白 鳥 の 湖


〜終幕〜




 うららかな日差しが窓に差し込みます。壁際に立つ麗しの王子様は、珍しくも塞ぎ込んだ表情です。窓の外には愛しい少女の元気な姿。王子様たちよりも少し前に、ごくごく内輪でささやかな式を挙げたグレイワーズ夫妻の姿もともにあります。
 成人式のパーティでお姫様のお転婆ぶりは実証済みだったため、夫妻はお姫様のお守り役として是非にと請われて来たのです。つまり面倒ごとを押し付けられたのですね。特に夫君がその有能さゆえ、色々なところで重宝がられているのは・・・本人にとって幸せかどうか。とりあえず忙しいことは間違いないようです。


 日々この上なく幸せであるのに、いや、幸せだからこそふと思い出される光景。それが王子様の表情を曇らせていました。
『な、ぜ・・僕の何が、間違っていたんで、しょう・・・リ、ナ・・・』
 頭にこびりついて離れないゼロスの最期の言葉。
 一歩間違えれば自分もゼロスのように・・・ああやって死んでいくのは自分だったかもしれない。ゼロスはもう一人の自分。そんな気持ちが湧き上がります。不思議とゼロスを憎む気持ちにはなれませんでした。
 「ガウリイ?どうしたの?」
 お姫様が心配そうに王子様の顔を覗き込みました。
 目ざとく自分を見つけ、暗い表情の自分を慰めに来てくれた。何よりも誰よりも一番大切な人が。
「何でもないよ」
それだけで、自然と零れ出る心からの笑み。
「そっ、そう?」
ほんのりと頬を赤く染めたお姫様の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫で回し。
「もうっ髪が乱れるからやめてって言ってるでしょう!?」
 照れまじりの怒りの鉄拳を喰らいながら、王子様は今、目の前にある幸せを噛み締めていました。


そして 〜伝説〜 へ
































〜おまけ〜


 執務室、ここ数日は机の上に書類の山を築くことを日課にしている王子様が、傍らの青年に相談を持ちかけました。
「なあゼル、最近リナが冷たいんだ・・・」
 この世の終わりが来たかのような表情で憂いている王子様からは、強烈な色気が発生しています。いいかげん慣れたとはいえ、その色気はゼルガディスにとってまだまだ凶悪なものでした。しかし今は、怒りと呆れが大きすぎるせいかあまり気になりません。‘そんな理由’で政務が手につかない状態であることを重々承知しているゼルガディスでしたが、やはり腹が立つのです。
 仕えていたお姫様が隣の国へ嫁ぎ、なぜかそのお守りから解放されることもなく、妻アメリアとともにこの国に移り住むことになったのはまあいい。しかし、しかしだ。なんでこの王子様のお守りまで自分かしなけりゃならんのだ!?ゼルガディスの偽らざる本音でした。
「まあ仕方ないだろう」
「なっ何でだ!?」
 青ざめた顔が瞬時に目と鼻の先に移動してきました。お姫様のことなると格段の運動力を見せる王子様に鬼気迫る形相で迫られ、否応なしに愛妻から入手した情報を伝えます。
「あんたの過去が耳に入って激怒してるんだろう」
「過去?」
「数限りない女と無節操に一夜限りの契りを結んでいた頃の話だ」
「昔は昔だ。今は・・・死ぬまで俺はリナ一筋なのに。あんなに怒らなくても・・・・・」
「妬いてるんだろう・・・」
 面倒になってなげやりに発したゼルガディスの言葉に、王子様の顔が一瞬で真夏の太陽になりました。
「おいっ仕事しろ!!」
 ゼルガディスの言葉をはるか後方に残し、王子様は疾風となってお姫様の姿を捜し求めました。
 この日、城内を竜巻が襲ったといいます。
 お姫様の姿を発見した王子様はさらに加速し、逃げようとするお姫様の行く手を塞ぎます。
 王子様の過去の行状を知って激怒しているお姫様、口を聞くどころか顔も見ようとはしません。
「心のこもってないセックスはセッ○スじゃない。だから俺の初体験の相手はリナで、最後のセックスまでずっとリナだけだ」
 そんなことにはお構いなし。輝く笑顔でとんでもないことを嬉しそうに告げたのです。
 器用にも自力で全身をボフンと茹で上げたお姫様は、怒りと恥ずかしさとそして、ちょっとだけ嬉しさのこもった悲鳴を上げました。
「こっこっこっこっこんのエロクラゲえーーーーー!!!」
 お姫様の鉄拳は今日も健在です。
 

 こうして王子様とお姫様は、末永く幸せに暮らしましたとさ。