刃の先に |
<前> 『リナ=インバースを殺して欲しい』 それは、思いもかけぬ依頼であった。 久しぶりに再会したゼルガディス達と共に、リナが魔導師教会へ行っている間、 特にする事も無く街をぶらついていた俺に、男が近付いてきた。 表面こそ、人の良さそうな笑顔を浮かべてはいたが、瞳に宿る曇った光に、俺は どこか違和感を感じたのを覚えている。 「ガウリィ=ガブリエフ殿とお見受けいたしますが。」 「・・・人に名前を訪ねる時は、自分から名乗れって教わらなかったか?」 「あぁ、これは大変失礼致しました。私はこの街の領主をしております、サディスと申します。」 「それで、その領主様が俺に何の様だ?」 「ここではちょっと。どうです、私の家にお越し頂けませんでしょうか?」 そこで男が俺に言った言葉が、『リナを殺して欲しい』だった。 「俺の立場を知っていて言ってるのか?」 「勿論です。貴方が誰よりもリナ=インバースに近しい者だと言う事を知ってる上での依頼なのですから。」 話にならないな。 「くだらん。俺はそんな依頼を受けるつもりはない。」 「そうでしょうね。」 当然だ、とでも言う様な口ぶりに、俺は歩みを止めた。 「・・・・・なら、何故俺にそんな依頼をする?」 「いえね、考えてみて下さいよ。貴方なら、愛しい者を他の者に殺されても・・・我慢できますか?」 「!」 「だからこそ・・・貴方に依頼するのですよ。」 無言で立ち尽くす俺に、男はなおも続けた。 「返事は今すぐ、とは言いません。ただ、貴方が受けて下さらないのでしたら・・・私もそれなりの態度を取らせて頂くまでですから。」 底冷えしそうな微笑み。 そして・・・。 「守りきれますかね?この街全ての人間から・・・?」 魔導師教会から帰ってきたリナ達と合流し、少し遅めの夕食を取りながら。 賑やかな食堂の雰囲気とは裏腹に、俺の心は霧が掛かった様にもやっていた。 何かがスッキリしない。 あの男,ただ単にリナに恨みを抱いている風には見えなかった。 あの瞳に宿る陰鬱な何かが・・・何故だか異様に引っ掛かっていた。 「ガウリィさん?何かあったんですか?」 「・・・・あ?」 「全然食事が進んでませんけど・・・。」 「あ〜・・・うん、ちょっと、なぁ。」 こんな突拍子もない話を、はたしてどう切り出したら良いものか? 大体、言った途端に呪文でぶっ飛ばされるのがオチだよなぁ、やっぱり(汗)。 かと言って、このまま黙っていても、状況が変わる事もないだろうし。 俺は(無謀にも)賭けに出る事にした。 「なぁ、リナ。」 「何よ。」 「この街には、あとどの位居る予定なんだ?」 「そぉね・・・もう少し調べたい事があるから・・・あと三日ぐらい、かな。」 「そっか。」 「・・・・・・何よ、はっきりしないわねぇ。言いたい事があるなら、ちゃっちゃと言っちゃいなさいよ!」 あ、イライラしてきたぞ。 「いやぁ、実はちょっとした仕事を依頼されたんだけどな。」 依頼と聞いた途端、リナの顔がちょっと明るくなった。 ・・・現金なヤツ。 「へぇええ、ガウリィが仕事を取って来るなんて珍しいわね。んで?報酬は?」 「報酬っていうか、その依頼がまたとんでもないモンでなぁ。」 「とんでもない依頼を受けてきたのか、旦那?」 興味津々と言ったふうに、ゼルガディスとアメリアが身を乗り出す。 さて・・・覚悟を決めるか・・(深呼吸)。 「あのな、リナ。」 「だ〜か〜らっ!さっさと言っちゃってよっ!!」 「俺を信じて、一回死んでみないか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ぷぴっ。 ゼルガディスとアメリアが思いっきり吹出す。 「な・・・な・・・・ななななななななな?」 「が・・・が・・・・ががががががががが?」 まるで猫とあひるになった様な声をあげながら、青い顔をして狼狽えている二人とは 対称的に、リナは静かだった。 あ、でもしっかり目は怒ってるぞ。 「ガウリィ・・・。」 次にくるのは呪文だな、と身を固くした俺に・・・リナは静かにため息をついた。 「・・・んで?勿論説明してくれるんでしょうね。」 |