ライバル 〜ゼルガディスバージョン〜 |
俺はこれからとんでもない茶番劇をしようとしている。 「ガウリイ、隣良いか?」 酒場のカウンターで酒を飲んでいる男、ガウリイに声を掛けた。こいつとは最初に敵として出会い、何時の間にかこいつの保護する少女リナと一緒に仲間になった。 「あぁ、良いぜ。しかし久し振りだな、まさかアメリアと旅してたとは思わなかったけど、二人とも元気そうで良かったぜ。リナも喜んでたしな。」 そう、俺はアメリアと少し前に再開し一緒に旅をしていた。そんな中で俺達はバッタリリナ達と再会したが、こいつとリナは相変わらずで・・・正直呆れた。 「ガウリイ俺な、リナに告白しようと思っているんだが・・・良いか?」 さぁ・・・茶番劇の始まりだ、ガウリイ奴、ハトが豆鉄砲くらった顔してやがる。そして苦笑いをした。 「おいおい、久し振りに会ったってのに変な冗談言うなよ。」 全くだ、俺だってこんな事はしたくない。だが、アメリアに頼まれた以上断れなかった。アメリアの奴が『ガウリイさんとリナさんも幸せになって欲しいので、ゼルガディスさん協力してください!』なんて言わなけりゃ、こんな命知らずな事は絶対しない。 「冗談であいつの保護者であるあんたに、こんな事言える訳無いだろ。俺はあんたさへ良ければリナに告白しようと思ってるんだ。つまり・・・ガウリイ、あんたからリナの保護者の席を譲ってもらおうと思ってな。」 俺は思わせ振りに話してから酒を一気に飲み干し、ガウリイの様子を窺う。本当に驚いているな、まさか俺がリナを好きだと言うと思ってなかったんだろう。 そして奴から一気に湧き上がる殺気、本当にリナ以外には素直に感情を見せる奴だ。こいつは強い、だが、リナが絡むとこいつは更に強くなる。正直一番敵にしたく無い男だ。 「どうかしたのか、ガウリイの許可が出てからリナに言おうと思ってるんだが、構わないか?」 「・・・・・そんなのはリナとお前さんの問題だろ?俺に聞くのは筋違いだ。」 「ほー、じゃあ良いんだな?」 「勝手にしろ、俺には関係無い」 ガウリイはそう言って一気に酒を飲み干す、更に奴からの殺気が膨れ上がっていた。俺は背中に嫌な汗を流しながらも笑顔で話し掛けた。 「それを聞いて安心した、じゃあな。」 言うが早いか、俺はその場を退散した。これ以上奴の側に居ると本当に殺されかねないからな。 「リナ、済まないがちょっと付き合ってくれないか?」 朝食も終って香茶を飲んでいるリナに、俺はわざとガウリイに聞こえる程大きな声でリナに話し掛けた。ガウリイの奴、リナの前だから殺気を隠してるつもりなんだろうが、全然消えてないぞ。しかし、リナも気付かないのが不思議でならない。 「良いけど、何であたしなの?アメリアほっぽいといて良いのぉ?」 「・・・あぁ、ちょっとあんたに話があるんだ。」 一瞬リナがアメリアに視線を送ると、彼女はニッコリと微笑んだ。それを見たリナは仕方無いって顔で立ち上がる。 「分かったわ、じゃあちょっと行ってくるねガウリイ、アメリア。」 こうして俺とリナは宿を後にした。 「実はなリナ、お前さんに俺の恋人の振りをしてもらいたいんだ。」 町の喫茶店で俺は真剣な表情でリナに話し掛けた、リナは顔を真っ赤にして喋り掛けてくる。 「ちょ・・・ちょっと、な・・・何?こ・・恋人って?そんなのあたし困るわよ?」 本当に可愛い反応をするな、こいつ。ガウリイの旦那が惚れるのも分かる気がするぜ。 「だから、振りだ振り。その・・・実は俺、アメリアが好きなんだが・・・・こんな体だろ?中々告白し辛くてな。で、お前さんと恋人の振りをしてアイツの反応を見たいんだが、ダメか?」 う〜ん、多分今の俺は顔が赤いだろうな。本当はアメリアとはすでに恋人同士なんだが未だに口に出してアメリアを好きって言うのに照れてしまう。 「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、でもなぁ・・・」 「あぁ、ガウリイの旦那にも協力してもらう様に話は通してあるから、お前さんがガウリイの旦那に誤解される心配は無いぞ。」 「な!?ちょっとゼル!!ガウリイの事は関係無いでしょうがぁ!分かったわよ協力してあげるわよ!!」 クッ、顔が真っ赤だぞリナ。本当に分かり易い連中だ。 「そうだ、これやるよ。」 「何これ?」 俺の渡した紙袋に興味津々で開けるリナ、そして驚きの声を上げる。 「これ・・・手袋じゃない、しかも良く見たら護符が刺繍してあるし、ガウリイが使ってるタイプと同じじゃない。どうしたのこれ?」 「あぁ、前に依頼人から貰ったんだがその手袋は俺には似合わんし、折角の貰い物を売るのも気が引けたんでな。良かったらリナから旦那に渡してくれないか?」 ニッコリ笑って言う俺に、リナは顔を赤くする。 「どうしてあたしから渡すのよ、あんた自分から渡せば良いじゃないのよ。」 「男から物貰うより、女から貰う方が嬉しいんだよ。男ってのはな。」 特に惚れてる女からはな。 「・・・分かったわ、ありがとう。ゼル、協力するんだからアメリアと上手くやんなさいよね。」 「フッ、勿論だ。」 俺は不敵の笑みを浮かべてリナに答えた、さて・・・これからが本番だ。俺とリナは店を出て、宿に帰りながら偽の作戦会議をした。 「ただいま〜!楽しかったわ、でも本当にこんな物貰って良いの?」 「構わんさ、恋人がプレゼントをする位当たり前だろ。」 俺とリナは普通の恋人のように腕を組み、楽しそうに話をする。ガウリイの奴が食堂で俺達の様子を悲痛な表情で見詰めていた、そして少し離れた場所にはアメリアが複雑な表情を浮かべている。それを見て俺の胸に小さな痛みが走るが、芝居は続けなくちゃならない。 「あ、ガウリイ!あたし達ね、付き合う事になったから。暫くはアメリアと四人旅になるからね、じゃあゼル・・・後であたしの部屋に来てね。本当にこれありがとね、大切にするわ。」 リナは俺がやった手袋の入った紙袋を掲げて笑顔で言うと部屋に戻って行った、リナが居なくなった瞬間、ガウリイから凄まじい殺気が溢れ出すが、敢えて俺は勝ち誇った顔で奴に話し掛けた。 「何だその顔は、旦那はリナが俺を振ると思ったんだろうが、残念だったな。リナは俺を選んでくれたぜ。」 俺の言葉にガウリイが怒りの表情を見せる、そして震える声でこう言った。 「・・・・・そうか、良かったなゼル。リナの事・・・・・大切にしてやってくれよ」 「言いたい事はそれだけなのか、ガウリイ?」 「それ以外何がある」 言うが早いかガウリイは宿から出て行ってしまった、全く素直じゃない奴だ。俺達の様子を窺っていたアメリアが何かを言いたそうに俺を見詰めていた。 俺はガウリイが出て行ってからリナの部屋に行き、今からアメリアに告白してくると言って宿屋の裏手に行き、アメリアと二人で話し合っていた。 「何だか上手くいかなかったみたいですね。」 凄く落ち込んだ声でアメリアが言う、まぁ仕方無いだろう。特にガウリイがあれだけ頑固ならどんな事をしても上手くいく訳が無い。 「アメリアの所為じゃないさ、悪いのはあの頑固な保護者気取りのガウリイだ。」 「そんな!?だけど・・・・ガウリイさんはどうしてリナさんに告白しようとしないんでしょうか?誰が見たってガウリイさんがリナさんの事好きだって分かるのに。」 今にも泣きそうな顔で俺に問い掛けてくる、まぁ・・・ガウリイの旦那の気持ちも分からなくは無いんだがな、俺も。 「怖いんだろ。」 俺の答えにアメリアは驚いた顔で俺を見詰める、やっぱりこいつは可愛いな。 「あのガウリイさんがですかぁ!?」 「あぁ、俺も正直怖かったからな。何と無く分かるんだよ。」 「どうしてですかぁ!どうして怖いんですか?」 正義を愛する真っ直ぐな瞳をしたこいつには・・・分からないだろう、俺やガウリイの様に普通の生活を送らなかった奴が、愛する者を見つけた時・・・自分を受け入れてもらえなかった時のショックの大きさが、その存在を失う怖さが・・・・・・・・・多分アメリアは一生理解できないだろう。 「振られるのがさ、お前やリナは誤解しているんだ。ガウリイも俺も・・・強くない。お前やリナよりもな。」 痛い程の沈黙、そしてアメリアが静かな口調で話し出した。 「そんな事・・・無いですよ、わたしもリナさんも・・・大切な人の前では必死になってるだけですから。だから・・・わたし嬉しかったです、ゼルガディスさんがわたしの告白を受けてくれたのが。」 「済まないアメリア、本当なら男の俺から告白すべきだったんだが――――――!」 勇気が無くて、と言おうとして言葉が塞がれた。アメリアの唇で・・・・・・ 「ごめんなさいゼルガディスさん、わたしガウリイさんが出て行くの、止められませんでした。」 暫く見詰め合っていた俺達だったが、アメリアが照れ臭いのか話を摩り替えた。 「お前の所為じゃないさ、気にするな。それより・・・お前に辛い思いをさせて済まないと思ってる。」 優しく笑ってアメリアに謝る、俺も辛かったから。 「そんな事――――、正直辛いです。ゼルガディスさんとリナさんが恋人として仲良くしてるのを見てるの・・・・・凄く辛いです。」 「全く・・・お前がこんな事言うからだぞ、アメリア・・・・俺が愛してるのはお前だけだから、安心しろ。」 優し過ぎる俺だけの姫に囁くように言った愛の言葉、それに答えたのは目の前の愛しい少女じゃなかった。 「ゼルガディス!!」 「な、ガウリイ!?」 シマッタ、そう思った瞬間、俺は壁際まで吹っ飛んでいた。クッ・・・今のは効いたぜ。 「止めてくださいガウリイさん!!」 慌ててアメリアがガウリイと俺の間に入る。何時の間にか周りは騒ぎを聞きつけた連中が集まっていた。 「ちょ!ちょっと、あんた達何やってんのよ?大丈夫ゼル?」 「あぁ・・・大丈夫だ」 その中からリナの声が聞えてきた、そして俺を心配する言葉にどうやらガウリイは完全に切れた様だった。 「ちょっとガウリイ、何があったのよ!?ちゃんと分かるように説明しなさいよね!」 「リナ!!何でそんな最低な奴を庇うんだ!?そんなにこんな奴が好きか!?」 「ちょ・・・ちょっと、何?少し落ち着きなさいよガウリイ!どうしてゼルが最低なのよ?全然話が見えないんだけど?」 「そいつはなぁ、アメリアと二股かけてたんだぞ!!これが最低じゃないって言うのかお前は!!」 ガウリイの言葉にリナが行き成り俺の胸倉を掴んでユサユサ揺すり出した、く・・・苦しい! 「ちょっとぉゼル!あんたアメリアが居ながら二股かけてるってどうゆう事なのよぉ!あたしに協力しろって言っときながら、何アメリア裏切る事する訳!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」 「なぁリナ、そのアメリアが居ながらってどうゆう意味だ?」 「はぁ?何言ってんのよガウリイ?こいつがアメリアに告白したいけど、アメリアがゼルの事どう思ってるのか知りたいからあたしに恋人の振りして反応を見たいから協力しろって言われたのよ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」 暫しの沈黙、そしてガウリイの口の端が上がるのを俺は見逃さなかった。どうやら俺達の作戦に気付いたらしい。 「違うんですリナさん、ゼルガディスさんはちゃんとわたしに告白してくれたんです!でもガウリイさんが勘違いして『俺のリナを泣かせる奴は俺が許さない、殺してやる』って行き成りゼルガディスさんに殴り掛って来たんです!」 フフ、言うなアメリア。ガウリイの奴、顔が真っ赤だぞ。 「な・・・何だ、そうだったんだ。もう、ガウリイったら早とちりなんだから。」 「え?あ・・・その・・・・・・済まん」 「じゃあわたしはゼルガディスさんの治療をしますから、部屋に戻りますね。それじゃあリナさんガウリイさん、頑張って下さいね。」 俺はアメリアに肩を借りると、その場を後にした。 「はい、お終い。」 ここはアメリアとリナの部屋。アメリアがリカバディをかけ終ると、済まなそうに俺の顔を覗き込んできた。 「ごめんなさいゼルガディスさん、痛かったでしょ?」 「あぁ・・・普通の人間だったら顎の骨が砕けてただろうな、今回ばかりはこの忌々しい体に感謝しないといけないな。」 苦笑いを浮かべて言う俺に、アメリアは泣きそうな顔で俺に近付いてくる。そしてガウリイに殴られた頬にそっと手を添えてきた。温かい・・・・・小さいが俺を救ってくれる温もりを持った手。 「本当にごめんなさい、わたし・・・ガウリイさんが殴るなんて思っても無くて。軽率でした、その所為でゼルガディスさんに怪我までさせて」 俺は俺の頬に添えるアメリアの手を握り締めると、そっとその手の平にキスをした。 「覚悟の上さ、まぁこれ位で済んだのが奇跡に近いが・・・お前が気にする事じゃないから、もう泣くな。」 「覚悟って、まさか・・・ガウリイさんに殴られるの知ってたんですか!?」 「・・・・・それ所か、殺されるかもと思っていた。」 思わず本音が出てしまった俺に、アメリアは驚いた顔で俺を見詰める。 「そんな、あのガウリイさんが仲間を殺すなんてする筈無いじゃないですか?」 「リナの為なら迷わず遣る男だよ、まぁ、それだけリナを愛してるって事だ。」 そう言う俺も、アメリアの為ならきっとあいつ等と戦うだろうが・・・・・・ 「処でアメリア、これだけ痛い思いをしたんだ。勿論成功報酬はあるんだろうな?」 「え?成功報酬ですか?勿論です!何でも言ってください!何でも用意してみせます!」 握り拳を作って言うアメリアに、俺は囁くようにこいつの耳元で話し掛けてやる。 「そうか・・・じゃあアメリアが欲しい、用意してくれるか?」 「え・・・えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!そ・・そそそ、そんなぁ!ま・・まだ心の準備が・・・その・・・・・」 顔を真っ赤にしながら答えるアメリアに、苦笑いを浮かべて俺は答えてやる。まだ当分はオアズケだな。 「冗談だ、その代わり・・・キスしてくれるか?」 「あ・・・・は・・はい」 ゆっくりと近付くアメリアの顔、そして後少しって所で突然部屋のドアが開いた。 「アメリア〜、ゼルの怪我大丈・・・・・・・うきゃああぁぁ!!ご・・ごめん!!」 突然の来訪者リナは、顔を真っ赤にして勢い良くドアを閉めた。そして俺は見た、ドアが閉まる瞬間、リナの後ろから覗いたガウリイがニヤリと笑ったのを。 「アメリア・・・・・・・今日は俺とリナは部屋交代決定だぞ」 俺の言葉に顔をこれ以上無い位真っ赤にするアメリア、まぁ・・・今回ガウリイの旦那に殴られた件はこれでチャラだな。 リナには可哀想な気もするが・・・・・・やっぱりガウリイだけは敵にしたく無い、俺は心からそう思った。 終 |