ワインレッドな夜を











「なぁ、リナ」
「何よ?」
「夕飯食い終わったら、俺の部屋まで来てくれないか?」
「・・・?いいけど・・・・・・
何かくれるの?」
「それは後のお楽しみってことで」



そう言った青年のいつもより違う笑顔に、少女は内心訝しがるが、『お楽しみ』という言葉にいとも簡単に心動かされ、いつもの夕飯バトルを終えてから、青年の部屋に向かった――





「――で?
何の用なのよ?
『お楽しみに』っていうことは・・・何かくれるっていうことでいいんでしょうね?
もしそうじゃなかったら・・・・・・攻撃呪文の嵐がくるわよ(はぁと)」
おいおい・・・・・・笑顔なのに眼が笑ってないぞ・・・・・・(汗)。
その紅い眼の奥に何やら邪悪なオーラを感じて俺は内心ビクつきながらも、少女に一枚のチケットを差し出す。


「・・・何・・・?これ・・・・・・?」
「今夜、この村の生誕何周年とかなんかで、村のロードで舞踏会やるんだってさ。
それで、宿の女将さんからチケット余ったから、二人で行って来たらって、チケット二枚くれたんだ。
まぁ、せっかく貰ったのに使わないんじゃもったいないだろ?
『タダほど安いものは無い』っていうし、一度行ってみないか?」
「うーん・・・・・・そうね。
たまにはこういう息抜きもあってもいいわね。
その舞踏会行ってみましょ」





と、いうわけで。
俺とリナは、今夜行われる舞踏会(もちろんタダだが)に行くため、その会場であるロードの城へと向かったのだった。


本来舞踏会というのは堅苦しくてあんまり好きじゃないんだが、今日は特別だ。


何故特別かって?
そりゃあ、俺が3年間ずっと想い続けた少女――リナを手に入れたからさ。


くううぅぅぅぅぅっ!!(絶叫)
よく頑張った、俺!!!
長かった・・・・・・3年間、よく我慢したよなぁ。
昔の俺なら、こんなに長くは持たなかったってのに。


この3年間、どんなにアプローチしてても全く気付いて貰えず、某仲間からも『旦那も苦労するな・・・』とか『こんな判りやすいアプローチに気付かないなんて、リナさん鈍感すぎですっ!ここはひとつ強引な手を使ってでもリナさんに気持ちをぶつけるべきですっ!!』とか言われる始末。
まぁ、鈍感すぎるってのは少々難点ってのはあるが(泣)。


それでも俺は諦めなかった。いや、諦めきれなかった。
ずっと闇の中を彷徨ってた俺を、リナは何の躊躇いもなく光の世界へと連れ出してくれた。
リナは俺にとって光そのものだった。
その光をみすみす逃してなるものか。
どんなに呪文でぶっ飛ばされようが、構うもんか。
俺はアプローチを続け、そして・・・・・・。


俺にとって運命の日であり、一番の思い出の日であるバレンタインデー。

ぶっきらぼうに俺にチョコを渡して、顔を真っ赤にして『す・・・好きよ・・・』と言ってくれたとき、俺はチョコを貰った事よりも、リナから告白してくれた事の方が数倍、いや数万倍も嬉しかった。

やっと俺の気持ちが受け入れて貰えて嬉しくて嬉しくて、思わず彼女をきつく抱き締めて、その唇を思う存分味わった。
その勝気な紅い瞳が潤んで俺を見上げているのを見て、一瞬その身体に俺の刻印を刻みつけたい衝動に駆られたが、それを理性が総動員して抑える。


俺はリナの身体を手に入れたいんじゃない。
心も。現在も。未来も。
すべてひっくるめて手に入れたいんだ。
無理やりリナを手に入れても何の意味も無い。





リナの笑顔――それが今の俺のすべてなのだから。





そして舞踏会の時間がやってきた。
皆カクテルドレスやタキシードに身を包み、それぞれが思い思いにダンスを楽しんでいる。
その中で俺は、テーブルに出されている料理や酒を味わいながら、今着替えている途中であろうリナを待っていた。

彼女を待っている途中、いろいろな女からダンスの誘いがあったが、すべて断った。
どんなに魅力的な女でも、彼女の持っている魅力の前には足元にも及ばない。


ルビーのように輝く大きな紅い瞳。
腰までかかった柔らかな栗色の髪。
今にも抱き締めたら折れてしまいそうな、細身で華奢な身体。
どんな逆境にも諦めず立ち向かう、強固な意志。


これだけ強烈な印象を出会った時から持っていた女なんて、世界中どこを探してもリナぐらいなものだろう。
いや、初めからその魅力の虜になっていたのかも知れないな――


最初に出会った頃から今までのことを思い出し、俺は我知らず口元に笑みを浮かべていた。



ふと、ホールの方でざわめきが聞こえたので、その方向に目をやって、一瞬俺は言葉を失った。



そこには、瞳と同じ色のワインレッドのカクテルドレスに身を包み、首には真珠のネックレスに、耳にも同じ素材のイヤリングをつけたリナがホールに向かう階段を下りてきた。
歩いてくるたびに、ドレスのスリットから、彼女の陶器のような白くて長い脚が垣間見える。



――綺麗だ――



俺は階段を下りて、こちらの方に歩いてくるリナを心の中でそう言いながら眺めていた。
そのいつもと違う格好も綺麗だが、それ以上に目を引いたのが、小さな唇に差した紅い口紅。
艶やかに光るその紅い唇を見て、俺が心の中に封印していたことを嫌が否にも思い出させる。



――リナが『少女』ではなく『女』だということに――



対して俺の着ているものは、襟に金の刺繍が施された黒のタキシード。
髪は、踊るとき邪魔にならないように、三つ編みにしてある。
こうして見ると、舞踏会というのも結構悪くないと思ったりする。
こんな格好のリナを見れるなんて、そうそうないからな。


俺はリナのほうに歩み寄り、恭しく彼女の手を取り、キスをする。
「お嬢さん、よろしければ俺と踊って頂けませんか?」
「ええ、喜んで」
彼女は柔らかく微笑んで、ドレスの裾を持ち上げ、優雅な礼をする。


そして、ダンスを楽しんでいる間、まわりの人々が俺たち二人をそれぞれ賞賛の眼差しで見つめている。
まるで時間が止まったかのような錯覚を覚え、このままこの時間が止まればいいのにと思いながら、俺たちは永遠ともいえる時を過ごした。





「ふぅ・・・ダンスをするのも結構体力つかうのね・・・」
ダンスを終えて、それぞれ料理と酒を味わい、二人して会場のロビーに出ていた時。

ダンスをするのが初めてなのか、少々息切れをしながらリナが言う。

心地よい風が吹く。
その風は、ダンスをして火照った身体を少しづつ冷ましていく。


「今日はとっても楽しかった。ありがとうね、ガウリイ」
「いや、どういたしまして」


やっぱりリナには笑顔が似合うよな。
魔族と戦ってる時の真剣な顔も好きだけど、やっぱりメシ食ったり、盗賊いぢめしてる時のダイアモンドに輝いてる笑顔が一番好きだな。
その方がずっと『リナ』らしいからな。


「・・・でも・・・何でいきなり舞踏会に誘ってくれたの?
いつもはこんな気の利いた事しないのにさ」
「・・・ん?・・・あ・・・いや・・・それはだな・・・・・・」
「ま〜さか何か企んでるんじゃないでしょうね・・・?」
まずい・・・リナ本気で疑ってるな・・・・・・。
こうなったら奥の手だ。
「ちょっと、何とか言いなさい・・・って、きゃ!」
俺はなおも言い募るリナを抱き締めた。

「ちょっと、やだ、離してよ!!」
バタバタ手を動かして抵抗するが、それは全く無駄で、かえって抱き締める腕の力を強めるだけ。
「なあ・・・・・・今日は何の日か知ってるか・・・・・・?」
「え・・・・・・?舞踏会の日じゃないの・・・・・・?」
まったく、こういうことには本当に鈍感だよな、リナは。
「あのなぁ・・・今日はホワイトデー。
バレンタインデーのお返しの日だろ?」
「あ・・・・・・」


やっと気付いたようだな。
まぁ、気付いたところでももう遅い。
俺がリナを舞踏会に誘った理由は・・・・・・。


「で・・・でもお返しって・・・・・・舞踏会に誘ってくれたことじゃないの・・・?」
「いや、それもあるな。でももう一つ『お返し』があってな、それは・・・・・・」
リナの耳元に顔を近づけ、そっと囁く。



「――俺自身が『お返し』って事で――どうかな?」



俺の言葉にリナの顔がみるみる真っ赤に染まり、しばらく身体を硬直させていたが、やがて小さくコクン、と頷いた。
その仕草を確認すると、リナをきつく抱き締めて、そのまま彼女の唇を貪った。
ドレスから伝わる彼女の身体の体温と柔らかな感触をその身に感じながら――



――夜はまだ、始まったばかり――








END






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