〜メビウスの輪〜 巡り会い一つとなる




















 俺達は晴れた日の午後、森の中を歩いていた。俺はガウリイ=ガブリエフ。旅の傭兵であり、俺の隣を歩く少女リナ=インバースの自称保護者でもある。

 俺はこの景色を見ながら思い出す。彼女、リナと初めて会ったときの事を。
 正直俺は驚いた。何しろあれだけの盗賊どもに囲まれてるにも拘らず、不敵に佇む少女に。そして、この無鉄砲な少女に思わず興味を持っちまった。
 リナの第一印象はチビでドングリ目玉の子供だった、でも・・・それが間違いだって事はすぐに気付かされた。
 無鉄砲で、大飯ぐらいで、守銭奴で、我侭!顔が可愛いだけに最初はギャップに付いていけなかった。
 それなのに、俺はリナ自身から溢れ出す光が眩し過ぎて、ずっと惹かれていた。気が付いたらリナに完全に惚れちまってた。
 だからリナの目的が俺の持ってる光の剣でも、リナが隣に居てくれるだけで俺は嬉しくて浮かれていた。
リナの色々な表情が見たくて、わざと物を知らない振りして色んな話を聞かせてもらったりして楽しい旅だった。

 そして俺は光の剣を失った。リナを混沌の世界に連れてくなんてフザケタ事を言う魔族の親玉にリナを返す代わりに渡したんだ。俺には光の剣より、リナの方が大切だから。
 しかし、その後・・・俺は嬉しかったと同時に辛かった。俺が油断して捕まった時、リナが泣いていたんだとアメリアが教えてくれた。
 あのリナが?人前で絶対に弱みを見せないあのリナが!俺の為に泣いてくれた。俺はリナにとって特別な存在なんだと自惚れて・・・嬉しかった。それと同時に俺の所為であいつを泣かせた自分に腹が立って仕方が無い!俺は・・・リナを泣かせたくなんか無い、だからもっと強くなりたいと思って、剣の修行を毎日欠かさずしてきたんだ。
 リナには内緒だけどな。

リナの奴、光の剣を無くしたのが自分の所為だって思い込んじまって、新しい魔法剣を探す旅をしようと言い出した。そんなに気にする事無いのにと思いながら、正直リナの隣に居られる事が嬉しかったが・・・結構あっさり次の剣が見付かってしまった。
 そして・・・あの事件、リナがもの凄く自分を責めてるのが手に取るように分かる。俺は結局何も出来なかった。
又・・・リナに辛い思いをさせちまった。だから、俺は決めた。リナの故郷に行って彼女を俺の嫁さんにする許可をリナの家族に頼もうと!
あいつ等みたいな悲しい別れをしたくないから・・・・・、でもリナには、恥かしくて対『ブドウが食いたい』何て言ったけど。男の俺をリナに見せて、今までの関係を壊したくなかったしな。

 「ねぇ、あんたさぁ・・・最初あたしに会った時どう思った?」
 「ん〜?そうだなぁ、小さなお子ちゃまのくせに随分威勢の良い奴・・・かな。どうしてそんな事聞くんだ?」
 「あたしは、ヒーロー気取りの嫌な兄ちゃんだったわよ。」
 「り〜〜なぁ〜〜!」
 突然の質問に取り合えず当り障りの無い答えを返した俺に、リナはキツイ事言ってくれる。俺リナの事一目惚れに近かったから、今のは傷付いたぞ。
 その時、俺は微かな気配を感じた。この気配は魔族か!
 「リナ、どうやらお客さんみたいだぞ。」
 「そうみたいね。」
 リナも気が付いたらしい、緊張した声が返ってくる。
 「隠れてないで出て来たらどうなんだ?」
 俺の声に対し、そいつは行き成り姿を現した。全身黒ずくめの顔に穴のある以外何も目立つ所が無い奴だが、感じる気配がかなりヤバイ相手だと俺に伝えてくる。
 「俺の名はスペータリーム、お前等デモン・スレイヤーズを消しに来た。」
 「フン、まぁそこそこの実力はあるみたいだけど、あたし達二人の敵じゃ無いわね。」
 そいつが名乗ると、リナは何時もの物怖じしない態度で啖呵を切る。流石リナ。
 「それは知っている、何しろ我等の王を二度も倒した人間だからな。しかし・・・もしお前等が別々ならどうかな?」
 「俺達を引き離す気だろうが、悪いが俺はこいつの保護者でね。それは聞けないな!」
 俺は言うが早いか剣を構え、刃先をそいつに向ける。何時でもリナを守れるように。
 「今のお前等には無理だろう、しかし・・・お前等が出会う前ならどうかな?」
 「何ですって!?」
 どうゆう意味だ?リナもあいつの言ってる事が理解出来なかったらしい。しかし、そこは流石リナ、何時の間にか魔法を唱えていた。
 「ファイアー・ボール!!」
 決まると思った、だが・・・突然奴が消えちまった!?俺の目にも見えない位の速さで姿を消しやがった!俺は一瞬奴を見失って・・・・驚く光景を見た。既にリナの後ろに奴が居たからだ。
 「嘘!?」
 「フフ、まだまだこれからだぞ。おれの特殊能力の威力はな。」
 特殊能力だと?あいつの言葉を聞いた瞬間、リナが瞳を大きく見開いた。そして信じられない物を見る目で奴に言った。
 「あんた、時間を操る能力があるのね?」
 「ご名答。」
 答えると同時に、奴がリナに攻撃しやがった!!俺は思わず頭に血が上って奴に向かって突進した。
 「リナァ〜!!貴様ぁ!リナを傷付ける奴は許さん!!!」
 斬りかかった瞬間、奴の姿が行き成り消えた。思わずバランスを崩した一瞬の隙を俺は不覚にも付かれてしまった。
 「少し眠っていてもらうぜ。」
 その言葉を最後に、俺は意識を手放した。


 「ここは・・・・・・・どこだ?」
 目を覚ましたら行き成り真っ暗な所に居た。何も無い・・・・暗闇だけの世界、立ってる場所も上を向いてんのか下を向いてんのか分からない。フワフワした感触だけが足から伝わってくる。
 「あ!リナ?おーいリナ!!リナぁー!!!」
 リナが居ない!?そんなバカな?リナが居ないなんて・・・・・俺の背中に冷たい物が走り抜けた。
 「リナ!!返事をしろリナ!!クソッ!どこに行ったんだリナぁ―――――――!!」
 しかし、俺の呼び掛けに答える奴は誰も居ない。
 「・・・・・リナ、頼むリナ・・・・・・返事をしてくれ。俺を一人にしないでくれ!リナ、俺を呼んでくれ!!」
 (ガウリイ)
 「リナ?」
 間違い無い、今の声はリナ!リナが俺を呼んでる!!
 「リナどこに居るんだぁー!?リナぁー!!」
 (ガウリイ!!お願い行かないでぇ!あたしを置いて行かないでぇー!!)
 「リナ!!あそこか!?」
 リナの声が聞こえた方を見ると、微かな光が見えた。間違い無い、あれはリナの魂の光だ!待ってろリナ、今行くからな!!
 俺は光に向かって迷う事無く光に向かって走り出した。

 「ハッ、ここは・・・戻って来たんだ?そうだ、リナ!リナは無事か・・・リナ!?」
 光に飛び込んだ瞬間、俺は元の場所に戻って来ていた。そして、リナを探していた俺は息を飲んだ。俺の目に飛び込んで来た光景は、地面に倒れているリナと・・・その横で身動きしない魔族野郎!
 「許さん!!うりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 リナを殺した奴を俺は背後から軍神の力を込めて斬り付けた。その瞬間、奴の口から絶叫が上がる。
  「き・・・・・・・・貴様ぁ・・・・・・・どうして、動ける?貴様の時間は止めたというのに・・・・・・・・・・・」
 「さあな、俺を呼ぶ声が聞こえたからかな?体をこっちに残したのがお前さんの敗因だったな。うりゃあぁぁぁぁ!!」
 俺は今までに無い位の力を込めて奴の胴体を切り離した。塵となって消える奴の後ろにリナが起き上がるのを見て、俺は心の底から喜んだ。生きていてくれたんだ・・・リナ。
 「が・・・・・・・・ガウリイ」
 近付く俺に、リナの声が震えている。俺の居ない所でそんなに怖い目にあったのか?奴を只塵に返すだけでは、生温かったみたいだ。
 「リナ、大丈夫か?心配したんだぞ!」
 俺は思わずリナを抱き締めた。温かい、リナ・・・本気で心配したんだぞ。
――――――生きててくれて良かった。
 「大丈夫よ・・・でも、何があったの?」
 「・・・・・あぁ、俺が気が付いたらあの魔族はその場に立ったまま動かないし、リナは地面に横になったまま動かないから・・・・・・・・・・だから、あの野郎を切り刻んでやろうと・・・・・・・でも、リナが無事で良かった。」
 更にリナを強く抱き締めながら、俺は不覚にも泣いてしまった。お前さんが死んだら、俺も生きてく事が出来ないんだからな。
 「あのさぁ・・・・ガウリイ」
 「・・・・・・何だリナ?」
 リナの声がもっと近くに聞きたくて、俺はリナを抱き締める腕に更に力を加える。するとリナにしては珍しく、オドオドした口調で質問してきた。
 「・・・・・・何だリナ?」
 俺は成るべくリナを刺激しないように優しく問い返してやる。すると、リナはゆっくりと口を開いた。
 「あんたさぁ・・・・・・・あたしとの出会い、覚えてる?」
 何だそんな事か・・・そう思った瞬間、俺の頭の中で不思議な事が起きていた。
 「あぁ、そんな事か。勿論覚えてるぜ、お前さんが盗賊からガメたお宝を奪い返そうとした盗賊どもから俺が助けたんだろ。」
 取り合えずそう答えると、リナはモジモジしながら又問い掛けてきた。何だか今日のリナはメチャメチャ可愛い過ぎるぞ。
 「ねぇ・・・・・・・もしもよ、もし・・・あんな出会い方しなかったら・・・ガウリイはどうした?やっぱり・・・・・一緒に旅してくれる?」
 へ?何か凄い事聞かれてる気がするのは俺の気の所為なのか?俺は勇気を出して本音をぶちまける事にした。
 「それは・・・・・・・・う〜ん、あのなリナ・・・絶対笑わないか?」
 そうだよな、今まで保護者保護者って言ってた奴が、行き成り好きだ何て笑っちまうよな普通。
 「へ?え・・・えぇ、笑わないわよ。」
 「その・・・怒らないか?」
 破天荒な性格のくせに純情な奴だから・・・俺が自分を一人の女として見てた何て知ったら怒るだろうな。
 「怒らないわよ!」
 「行き成り攻撃呪文を―――――――――――っ痛ぇー!リナぁ〜、怒らないって言ったじゃないかぁ〜」
 質問の途中で行き成り俺はリナにスリッパで頭を叩かれた。正直痛くは無いけど痛がって見せると、リナは腰に手を当てプリプリ怒ってる。
 「うっさいよ!あんたが何時までもグダグダ言ってるからでしょうがぁ!!」
 俺は今度こそ覚悟を決めて、静かに想いの全てを口にした。
 「リナ、俺は例え何度でもお前との出会いを繰り返す事になっても、お前と一緒に旅をする。それがお互い敵同士として出会ったとしても、俺はお前と・・・一緒に何時までも傍に居る。神に誓っても良い。」
 「ど・・・・・・どどど、どうして?」
 顔を真っ赤にさせてリナが問い掛けてくる。俺は恥かしさから頬を掻きながら答える。否、告白をした。
 「・・・どうしてって、やっぱり・・・・お前さんに一目惚れするからだろうな。」
 言ってからリナの顔を見ると、これ以上無い位真っ赤になっている。うーん、やっぱり可愛いなこいつ。
 「出会った時はまだお前さんは本当に子供で、危なっかしいってのもあったから保護者何て言っちまったけど、本当は俺・・・初めて会った時から、お前さんの・・・放つ光に魅せられちまったって言うか、お前さんの全てが凄く眩しくて・・・俺・・・リナを欲しいって思っちまったんだよ。」
 そう、何度もリナを抱きたいと思ってた。でも、出来る訳が無い。そんな事をしたら俺は一生リナを失う事になるから――――――――
 「あたしは・・・最初あんたを便利なアイテム位しか見てなかった、でも・・・光の剣の後継者って知って、光の剣目当てであんたと旅をしてた。」
 少し間を空けて、リナが突然俺に言ったのは・・・思っていた通りのセリフだった。それでも本人から聞かされるとショックは大きい。俺は思わず苦笑いを浮かべた。
 しかし、リナの言葉には続きがあった。
 「でも・・・本当は違ってた、あたし自身気付いて無かったの。光の剣何て関係無い、あたしは只・・・・・ガウリイと一緒に居る理由が欲しかっただけだった。それに気付いたのはフィブリゾとの戦いの時だったわ。あの時、あたしは・・・・・世界より、あんたを選んだ。世界中の生きとして行ける物の存在より、ガウリイって男一人の命を選んだのよ。・・・丸でそれが当然の様に」
 「――――――――リナ!?」
 リナが初めて俺に本音を語ろうとしている?しかも世界より俺を選んでくれたって事はリナも俺の事を好きなのか?俺は自惚れても良いのか?
 「だから・・・ガウリイがあたしの為に光の剣を手放して、あたしを連れ戻してくれた時は・・・・・・凄く嬉しかった。大切にしてる剣より、あたしを選んでくれた事が。そして、これで新しい魔法剣を探すってガウリイと又旅が出来る理由が出来たから。凄く嬉しかった、でも・・・新しい剣はもう見付かったから、又理由を探していたの。ガウリイの横に居られる理由を・・・・・ガウリイが好きだから」
 「リナ、俺もお前を愛してるよ。約束する、絶対お前から離れない。もし・・・又俺達の出会いを消そうって奴が現れたら俺が二度と復活出来ないようにしてやる。それでも出会いをやり直す事になったら・・・探し出す、絶対リナを探し出して俺が連れ去ってやる。約束するよ・・・・・リナ。」
 「あたしも・・・・絶対見付け出すわ、ガウリイを。だから・・・・ん」
 まだ何かを言おうとしているリナの唇を俺は己の唇で塞いだ。



 俺とリナの関係は口で表せる事何て出来ない、何度も引き合い巡り会うお互いの命を持つこの世で只一つの存在。
 だから何回初めからの出会いを繰り返しても、リナと俺は必ず共に存在する。

 〜ソレガオレタチノサダメ、メビウスノワノヨウニカラミアイトモニアルモノノ・・・サダメ〜






      終