風の彼方から |
幼い鳴き声に、彼女は羽ばたくのを止め地上を見下ろした。 人間という変わった種族は、度々争いあう。無駄に血を流し、死んでいく。 何故そのような行為を繰り返すのか、彼女には理解出来なかった。が、だからといってここを素通りする気も起きなかった。 森の中に舞い降り、声の主を捜す。 「かあさま……とうさま………」 茂みの中に隠れた幼い少女。どうやら親を亡くしたらしい。 ゆっくりと彼女の上の枝に停まる。羽ばたきの音に驚いたのか、少女はびくりと体を震わせ、恐る恐る見上げた。 真紅の瞳が、次第に見開かれる。 「だれ……?」 恐怖より興味の方が上回ったらしく、少女はちょこちょこと近寄って来た。 「とりさん?」 「私はハーピィのルナ」 「はーぴぃ?るな?」 少女は首を傾げた。 「一人なの?」 尋ねられた途端、みるみるうちに少女は瞳に涙を溜めた。 泣き出した少女を、彼女はそっと羽で包んだ。 「一緒においで」 「うん」 少女を包み込み、空へと舞い上がる。 地上を見せないようにしながら、彼女はふと地上を見た。 同族同士で戦い、殺し合った戦場。なぜこうも無益な事を繰り返すのか。この人間という種族は。 せめて、この少女を育ててやろう。自分で道を選ぶその日まで。 「貴女の名は?」 「あたしは………りなるてぃあ。みんなりなってよぶの」 「そう。しっかり掴まっていなさい。リナ」 「うん」 「リナ?」 「ガウリイ」 「それは?」 鳥達が集まる中庭で、リナが手の中の何かを懐かしそうに見つめていた。 「宝物」 リナが持っていたのは、かなり古そうな指輪だった。 「あたしが姉ちゃんに拾われたときに持っていた物なの。他は全部無くなったけど……これだけは手放しちゃいけない気がして、ずっと持っていたの」 「見せてもらってもいいか?」 「どうぞ」 複雑な模様が刻まれたそれは、不思議な色合いの石を中央にはめ込んである。こういうのに詳しくない俺には良く分からないが、代々伝えられてきた品という雰囲気がある。 もしかしたら、これを手がかりにリナの出身が分かるかもしれない。 「なぁ」 「何?」 「もしかしたら、リナが何処で生まれたのか分かるかもしれないぞ?」 「………いい」 「?」 リナははっきりと首を振った。 「あたしの居場所は、ここだもの。それに……きっと、探しても……誰もいないと思う」 「そっか。なら……そろそろ朝食にしないか?」 「うん!」 こうして、俺達の生活は穏やかに過ぎていた。 あの指輪は……その後、俺の頭から綺麗さっぱり消えて無くなっていた。 |