スカイブルー










「リナさん、一緒にチョコつくりませんか?」


「・・・・・・・・・は?」

アメリアのあまりにも突然の発言に、あたしはたっぷり1分ほど固まった。

「アメリア・・・今・・・何て・・・・・・?」
「ですから、チョコを一緒に作りましょうって言ってるじゃないですか。
明日バレンタインデーですから」
「・・・ば・・・ばれんたいんでー・・・・・・?
何・・・?それ」


「えええ―――――――っっっ!?」


アメリアの叫び声が宿屋の部屋中に響き渡った。


「・・・・・・っ、何よアメリア!
いきなり大声出して!!」
あたしの抗議の声に構わず、アメリアは信じられないと言った口調で言葉を続ける。
「ほ・・・本当にバレンタインデーって何か知らないんですかっ!?
女の子なら誰でも知っていることなのにっっっ!!!」
「アメリア〜〜〜今の言葉もう一度言ってみる度胸あるかなぁ〜〜?(はぁと)」
「・・・・・・ないですぅ・・・・・・(震)」
あたしの笑顔に殺気が込められていることに気づいたのか、慌てて首を横に振るアメリア。
うんうん、わかればいいのよ。




「・・・で、バレンタインデーっていうのは、好きな男の人にチョコを渡して、愛を告白する日なんですよっ!
愛する人への想いを込めて作ったチョコを手渡して、『好きですっ!』って告白してっ!
相手の人は顔中赤らめながら、チョコを受け取ってくれる・・・。
くぅぅぅぅぅっ、何ていうシチュエイションっっっ!!」
握りこぶしを作り腰に手をあて、完全に自分の世界に入っちゃってるアメリア。
もしここが宿の外だったら、かなり恥ずかしい光景だったかも知れない(汗)。


うーむ・・・そんな日があったのか・・・・・・
どーりでアメリアとゼルに再会した今日、街中に女の子たちが我先にとチョコを買い求めてるから、今日は何かあるのかな?」程度しか見ていなかったのだが・・・


「・・・で、何でもいいけど、何であたしがあんたと一緒にチョコ作らなくちゃなんないのよ?作るだけならあんた一人でもできるでしょうが」
「ええ・・・それなんですけど・・・・・・」
いつもの元気な声とは違う弱々しい声に、さしものあたしも心配になって、尋ねる。
そこ、笑わないように。
いつも元気大爆発のこの子が、突然元気なくなるんじゃあ、やっぱり何があったか気になるじゃない?
「・・・どうしたの?」
「・・・情けないんですけど、わたし料理にはあんまり自信がないんですぅ。
一人でチョコ作って失敗しちゃったら・・・・・・
せっかく心をこめて作ったチョコが台無しになるじゃないですかぁ」
「そりゃ・・・まぁ・・・」
「前に、リナさん『料理にはうるさい』って言ってたじゃないですかぁ。
ですから、リナさんにチョコの作り方教えてもらおうと思ったんですよっ!
お願いですぅ!
ここは、恋する乙女を助けると思って、チョコの作り方教えて下さいっっ!!!」
「う・・・うーみゅ・・・・・・」
確かに、あたしは小さいときから故郷の姉ちゃんにみっちり料理を仕込まれたから、チョコを作るのはお手のものなのだが・・・
・・・めんどくさいなぁ。
「もちろん報酬は払いますっ!
金貨20枚でどうですかっ!?」

ぴくっ。

アメリアのその言葉にあたしはしばし考え込み――


「・・・よし、わかったわ!
このあたしが、おいしいチョコの作り方、あんたに伝授してあげようじゃないの!」
「ほっ・・・ほんとですかっっ!?
ありがとうございますぅぅぅぅぅっ!!」
あたしの言葉に、アメリアは満面に笑顔を浮かべ、部屋の中を飛んだり跳ねたりして、身体中で喜びを表現している。
ほんとに、まだまだお子様ね。
こんなことで喜ぶなんて。
・・・まぁ、あたしも長旅で少し疲れてたし、たまにはこういう息抜きもいいかもしれない。
そ・れ・に。
報酬も金貨20枚ももらえるし〜(はぁと)。
やっぱり人助けはいいわね〜(特大はぁと)。


あたしたちは、宿の一階にある厨房を貸してもらい、さっそく明日のバレンタインデーのチョコを作る作業に取り掛かった。






「・・・で、湯せんで溶かしたチョコを型に入れて、冷やし固めるの。
それにトッピングして、包みで包めば、完成よ」
「ふぅ・・・これが終われば、わたしのたっくさんのが詰まったチョコが出来る訳ですねっ!これで明日のバレンタインデーは完璧ですっっ!!」
何やらこっ恥ずかしい台詞を吐きながら、幸せに浸りきっているアメリア。
そうしていると、いかにもバックにはぁとが飛び散っていそうな感じである。
これも恋する乙女のなせる業、という奴だろうか・・・・・・






・・・で、翌日。
今あたしの手元には、ブルーの包装紙で巾着型に包まれたチョコがある。
昨日アメリアにチョコの作り方を実践付きで教えたため、一人分余ってしまったのだ。
これをどうしようと考えていた所、アメリアに、
『せっかくですから、そのチョコをガウリイさんに差し上げたらどうですか?
そしてっ!
今こそリナさんの気持ちをガウリイさんに伝えるのですっ!!』
と、半ば強引にチョコを渡されたのだ。
うーむ、アメリアの奴め〜、こういう所だけ強引なんだから。

・・・でも。
せっかくチョコ作ったし、ガウリイにあげようかな・・・。
別に変な意味はないし、普通に『はい、あげる』って気軽に渡せばいいのよね。
多分あいつの事だから、バレンタインデーのことなんて覚えてないだろうけどね。
そんな軽い気分で、あたしはガウリイの部屋へと行こうとした。


・・・が。
部屋にガウリイの姿はなかった。
宿の女将さんに聞いたら、何でも旦那さんの仕事の手伝いに朝からかり出されているらしい。
戻ってくるのが夕方との事なので、ガウリイが帰ってくるまで部屋で待つことにした。


二階のあたしの部屋に向かう途中、その向かいの部屋の半開きになっている扉から、アメリアがゼルにチョコを渡そうとしている姿が見えた。
二人が揃って顔を赤く染めてるところを見ると、どうやら上手くいったようである。
あーあ、ゼルったら、いつもクールなのに思いっきり顔を赤らめて硬直してやんの。
ふふふふふ・・・ゼルのからかいポイント発見〜。
後でからかってやろー(←鬼・・・)



そして夕方。
ガウリイが部屋に戻ってくる気配を感じて、あたしは一瞬心臓が大きく跳ねるのを感じた。

どきっ。

や・・・やだ。
何ドキドキしてるのよ。
た・・・ただガウリイにチョコ渡すだけじゃない。
普通にしていれば大丈夫、大丈夫。
大丈夫・・・だから・・・。
「・・・よしっ!」
気合いの一声を上げて、あたしはガウリイの部屋へと向かった。


こんこん。
「・・・リナか?開いてるぞ」
部屋の中からガウリイののほほんとした声があたしの耳に届く。
かちゃり。
まるでスローモーションのようにあたしはゆっくりとガウリイの部屋に足を踏み入れる。
長い沈黙の中、じっとお互いの瞳を見つめる二人。

「あ・・・あの・・・」
その沈黙を破ったのはあたしだった。
「ん?どうした、リナ?」
ガウリイがいつもの笑顔で尋ねるが、当のあたしはチョコを渡すのに妙に意識してしまって、まともにガウリイの顔が見れない。
普通に渡そう渡そうと思っていても、余計に行動がギクシャクしてしまう。
ええい、しっかりしろ、リナ=インバース!
天才美少女魔道士のこのあたしが、こんなことでドキドキしてどうするのよっ!

「・・・リナ?」
ガウリイが怪訝そうな顔であたしを見ている。
こうなったら、もうヤケよっ!
「チョコ作ったのっ!ガウリイにあげるっ!!」
半ば押し付けるような形でガウリイにチョコを渡す。
手の中にあるブルーの巾着型のチョコを見て、驚きを隠せないガウリイ。
「リナ・・・これ・・・!?」
「い・・・いつもガウリイにはお世話になってるしねっ!
ほんのお礼よっ!お礼っ!!
・・・・・・じゃあ、あたし部屋に戻るから・・・」
そう言ってドアを開けようとした。

ぐいっ。

一瞬の内に、あたしはガウリイに後ろから抱き締められていた。
「ちょ・・・ちょっとガウリイ!?」
「ありがとな・・・リナ。
これ・・・バレンタインのチョコだろ?」
「え・・・ええっ!?
なんでクラゲ頭のあんたがバレンタインのこと知ってるのよ!?」
「お前なぁ・・・それくらい俺だって知ってるぞ?
女の子が、好きな男にチョコ贈るっていう日だろ?
宿の親父さんの手伝い行ってた時に、街中が女の子で埋め尽くされていたからな。
今日がその日だって、すぐにわかったぜ?
それに・・・・・・」
あたしを抱き締める腕に力を込めて、耳元でそっと囁く。
「リナが俺にチョコをくれたって事は、俺の事好きだって捉えてもいいんだよな?」

かああああっっ

な・・・なにを言い出すんだこの男はぁぁぁ(///)。
普段はクラゲのくせに、なんでこんなときだけ強気なのよぉぉぉぉ(泣)。
い・・・いかん。
きっと耳まで真っ赤になってる。
に・・・逃げなきゃ。
そう思ってガウリイの腕を振り払おうと思いっきり暴れてもビクともしない。
逆に身体を反転させられ、頬を両手で挟まれ、否が応でもガウリイと見つめあう姿勢にされてしまった。
「リナ・・・・・・」
ガウリイの蒼い瞳があたしの紅い瞳を真っ直ぐ捕らえる。

うううぅぅぅぅ。
なんでこんな綺麗な瞳をしてるのよぉぉぉぉぉ(泣)。
空のように澄んでいて、それでいて何か熱いものを感じる瞳。
この瞳に捕まったら、もう逃げられない。
あたしの奥深くにある、ある気持ちを引きずりだされそうだから。
すなわち、それは・・・・・・。


「す・・・すき・・・よ・・・」
「ん?よく聞こえないぞ、リナ?」
あたしの頬を両手で挟んだまま、ガウリイが微笑みながらあたしの言葉を促す。
「あんたの事が・・・・・・好き・・・よ・・・」
「リナっ!」
満面の笑顔を浮かべて、ガウリイは再びあたしを抱き締める。

「リナ・・・好きだ。初めて会った時から・・・・・・」
「ガウリイ・・・・・・」
ガウリイの顔がゆっくりと近づき、そして――




初めて触れた唇からは、ほんのりと苦くて甘い味がした――







END






お・ま・け

「そういえば、来月はホワイトデーって日があっただろ?」
「よく知ってるわよねぇ、ガウリイ。ホワイトデーの事なんて」
「そりゃあ、リナに関する事なら全て覚えてるさ(ぼそっ)」
「え?なんか言ったガウリイ?」
「いや、何でもないさ」
「とりあえず、ホワイトデーにはあたしのチョコの百倍返しをしなさいよねっ!」
「ああ。そうするさ」


「唇よりもっと甘いものを――な・・・」



金色の青年の呟きは、風に乗って流れていき――
先に街道を駈け抜ける栗色の髪の少女に届くことはなかった――




TRUE END・・・?