刃の先に










<後>


「・・・来るんでしょうか?」
「あぁ・・・必ず来る。」
「しっ・・・やっこさんの登場だぞ。」


きぃいい。
部屋のドアが開き、一つの影がベットに横たわるリナに近付いていく。
影の正体は・・・サディス。

「あぁ、やっと貴女を私だけのモノに出来る時がやってきたんですね。」
リナの髪に触れながら、サディスはうっとりとした表情で呟きだした。
「貴女がこの街に現れた時の、私のこの胸の高鳴りが解りますか?貴女は噂以上に美しく
私は一目で貴女の虜になってしまいましたよ。」
ベットの傍らに膝まづき、リナの手を取り口付ける。
「是非とも手に入れたい・・・こう思うのは当然でしょ?でも、貴女の横には邪魔な奴が居た。・・・でも、それもこうなってしまってはどうでもいい事ですね。
・・・さぁ、参りましょう、私の屋敷に。
そして、貴女は未来永劫、私の側に居るのですよ。・・・・最高のオブジェとしてね。
これで・・・私のコレクションにも華が咲くというものです・・。」


「それ以上、汚い手でリナに触るな。」

「!!貴方方・・・いつの間に。」
「悪いが、これ以上リナを侮辱するのは止めてもらおうか。」
俺達三人に囲まれ、流石にサディスは動揺している様だった。
だが、すぐにうっすらと表情を笑みにかえる。
「侮辱も何も・・・こうなってしまった以上、貴方方に何ができると言うんですか?
リナ=インバースはすでに死んでいるではないですか?ガウリィさん、貴方が殺したでしょ?」
「あぁ、そうだな。・・・だが、本当にそうか?」

俺の言葉に答える様に、ベットの側に近付いて居たアメリアがそっと離れた。
そして。

「生憎と、あんたのコレクションに加わる気なんかないわよ、私は。」

ゆっくりと身を起こしたリナを見て、今度こそサディスは言葉を失った。

「そんな・・・馬鹿な・・確かに死んでいた筈・・・。」
「そうね、確かに一度は死んだかもね。」
「それじゃあ、何故!!」
「そんなこと、今更どうだっていいでしょ?・・・それより、覚悟はいいでしょうね。」
出口を塞がれ、情けなく尻餅をついて後ずさるサディスを一睨みし、リナが微笑んだ。

「私を殺した事・・・一生後悔させてやるわ。」


「あの・・ゼルガディスさん?」
「何だ。」
「私、今回の事で解らない事があるんですけど。」
「あぁ、どうしてリナが生き返った、か?」
頷くアメリアに、ゼルガディスが読んでいた本を閉じる。
「憶測だが・・・ある程度の剣の達人は、相手を仮死状態にする術を持ってると聞いた事がある。多分、ガウリィの旦那が使ったのがそれだろう。」
「仮死状態・・・ですか?」
「かと言って、ちょっとしたミスが命取りになるのは免れんだろうけどな。」
アメリアの顔からは、血の気が引いていた。
「そ・・・そんな危険な事を、ガウリィさんはしたんですかぁ?」
ふと、リナが休む部屋を見上げ、ゼルガディスは静かに微笑んだ。
そこに居るであろう、心配そうな表情のガウリィを思い浮かべながら。
「ま、それだけ互いを信じあっていた、って事だろうさ。」


「リナぁ、本当に大丈夫なのかぁ?」
「あんたねぇ・・・自分でやっといて、今更何言ってるのよ。」
「・・・・そりゃ、そうだけどよ。」
項垂れる俺に、リナがため息をつきながら、ベットの横をぽんぽん、と叩いた。
促されるまま、ベットに腰掛ける。
すると、リナがいつも俺がする様に、頭をくしゃ、っと撫でた。
「・・・リナ?」
「信じてたから、私は。だから・・・いいんじゃない?それで。」

リナのその言葉が、俺の胸に染み込んでくる。
俺はリナをぎゅっ、と抱き締めた。
「もう・・・こんな依頼は受けちゃ嫌よ。」
「あぁ。」
「あんたのその剣は、私を守る為に使ってね。」
「・・・あぁ。」
「・・・・馬鹿ガウリィ。」
「そうだな・・・。」



これから暫くは、俺は夢を見続けるだろう。
リナを貫いた、あの瞬間を。
だが、もう二度と。
リナが見つけてくれたこの剣が、間違う事は無いだろう。


俺がこの剣でしなければいけない事は。
リナを守り続ける事だけなのだから。