虚 空 の 月






 街の中心部、市場が並んでいて活気に満ちている。
 観光客にも人気なもんだから、それを目当てに結構な数の屋台も軒を連ねている。

 「なあリナ、あれ美味そうだぞ〜」
 そう言って、ガウリイがさり気なくあたしの肩を抱き寄せて、そちらに注意を促そうとした。ようだ。
 が、あっまーい。
 ひょいと体をかわしてガウリイを避ける。

 伸ばした手がとっても寂しそう。(はぁと)

 最近のガウリイは、やたらとあたしに触りたがる。
 もちろん以前から髪をグシャグシャ撫でられたり、肩をポンポンと叩かれたり、ということは多々あった。

 が、現在のガウリイは、その頃とは根本的に違うのだ。あたしとのラブラブ(恥)なスキンシップを求めている。らしい。(恥恥)
 そしてそれを、あたしが避けている、というわけだ。別に触られるのが嫌というのではない。もちろん恥ずかしいというのもあるが。それが主な原因ではない。

 ではなぜか、というと。

 話は数日前に遡る。





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 いつものように朝がきて、そして知った。
 あたしは独りぼっちになったのだと。
 
 茫然自失のあたしは、時間というものを感じなかった。宿屋のおっちゃんが声を掛けてくれなければ、もう昼になっていて、そして。
 ・・・自分が泣いていることにも気づかなかっただろう。

 あたし、ガウリイに嫌われてたんだ。気づかなかった。そんな素振りちっとも見せなかったから。
 ガウリイは優しいから。きっと見捨てて置けなかったんだね、可哀想なあたしが。あたしが危険に付きまとわれていたから。義務感みたいなの持ってたのかな。だから今まで、嫌々ながらもあたしの側にいてくれたんだ・・・。お人好しだから・・・。


 ???
 ・・・ガウリイは優しい。お人好しだ。
 そのガウリイがどうして。
 紙切れ一つで姿を消したの?
 いくらあたしを嫌っていたとしても。
 今までずっと我慢してこれたんなら、最後にちゃんと別れの挨拶くらい・・・してくれるでしょ?
 ガウリイ、あんたなら。

 だったら、だったらどうしてこんな別れ方・・・。
 もしかして、もしかしたら。
 他に何か理由があるんだろうか?
 あたしが嫌いなんじゃなくて?
 他に何か・・・。

 わからない。
 けど。
 確かめなければ。

 何か厄介事に巻き込まれているのかもしれない。

 そんなんじゃなくて、ホントに嫌われてたんなら。
 辛いけど。
 悲しいけど。
 でも。

 あたしと別れることでガウリイが幸せなら。

 それをこの目で確かめよう。

 だって、ガウリイが厄介事に巻き込まれていないと、どうして断言できる?その可能性がゼロでない限り。

 あたしは見届けなければならない。

 今まで一緒にいてくれて。
 あたしを守ってくれて。
 あたしを幸せにしてくれた。

 ガウリイを犠牲にして。

 せめてその償いに。
 せめてそのお礼に。

 追いかけよう。
 ガウリイに幸せになってもらうために。


 確かめるのは怖いけど。
 涙が溢れてくるけど。

 あたしはどうでもいい。

 あたしにとっての最優先事項は。
 あたしの幸せじゃない。
 あんたの幸せなんだから。
 ね。


 幸いにも、ガウリイはブラストソードを持っていったようだ。
 あれにかかっている魔法を目印にして、あたしはガウリイを捜し出せる。


 しばらくして。
 準備を整えたあたしは、翔封界を唱えてた。

 ガウリイの本心を知るために。





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 ま、その後色々あって。あたしは今も、ガウリイと一緒に旅をしている。


 え?肝心な部分が抜けてるって?


 そっそれはそのお〜。(照れ照れ)
 色々あったのよっ!!


 うう〜〜〜〜〜。
 おっ、お互いの気持ちを確かめ合って、そのお〜世間一般でいうところのハッピーエンドってやつなのよっ!!(赤面)


 それなのに何でガウリイを避けるのかって?

 っ!!!
 決まってるでしょっ!!
 それもこれもみーんなガウリイが悪いんだからっ!!
 自業自得なのよっ!!



 あの時は、すんごくいい雰囲気だったのに。
 その後が最低・・・。

 あのエロくらげが宿に駆け込んで・・・。
 そうよね〜二人とも寝不足だもんね、気が利くなあ〜なんて、のんびり考えてたら・・・・・。

 部屋を一つしか取らなかったのはまあ許す。
 
 ・・・だって、目が覚めて、また一人になったら嫌だし。一緒に寝たら安心できるだろうな〜なんて。
 思っちゃったのよ。
 その時だけよ、寝不足で頭がちょっと呆けてたのよ。
 
 それなのにっ!!!!!


 いきなりあたしを押し倒したのよ!?
 朝っぱらから。

 信じられない。
 何考えてんのよ、あのエロくらげ。


 だから!!
 スリッパで思いっきり殴って、呪文で吹っ飛ばしてやったわよ。
 全く。



 そうなるのが嫌なのかって?



 うみゅう〜〜〜嫌ってわけじゃあないのよ?
 だって、あたしは、そのう〜ね?ガウリイが好きなわけだし。いつかはそうなってもいいかなあ〜〜〜なんて。思ってるわよ。(赤面)


 けど、順序ってもんがあるでしょーが!!
 きちんと段階を踏んで。
 それでもって自然にそうなる、ってのが理想かな〜って思うのよ。

 やっぱり初めてのときは、それなりにいい雰囲気じゃないと・・・。

 その辺の微妙な乙女心が、あのエロくらげには理解できてないみたいなのよね。

 まあくらげなんだから仕方がないといえば、そうなんだけど。

 でも、これは罰なんだからっ!!

 このあたしを泣かせたのよ!?

 簡単に許してもらえると思ったら大間違いなんだからねっ!?


 その上、護衛を仕事の途中で放棄した、とかで。
 違約金を払わされる破目になって。
 それについては、忘れてたあたしにも多少責任があるから、大きな顔はできないけど。
 無駄金使うとやっぱり腹が立つのよ。
 となると、八つ当たりするならガウリイに、ってことになるでしょ?一番側にいるんだから・・・。


 だから・・・・・。

 早くあたしの気持ちに気づいてよ。

 あんまり遅いと・・・今度はあたしがあんたを置いてくわよ?



 ね、ガウリイ?










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