薔薇の姫君























「じゃぁ、ここでお別れだ。今まで楽しかったぜ、リナ・…薔薇の姫君・…」
ガウリイは、リナに背中を向けた。
リナの手は、ガタガタと震えていた。




リナとガウリイが『恋人』という関係になって、数日がたった夜。二人は、もう既に『一部屋に二人』という関係になっていた。
そして、その関係になった事で、リナはとてつもない悩み&ストレスを抱えていた。
「うぃ〜っく・…だひたひねぇ!がうりぃは過保護すぎんのよ!まったふ…」
リナの悩みとストレスの原因は、『過保護な恋人のおかげで趣味が出来ない』というものだった。そこは、感じのいい酒場だった。リナは、誰かに愚痴をこぼさずにはいられず、これまた、感じのいいマスターに愚痴をこぼしていたのだ。しかも、相当キツイ酒を飲みながら…・

「いや〜、お嬢ちゃんみたいに可愛い子は、誰もがほっとかないよー」
マスターは、調子のいい事をいいながら、空になったリナのグラスに酒を注いでいった。
「あら、そぉ〜ん?ふふふ…なんたって、てんさいびしょーじょまどぉし、りな・・いいばぁーふだっからね…ひぃっく…」
リナは激しく酔っていた。マスターは、『激しく酔う』のを最初から期待して、どんどんとキツイ酒を進めていた。
「でもお嬢ちゃん、よくそんな『過保護』な、旅の連れと一緒に旅してるねぇ〜」
「えへへ〜、ここだけの話だはらいっちゃうけどさ、あたひさぁ〜…ふかくにもがうりぃに惚れてんおよ、なっさけなひ話でしょぉ〜?」
まるで、さも当然という風に話しているが、普段のリナなら絶対考えられない言動だろう。
「ねぇ、お嬢ちゃん、んな旅の連れやめてさぁ…俺にしない?」
マスターは、最初からこれが狙いだった。ここまで酔ってしまえば、流されてしまうだろうと、マスターは踏んでいた。ちなみに、リナの事を『お嬢ちゃん』とよんではいるが、酔ったリナは、かなり怪しげな女のオーラを出していた。
「ん〜?だ・あ・めvvいったれほー?あたひ、がうりぃに惚れてんのー…だから、他の男に抱かれる気はこれぇー――ぽっちもなっしんぐvv」
「一回くらいいいじゃん。連れに気づかれるの心配してるの?大丈夫だって!
ヤッた後ちゃんと風呂かしてあげるからv」
リナは、少しキツイ目をして、マスターにはっきりと言った。
「だから、気づかれる・気づかれないの問題じゃないのぉあたひの身体が拒絶してんのよ!がうりぃ以外に抱かれることを!」
「へぇー?んじゃ、本当に拒絶するか、試してみるかい?」
口元に怪しげな笑みを浮かべ、マスターはゆっくりとリナに近づい…
ガシッ!
イキナリ誰かにうでを掴まれ、マスターはリナに後一メートルという所で止まってしまった。
いや、実際。腕を掴まれただけで一歩も動けないなんて事はあるわけない。
掴んだ力が相当強かった事と、冷や汗をかかせる様な視線がこちらを見ているのだ。実際、それは『視線』ではない。『殺気』だ。
「あいつに、手だしするな。それとも……」
マスターが必死の思いで振り向いたそこには、金髪碧眼の男が、鋭い目をして立っていたのだ。マスターは本能的に悟った。こいつが、リナの『過保護な旅の連れ』……………………『ガウリイ』なのだ。
「それとも、切り刻まれたいか?・・…」
低い声でガウリイが言う。パッとガウリイが手を放すと、マスターはよろめいた。ガウリイの鋭い視線と殺気のせいで、意識が朦朧としていたのだ。
「す、すみません…でした。そろそろ…店を閉めたいので、お連れの方とご一緒に部屋へお戻りください」
「あぁ。分かった。すぐに連れていく」
そして、スタスタとリナの元に近づき、ひょいっとリナを抱えて上へあがって行った。
まだ店を閉めるには早い時間だったが、今のマスターに、店を続ける様な気力は無かった。



ダンッ!!
部屋に戻るなり、ガウリイはリナを壁に押し付けた。
「なにを考えているんだ!!お前は!」
あまりにも低く、大きな声に、リナはビクッと体を震えさせた。
「だって・・…ガウリイ、恋人になってから、あたしの自由を認めてくれないんだもん。ストレスだって溜まるし、愚痴だってこぼしたくなるわよ!!」
「だからってなぁ!なんで相手を選ばなかったんだ!?俺が来なけりゃ、お前は…」
ガウリイは、真っ直ぐに怒りをぶつけていた。今まで見た事無いガウリイの怒りと辛さの入り混じった表情を見ていられなくなったリナは、視線をずらしながら言った。
「誰も『助けて』なんて言ってないわ。それに、まだ触れても無かったんだから、呪文をかけるチャンスくらい沢山あったわ!」
ガウリイは、グイッとリナを近づけ、唇を重ねた。
「ん・・なにす…んぁ・…」
ガウリイは唇を放さない。さらに強く、唇を押し付けてきた。
いきなりのキスに戸惑うリナ。そして、やっと唇が放され、リナは言った。
「あ…たしは、弱くない。刺で自分に身を守る薔薇の様に、あたしだって、自分の身ぐらい、自分で守れる!」
リナは、そこまで言いきった後に、おそるおそるガウリイの顔を見た。そこには、
衝撃を受けたような、とても痛々しい表情があった。リナは気が付いた。
『自分の身ぐらい、自分で守れる!』
それは、『ガウリイの助けはいらない』と言っているのと同じ意味である。
「そっか、リナは薔薇・…か。確かに、リナは薔薇の様に綺麗だ。でも、俺は・…」

「助けの要る、鈴蘭の花でいてほしかった」

ガウリイの言葉を聞いて、リナは、胸が引き裂かれるのでは無いかと思った。
違う。違うのよ、ガウリイ…あたしは。弱いわ。あなたが居ないと、心が壊れてしまうそう、心は、鈴蘭よりも……弱いかもしれない。

リナが、呆然としている間に、ガウリイは何時の間にか荷物をまとめていた。
「リナ、お前に助けがいらないのなら、俺が居ても邪魔なだけだろう?
だから、強くいてくれ、薔薇の様に・……」
そして、ポンッとリナの頭に手をおいて軽く撫でたあと、リナに背を向けて言った。

「じゃぁ、ここでお別れだ。今まで楽しかったぜ、リナ…薔薇の姫君…」

嫌だ。ごめんなさい、ガウリイ。嘘なの!あたしは、鈴蘭よりも弱いわ、
きっと・…

そう言ってしまえば、叫んでしまえば、きっとガウリイは振り向いて駆け寄り、抱きしめてくれるだろう。でも、リナに『弱さ』をさらけ出す真似をするのは、とても難しかった。
涙が止まらない。溢れては、床に落ちていく。
「ガウリイ・…あたしが薔薇の花なら、貴方は…刺だわ」
リナの、思いもよらない発言に驚いて、ガウリイは振り向いた。
「薔薇は…刺が折られてしまえば、非力で、鈴蘭と変わらないわ」
真紅の瞳から、薔薇の花びらから落ちていく水の雫の様に、涙が流れている。

「あたしの…・刺でいて。時々、傷つけてもいいから、刺でいて……」

リナは泣きながら、必死で言葉を紡いだ。ガウリイは、リナに近づき、優しく、しかし強く抱きしめた。
「ごめん、リナ……そうだよな、リナが本当は弱いって事、忘れてた。俺、リナをもう二度と傷つけない刺でいるから・・…」
ガウリイのその言葉に安心して、何かがきれた様に泣きだした。
怖かった。自分は薔薇の様に強いと思ったのに、ガウリイからの『別れ』の
言葉だけで、震えてしまうなんて・…情けないけど、ガウリイに守ってもらわなくちゃ、生きていられないと思う程、弱くなってたなんて・…

でも、弱くてもいい。ガウリイはあたしの刺。あたしは美しき薔薇。
リナは本心からそう思った。
そして・…―――――――――――
「リナ?薔薇の姫君。俺が、お前の刺である誓いをたてさせてくれないか?」
少し、きょとんとしていたリナだったが、『誓い』が何の事か分かり、ふっ…と微笑み、
「えぇ、いいわ。誓いを、たててちょうだい」
そして、ガウリイはそっとリナの唇に自分の唇を重ねた。
薔薇の花びらを、崩さぬ様に・……

『美しい薔薇には刺がある』
これは、半分本当で、半分嘘。
薔薇は、恋をして美しくなり…初めて『刺』を手に入れる。
それは時に鎖となり、薔薇を閉じ込める。
また、ある時には…・

薔薇に永遠の守護を誓う…………――――――――――――――






〜エンド〜