いつか会える日まで 〜後編〜 |
どこまで行けば、会えるんだろうか? 答えは―――もうすぐ、わかるはず。 それを、オレは知っていた。 オレとアメリアとゼルガディス――それにフィリアの四人は、とある街道に来ていた。 「ここで、まちがいないのか?」 「ええ、まちがいありません。ここに―――大きな力のなごりを感じます」 あの時感じた、大きな力の奔流。 それを調べるため、オレ達はここに来ていた。 リナのことを、全てフィリアに話した後。 フィリアは、『力』について調べるのに、協力してほしいと言ってきた。 「あの『力』とリナさん。何か、関係があるような気がするんです。 それにリナさんは、世界でただ一人、金色の魔王の力を使える方です。 大きな力が働いたとなれば、それに何らかの形でかかわっていると思うんです」 ろーど何たらの話はよくわからなかったが、リナに関係があるとゆうのなら、見過 ごすわけにはいかなかった。 今のオレ達には、何一つ、リナの手がかりがなかったのだから。 そして―――半月ほどかけて、一見普通の街道に、オレ達はやって来ていた。 「それで、ここに来たはいいが、これからどうするんだ?」 「それは―――」 オレの問いに、フィリアは辺りに目をやって――― 「えっと、とりあえずお茶にでもしません?」 「・・・・・・おい」 つまり、考えてなかったんだな・・・・・・ 「フィリアさん、どうするんですか? のんきにお茶なんて飲んでる場合じゃありませんよ」 「そ、そうは言われましても・・・・・・」 フィリアが口ごもったその時。 それを―――感じた。 なじみのある、ある魔族の気配。 まったく、何であいつがこんなところにいるんだ? 「かくれてないで、出てきたらどうだ?」 何もない空中に向かって、俺は声をかける。 「それとも、おまえさんがいそうなあたりを、この剣で切ってみた方がいいか?」 言って、オレは剣の柄に手をかけ――― 「あいかわらず、するどいですねぇ、ガウリイさん?」 声は、すぐそばから聞こえた。 空間が、われる。 『ゼロス(さん)!』 三人の声は、みごとなまでにはもった。 「お久しぶりです、みなさん。元気でしたか?」 「何しに来たのっ! この生ゴミ!」 現れたゼロスに、さっそく怒鳴りつけるのはフィリア。 ・・・・・・そういえばこの二人って、とてつもなく仲が悪かったような気が・・ ・・・・ 「おやおや。そこにいるのは、首にされた元火竜王の巫女のフィリアさんじゃないですか。 さんざん安月給だって言ってましたけど、こうして生きているところを見ると、どうやら行き倒れにはならなかったみたいですねぇ」 「んまあ! だれが行き倒れですって!? だいたい私は、首にされたわけではありません! 自分から、火竜王の巫女を辞めたんです!」 「ま、フィリアさんが首になろうがならないが、僕には全く関係のないことですから。 せいぜい、食べる物に困らないようにがんばって下さい。はっはっは」 「はるか北の山脈で身動きがとれなくなっている魔王に頭の上がらない中間管理職 に、そんな偉そうなこと言われたくはありません!」 「だ、だれが中間管理職ですか!? だいたいそれを言うなら、赤の竜神なんて・・ ・・・・」 ゼロスとフィリアがおとなしくなったのは、それからしばらくしてからのことだった。 「それで、何しに来たんだ、おまえは?」 「簡単に言ってしまえば、みなさんも感じたと思うんですが―――」 ゼロスの話は、本当に簡単だった(オレでもわかるぐらい)。 オレ達も感じたあの力。それを調べるために、ここに来たそうだ。 「ゼロスさんが調べに来たってことは・・・・・・あれは、魔族がやったわけじゃな いんですか?」 「はい。あれは、魔族の力ではありません。 どちらかとゆうと――神族の力でした」 「神族、ですって!?」 フィリアが、大声を上げる。 えっと、しんぞくって・・・・・・? 「はい。僕たち魔族とは敵対する神族の力。 それにより――ある人間が、時間をさかのぼり、過去に行ってしまったらしいです」 時間を、さかのぼる・・・・・・? 「そんなこと、できるのか?」 「さあ。僕はよくは知りません。 ですが、ことごとく、無理だと思っていたことを、実現してきたあの人ですから」 ゼロスの言葉が―――みょうに、ひっかかる。 そんな人間を、オレは、知っていたから。 魔王との戦い。『絶対に勝つ!』そう言って―――本当に、勝利をおさめてしまった。 そんな、少女を。 「―――まさか、リナ?」 ゼロスは――うなずいた。 「ええ、そうです。リナさんが、過去に行ってしまったんです」 全員、息をのんだ。 どうして、リナが、過去に・・・・・・!? 「ゼロス。おまえ、何で俺達にそんなことを教える? まさか、また何かたくらんで―――」 「たくらむだなんて、そんな。ただ、ちょっと手伝ってもらえればな、と思いまして ・・・・・・」 ゼロスは、いつもどおりの笑顔でそう答える。が――― 「手伝う?」 「ええ、そうです。僕はこれから、ちょっと過去に行ってリナさんを連れてこなくて はいけないんですけど・・・・・・」 「過去にいけるのか!?」 「はい。もともと魔族は、空間をわたることができます。その中を、ちょっといじく れば、過去にもいけるんですよ。 まあ、僕程度の力では、ちょっと難しいので、今回は獣王様からも少し力をいただ きましたけど」 何だかよくわからんが――― 過去にいける! リナに会える! 「ゼロスさん。それで、私たちに手伝ってほしいこととゆうのは・・・・・・」 「ああ、それなんですけどね。過去には行けます。力の波動をたどって、リナさんの いる時代にはいけるんです。 ですけど、そこからが問題で――― 以前なら、魔血玉を目印に、リナさんの所に行けたんですけど、それがなくなっ ちゃったもので、リナさんを探さなくちゃいけないんですよ。 それでみなさんには、その手伝いをしてもらいたいな、と」 あらためて考えてみれば、わからないことはいくつもあった。 どうしてリナが過去にいけるのか、何でゼロスがそれを知っているのか・・・・・・ だけど、そんなことはどうでもよかった。 大事なのは、ただ、リナに会える。それだけで。 そしてオレ達は―――過去に、行った。 「ほんとに、ここが過去なのか?」 ゼルが、憮然とした顔でそうつぶやく。 たしかに。 今までいた街道と、まったく変わっていないのだ。 ・・・・・・よくよく見れば、何となく違和感があるような気はするんだが。 「本当に、ここは過去の世界です。だいたい三十年ほどをさかのぼってきました」 うーん、そうは見えないけどなぁ・・・・・・ 「ま、ここでぐだぐだ言っててもしかたないさ。とりあえず、どっかの町にでも行こう」 ここが、本当に過去だとゆうことはよくわかった。 何せ、町のだれに聞いても、リナ=インバースとゆう名前の魔道士を知らないのだ。 それどころか、セイルーンの王女であるアメリアすらも、知らないとゆう。 「まあ、生まれてなけりゃ、知らないのはあたりまえだよなぁ」 「今、父さんが七歳になるって言ってましたもんね」 アメリアも、しみじみとそうつぶやく。 そうかぁ。あのフィルさんが七歳かぁ。 ・・・・・・何か、想像できないけど。 そんな、ある日。 リナをさがして、オレ達がとある森をぬけたその時。 街道を、一人の女の子が歩いていた。 長い金髪に、めずらしい紅い瞳の、まだ六、七歳といった子供である。 見たところ、近くに親はいない。 「あれ、どうしたんでしょう。あんな小さい子供が一人だけなんて・・・・・・」 「たしかに。危ないですわね」 オレ達は、その子供に近づいて行く。 先に向こうが気づき、顔を上げる。 「こんにちは。旅の人ですか?」 そう言って、にっこり笑ったその顔は―――だれかを、彷彿とさせた。 「こんにちは。あなた、お母さんはどうしたの?」 フィリアがかがみ、子供と視線を合わせながら、ゆっくりとそうたずねる。 「ママは、もう少し行った所になる・・・・・・えっと、ドーリア村で待ってます」 「何で、そんな所で待ってるの?」 「えっと、お仕事で・・・・・・薬草をつんだら、そこに行こうって。 待ち合わせしてるんです」 オレ達は、同時に顔を見合す。 こんな小さい子供を一人にするなんて、親は、いったい何を考えてるんだ? 「ドーリア村って、今私たちが行こうとしている村ですよね」 アメリアが、何か言いたげにそうつぶやく。 「ああ。な、お嬢ちゃん。オレ達もな、ちょうどそこに行くところなんだ。 子供一人じゃ危ない、オレ達といっしょに・・・・・・」 言いかけたオレの言葉は、とちゅうできえてしまった。 子供が、思い切り怒ったような顔をしていたのだ。 「お、おい? どうした?」 「僕、女の子じゃありません!」 またまた顔を見合すオレ達。 えっと、女の子じゃ、ない・・・・・・? よくよく見れば、その子は男物の服を着て、腰には細いが一本の剣をたずさえている。 ・・・・・・ってことは・・・・・・ 「な、何だ。おまえ、男の子だったのか?」 「そうです! 僕、男の子です!」 よくまちがえられているのか、ぷうっと頬をふくらませる。 「悪い悪い。ついまちがえちまった」 ぽんぽんと、オレは頭をたたく。 「オレは、ガウリイ=ガブリエフ。こっちがアメリアでフィリアだ。おまえさんの名前は?」 「僕はロナです」 小さな金髪の剣士は、そう言って笑顔を浮かべた。 ドーリア村に行くまで、オレ達はロナにいろいろと声をかけた。 小さな子供を、不安にさせないためとゆうこともあったが―――何となく、話した かったのだ。この子供と。 「そういえば、ロナ、父親はどうしたんだ?」 「パパですか? ママは、魔王に食べられちゃったって言ってました」 その言葉に、ゼロスがみょうな顔をする。 ・・・・・・しかし、魔王に食べられたって・・・・・・ 死んだにしても、もっとマシな言い方できないのか? そんなことを言っているうちに、オレ達はドーリア村へと入っていった。 けっこうな人込み―――その中で、村の中心にあるのだろう、赤い時計台が見えている。 「あ、あそこです! あそこにママがいます!」 言うが早いか、駆け出すロナ。 「お、おい! ちょっと待てって!」 オレ達も、急ぎ後を追う。 べつに、追う必要はないんだが―――何となく、気がつくとそうしてしまった。 人込みの中を、子供ながらの小柄な体格で、すいすいとすりぬけていく。 そのてん、オレは背が高いので、けっこう苦労する。 時計台が、すぐそばにせまってきた。 ロナの足が、いっそう速くなる。 「リナママ!」 言って、抱きついた。 ――その瞬間。オレは、周りの風景が一瞬とまったような、そんな錯覚におちいった。 ロナを、抱きとめたのは。 少々クセのある、栗色の髪。記憶と変わらない、いつもの魔道士ルック。 元気な光を宿している、紅い、瞳。 「――リナ」 口から出る、その名前。 ――そこでオレは、リナと、再会した。 |