悠久の風のなかで |
「一体……何が起こってるんだ!」 思わず俺はそう叫んでいた。 その問いに答える者は、誰もいないのはわかっていた。 だがそうせずにはいられなかった。 リナが重破斬を使ったことはわかっている。 しかし、術を発動させた瞬間、金色の光がリナとガウリイ、 そしてシャブラニグドゥを包み込み、何も見えなくなってしまったのだ。 「リナさーんっ!ガウリイさーんっ!」 隣ではアメリアが光に向かって必死に叫んでいる。 くそっ、何がどうなってるんだ! 『ぐあああぁぁぁぁぁぁおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!』 その時、物凄い悲鳴のような声が聞こえてきた。 「なっ、なんだ?」 「これはっ……?」 俺とアメリアは同時に声を上げる。 この声は一体何なんだ? その前には何かが砕け散るような音も聞こえた。 リナは……ガウリイはどうなったんだ? 「あっ!あれを見てください!」 シルフィールが指差す方向を見ると、金の光が急激に収縮し、 やがてその中心に人影が見えてきた。 「リナさん!」 アメリアが声を上げる。 そこに立っていたのは、ガウリイを抱いて佇むリナの姿だった。 リナに抱えられたガウリイは、ぴくりとも動かず、長い金の髪は力無く風になびき、 だらりと腕を垂らし、その瞳は堅く閉ざされていた。 ……ガウリイ…………もう死んでるっ…………くそぉっ! 俺の中に、どうしようもないやるせなさが広がる。 アメリアとシルフィールは声を出すことも出来ずにいる。 そして、ガウリイを抱く金の髪、金の瞳のリナこそが…… 「ロード・オブ・ナイトメア……」 「……ゼルガディスさん?」 「あれは『ロード・オブ・ナイトメア』だ」 俺はアメリアに向かってそう言い放つ。 アメリアはゴクリ、と喉を鳴らす。 「おお……我らが金色の母よ……」 神族共は口々にそう呟き、皆一斉に跪いた。フィリアを除いて。 「おい!……何がどうなったんだ!」 俺は金色の魔王に問い掛ける。 金色の魔王はゆっくりと俺に視線を向ける。 『我はこの二人の人間の尊き願い、純粋なる心によってここに在る。 この者達の願いにより、我はシャブラニグドゥを滅ぼした。 世界は破滅を免れた』 淡々と、金色の魔王は話す。 そうか……重破斬はちゃんと発動し、赤眼の魔王は滅びたってわけか。 リナとガウリイという大きな犠牲を払って…… ちくしょう!……覚悟はしてたけど………辛すぎるぜ…… 俺は拳を握り締める。 がくりとその場にへたり込むフィリアとシルフィール。 「それじゃ、リナさんは?ガウリイさんは?」 震える足を必死で抑え、仁王立ちでアメリアが問う。 『この者達のもう一つの願いは、共に在ること。 故に二人共我が混沌の内にある……永久に……』 それだけ言うと、金色の魔王はガウリイを抱いたまま俺たちに背を向ける。 そして、そのまま消えていく。 「まてっ!」 「ガウリイ様ぁ!」 「リナさんっ!」 「まってくださいっ!」 俺達は一斉に走り出す。 しかし、金色に輝くリナは振り返ることなく、跡形も無く消えてしまった。 きっと、もう二度と、あの二人に逢うことは無い…… そして、あとにはただ泣き崩れる俺達だけが残された…… ゼフィール・シティを見下ろす丘の上、そこに、それはあった。 頂上に立つ一本の大木。 その根元にある、二つならんだ墓標。 石に刻まれたその名は『ガウリイ=ガブリエフ』と『リナ=インバース』。 この世界を救うため、命を落とした二人の墓が、そこにあった。 「ここは、お二人のお気に入りの場所だったそうですね。 あなた達の体はないけれど、ここにお墓を作らせてもらいました。 きっと、あなた達なら、ここに戻ってくるのではないかと思って……」 そう言って、長い金髪に白い神官服を纏ったフィリアと呼ばれる女性が、花を手向ける。 「私は、神族の一人でありながら、何も出来ませんでした。 私達に力がなかった為に、あなた達を死なせてしまった…… せめてもの償いに、これからもこの世界を守ってみせます。 あなた達が命がけで救ったこの世界を。 見ていてくださいね……がんばりますから。 ……リナさん、ガウリイさん、あなた達のことは決して忘れません……」 ふわりと、風が彼女の髪を掠めて過ぎて行く。 そして、フィリアは去っていった。 次に訪れたのは、手に大きな花束を持った、やはり神官服を身に纏った長い黒髪の女性。 「静かな所ですね……ここは。 あなた達には静かすぎるんじゃないですか? ……なんて言ったら、リナさんに怒られますね」 くすり、とシルフィールは笑う。 「ガウリイ様、リナさん、世界はとても平和です。 あれから、魔族達もおとなしくなりました。 みんな、あなた達のおかげです。ありがとうございます……」 ぽつり、ぽつりと涙が落ちる。 しかし、その涙を拭い、シルフィールは顔を上げる。 「私、立派な神官になって、サイラーグを再建してみせます。 そうしたら、お二人で遊びに来て下さいね。」 優しく、彼女に向かって風が吹く。 大きな花束を二つ手向け、シルフィールは静かに祈りを捧げ、帰っていった。 「リナさん……ガウリイさん……」 次に訪れたのは、黒髪の、女性と呼ぶにはまだ幼さを残す、アメリアと呼ばれる少女。 アメリアは手に持った箱を、墓標の前に置く。 「お二人が好きだったお菓子を持ってきました。 足りなければもっと持ってきますから、たくさん食べてくださいね」 そう言って、笑おうとする……が、それはそのまま泣き顔に変わった。 「……リナさんっ……ガウリイさんっ……わたしは……なにも出来なかった…… セイルーンの王女のくせにっ……なにも出来なかった…… あんなにお互いを思い合ってたお二人を……死なせてしまった…… こんなんじゃ……正義のヒーローなんて……失格ですよね…………っ」 墓標の前に座り込んだまま、ぽろぽろと涙を流し、泣き続ける。 その彼女に向かい、ざあっと風が吹く。 ──────バカだなぁ、アメリア ──────そーよ、あんたが気にすることなんてないのよ! 「リナさん?ガウリイさん?」 後ろから聞こえた声に、アメリアは振り返る。 しかし、そこには人の気配すらなく、ただ風が吹き抜けているだけだった。 「……そうですよね、落ち込んでたって何も変わらないですよね…… わたしはセイルーンの王女として、世界のために、正義のために、これからもがんばります。 見ててくださいね!それじゃ、また来ます!」 いつも通りの元気のいい笑みを浮かべ、アメリアは帰っていった。 次に訪れたのは、白いフードを被った銀髪の青年。 その手にはワインのボトルと、一振りの剣が握られていた。 「お前達が好きなワインを持ってきた。飲んでくれ。」 そう言って、ゼルガディスは墓標の前に座る。 そのまま、彼は何をするわけでもなく、ただその場に座り、墓標を眺めていた。 まるで誰かと会話をしているかのように、微笑を浮かべながら。 その周りを、穏やかに風は包み込む。 ゼルガディスは、手に持った剣───ガウリイの『ブラスト・ソード』───を 墓標の前に掲げる。 「この剣を旦那に返すつもりで持ってきたんだが……気が変わった。 これは俺が預かっとくぜ。 いつでもいいから取りに来い」 それだけ言うと、ゼルガディスは立ち上がる。 「……俺が人間に戻れたら、また顔を見せに来る。じゃあな」 そして、ゼルガディスは立ち去った。 誰もいなくなった墓標の前に、一陣の風が吹く。 『……行っちゃたね……みんな』 『ああ……そうだな』 『やっぱり……あたしたちの姿……みんなには見えないんだね……』 『まあ……な。しかたないさ』 『うん……みんな、大丈夫だよね?』 『大丈夫だよ。みんなそんなに弱くないさ。きっと、大丈夫だ』 『……そうだよね。弱気になった時には、励ましてあげればいいんだもんね』 『そうさ。オレ達はこうして風になって、みんなを見守っていけばいいんだ』 『そう、ずっとね』 『ああ、ずっとだ』 風は、どこまでも吹いて行く。 大地を、海を、空を、この世界を慈しむように。 この世界に生きる全ての者達を愛おしむように。 その優しき紅と蒼の風は、悠久なる時のなかを、寄り添うように駆け抜けて行く。 金色の母より賜った、自らの役目を終える、その時まで──── END やっと終わりました〜!靖春初の長編、「悠久の風のなかで」いかがだったでしょうか? な〜んか変な終わり方ですよねぇ……(汗) これはハッピーエンドなのでしょうか?それともアン・ハッピーエンドでしょうか? 書いてる本人もわかりません(蹴) 何が書きたかったのかもわかりません(汗) ここまで読んで下さってありがとうございました。 飛鳥さん、いつもご迷惑かけております。お許しください(涙) ひょっとしたら……おまけを書くかも……(笑) ではでは☆ |