凸凹恋愛事情 〈二人合わせれば丁度良い?〉 |
「ごめん…ガウリイ」 苦悩に満ちた声音。 「…………別、れ…よう…?」 途切れ途切れに零れる声は苦しげで。 その言葉を理解するより早く、その華奢な身体を掻き抱いた。 「どうして、なんだ…?」 じわじわと。 彼女の言葉が染み込んできて、オレの心を締め上げてくる。 どうして、そんな事を言う? 「あたし……自分が思ってたより…ずっと、臆病…みたい」 弱々しく、囁くように涙ぐむ声。 震えながらオレの胸に縋り付いてくるのをそれに余るほど強く抱きしめる。 なら、何故…? 今もオレの腕の中に大人しく収まっている? 絶望の中でリナと分かち合う熱に煽られ、蘇る感情は純粋な殺意。 やっと、自分の甘く脆い部分を吐露した筈。 やっと、その幼い感情でぎこちなく応え初めてくれた筈。 やっと…っっ なん…で、オレたちは出会った? なんで、お前はオレを虜にした? なんで、お前は生まれてきた…っ!? 「リナ…」 胸に込み上げてくるものが喉に詰まって言葉が出てこない。 震える手が囲むリナの身体を締め上げ、リナは苦しげに身じろぎする。 「リナ…リナ……リ、ナ…っ」 描いた未来図―――…それは、彼女を抱き締める手を喉元に掛け、ゆるゆると締め上げるだろう。 苦しげに藻掻くリナを酷薄な瞳で見つめながら。 決して緩めることなく、紙のように白くなるリナに口元をほころばせて。 願って、欲して、ようやく全てを手中に収められる歓喜に心を震わせて。 お前が生まれてきたのは、オレの前に現れたのは、誘惑したのは―――… ―――全て、全て。 オレに殺されるためだったのか? 「その、理由を聞かせてくれないか…?」 なら……殺す前に、もっとお前の声を聞かせてくれ? 屠りはしない。そのままの姿で、形なくなるまでオレが抱き締めているから。 オレの意識が…命が途切れるまで、耳をくすぐる吐息を覚えていられるように。 「あたし…あんたに、我慢させてばっかりで…。 ずっと、強く、今も――求めていてくれるのに…。 どうしたら良いのか、わかんないの」 困惑して戸惑っている? それは、お前とオレの求めているモノに差があるからか? オレがお前の何もかもを貪欲に求めている。 その穢れなき身体だけじゃない。 心も、命も、血も、最後の一滴まで――。 なのに、お前はそう思えないのか? 「わかんないよ…。がうりい……」 より強くしがみついて、オレの背に回した小さな手がぎゅうっとシャツを握りしめる。 そんな幼い様子に、忘れかけた愛しさが募る。 ああ、違うんだな? オレはお前を殺す必要なんてない。 だってお前は…… 「今から別れようって奴が、その相手に抱きついてくるってのはずいぶんと残酷なんじゃねぇか?」 わざと含ませた苦みと絶妙にブレンドした剣呑な声音。 本当は微かながらも確信に近いものを得ているのに。 びくり、と震えて胸に埋めていた顔を上げてくるリナ。 涙がいっぱい堪った瞳――今にも零れそうだ。 ああ、こーゆーソソる表情をするから。 オレがお前を虐めたくなるんだよ。 加虐心がゾクゾクと疼く。 快感と言って良いほど心地良い―――嗜虐なのはむしろオレの方だ。 「…ごめん…、もう……」 ―――しない? そんな戯れ言など、お前の口から言わせるものか。 言葉を遮り、畳み掛ける。 「もう、オレに何かを求めるのも、駄目だ。応えられないからな。 オレに触れるにも、そんな風に見上げるのも赦さない。 お前から言い出したんだ。 オレが誰かを愛しても、お前は笑って送り出すんだ。 心を痛める事すらも厭うな。リナにその権利はなくなる」 その大きな瞳を見開いて。 透明で綺麗な宝石が頬を辿っていく。 「…………っ……」 ふにゃりと顔を歪ませて。 いつもは強い意志を潜ませた瞳からは幾筋も涙が零れ出す。 「だって…あたし、我慢……させてて、 …ガウリイのこと、嫌いじゃないけど、怖くて……だから……」 本格的にしゃくり上げるリナの背を何度も優しくなで上げる。 「ああ、分かってる…だから………」 オレが付け上がるんだぜ? 「別れてやるよ。今後一切、オレを求めるな」 「…っ…!」 噛み締める唇が血の気を失せて紫色になっていた。 リナはオレに言う覚悟は出来ていた。 だが、自分が言われることは考えちゃいなかったんだな? わずかに言葉を失った後、思い詰めた表情で、言葉にならない声が解かれた唇からわずかに漏れる。 「何か言ったか?ちゃんと言葉にしなきゃ、オレだってわかんねぇぞ?」 いいや、解ってる。解ってるよ… お前さんが泣いて、縋って、オレを求めてる。 空気を震わせて、オレの絶望を取り払って―― 「…ぃ…やぁ…」 「何が?」 「…っひぃ……くぅ…っ好き、なのぉ! ガウリイが、すき…っだから、」 滅多に言ってくれないリナの想い。 ひねくれ者で意地っ張りで、おまけに照れ屋な彼女はここまで追いつめないと素直になれない。 「そんな事、言わないで…っ」 ドラまたやら盗賊殺しやらと恐怖の代名詞で恐れられる凶暴凶悪な魔道士に。 あのリナ=インバースに、ここまで言わせる男なんてオレだけだろ? 誰にともなく自慢して、世界中に言いふらしたくなる。 暗い殺意はすっかりなりを潜めている。 リナの心が離れていたら、オレはその咎を彼女の命で償っただろう。 けれど、彼女はこんなにもオレに惚れてて。 しかも今の精一杯の言葉で真っ赤になっちまって、食らい付きたくなるほど可愛くて。 甘酸っぱい感情が広がってくる。 愛されてるなぁ、なんて自惚れれば自然と顔がにやけてくるのも仕方ないだろ? 顰めっ面をなんとか保っているものの、妙に浮かれた気配は隠しようもなく。 まぁ、リナが平常心を失った状態では気づかれないだろうけど。 「オレもお前が好きだ。 だから、お前さんから“別れたい”なんて言葉は冗談でも聞きたくない」 こくこく、と何度も頷くリナは滑稽なほど必死になっている。 恋愛経験の浅すぎる彼女は愛情表現の仕方も幼い。 なんとなく、オレは彼女がこんな突拍子もないことを言い出した原因に思い当たるものがあった。 関係が変化してから上手くいってないわけでもなく、ましてこの溢るる想いを持て余しているオレたちに倦怠期など訪れるわけもなかったが。 ようやく口づけを交わせる仲になったものの、それ以上は未知の領域で手探りの状態に陥ったリナは立ち往生してしまったのだ。 オレのことを思い遣った結果だと言いつつも、無意識に逃げようとしているのに気づかないと思っているのか? 思い詰めた表情でリナは小さく罪を告白する。 「でも、あたし…ガウリイに我慢させてる」 「そりゃ、オレが好きでしてるんだ」 お前を何よりも大切にしたいから、と耳元で囁けば石榴石〈ガーネット〉のように深紅色に染まる頬。 たまらなくなって、熱を帯びた頬に唇を落とす。 本当に、ただ、ただ。 何よりも、お前が大切なんだ。 その頬に両手を添えて、わずかに歯形が残る唇の痕を慰めるように辿り、なぞって愛おしむ。 ぎこちなく応えてくるリナに微かな飢えが首をもたげるも、甘やかな交わりで飢えを満足させる。 「焦らなくて良い。お前さんを追いつめたいわけじゃない」 「でも、でもっ! あたし、あんたの優しさに…弱みに付け込んでる…っ!」 ソレならオレもお互い様。 オレは持てる全て――弱み、強み、状況、ありとあらゆるもの――を使ってお前に付け込んでいる。 ま、最後の最後でお前に譲歩しちまうのは惚れた弱みってヤツだろうけどな。 本能から突き上げてくる獰猛な情欲すらもねじ伏せる理性は、決して優しさなどという綺麗な感情からではなく。 それでお前はまた一つオレに嵌り、逃げられなくなっていく――狡猾なほどの本能から来る直感。 「あんたを受け入れる覚悟もないくせに、中途半端で、子どもみたいに未熟で… ホント、情けないわ」 ふるふると涙を飾った睫毛が頼りなく揺れている。 「何言ってんだ。オレはそんな所も全部ひっくるめてリナがいいんだ」 それも、少し違う。 おそらく、オレはもうお前しか愛せない。 あー…ま、これが一方通行だったら虚しいというより、ホゴシャとして頂けないんだろうけど、どうやらリナもそれなりにオレを求めているらしいし。 お互いの利害が一致しているなら、問題はないよな? 時間はいくらでもかけていいから―― 戸惑っても、オレに手を引かれながら一歩ずつ進んでいこう? 時々こんな風に立ち止まって、オレに虐められながら。 ん?なんだ、リナ? 手加減しろって? あー…ま、努力はする。 誠意がない? 仕方ないだろう? 極々稀に困惑して涙を流すリナを見ると、理性なんてすぐに焼き切れちまう。 無性に虐めたくなる。 含みがある満面の笑みに背筋を震わせたリナは、それでも気丈に拳を高く掲げた。 「あたしも、早くガウリイを受け入れられるように努力するからね! ……だ、だから、その…、お手柔らかに、ね?ね。ね??」 抱負とともに付け加えるリナが何とも言えずいじらしい。 ま、ぼちぼち行こう。 取り敢えず、また一歩オレたちの関係を進めるためにオレは腰を落とし、リナを強く引き寄せた。 さて、今日は何処まで進もうか? えんど? |
…また、なんというか、突発的な駄文です。
いぢわるがうりんvs幼くて若葉マークのリナちゃん。
有り余るフラストレーションの勢いでずさささっと書き殴り。
ちなみに制作時間、とーたる1時間半(勢いそのままでサイトに出すな)
もし後で見て耐えきれなくなったら引っ込めます。
…暫定展示ということで。
では、久々の駄文となりましたが、飛鳥がお届け致しましたm(_ _)m