思 惑


〜前編〜




日が昇る
男が目を覚ます
金髪が光の中で輝く
絵になる場面だ

・・・・その顔に妖しい笑みがなければ・・・・




ここは食堂、今は昼飯時でごったがえしている。
その一角で、赤い瞳の少女と青い瞳の青年が食事をしていた。
いつもの風景、と言いたいところだが様子がおかしい。

互いに自分の皿の料理だけを食べていた。
おまけに、表情が尋常ではない。
彼女は今にも頭を抱えそうなほど困りきっていた。
彼はこの世の春を謳歌していた。

いったいこの二人になにがあったのだろうか?




・・・目覚めと共にあたしの苦難が始まった・・・

「・・・ナ・・・リ・・・・リナ」
ガウリイの声がした。
う〜みゅ、眠い
・・・寝てるフリしてれば諦めるでしょう。
あたしはそう結論づけた。

・・・これが間違いの元だった

不意に、声がしなくなった。
やっと諦めたか・・・さてもうひと眠り・・・・
そのとき、唇に暖かいものが触れた。
う〜ん、この感触どこかで・・・・ってぇ!!

目を開けると、予想通り笑顔全開のガウリイがいた。
「おはよう、リナ」
「おはようガウリ・・・って、そんなことよりなんでここにいんのよ!!
しかも・・・あんた、今あたしになにを・・・」
「なにって、キス♪」
「さらっと言うなぁぁぁぁぁ!!!!
それはひとまず、置いときたくないけど置いといて・・・・
なんであたしの部屋にあんたがいるのよ!!」
「起きなかったから」

  すぱぁぁぁぁぁん!!

笑顔で答えたガウリイを、枕の下に隠しといたスリッパではたいた。
「そんなん理由になるかい!!」
「え〜、だめなのかぁ」
うってかわって、捨てられた子犬のような目で聞いてくる。
くっ、強烈な精神攻撃ね!でも、ここで負けるわけにはいかないわ!!!
「あたりまえでしょ!たくっ、なに考えてるんだか」
「愛しいリナのこと♪」

  ボフン!

あたしはベッドに突っ伏した。
こいつはぁぁぁ、なんでそういうセリフをさらっと言えんのよ!
う狽チ、顔が赤いのが自分でわかるぅぅぅぅ(泣)
「ほんとカワイイなぁ、リナは。愛してるよ」
「な、なにをとつぜ」
「リナ・・・」

再び、ガウリイが近づいてきた。
しかも・・・・・だぁぁぁぁぁぁ!起き抜けにどういうキスかますんだ、おまいは!
叫びは声にならなかった・・・・・


・・・・それから、ガウリイはことあるごとに・・・・
・・・・やめよう・・・・恐ろしく恥づいから・・・・




そして今、あたしは切れかけていた。
おいしい食事が、理性をかろうじて繋ぎ止める。
だが、心に<理不尽>という言葉が渦巻くのを止めることはできなかった。

・・・昨日までの子ども扱いはなんだったのよ!!
    こんなの詐欺よ!絶っ対、詐欺!!
悩んでいたあたしがばかみたいじゃない・・・


目の前では、ガウリイが幸せそうにご飯をぱくついている。
あたしは泣きたくなった。

 ・・・・誰でもいい。お願いだから、助けて!!
祈りはこれまでになく切実だった。


珍しく(笑)、彼女の祈りは天に届いた。
宿屋のおばさんが、また荷物持ちをして欲しいと頼んできた。
彼女が飛びついたのは、言うまでもない。
彼が嫌がり殴られたのも、また同様である。






おばさんの買い物は長かった。
街は夕日で赤く染まっている。
昨日と全く同じ状況、違うのは彼の緩みまくった顔だけである。


オレは幸せをかみ締めていた。

目に浮かぶのはかあいいリナの顔(はーと)
・・・朝の真っ赤になった顔、昼の困った顔、昨日の・・・ふっ(妖笑)
・・・帰ったら・・・あぁ、人生ってすばらしい(とくだいはーと)
オレの頭はこれからのことでいっぱいだった。
さっきなど、思わず最後まで想像して・・・・・・・・


オレの夢想は唐突に破られた。

「あの娘さんとどういう関係だい?」
突然、おばさんが話し掛けてきた。
「な、なにをいきなり」
「あんた、あの娘さんとずっと一緒だったんだろ?
 兄弟ってふうには見えないから気になってね。」

今までは、こういうことを聞かれるのが一番嫌だった。
だが、それも昨日までの話だ。
ふっ、その言葉待ってたぜ!!!!
「恋人なんだ♪」
あぁ、公認でこのセリフを言える日が来るとは・・・・
くぅぅぅぅぅぅう!!!神様ッッ、ありがとう!!!!!!


オレの意識をおばさんが再び現実に戻した。

「そ、そうなのかい。それは・・・ノエルちゃん・・・あんた」
「へっ?」
なんでいきなり奴の名前が・・・・・嫌な予感が・・・・
「ノエルってどういうことですか?」
「実は・・・昨日、頼まれたんだよ。あんたを連れまわしてくれって」

「なんだってぇぇぇぇ!!!!!」

じゃあ、やっぱり昨日リナを連れ出したのはあいつか!!!
んっ、ということは・・・もしや!!
「まさか、今日も・・・・」
オレの問いかけに、重々しくうなずきで答えるおばさん。

し、しまったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
オレとしたことが喜びのあまり敵の存在を忘れるとは!!
「荷物はいいから早く戻ったほうがいいよ。」
おばさんに言われるまでもなく、すでにオレは走り出していた。

リナぁぁぁぁぁ!!!オレが戻るまで無事でいてくれぇぇぇ!!!!
ノエル!!!首洗って待ってろよぉぉぉぉぉ!!


彼はすごい形相&スピードで街を駆け抜けていった。
一方そのころ・・・・・


「なんですってぇぇぇぇ!!!!!」


・・・・彼女も叫んでいた。