いつか会える日まで 〜前編〜 |
出会ってから三年の月日が経ち、ようやく、オレは保護者とゆう役柄から抜け出し た。 リナの故郷、ゼフィーリアに行く途中のこと。 そこで、やっと想いを通わせ合うことができた。 永遠に続くと、オレが無条件に信じていた日々。 とつぜん、それは破られた。 ―――リナが、きえた。 いなくなったリナを探して、俺はあてもなく各地をさまよった。 今までリナと行ったことのある町は、すべて行ってみた。 そこにリナがいる可能性なんてほとんどなく――そして、見つけることはできな かった。 オレのもとには、何も残されてはいなかった。 手紙さえ、一つもなかった。 やっと手に入れたと思ったモノは、あっけなく、オレのそばからきえていった。 何で・・・・・・きえたんだ? どうしてオレのもとから離れていった。 どうしてオレを独りにする。 どうして一人で行ってしまったのか。 疑問は、新たに生まれることはあっても、つきることはなかった。 そして見る―――悪夢。 目が覚めて、隣にいるはずのリナが消えている夢。 極度のはずかしがりやな少女の性格と、ここのところひんぱんに仕事が入ったこと がかさなり、オレ達は、まだ一回しか関係をもったことはなかった。 『明日だって仕事があるんだから!』 そう言って、リナは顔を赤くした。 けれど、だからといって、オレが素直にそれを受け入れられるわけもなく。 そこで、出した条件。 『じゃあさ、やらないから、いっしょに寝るだけならいいだろ?』 始めはしぶっていたリナだったが、最後には何とか受け入れてくれた。 しっかり――抱きしめていたはずなのに。 目が覚めた時、そこに、リナの姿はなかった。 それからも、ひんぱんにリナが消える夢を見る。 ―――待ってろよ。 心の中で、オレは今はいない少女に向かって呼びかける。 いまくなったからといって、おとなしくあきらめてしまうオレじゃない。 たとえ何が起ころうとも。 必ず、探し出してみせる。 「ガウリイさん!? ガウリイさんじゃないですか!?」 リナを探して、半年ぐらいたったある日のこと。 とある町に来ていたオレの耳に、なじみのある声が聞こえてきた。 「アメリア!?」 振り返ったオレの目に映ったのは、かつていっしょに旅をしていた、アメリアの姿 だった。 そして、アメリアのすぐ後ろ。 フードで顔をかくしているが、それはまちがいなく――― 「アメリア、それにゼルガディスじゃないか!」 「ガウリイさん! お久しぶりです!」 言いながら、アメリアが走ってくる。 「久しぶりだな、ガウリイ」 「ほんと、久しぶりだな。 よくおぼえてないんだが、あの黒い・・・・・・だーく何とかとの戦い以来だろ?」 言ったオレに、アメリアとゼルが同時にずっこける。 「ガウリイさん・・・・・・あいかわらずですね・・・・・・」 「ダークスターぐらいちゃんとおぼえとけ。 あんなに印象が強いのに、どうして忘れられるんだ?」 「いや、そう言われても・・・・・・」 べつにオレだって、好きで忘れてるわけじゃないし・・・・・・ 「それより、アメリア達は、どうしてこの町に?」 オレの言葉に、アメリアは胸を張ると、 「私は、正義をひろめるための旅に出てたんです。そうしたら、ついこの間、ぐうぜ んゼルガディスさんと再開して・・・・・・ それで、どうせ行くあてもありませんから、いっしょに旅をしていたんです」 「アメリアがいると、どこの神殿にでも顔がきくからな」 「そっか。ゼルは、体をもとに戻すのが目的で旅してるんだもんなぁ」 あてのない旅。 オレと―――似ているのかもしれない。 「ところでガウリイさん。リナさんの姿が見えませんけど、何か仕事でも?」 アメリアが、さもとうぜんのように、リナのことを聞いてくる。 けっして、別れたのかとは聞かない。 それぐらい――オレとリナは、いっしょにいるのが普通になっていた。 さて、どうするか。 話そうにも、ここじゃちょっとな・・・・・・ 「とりあえず、食堂にでも行かないか? ここだと、ちょっと、な。長くなりそうだし・・・・・・」 言葉をにごすオレに、アメリアとゼルは顔を見合わせた。 「リナさんが、いなくなった!?」 てきとうな食堂に入り、それぞれが食事を注文した後。 単刀直入に言ったオレの言葉に、アメリアは思い切り声を上げた。 「お、おい。アメリア、ちょっと声が大きい・・・・・・」 「だって! リナさんがいなくなったって、どうゆうことですか!? 何で、ガウリイさんを置いてどっか行っちゃうんですか!? そんなの、私、納得できません・・・・・・っ!」 「アメリア。少し落ち着け」 「ですけど・・・・・・っ!」 ゼルの言葉に、アメリアは何か言いたげに、けれどゆっくりとイスに座りなおす。 「ガウリイ。今のは本当か? リナは、本当におまえのところから――」 「ああ、本当だ。 手紙も何も一言もなしに、オレのところからいなくなった。 リナの荷物も、全部なくなっている」 「どうして! どうしてリナさんがいなくなるんです!?」 アメリアが、泣きそうな顔でそう叫ぶ。 そんなの、オレの方が聞きたいぐらいだ。 どうして、いなくなったのか。 どうして、何も言わなかったのか。 「何で、ガウリイさんに何も言わずに行ってしまうんですか!? リナさんとガウリイさん、ずっといっしょに旅をしてきたんでしょう!? 何度も二人で死線をくぐりぬけて・・・・・・! なのに、何で・・・・・・っ!」 そこまで言い、アメリアは気づいたように口を閉じた。 「すみません・・・・・・ガウリイさんが一番つらいのに、私ってば、ちょっと動転 してしまって・・・・・・」 「気にするなよ。だれだって、いきなりこんなことを言われりゃ驚くさ」 オレは、つとめて明るい口調でそう言う。 実際には、ちっとも明るくなかっただろうけど。 「ガウリイ。何か、リナがいなくなるような原因はなかったのか? 例えば、その前にケンカをしたとか―――」 「いや、何も」 ゼルの言葉に、オレは首を横にふる。 本当に、何もなかった。 いたって平和で、とても幸せだった日々。 オレがいて、リナがいて。 ただ、それだけ。 「それで、ガウリイさん。今は、リナさんを探して?」 「ああ。どこにいるかなんてわからない。あてなんて、これっぽっちもない。 だけど――だからって、簡単にあきらめられるわけはないんだ。 オレにとって、リナは、大切な存在だから」 「ガウリイさん・・・・・・」 大切な、存在。 保護者から、恋人に変わった時から、リナはオレにとって大切な存在になった。 だからこそ、さがす。 たとえ、何があっても。 「ガウリイ。一つだけ言う。 もしおまえが、保護者としてあいつを探すつもりなら――― それだけはやめろ」 改まって何を言うかと思えば、ゼルガディスはそんなことを言ってくる。 そういえば、こいつらといっしょに旅をしてた時は、まだ保護者と被保護者だった もんな。 「それなら、べつに問題はないさ」 オレは軽い口調でそう言う。 「オレは、もうあいつの保護者じゃないからな。 ただの男として、あいつのそばにいた。 あいつも、それは認めてくれていた」 「それって――」 アメリアの顔が明るくなる。 「ガウリイさんとリナさん、ついにくっついたんですね!?」 「ま、まあな」 だけど、ついにって・・・・・・ まあ、はたから見ても、じれったいとはわかってたけど・・・・・・ 「なら、よけいわからんな」 喜ぶアメリアをよそに、つとめて冷静にゼル。 「リナは、どうしてガウリイのそばからきえたんだ? 今まで聞いた話じゃ、何もその原因がない」 「それは、そうですよね・・・・・・」 アメリアが、考えこむように下を向く。 「まあ、どっちみち、オレがリナを探すことに変わりはないからな。 それに、下手に原因なんかがあれば、探すのもためらうだろうけど・・・・・・ それがないんなら、堂々とリナのこと探せるからな」 明るく言い切ったオレの前で、アメリアとゼルガディスが顔を見合わせ、そしてア メリアがこくりとうなずく。 ――どうしたんだ? 「ガウリイさん! リナさんを探すの、私たちもお手伝いします!」 「え?」 「リナさんは、かつていっしょに戦った仲間! その仲間を見捨てるなんて、そんなの正義じゃありません!」 せ、正義って・・・・・・ アメリアの性格は、全然変わってはいなかった。 「だけど、ゼルは目的があって旅をしてるんだろ? オレなんかに付き合ってるヒマはないんじゃ・・・・・・」 「俺だって、べつにあてがあって旅をしているわけじゃない。 それに、このまま別れたんじゃ、気になってしかたがないしな。 もちろん、もとの体にもどれる方法を探すのをやめるつもりはない。 ただ、それをおまえさんについて行きながら探すことにしたまでだ」 「ほら、ガウリイさん! ゼルガディスさんだって、こう言ってるんですから!」 まっすぐにオレを見て、アメリアが言う。 やっぱり、変わってない。 一度言い出したら、アメリアも、案外自分からはひかない。 「――そうだな」 べつに、断る理由なんてどこにもない。 ここで二人が同行してくれるとゆうのは、たしかに心強いものでもあった。 何より、アメリアとゼルガディスは、リナにとっても大切な仲間。 「三人で、リナを探すとするか」 オレは、笑いながら二人に言った。 どれだけ時間がかかるかはわからない。 それでも、たとえ、どれほどの月日が流れようと。 オレは、おまえのことを探してみせる。 忘れるなんて問題外だ。 オレはおまえのそばに。 おまえはオレのそばに。 求めるのは、ただそれだった。 あとがき |