彼の本気に彼女の憂鬱

〜プロローグ〜 「ねぇ、今晩は私の部屋に泊まってくれるわよね。」 赤い口紅に赤いマニキュア、オレに体を押し付けながら上目遣いに尋ねてくる。 「そうだな。」 オレは何ともなしに呟いた。女は魅惑的な笑みを浮かべてオレに口付けてくる。 オレは女を抱きしめるでもなくされるがままになっている。 　 PM９：００過ぎ この時間だと人通りは多い。遊び帰りの学生、仕事帰りのサラリーマン、酔っ払いと様々な人達が行き交っている。 都会のビルの裏通り―――表通りからは見えにくいとはいえ、それでも通りを行き交う人々はこの男女というより男に見惚れながら通り過ぎていく。 世の中には立っているだけで、称賛、感嘆に値する人間が数少ないだろうが確かに存在するのだ。彼は間違いなくその部類に入るであろう。 黄金の髪、青い瞳、鍛えぬかれたかのようなしっかりとした体つき、高い身長に整った顔立ち。文句なしの美形である。 今晩付き合ってやってこの女とも別れるか………飽きたし、めんどくさいしな。 「もお、抱きしめてくれるぐらいしてほしいのにつれないわね。」 女はそう言いながら彼の頬に手を這わせる。 うざい、めんどくさい、うるさい、オレの中でどす黒い感情が渦巻く。どんな女と付き合おうと抱こうと満たされない、埋まらない胸の空洞。 「他に、彼女がいてもかまわないの。だから、付き合って」 女達はそう言う。だから、付き合ってやる。しかし、しだいに「他の女と別れてくれ」と言い出し、オレを自分に繋ぎとめようと必死になるのだ。だから「別れてくれ」そう言うと女達は決まって泣き出す。この女もうっとおしく泣くのだろう。うざったい！そんな事えを考えていた。 　 「まったく、しつこいったらありゃしないわね！さっきから何回も言ってるでしょうが！！バカと付き合う気はないって。」 オレの思考を中断するかのように女、いや、少女の声がした。反対側の方に少女といかにもがらの悪そうな男が数人。少女の顔は男が邪魔で見えない。怯えているだろうだろう………いや……さっきの少女の声には怯えなど微塵も含まれていなかった。オレに絡み付く女が、オレが少女の方を気にしているのが気に食わないのかキスをしようとしてくる。 「ねえちゃん、強がりはよして楽しもうじゃないか。」 「だあぁぁぁぁぁ――。しつこい、しつこいぃぃぃぃぃ。」 少女が頭を掻きむしりながら叫んだ。 助けた方がいいよな。めんどくさいけど、などと思いつつオレに絡み付く女を引き剥がし少女の方へ駆け寄ろうとした瞬間！！！ 少女は自分の肩に触れようとした男の手を捻り上げ、お腹に蹴りをいれる。男はお腹を抱えて倒れた。 「このアマ！！」 そう叫んで少女に飛びかかろうとする残りの男達。パンチを軽くよけ、お腹と顔に一発。 「このあたしをナンパしようなんて、１００億光年早いのよ。」 そう言いながら、後ろから飛びかかろうとする男に振り向きざまに回し蹴りをくらわせる。その光景に恐れをなしたのか腰を抜かしている残りの男。 「さぁて、この貴重なあたしの時間を邪魔した罪、どう償ってもらおうかしらね。」 顔は笑っているが目は笑っていない。男に歩み寄り襟首を掴みあげると、 「右腕、左腕どっちを骨折したい？あっ、足でもいいし肋骨でもいいわよ？選択させてあげるなんて、なんて寛大なんでしょう。大丈夫、ここだと人通りも多いし誰か救急車呼んでくれるって！！」 「ひぎゃああああああああーーーーー。」 哀れ男の声はビルの谷間に響き渡った。 オレは動こうとしたが、できなかった。すべてはあっという間の出来事だったからだ。今見た光景が信じられず、オレ呆然とその場に立ち尽くしていた。 少女はパンパンと手を払いながら、オレの方を振り向き、目が合った。 瞬間、時が止まった。回りの音は何も聞こえず、景色すら視界に入らない。オレの瞳に映るのは目の前の少女だけ。この世界に少女と二人きりのような感覚に襲われた。なぜかわからないが、体が熱くなるのを感じた。静寂を破ったのは少女の方だった。 「救急車、呼んでやってね。」 それだけ言うとさっさと表通りの方に行ってしまった。 オレはまだ動けなかった、息をするのも忘れていたかもしれない。少女の行ってしまった表通りをずっと見つめていた。 そんなオレの様子を怪訝に思ったのか女はオレの腕に自分の腕を絡めながら 「ねぇ、ねぇったら。」 オレは女から自分の腕を引き抜くと視線は少女の去っていった方を見つめながら 「別れてくれ。もう二度と会わない。」 「なっ。」 女は驚いたようにオレを見た。 「そういう事だ。じゃあな。」 まだ、呆然としている女にそう言い残しオレは少女の後を追った。 夜の闇に引き立つような栗色の髪、白い肌。なにより生きている輝きをはなつ燃えるように赤い瞳。華奢なあの体に秘められたパワー。この世の何者もかなわないような圧倒的な存在感。オレは少女を思い出しただけで胸が熱くなるのを感じた。 『もう一度会いたい』 そんな強い思いがオレの心に芽生えていた。 『必ず探し出す』 オレは心の中で誓った。さっきまでのどす黒い感情が嘘のように消え、オレの心には一筋の光が射し込んでいた。やっと、長い夜が明けた、そんな気さえした。 　 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ あとがき ………………。(汗) 現代版ガウリナでございます。なんと、お目汚しをっっ！しかも、題名がくさすぎっ！！ 他に思いつかなっかた………(滝涙) それにしても、ガウリイ君ひどすぎ、いつか女性に刺されるぞ（笑う） 連載になると思われるが、果たして読んで下さる心優しき人がいるかどうか心配であります。 今回一番かわいそうな人って「女」さんと「男数人」さんだわ。 きっと彼らは、救急車で病院に運ばれたさ。（合掌） 彼女どうなるんでしょう……次の男性探して下さい。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　それでは、失礼します。