトロに蕩けさせたい。
  誰にも見せないようにして、ずっと二人で暮らしたい。
  でも、そんなことしたらリナはきっと耐えられない。
  お前さんは一つ所にじっとしていられるような器じゃないだろ?
  だから、誰にも嫉妬しなくてもいいようにリナの心と身体を俺にくれないか?
  対価は俺の心と身体、俺の人生全部だ。・・・駄目か?」

  ふるふると、リナの頭が横に振られる。
  「そんな取引して、後悔しない?」
  
  「俺から申し込んでるのに後悔なんてするかよ。それよりリナの返事、聞きたいな」
  
  「そんなの、決まってるじゃない!
   あたしは自分に有利な取引はフイにしたりしないんだからね」
  そう言って、やっとこ顔を上げて俺を見たリナの笑顔は本当に綺麗で。
  
  「やっと、手に入れた」

  もう、めちゃくちゃ嬉しくって、自分でも顔が緩んでるのが分かっちまう。
  「リナ、もう隠し事は無しだからな?一人で泣くのも悩むのも。
   そんなことされたら俺、拗ねるからな?」
  軽い調子で言ってやると、「頭脳労働は員数外って言ってたのあんたでしょうが」
  リナの呆れ声が返ってくる。
  
  「やっと、いつものリナだ」
  小さな頭をクシャっと撫でて、そのまま顔を引き寄せてキスを贈る。

  「が、ガウリイ!いきなり何すんのよ!!」
  真っ赤な顔で照れてるリナを抱えなおして、グルッと体の位置を入れ替える。

  「うにゃ〜っ、ガウリイ。まさか!」
  どうやらこれから何が起こるのか、判った様だな?リナ。
  
  「んじゃ、契約の印というか取引成立の祝いというか。
   いまからリナを食べさせてくれな?」
  思いっきり慌てまくってるリナの服をさり気なく捲りながらもう一回、
  今度はディープなキスを。

  キスで俺の眠りを覚ましてくれたお姫様に、誓いのキスを。
  自分の殻に閉じこもっていたお姫様を目覚めさせるキスを。
  
  これからずっと、お前だけに贈るから・・・。

  二人で幸せになろうな、リナ。