ライバル
〜ガウリイバージョン〜

























 「ガウリイ、隣良いか?」
 俺が酒場で飲んでいると、突然背後から声をかけられた。声を掛けてきたのは、昔一緒に旅をした仲間の一人ゼルガディスだった。ある事件で知り合って、結構前に別れたんだがつい最近バッタリ再開した。
 「あぁ、良いぜ。しかし久し振りだな、まさかアメリアと旅してたとは思わなかったけど、二人とも元気そうで良かったぜ。リナも喜んでたしな。」
 俺がそう言うとゼルの奴が真剣な顔で質問してきた、それは俺の心を凍り付かせるには十分な威力を持つ言葉だった。
 「ガウリイ俺な、リナに告白しようと思っているんだが・・・良いか?」
 何を言っているんだ?ゼルがリナに告白だって?
 「おいおい、久し振りに会ったってのに変な冗談言うなよ。」
 俺は少し顔を引き攣らせてゼルに笑って話すと、ゼルは口の端をニッと上げ話しを続けた。
 「冗談であいつの保護者であるあんたに、こんな事言える訳無いだろ。俺はあんたさへ良ければリナに告白しようと思ってるんだ。つまり・・・ガウリイ、あんたからリナの保護者の席を譲ってもらおうと思ってな。」
 ゼルは琥珀色の酒を飲み干すと、俺の様子を覗っていた。俺は何も言葉が出て来なかった。
 「どうかしたのか、ガウリイの許可が出てからリナに言おうと思ってるんだが、構わないか?」
 「・・・・・そんなのはリナとお前さんの問題だろ?俺に聞くのは筋違いだ。」
 「ほー、じゃあ良いんだな?」
 「勝手にしろ、俺には関係無い」
 そう言って俺はグラスの酒を一気に飲み干した、何故か全く酒の味を感じなかった。
 「それを聞いて安心した、じゃあな。」
 席を立ち自分の部屋へ帰るゼルの後姿を見送って、俺は無意識にグラスを握り割った。
 安全パイだと思っていたのに、あいつとは求めるモノが違うと感じていたからこそ、安心していたのに。油断した、まさかゼルがリナを好きだったなんて・・・・・・・それに気付きもしないでいた俺自身に腹が立って仕方が無かった。俺は結局朝まで酒を飲んで過した。


 「リナ、済まないがちょっと付き合ってくれないか?」
 朝飯も終り香茶を飲んでいたリナに、ゼルが話し掛ける。俺は溢れ出す殺気を何とか抑えてその光景を見詰めていた。
 「良いけど、何であたしなの?アメリアほっぽいといて良いのぉ?」
 「・・・あぁ、ちょっとあんたに話があるんだ。」
 リナがチラリとアメリアを見るが、アメリアはその視線に気付くとニッコリと微笑みを浮かべた。
 「分かったわ、じゃあちょっと行ってくるねガウリイ、アメリア。」
 こうして食堂には俺とアメリアが取り残されてしまった。
 「なぁアメリア、ゼル達の事気にならないのか?」
 美味そうに香茶を飲んでいるアメリアに、俺は疑問を投げかけた。俺が見る限り、アメリアはゼルを好きだと思っていたんだが・・・どうしてこうも冷静で居られるのか不思議で仕方なかった。
 「気になってるのは、ガウリイさんの方じゃないんですか?知りませんよ、ゼルガディスさんにリナさん取られても。」
 そう言って楽しそうに笑ってたけど、アメリアの瞳が悲しげに揺れていたのを俺は見逃さなかった。
 「俺はリナの保護者だからな、関係無いよ。」
 「ガウリイさんがそんなんだと、本当にリナさんガウリイさんから離れちゃいますよ。」
 俺のこの言葉にアメリアは怒って食堂を出て行ってしまった、一人残された俺は只溜息を吐くしか出来なかった。


 「ただいま〜!楽しかったわ、でも本当にこんな物貰って良いの?」
 「構わんさ、恋人がプレゼントをする位当たり前だろ。」
 結局俺はリナ達の事が気になって、どこにも出掛けず宿の食堂で待っていた。昼少し過ぎ位に帰って来た二人、リナは手に小さな紙袋を持っていたがゼルと確り腕を組んで寄り添い楽しそうに笑っていた。それを見た俺の心臓は、握り潰されるんじゃないかって位の激しい痛みが走った。
 「あ、ガウリイ!あたし達ね、付き合う事になったから。暫くはアメリアと四人旅になるからね、じゃあゼル・・・後であたしの部屋に来てね。本当にこれありがとね、大切にするわ。」
 顔を赤くしてリナは自分の部屋に戻って行った、俺は思わずゼルを睨み付けるが、ゼルの奴は勝ち誇った顔してこう言った。
 「何だその顔は、旦那はリナが俺を振ると思ったんだろうが、残念だったな。リナは俺を選んでくれたぜ。」
 ニヤリと笑うゼル、俺は奥歯をギリッと噛み締めたがリナがこいつを選んだ以上、俺には口出しをする権利さへ無いんだ。
 「・・・・・そうか、良かったなゼル。リナの事・・・・・大切にしてやってくれよ」
 「言いたい事はそれだけなのか、ガウリイ?」
 「それ以外何がある」
 俺は何とかそれだけを言うと宿を出た、楽しそうに笑うリナとゼルを見ていられなかったからだ。


 どこをどう歩いたのか、俺は何時の間にか宿屋の裏手まで戻って着ていた。もう辺りは暗くなっていてあちこちの家から夕飯の匂いがしてくる。はは、ショックがでか過ぎて腹も減らない・・・・・・このまま一人で旅に出ようか、と考えていた俺の目に飛び込んできたのはゼルとアメリアだった。
 「ごめんなさいゼルガディスさん、わたしガウリイさんが出て行くの、止められませんでした。」
 「お前の所為じゃないさ、気にするな。それより・・・お前に辛い思いをさせて済まないと思ってる。」
 「そんな事――――、正直辛いです。ゼルガディスさんとリナさんが恋人として仲良くしてるのを見てるの・・・・・凄く辛いです。」
 「全く・・・お前がこんな事言うからだぞ、アメリア・・・・俺が愛してるのはお前だけだから、安心しろ。」
 何だと、ゼルの奴!?リナに告白しといてアメリアと二股かけてたのか!!
 「ゼルガディス!!」
 「な、ガウリイ!?」
 俺は気が付いたらゼルを思い切り殴っていた、許せない!リナを泣かす奴は俺が許さない!
 「止めてくださいガウリイさん!!」
 倒れるゼルを庇うように俺達の間に入るアメリア、この騒ぎを聞き付け野次馬が集まってきた。その中にリナの姿があった。
 「ちょ!ちょっと、あんた達何やってんのよ?大丈夫ゼル?」
 リナが倒れたゼルに駆け寄るのを見た俺は、完全に頭に血が上っていた。何でそんな最低な奴を庇うんだ!そいつはリナを泣かせる事をしたのに――――――――
 「あぁ・・・大丈夫だ」
 「ちょっとガウリイ、何があったのよ!?ちゃんと分かるように説明しなさいよね!」
 リナが俺を睨んでいる、そんなに・・・・ゼルが大切なのか?俺は絶望と怒りで完全に我を失っていた。
 「リナ!!何でそんな最低な奴を庇うんだ!?そんなにこんな奴が好きか!?」
 「ちょ・・・ちょっと、何?少し落ち着きなさいよガウリイ!どうしてゼルが最低なのよ?全然話が見えないんだけど?」
 「そいつはなぁ、アメリアと二股かけてたんだぞ!!これが最低じゃないって言うのかお前は!!」
 俺の言葉にリナの表情が怒りに赤くなる、そしてリナはまだ倒れているゼルの胸倉を掴んでユサユサと揺すりながら怒鳴り散らしていた。
 「ちょっとぉゼル!あんたアメリアが居ながら二股かけてるってどうゆう事なのよぉ!あたしに協力しろって言っときながら、何アメリア裏切る事する訳!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
 リナの言葉に俺は不覚にも間の抜けた声を出してしまった、今こいつ何て言った?
 「なぁリナ、そのアメリアが居ながらってどうゆう意味だ?」
 「はぁ?何言ってんのよガウリイ?こいつがアメリアに告白したいけど、アメリアがゼルの事どう思ってるのか知りたいからあたしに恋人の振りして反応を見たいから協力しろって言われたのよ!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
 俺は普段使わない脳味噌を必死でフル稼働させて、やっと事の真相に気付いた。こいつ等、俺とリナをくっ付けようとして二人で一芝居しやがったんだな、何て人騒がせな。
 「違うんですリナさん、ゼルガディスさんはちゃんとわたしに告白してくれたんです!でもガウリイさんが勘違いして『俺のリナを泣かせる奴は俺が許さない、殺してやる』って行き成りゼルガディスさんに殴り掛って来たんです!」
 こらアメリア、俺そんな事まで言ってないぞって、リナの奴顔が真っ赤だ。ひょっとしてリナも俺の事?
 「な・・・何だ、そうだったんだ。もう、ガウリイったら早とちりなんだから。」
 「え?あ・・・その・・・・・・済まん」
 「じゃあわたしはゼルガディスさんの治療をしますから、部屋に戻りますね。それじゃあリナさんガウリイさん、頑張って下さいね。」
 騒ぎが収まった所為か、野次馬も消えて・・・リナと二人きりになっちまった。どうしようかと迷っているとリナの方から話し掛けてきた。
 「あのさぁガウリイ、先刻アメリアが言ってたのって・・・本当?」
 「へ!?あ・・・あれは、アメリアがオーバーに言っただけで・・・・その・・・」
 上目遣いで見上げるリナが可愛すぎるっ!!はぁ・・・・・ダメだ、どうしてもたった一言が言えない。だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!俺の意気地無し!!
 「な〜んだ違うのか、残念」
 あれ?今リナ何て言った?凄く小さな声だったけど、残念って言わなかったか?
 「あ・・・あのなリナ、もし今のアメリアの話、本当だって言ったらどうする?」
 うぅ、俺今顔が真っ赤なんだろうなぁ・・・・・リナも顔が赤い。ドキドキする、リナは何て答えてくれるんだろう?
 「さぁね」
 「さぁねって、何だよそれ?」
 「だってさぁ〜、あたしガウリイの口から何も聞いてないもん。ガウリイから直接聞かないと答えようが無いじゃない。」
 肩を竦めるリナに俺はこれ以上無い位顔が赤くなってしまった。
 「じゃあ、俺が言ったらリナはちゃんと答えてくれるか?」
 俺の質問に、リナは眩しい程の笑顔で答えてくれた。俺にはそれが天使の微笑みに見える位リナは美しかった。
 「そうね、質問によっては答えてあげるわ。ちゃんと誠意を持ってね。」
 多分リナは待っている、俺の告白を・・・えぇい!こうなったら当って砕けろだ!
 「リナ、俺・・・正直今回の事ショックだったんだ。リナがゼルの告白を受けたって聞いて・・・・・・・心臓が止まるかと思った。」
 「どうして?」
 首を傾げて尋ねるリナの姿が可愛くて、俺は思わずリナを抱き締めていた。
 「リナが好きだから、心の何処かでリナは俺を選ぶって自惚れていたから・・・だから凄くショックだった。」
 俺の腕の中でリナが笑う気配がした、今凄く心臓がドキドキしてる。多分リナに丸聞こえなんだろうなぁ・・・恥かしい。
 「ガウリイ、悪いけど離してくれない?」
 リナの拒絶の言葉、俺はリナに選ばれなかったのか?もう・・・別れるしかないのか?
 「ねぇガウリイ、ちょっと屈んでくんない?」
 リナの言葉の意味が分からないまま俺は素直に屈むと、リナは満足そうに微笑み次の指示を出してきた。
 「次は目を瞑って。」
 え?それって、まさか!?すぐ側にリナの顔、そして目を瞑るって・・・キスかぁ!?俺は逸る気持ちを何とか抑え静かに目を瞑る。
 ピシッ!!目を瞑った途端、俺のオデコに激痛が走った。
 「痛ってぇ〜!?何するんだリナ!?痛いじゃないかぁ!」
 「何って、デコピンよデコピン。これは今まで待たされた分よ、ありがたく受け取りなさい。」
 俺は痛むオデコを擦りながら文句を言うと、リナは悪戯っ子が悪戯に成功した時のような笑顔を浮かべていた。
 「何だよ、待たせたって?」
 「あのねぇ・・・悪いけどあたし、ガウリイのあたしに対する気持ち随分前から知ってたのよ。」
 「何だってぇ!?どうして分かったんだぁリナ?」
 正直リナの言葉に俺は驚いた、バレないように感情を隠してたつもりだったのに?
 「見てれば分かるわよ。で、何時告白していくれるか楽しみに待ってたのに、何時まで待っても告白のこの字も無いじゃない!怒りたくもなるわよ。」
 そう言ってリナは俺の前髪を行き成り引っ張った、痛みに文句を言おうとしたその瞬間。俺の唇にリナの唇が触れてきた。
 「・・・・・・・リナ、今の?」
 「・・・・・今のはあんたからの告白の答えよ。」
 俺は思わず唇を手で被った、キス?リナからのキス?答えがキス・・・って!!
 「リナ!じゃあ・・・その、俺の事?」
 「好きよ、ず〜っと前から大好きだよ。」
 やったぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!今までの苦労がやっと報われたんだ!!これで俺達は文句なしの恋人同士になれるぞ〜!フッフッフ、これでリナにあんな事やこ〜んな事も出来るんだ!!!今夜は寝かさないぞリナ!
 リナの悶える姿を妄想していた俺だったが、ある事に気が付き横で楽しそうに微笑むリナに問い掛けた。
 「どうして俺からの告白を待ってたんだ?ずっと前から好きだったんならお前さんから告白してくれても良かったじゃないか?」
 俺の質問にリナは顔を真っ赤にしながらも、ピシッと俺を指差しこう答えた。
 「何いってんのよガウリイ、告白ってのは男からするものよ。」
 「・・・・・そうなのか?」
 「そうよ、さて・・・じゃあ今からゼルに謝りに行くわよ。先行くね!」
 風のように走り去ったリナの姿を見詰めてた俺は、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
 「な〜んだ・・・・・・じゃあさっさと告白すればよかったな。ゼルに謝るのは癪だが俺の大切なお姫様にへそを曲げられると、又オアズケになりそうだからな。ここは言う事聞いときますか。」
 これから先、どれだけ恋のライバルが現れたって、勝者は俺だ。何しろ勝利の女神は最初から俺だけに微笑んでるんだからな。
 思わずそんな事を考えて、俺は笑ってしまった。そして取り合えずゼルに謝る為に宿屋に戻ろうと歩き出した。









  終