再 会 の 島







「はーっ、ホンットすごい人手ねぇ」
あたし達は、食事をすませて食堂を出た。
しかし、外はお祭り騒ぎだった。
そんなわけで、あたし達は静かな森のほうへ行こう、ということになった。
けど、そのためにはその人ごみの中に入らなくちゃいけなくて。
今現在、こうして人ごみの中にいるのだった。
「リナ、逸れるんじゃないぞ」
「わーってるわよ!大丈夫よこれくらい」
まったく…ガウリイのやつ、あたしはもう子供じゃないんだかんね!
もう18歳なんだから。
「そうか?リナって小さいから目離したらどっかいっちまいそうなんだけど」
「余計なお世話よ!…ったく…。て、あれ?」
「どうした?リナ」
あたしがふと後ろを見ると、一緒にいるはずのアメリアとゼルがいない。
もしかして…(汗
そう思って、急いで周りを見渡す。
だけど、アメリアとゼルの姿は見えない。

「…ガウリイ。アメリアとゼル、逸れちゃったみたい」
「え?あ、ホントだいないなぁ」
いないなぁ、って…あんたね…(汗
「でもま、大丈夫だろ。アメリアと一緒にゼルもいるだろうから」
「ん…それはまぁ、そうだけど」
「それより、早く出ようぜ」
「ん、そうよね」





「…や、やっと出られた…」
数分後、あたし達はやっと人ごみの中から出れた。
す、すごい人ごみだった…
「リナ、大丈夫か?」
「ま、まぁね…なんとか」
いや、実はそんなに大丈夫じゃなかったりして…
あたしらしくもない。
だけど、これはすごすぎる。
「…リナ、もうちょっと人ごみから離れようか」

ガウリイは、そんなあたしの様子に気づいたのか、あたしの手を取って森の奥へと進んだ。
さすがは自称保護者…ってところね。

わぁ…っ

後ろの人ごみの方から、歓声があがる。
もう、幻が出たのだろうか。



「…ガウリイ、ここらへんで休もう?」
「ん、そうだな」
あたし達は、そう会話を交わしそこらの木の下に座った。
耳をすますと、遠くで誰かの声がする。
喜びと、悲しみの混ざった声。

「…明り(ライティング)」

ぽぅ…っ

明り(ライティング)の光が夜の闇を照らす。
「静かね…」
「ああ」

しばらく沈黙。
静かな森。
耳をすませれば誰かの声がするけれど。
聞こうと思わなければ聞こえない。
あと聞こえてくるといえば水の音。
どこかで川が流れているのだろう。

ホントに…静か。
こんなに静かだと、いろんなことが…頭の中で蘇える。
例えば…あの時。
ガウリイが…冥王に連れ去られていく、あの時。
アクアばーちゃんが見せてくれた、重破斬(ギガ・スレイブ)の制御に失敗した時の映像…
もし、あの時。
呪文の制御に失敗していたら。
この世界は混沌の海に飲まれていただろう。滅んでしまっただろう。
なのに、あたしは―――ガウリイと世界を天秤にかけて。
そして―――ガウリイをとった。
世界が滅びてしまうかもしれないのに。
だけど、助けたくて。


時々、思うことがある。
ガウリイは…あたしと一緒にいてよいのかと。
ガウリイは見てのとおりの外見だ。…頭の中身はともかく。
それに、剣の腕も超一流だし。
あたしと会う前見たく傭兵としてもやっていける。
あたしみたいな、トラブルが勝手に付きまとってくるような女といなくたっていい。
それに、あたしといたらまた…いつ、あの時みたいになってしまうかわからない。
いつか、あたしのせいで…あいつが命を落とすようなことになるか、わからない。
そう、その危険性はかなりある。
やっぱり…ガウリイは、あたしと一緒にいないほうがいいのかもしれない。
そしたら…そんな危険は、なくなる。
やっぱり…あたしといない方がいいのかもしれない…


――そんなことはない



「…え?」

…何、今の声。

「どうした?リナ」
あたしの呟いた声に反応して、ガウリイが声をかける。
「…リナ?」
あたしは、そんなガウリイの言葉にお構いなしに、立ち上がった。
そして、声のした方へと向かった。。
「リナ!?」



今の声…
聞き覚えがある。
そう、前に…会ったことがある。
確か…

『―――わしじゃよ、わし♪』

ぽぅ…っ!

また聞き覚えのある声がして、淡い光が突然現れる。
そして…その光は見覚えのある人の形をかたどっていった。
それは――…

「ラウディさん!」

そう。
懐かしの、あの、ラウディ=ガブリエフ…!

『久しぶりじゃのう、リナ=インバース』
「そうね…何年ぶりかしら」

内心びっくりしたけど、これが幻ってやつね。
まさか、ラウディさんになるとは。

『おや驚いておらんようだな、面白くない』
「あのねー、ちゃんと驚いてるわよ。驚かないわけないじゃない」
『まぁ、それもそうじゃのう。…ところで、あの…かなり露出度の高い服を着た女魔道士はどうしたんじゃ?』
「…ナーガのこと?あいつなら知らないわよ、別れたもの。それに、二度と会いたくない…(汗」
『…ふむ。ところで…ちゃんと会えたようじゃな』
「へ?誰に?」
『ガウリイ=ガブリエフじゃよ。言ったじゃろう、「島があるべき未来を望んでいる」と』
「ガウリイに…?どういうこと?」
『島がそう望んでいたんじゃよ。あいつを倒したことで、未来が変わった』
「てことは…ラウディさん、あのエルフの子と一緒になれたわけ?」
『う…ま、まぁ、そうなのじゃが…(///)』
「…はいはい、ご馳走様。それで?」
『つまりはじゃな。ガウリイ=ガブリエフは…お前さんの活躍がなかったらこの世に生まれてこなかった、ということなのじゃ』
「…え…?」

あたしは顔をしかめた。
それって、どういうこと?

『ガウリイ=ガブリエフは…簡単に言ってしまえばわしの子孫なのじゃ』
「子孫〜〜〜!?ガウリイが、ラウディさんの!?」
『そうじゃ』

う〜みゅ。
世間って狭い…
…でも…

「でも…どうしてあの島はそんな未来を望んでたの?」
『知らん』

ずるっっ
し、知らんって、あのねぇぇぇ…

『ただ…島が望んでいた。だからじゃ』
「だからって…どうしてよ?…あたしとさえ、関わらなければガウリイはフィブリゾの時みたいに…!」
『その未来も島が望んでいた。だから、お前さんが気にすることはないのじゃ』
「気にすることないって、普通気にするわよ!!」
…そうよ。
あたしがあの時、どれだけ…!!
『…まぁ、それもそうじゃな。だが、お前さんは救えただろう?』
「え?」
『終わりよければすべてよし、と言うじゃろう。いいんじゃよ、それで。…それとも、お前さんは…あれと会えたことに…後悔しておるのか?』

…後悔?
そんなこと…

『あれと会って、よかったこと、楽しかったことはなかったのかの?』

ガウリイと出会って。
楽しくなかったことなんてない。
今では、あいつがいるととても落ち着くのに。
心が安らぐのに。
―――あいつといたいのに。

「…してるわけ、ないじゃない」

後悔なんて、してない。
そりゃあ、辛いときもあったけど。
だけど、ガウリイに。
…みんなに、会えたことを後悔していない。
できるわけ、ないじゃない…!

『そう、か…なら良いんじゃないのかの?』

あたしの言葉を聞いて、ひげでよく分からないけど。ラウディさんはそう言って微笑んだ。
それを見て、あたしも微笑む。

「おーい、リナー!」

遠くからガウリイの声。
そういえば、ガウリイおいてきちゃったんだ。
「ガウリイ・・・」
あたしはそう呟いた。

『…それじゃあ、わしはもう行くとするかの』
「…行っちゃうの?」
『ああ、もう戻らねばな』
「そ…っか」
『わしはもう、この世のものじゃないからのう。仕方ないことじゃよ』

…そうだね。
こうして、今再び会えているのが不思議なのに。

ガサッ…

近くで音がする。
きっと、ガウリイがあたしに気がついたのだろう。
その音にラウディさんも気がついたのだろうか。
一瞬目を伏せた。
…かと思うと、ラウディさんの体が次第に薄く、光り輝いていく。
帰っていく。混沌の海へと。
そして――――――

『…ガウリイを頼むぞ…リナ=インバース…』

…そんなラウディさんの言葉。
聞こえた時にはもう、ラウディさんの姿はなかった――…
見えたのは、小さな光の集団。
それは、空高く昇って…消えた。


…ありがとう。
なんか、こんなセリフを言うなんてあたしらしくないけど。
だけど…いまは言いたい。

ずっと、心に重く圧し掛かってたあの出来事。
今でも思い出すと、胸が痛むけれど。
だけど…おかげで少し痛みが安らいだよ。
だから…ありがとう。

「――リナ!」
がさっと音がして、ガウリイが現れる。
「あ、ガウリイ…」
あたしは、急いで彼の方を向く。

――ぐいっ!

「!?」
…かと思ったら、ガウリイがあたしの腕を引っ張って。
あたしはずっぽりと、ガウリイの腕の中に入ってしまった。
「ちょ…ガウリイ!!??」
わ゛――――――――――――――――――――――――っっ(赤面
な、な、な、な、ななななんで、あたしガウリイの腕の中にいんのよぉぉ!!!??

「…た…」
「え?」

いきなり抱きしめ(恥;;)られて、パニックになるあたしをよそに、ガウリイは何か呟く。
あたしからガウリイの顔は見えない。
一体今、どんな表情をしているのだろう、ガウリイは。
と、顔を真っ赤にしながらも思っていると、
「…ちゃんと、いた…」
と、今度ははっきり、そうガウリイが呟いた。
「どこ…いったかと、思った…」
「…ガウリイ?」
「勝手に…どっか、行くなよな…」
ガウリイの、あたしを抱きしめる力が少し強くなる。

…ごめんね。
心配、かけちゃったね。
そりゃ、いきなりふらぁ〜っと歩き始めたら心配になるわよな(笑
だから、じゃないけど。
恥ずかしいけど…もう少しこのままでいてあげる。
だけど、これ以上したらスリッパだかんね(///
けど、これくらいなら…気のすむまであたしがちゃんといてあげるから。

――あたしは、あんたの傍にいるから――





…でも、今、だけだかんねっ!(////