たった一つの存在







目覚めはけして良いとは言えない。ベットに身を起こし肺の中の空気を吐き出す。
あまり良いとは言えない夢。自分の過去の過ち。
階下から香ってくる良い香りに彼は微笑む。
食欲を刺激するそれに誘われて、彼はベットを抜け出した。

「おはようございます。」
「ああ。おはようリナ。」
下りてきた彼を少女の声が迎える。
テーブルに用意されている朝食は、ごくごく一般家庭のもの。
ありふれたメニューでありながら、日々の変化を欠かしていない。
その心遣いが毎朝の楽しみとなっている。
「旨そうだな。なぁ、リナ?」
「はい?」
手招きをして近づいてきた少女の髪に手をやりさらりとかき混ぜる。
そのすべらやかな手触りを十分に楽しんで。
「敬語はやめろって言っただろう?」
「え…でも……。」
戸惑うリナの頬に唇を軽く落とし席に着く。
「ほら、早く食べよう。せっかくの食事が冷めちまうぞ?」
紅に頬を染めたリナは彼の言葉に慌てて席に着く。
サラダのトマトよりも赤い顔をしたリナが目玉焼きを頬張るのを見ていたガウリイ
は、
ふと目を細めた。

「リナ」
花に水をやっているリナに声をかける。
「どう…したの?ガウリイ。」
「今日は天気も良いし町に出ないか?」
途端彼女の顔がぱっとほころぶ。
「着替えてこいよ。俺の部屋で待ってる。」
「はい!」
自分の部屋に戻ろうと身を翻すリナの手を掴んで引き寄せて―――――
「もう敬語を使わない様に、おまじないだ。」
真っ赤になって硬直してしまったリナの髪をさらりと撫でて
頬に唇を一つ落とし彼は自室に戻った。

自室で紅茶を飲みながら彼は今朝の夢の事を考えていた。
彼が昔籍を置いていた研究所。
人の遺伝子と他の遺伝子の合成。
クローン人間の受精卵に動物の細胞を抽出し合成する。
そうして作られていった数多くの存在。
それらは人ならざる異形と化していった。
獅子と合成された一人の男は血と肉を求め暴走し処分された。
イルカと合成された女は海で生きることも陸で生きることも出来ずに死んだ。
多くの異形が生み出されては消えるなかでリナは行き続けた。
鳥の遺伝子を組み込まれた彼女の背中には純白の翼が生まれた。
そして、鳥の遺伝子と引き換えに彼女は自分の自我を持った。
「自我を持ったクローン人間。」
背中にある翼以外普通の人間と変わらないリナを見て研究所は狂喜した。
「自分達は今神にも等しい存在となった!」と。
しかしリナと同じように作られたクローン達は彼女の様に翼を持つことも自我を持つ
こともなく
自らのうちにある遺伝子と共に土へと帰って行った。
そしてそのころ、彼女は研究所から一人の優秀な研究員と共に忽然と姿を消した。
その研究員の名は、ガウリイ=ガブリエフといった。


研究所は彼らを追ってこなかった。追ってこれるはずが無い。
あの後暫くして研究所に法の手が入ったのだから。
ガウリイはリナを連れてこののどかな辺境へ移り家を買った。
最初のうちはなかなか話してくれなかった少女が少しずつ話すようになってゆく。
笑うようになってゆく。
心を開いてくれる。
その変化が楽しくて、そう思える自分に驚かされた。

ふとガウリイはドアの外の気配に気がついた。
ノックの音が聞こえ続いてドアの開く音。
向日葵色のワンピースに白いカーディガンを羽織っている姿はどうみても普通の人間
で。
「よく似合っているな」
そう言って少女の華奢な体を抱き寄せる。
「…なっ!?」
一瞬にして赤く染まり小さな抵抗をする少女きつく抱きしめる。
背にまわした手に触れる異物にいたたまれなくなる。
「ガ…ガウリイ…?」
「いつか…お前を治してみせるから…。それまで待っていてくれ…。」
ガウリイの声にリナは目を開き …やがて柔らかに微笑む。
「うん。待ってる…」
それだけ言ってリナは彼の胸に顔を埋めた。








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この御話の解説をば・・・。
クローンの技術はスレイの世界とこの世界。両方まぜこぜにしちゃっています。
そんでリナは生まれてから半年で大体17歳くらいにまで成長させられました。
なんせそこまでの段階でかなり無理しちゃってますから、今の彼女は比較的病弱で
す。
あとリナの翼についてはこれからにも出てきません。
この次を書けば出てくるかにゃ?でも多分ないでしょうね。