物 忘 れ

















穏やかな青空が広がる日。
あたしたちは朝食後のお茶を飲んでいた。
「なぁんか忘れてる気がすんのよねぇ」
ぎく。
「なんだ?俺のクラゲがうつったのか?」
「自分でいうなぁ!!」
すぱぁんっ!!!
のほほんとさわやかな笑顔で尋ねるガウリイに軽くスリッパで突っ込みを
いれてから斜め前、つまりガウリイの横にいるアメリアを見た。
「ぎく。って何よ?」
「な、何でもないわよぉっ!!!ホントにホントよ」
めちゃくちゃ怪しい。
「それよりリナ、今日はマジックショップでセールするらしいぞ」
今まで黙っていたゼルガディスが口を開いた。
「なんですって!!?こりは絶対行かなきゃ!」
安売りと聞いちゃあ、話題が変わったことにアメリアがあからさまにほっ
としてても、さり気なく話題を変えたゼルの頬に一筋の汗が流れていよう
とも、行かなきゃリナ=インバースの名が廃る!
「ガウリイの旦那でも連れて行ってきたらどうだ?」
「あれ?あんたたちは行かないの?」
「ああ。とくに足りないものはないからな」
「私も。」
「そう。じゃあガウリイ、荷物もちしてよね♪」
ガウリイにウインクしていうと、露骨に嫌な顔をする。
「え〜!うっ、…喜んで持たせて頂きます」
素直でよろしい。
「じゃあ、行ってくるわ」
ガウリイに同情の目を向けながら、二人はあたしたちを見送った。

「ん〜何を忘れてるんだろ」
「まだ気にしてたのか?」
「もうちょっとで思い出せそうなのよー。ぅう、気持ち悪い」
喉に小骨がひっかかった。まさにそんな感じである。
「大事なことならそのうち自然と思い出すんじゃねぇか?」
「ガウリイに慰められるようじゃ、あたしもおしまいね…」
「お前なぁ…」
がくっとうなだれるガウリイ。
そうこうしているうちにマジックショップについた。
「ガウリイどぉする?中はいる?」
「いや、そこらへんうろついてるよ」
「そう。じゃあ買い物終わったらその辺にいるわ」



買い物が終わり外に出ると、ちょうどガウリイがこちらに向かって歩いて
くるところだった。
「ガウリイ、ナイスタイミングぅ!」
「いつもにまして買ったなぁ」
「へへ。よろしくお願いしまぁす」
「へいへい」
荷物を軽々と肩に担ぎあげる。
「リナ、腹へらないか?」
「そうねー。もう昼だもんね」
「ブラブラ歩いてるときにうまそうな店見つけたんだがいかないか?」
「いいわねぇ!あ、でもアメリアとゼル待ってないかしら」
「大丈夫だろ。いつまでかかるかわからん買い物をまちゃしないって」
「それもそうね〜…ってガウリイ!どういう意味よ!?」
「どういうって、そのまんま。」
「ガ〜ウ〜リ〜イ〜」
「悪い!俺が悪かったから、町中で火炎球はよせっ!」
あたしは呪文の詠唱を中断した。
あたしも大人になったわねぇ
…大人?
「リナ、ここだ」
ついたのは、アットホームでいい感じのお店だった。
「さ、どぉぞ」
ドアを開け、一礼をする。
見た目がいいせいか、高級レストランのウエイターのように様に
なっている。
「急にどうしたのよ」
答えずににこりと微笑む。
あたしは扉をくぐった。
ばたん。
ガウリイも入り、戸を閉める。
「ガウリイ、休みじゃないの?」
中は真っ暗だった。
「いや。そんなことない」
そんなことないって…
もう一度ガウリイに問いつめようと振り返った。
しかしガウリイはいなかった。
どこいったのよ?
そのときだった。
パァンっ
え?
『HAPPY BIRTHDAY!!』
電気がついた。
そこにはアメリア、ゼル、ガウリイがならし終わったクラッカーを
持ちながら立っていた。
「リナ!!お誕生日おめでとぉ!」
あ。そぉか…
「そぉいえば、誕生日か…」
何か忘れている気がしていたのはこれか。
これを計画してたからアメリアたちは怪しかったのね。
ちょっぴり感動したゾ
「あんたたち、ありがとう」
…ぅう、恥ずかしい。
「ほら、リナ!ろうそく消して」
おっきなバースデイケーキのまん中には、
『HAPPY BIRTHDAY リナ』の文字。
思いっきり息を吸い込み、一気に消した。
「さぁ、思いっきり食べて!」
テーブルには所狭しとごちそうが並べられていた。
「食うぞ!」
「ちょっとガウリイ!主役はあたしよ!!」
あたしよりも先に食べるなんてゆるせん!
いつものとおり、争奪戦が始まった。
  

時間が経つのは早いもので。
あたりはすでに暗くなっていた。
「私達が片付けるんで、リナ達は先に帰ってて」
「手伝うわよ」
「今日くらい、ゆっくり休め」
なんというか、こう優しくされると、こそばい…
「…じゃあお言葉に甘えるわ」
「ガウリイさん、暗いんだから、ちゃんとリナを送ってあげてくださいね」
「まぁ、襲う方と襲われる方とどっちが危険なのかはわからんがな」
聞こえてないつもり?
「ゼルぅ?」
「いや、なんでもない」


「それにしてもよく食ったなぁ」
「ほんとねぇ」
料理は文句無しにおいしかった。
「キレイだな」
「ん?」
ガウリイは空を見上げていた。視線をおうと、そこには満月あった。
「ほんとね」
二人は黙って歩いた。
けれど嫌な気は全くしない。むしろ落ち着くかもしれない。
「リナ」
「何?」
歩みを止めた。
「これ。気に入るかわからんが」
え?
「HAPPY BIRTHDAY」
ガウリイの手には可愛らしいピンクの包みがあった。
「あ、…あけていい?」
微笑みながらうなづいた。
あ…
それは、朝焼けの光のような紅い宝石のついたネックレスだった。
なかなかの値打ちものだ。あたしがいうんだから間違いない。
「高かったんじゃないの?」
「いや。貸してみ。」
ネックレスを渡すと、あたしにつけてくれた。
「…似合う?」
「ああ」
ガウリイから何かもらったの初めてかも。
ちょっと…うれしい。
「帰るか」
「うん」
また黙って歩き出した。
以外と宿は近かったようで、すぐについた。
「じゃあな。ゆっくり休めよ」
「うん」
「おやすみ」
そういうと、ガウリイは部屋の戸をあけた。
「ガウリイ」
動きを止めて、こちらをみた。
「あ…あの……」
「なんだ?」
「…ありがと」
ばたん



                     end☆