あったかい気持ち |
「あたし、ガウリイが好きなの」 「どえぇっ!?」 いきなりリナから言われた言葉に俺は思わず声をあげてしまった。 ****************** 場所は宿の一階にある飯屋。 今日は久しぶりにリナと酒を飲んでいのだった。 俺のはストレートの強いヤツでリナはジュースで割ったヤツ。 護衛の仕事を終えて、懐も暖かくなったのでリナはご機嫌で酒を飲んでいる。 依頼料結構良かったからなぁ・・・。 いつもリナに『そんなに飲みすぎたらほんとのクラゲになっちゃうわよ!』とどつかれるので、 酒のペースと量を控えるようになったこの頃。 しかし、今日はそう言っていた当の本人のペースと量が半端じゃない。 パカパカと・・・これは一体何杯目だ? そろそろ止めたほうがいいだろう。 様子をうかがうと、リナは顔を真っ赤にしてグラスをジっと見つめていた。 さては、酔ったな・・・ まったく、いくら子供用に割っているからって・・・ 「リナ、大丈夫か?」 そう言おうと思った時、リナがパッとこっちを向く。 俺の目をヒタと見つめて・・・ そして・・・ 冒頭のセリフにつながるわけである。 「・・・そのリアクションはなによ?」 大声をあげて驚いた俺をジト目で睨む。 「・・・な、なんでも、ないです」 リナはちょっとちじこまった俺を見ていたが、またフと視線をグラスに戻してポツリと言う。 「だから・・・ずっと側に居たいなぁって思うの」 うっひょ〜!!!?? と叫びたいぐらいに驚いたが、ここは大声を出さないことに成功した。 ・・・だってなぁ・・・『好き』って・・・しかも『ずっと』って・・・。 あのリナの口からでるとはなぁ・・・。以外、だよなぁ・・・。 でも・・・だからこそ・・・ ちょっと、にやけてしまう。 ・・・嬉しかった。 「リナ・・・」 俺がずっと護ってきた・・・紅い瞳の少女。 ずっと待っていた。 やっと両想いになったんだ。 胸にあったかい気持ちがあふれる。 俺は席を立ってリナの椅子の傍らに立ち、そっと肩を抱く。 いつものリナなら呪文攻撃が飛んでくるところだが、抵抗を見せる素振りすらない。 ちょっと肩を抱く手に力がこもる。 「でもね・・・」 椅子に座ったまま俺を下から見上げるリナ。 ちょっと不安げに目が潤んでいる。 「でも?」 そっとやさしく囁くように先を促す。 リナはまたまたグラスに視線を戻す。 「いつかは・・・別れちゃうでしょ?だから寂しいって思って・・・」 ちょっと拗ねたように、唇を尖らせて言う。 何を言っているんだ・・・まったく・・・ 「俺は、別れる予定なんてないけどな・・・」 いつものようにポンと頭に手をのせて、その横顔をじっと見る。 長いまつげ。 可愛い・・・いや、『きれい』・・・かな。 長いまつげの主は上目遣いに俺をチラっと見た。 「だって・・・いつかは、それぞれ結婚するんじゃない?」 うるうるした瞳。 やっぱ、まだ『可愛い』・・・か・・・。 って 「・・・それぞれ?」 訝しげな表情で問い返す。 えーと・・・それぞれ結婚・・・って・・・。 あれ?やっと両想いかなぁ・・・と思ったり・・・したんだけど・・・。 あれー? 「そーよ。あたしに恋人が出来て、結婚しても・・・それでもガウリイは側に居てほしいなぁって。我侭かなぁ?」 小首をかしげながら俺を覗き込む。 っていうかそれ我侭っちゅうか・・・変だぞ・・・。どんな状況になるんだ・・・。 いや、それよりもリナが言わんとしていることって・・・。 恋人が出来て?出来たらってことだろ・・・。 で、その恋人ってのと・・・俺は別・・・なのか・・・? 「ガウリイが一緒に居ると落ち着くのよ。う〜ん、安心するっていうのかな。父ちゃんと一緒にいるみたいでさ」 リナがやさしく微笑む。 微笑んでそんなこと言うな〜!! それって・・・それって・・・ 「お前さん、俺のこと・・・なんて思ってる?」 引きつった笑顔で問い掛ける。 「へ?保護者でしょ?」 ズベッ 床にスッこけた俺をリナが不思議そうな顔で見ている。 「・・・あたし、つまんないシャレとか言った?」 「・・・別に・・・なんでも・・・」 涙をこらえてのろのろ起き上がる。 好きは好きでも保護者としてかいっ! 今、胸には冷たい風が吹き荒れていた。 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ちっくしょ〜!!リナのガキんちょ〜!!! 俺のあったかい気持ちを返せ〜!! ****************** 朝、目の下にクマを作った男が独り、部屋のベットに腰掛けてつぶやく。 「昨日のことは悲しかったが・・・リナの口から『ガウリイが好き』ってのもスゴイことだよな」 スックと立ち上がり、窓に近づく。 「うん、それだけでも大進歩だ。そう、脈ありってことだな」 必死に自分に言い聞かしている。 シャっとカーテンを明けて、朝日を正面から見据える。 「見ていろ、リナ。絶対俺を意識させてやる。保護者から恋人へのラブラブ大作戦だ!!」 ちなみにリナは昨夜の会話は覚えておらず、 例の『ガウリイが好き』云々のセリフも、真っ向から否定し攻撃呪文を繰り出したという・・・ おしまい |