保護者だけど


〜後編〜




どれほどの時が過ぎたのだろう……

オレはまだこの空間を彷徨っていた。
―――リナの気配が感じられない―――
いつも当たり前のように感じていた気配。
目の前でふわりと揺れる栗色の髪。
時折振り返り俺の名を呼ぶ愛しい少女……
リナとはぐれて、まだ一日も経っていないだろうに……不安で狂いそうだ。
………………リナ………………
リナに逢いたい。
もう一度その力強く輝く瞳にオレの姿を映し、オレの名を呼んでほしい……
オレは……リナを―――
歯をくいしばり、拳を握る。
ギリっと音がして紅い雫が滴り落ちた。
どこにいるんだ……お前さんは―――?
いつものようにオレを導いてくれ……っっ!!!
オレはクラゲだから、リナがいないとダメなんだっっっっっ!!!!!
………………リナっっっっっ

―――もぉっ! 来るなら早く来なさいよ! 鈍感クラゲっっ!!!!!

ふと、リナの声が聞こえた。
呼んでる。リナがオレを。
今なら感じる。リナの輝きを―――
オレは目を瞑りリナのもたらす輝きに向かい、斬妖剣(ブラスト・ソード)を振
り下ろす。
―――もう見失わんっ! オレは一生お前の傍にいる!!!!!
リナぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!
空間に亀裂が走る……
―――ばりんっ
一瞬の違和感と共に、明らかにさっきいた空間とは違う空気。
そこにはリナの気配、そしてその他に……
「リナっ!」
リナの無事を確認しようと目を開けたオレは―――
「……ク…クラゲ……?」
リナの前にいる巨大なクラゲを目にして
「無事か!?」という言葉を飲み込んだまま、呆然と立ち竦んだ……
「……こっ…これって………………ひょっとして……オレかぁ???」
とか呟きながら……。

クラゲは強かった。
あっという間にむさい盗賊どもを薙ぎ倒し、しかもご丁寧なことに、盗賊どもに
触れる際に微妙に触手を捻って刺していた。
……痛いぞ〜〜〜あれは。ま、同情なんかしてやらんが。
盗賊どもは体をピクピクと痙攣させながら、完全に失神している……。
正直、オレの出番はまったくなかった。
クラゲは今、背後にリナを庇っている。
オレがリナの前まで移動すると、リナは一瞬ハッとして、慌てて回復の呪文を唱
え始めた。
……そういえば怪我してたんだよな、オレ……。
リナのことで焦ってて忘れてたけど……なんだか全身が痛いぞ…確かに……。
……ってオレのことより、リナっ!
よく見るとリナの額には玉のような汗がびっしりと……息も荒い。
かなり無理をしてるのが一目でわかる。
一瞬、治療をやめさせようと思ったが、一度やりだしたことは最後までやり通す
やつだから……下手に止めて怒らせて、余計な体力を消耗させるのもどうかと思
い、そのまま続けてもらった。
……すまんな……あの魔族に攫われた時も、さっきも、オレを呼んでくれてたの
に……すぐに助けてやれなくて……こんなに無理させちまって……
「すまん……リナが呼んでたのに……思ったよりてこずっちまって……」
あんな最低の魔族にてこずって……すぐに助けてやれなかった……
今だって、無理させてる……
オレはっっオレは……っっ
リナの回復魔法の光が、淡く…情けないオレを包み込むように優しく癒していっ
た―――

治療が終わると、リナが問いかけてきた。
どこか泣きそうな、だけどひどく怒った顔で……。
……やっぱり怒ってるんだろうか……?
疲れてるのに回復魔法なんかかけさせたからなぁ……
「なんで…なんで来たのよ……?」
あれ? 違った。けど、なんで来たのかって……
はぁっ?
……なんでって……そんなの決まってるじゃないか。
「そりゃあ……」
妙に照れくさくて視線を彷徨わせて頭を掻く。
「大事な女だから」に、決まってるだろ?
惚れた女を助けるのに他に理由があるか?
オレは「保護者」としてお前さんを助けに来たんじゃない。
「保護者」だけど、お前さんに惚れたんだ。
だから―――
―――くいくいっ
急に髪を引っ張らる。
見れば盗賊どもをやっつけたクラゲがオレの髪を掴んでいる。
「?」
そのまま視線をリナに向けると、トマトのように真っ赤な顔……
……ひょっとして……オレ、今の声に出してたか……?
ヤバイ……リナが「保護者」としてのオレしかいらないと思ってるとしたら……
オレはもうリナの隣にいられなくなる。それだけは絶対に嫌だっ!
………………。
よし。ここは何事もなかったかのように誤魔化しちまおう!
明日もリナと一緒にいるために―――
―――ぽむっ
肩に軽く何かが置かれた。
触手だ。
オレはクラゲを見た。ヤツもオレの方に神経を集中させているようだ。
「お前がオレの代わりにリナを護ってくれたんだよな……ありがとな♪」
とりあえず礼を言っておく。今回、リナを護ったのはコイツだからな……
しかしヤツは何を考えたのか、オレの肩に触手を置いたままオレの前に回り込ん
で、オレの顔を覗き込むような動作をする。
…………目が、合った………………気がした……。
なんとなく、ヤツの思っていることが伝わってくる―――
「……お前も…なのか……?」
声が震える。期待と喜びで。
こくり、と頭…いや、傘が縦に揺れる。
「そうか! お前もそう思うか♪」
オレはにこやかに右手を差し伸べる。
ヤツも手…じゃなくて、触手を伸ばし―――
オレたちは握手した。固く、しっかりと。
リナが呼んだ脳ミソクラゲのオレと、リナが喚んだ巨大なクラゲ。
この時、オレたちには確かに友情が芽生えた……!
種族を越えた男の友情。
ちらりとリナに視線をやると、流石に疲れたのか可愛らしい寝顔。
オレとヤツの想いはひとつ!
『うぉぉぉぉぉ〜〜〜リナぁぁ……なんてぷりちーなんだっ(超特大はぁと)』
互いの手(?)を握り締めたまま、オレたちは頷いた。何度も何度も……。
再び視線をリナに戻し、オレはにこやかにヤツに言い放つ。
「……だけどリナに触ってもいいのはオレだけだからなっ♪」
……たとえ友だちであっても…これだけは譲れんっ!
今のうちにヤツに釘をさしておく。
ヤツは傘ごとひっくり返った。
……あ、なんか触手がピクピク痙攣してる……
ま、いっか。今のうちにリナを「オ・レ・が」抱き上げて連れ出そう……。
いつまでもこんな変な所にリナを寝かせておくわけいかないからなっ!

とりあえずこの変な屋敷を後にした。……のはいいが……道がわからん。
カンを頼りにリナを追いかけてきたから、道なんて覚えちゃいなかったしな。
しかも雨まで降ってきた。
くっ…このままでは大切なリナが濡れて風邪をひいちまう……。
いや…ひどく体力を消耗してるみたいだから、ここで濡れたら体温が奪われて危
ない。……ってことは……
……ここはパターン通り、服を脱いで、体で暖めあうか!
―――ぶぉん…
なんだか妙な音がして雨がやんだ。オレたちの周りだけ。
「お前……傘になってくれるのか?」
そう。ヤツが頭の部分を大きく広げてリナとオレに雨があたらないようにしてく
れている。
「ありがとな!」
オレはヤツに礼を言った。
リナが濡れてない以上、さっきまで考えてた「服を脱いで体で暖めあう」という
案が実行できないことで、少し恨みがましい視線を向けてはいたが、まぁ…これ
ばっかりは仕方がないだろう……。
体に感じるリナの甘い重み……ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
折角のチャンスだったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ(血涙)
―――ぽんぽんっ
ヤツがなだめるように肩に手…いや触手を置いてくる。
……そうだよな。こんな生殺し状態なんていつも味わってるじゃないか(涙)
それにしても……同志が現れたからって、浮かれすぎてうっかり「保護者」の枷
を外しちまうとこだったぜ。「服を脱いで体で暖めあう」なんてことしたら……
オレの理性は確実に砕け散ってリナを傷つけてたかもしれんからな……
……ふぅ……。
大きな溜め息を一つ。自分の鼓動を静めようと、視線を彼方に彷徨わせる。
すると山小屋らしきものを発見した。
これでちゃんとリナを休ませてやることができるっ!
「あっちだ! 急ぐぞ!」
オレはヤツに方向を指し示し、なるべくリナが揺れないように気を付けながら全
速力でダッシュした。
ヤツもふよんふよん飛び跳ねながら、ぴったりと付いてくる……さすが同志!
こんな状況でもリナを濡らさないとは……オレが見込んだだけのことはあるぜ!
目指すは山小屋!
リナ、今休ませてやるからなぁぁぁぁぁっっ!!!!!

山小屋の前に到着し、ドアを開ける。
鍵がかかってるかと思ったが、すんなりとドアは開いた。
つい最近まで人がいたらしく、だいたいの物は揃っているようだ。
ベッドにリナを寝かせ、オレは入り口を振り返って口を開く。
「入って来いよ。開けっ放しにしてたらリナが風邪ひいちまうだろ?」
入り口には例のクラゲが立っていた。立っているだけで小屋の中には入ってこな
い。
どうしたんだろうとよく見てみると……
「おおっ!」
ぽんっと自分の手を打つ。
「傘が突っ掛かって入ってこれないのか!」
そう、ヤツはドアの縁にめり込んで詰まっていた……。
うみょんうみょん…
なんとなく壺から出られないタコを彷彿させるような構図だな……これは……
めりめりと異様な音がして、入り口が軋んでくる―――
「……なぁ……お前…どうすんだ……?」

結局ヤツは帰っていった。
名残惜しそうに何度も何度も振り返り、触手を数本持ち上げて手を振るような仕
草をしながら帰っていった。きっとヤツが人間だったら、滝のような涙を流して
いたに違いない……。もっともヤツが人間だったら、打ち解けられたかどうかは
かなり怪しいが……。
一瞬、「帰る場所わかるのか?」という素朴な疑問が浮かんだが、リナが喚んだ
んだ。大丈夫だろう。……きっと。
オレはベッドに眠るリナの顔を覗き込む。
一週間振りの可愛い、そして無防備な寝顔。
こうしてリナが傍にいるだけで、自然と顔の筋肉が緩む。
だが……ほんの数時間前、リナはオレの隣にいなかった……
急に不安に駆られて、起こさないようにリナをそっと膝の上に抱き上げる。
「……ちゃんと……いるよな?」
栗色の髪に顔を埋める。柔らかい髪からはいい匂いがした……
オレはリナの髪の一房を握り締め、口許に当てて呻くように言葉を絞り出した。
「もう…オレの傍から……離れるなよ……」
頼むからオレの前から消えたりしないでくれ……っ!
オレの目が届くところにいてくれ……っっ!!!!!
リナを強く、きつく抱き締る。
オレがどんなに頼んでも、こいつがじっとしててはくれないことくらいわかって
る……わかってるから……
だから……せめて今だけは―――

   オレの膝の上で、リナは静かに眠っている―――
   口許に微かな笑みを浮かべて―――

しばらくしてリナが目覚める気配がしたので、名残惜しかったがベッドに横たえ
た。
それからすぐにリナが目を覚まして、今は……今はっっくぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜
生きてて良かったっ(はぁと)
目の前にはリナの手作り料理♪ リナのお手製料理っ♪
味は当然、極上!
目の前にはエプロン姿のリナ(超特大はぁと)
「リナ、おかわり♪」
「ったくもぉ…もう少しちゃんと味わって……はいはい」
何かぶつぶつ言ってるけど……これって新婚さんのノリだよなぁ……(はぁと)
はっ! ……いかんいかん。口許が緩みまくってるぞオレっ!
でも……はぁぁぁぁぁ〜〜〜幸せ〜〜〜〜〜(感涙)
オレは幸せを噛みしめつつ、おかわりをよそっているリナに視線をやり―――
………………人生って……素晴らしい…………(超特大はぁと)

おわり♪

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おまけも読みたいチャレンジャーな方(いるんだろうか……?)はどうぞ☆

いっいいいいいいいいいいまのってっっっ……
キ・キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキスだよなっ!?
リナ耳まで真っ赤だし……これは夢でも見間違いでもないっっっ!!!
リ…リナがオレに(ガラスに映ったオレにだけど)……キスぅぅぅぅ?????
オレとしては直接してくれた方が嬉しいんだが……だ・がっっ!!
あのウブなリナがガラスにとはいえキスだぞ!? キスっ!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っっこれはっっ
期待してもいいんだなっ!? もう「保護者」辞めてもいいんだなっっ!?
今日はリナ食欲ないし、まだ疲れてるみたいだから何もしないけど……
リナが回復したら―――
くっ…くくくくくくく……
   自ら嵌めた「保護者」という名の枷は―――
   そろそろ外す時期が来たようだ―――
「ガラスにキスしたぐらいで真っ赤になるようじゃ……
 聞きたい言葉はまだ言ってくれないだろうな……」
でももう待てない。いい加減我慢の限界だ。
「やっぱり告白はオレからしなくちゃな♪」
今のオレに怖いものなど何もないっ!
ふっふふふふふふふふふ……
「覚悟しとけよ?」
な、リナ?











うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
のら様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
最高!!最高でした〜〜〜〜!!!!!!!
ぬぅっやっぱりボクの心はクラゲがガッチリキャァァァッチ!!!(意味不明)
ホントにホントにホントぉぉぉぉぉぉぉぉにありがとうございました〜〜
くぅぅぅぅぅぅっっっ〜〜〜〜〜嬉しいvvv
ガウリイ・・・また語尾にはぁとが・・・(笑)
しかも、リナちゃんの体力回復したら、何をする気だ!おまひはっっ
うふふふふふふふふふ・・・・妄想だけが爆走していく・・・
(何を想像しているかは、お子さまの発育上宜しくない(笑)ので、割愛させていただきます♪)

のら様!!飛鳥なんかには勿体なさすぎる小説をありがとうございましたvv
我が家の家宝とさせていただきます!!