REASON |
正直に言おう。 オレはリナが好きだ。 ・・・・リナにはまだ言ってないけどな。 自分で言うのも何だが、あれだけ引っ付いて露骨にアプローチすれば、普通は分かるはずなんだが…。 一緒に旅をしたことがある奴らはみんな気付いてたぜ? でも、肝心の本人に伝わらなくちゃ何の意味も持たないワケ・・・・。 その・・・・イロイロと我慢もしなきゃいけなくなる。 人間、本能に逆らうってのは、かなり辛い。 それでも、オレはひたすら待ち続けた。 リナがオトナになるまで、と。 そしたら・・・・・・リナは大人になってきた。 外見や仕草だけ・・・・。 内面は・・・いや、恋愛沙汰に関しては、子供のまんま。 オレの思惑は見事外れちまったってことだ。 確かな言葉がない分、確かな繋がりがない分、リナに向けられる視線の数だけオレの不安が広がっていく。 リナと過ごす夜の数だけ、オレが壊れそうになる。 多分・・・そのせいだ。 オレの口が滑ったのは。 リナがあんまり無防備で可愛くて、でも素直に言えなくて。 思ってもないことを口にした。 『お前さんは可愛げがない。』なんて。 いつものリナなら、怒って呪文で吹っ飛ばすと踏んでいたんだ。 吹っ飛ばされていい気分になる趣味はないが、吹っ飛ばされた方が良いときもある。 それなのに、オレの思惑がまた外れた。 リナと出会ってから、オレの思惑は外れっぱなしだ。 ・・・・だから目が離せなくて、ここまで惹かれたのかもしれないけどな。 とにかく・・・・この状況だけは何とかして欲しい。 ブチ切れそうだぜ………オレの理性が。 「ねぇ、ガウリイ♪」 いつもの凶暴さ…もとい、意思の強さはなりを潜め、潤んだ紅い瞳でオレを見上げるリナ。 それだけでも堪えるのに、リナは愛らしいく甘えた口調でオレを呼ぶ。 う゛・・・可愛いすぎる。 「・・・・・・・・なんだ?」 それとなくリナから視線を逸らしながら、掠れた声で返事をする。 「あのね。」 はにかむ顔も可愛い。 いっそここで押し倒・・・・・・・・い、いや。 手順を飛ばせば事をし損じる。 第一、そんなコトしたらリナがオレの前から消えちまうかもしれんし、明日の朝日が拝める可能性も限りなくゼロになる。 耐えろ!耐えて耐えて耐えまくるんだ!……ああ、我ながら情けない。 リナはそんなオレの葛藤を知るはずもなく、追い打ちをかけてくる。 「ガウリイ、あたし、疲れちゃったの。抱いて運んで欲しいなぁ♪」 ……抱くだけで満足なのか? その先に待つものはないのか!? オレはいつでも準備万端だぞ!! リナに触れるのは役得なんだが・・・・生殺しってのはいただけない。 「ダメ?」 リナは不安そうに上目遣いでオレを見る。 それが作り物だとしても、ブリッコをしているのだとしても、やっぱり、可愛いモノは可愛い。 惚れた弱みを差し引いても、可愛い。 今すぐ押し倒したいほど可愛い!…ああ、ちくしょー。 「ねぇ。・・・ダメ?」 ・・・・もう許してくれ。頼むから。 前言撤回でも何でもするから。 オレにわざと無防備な顔を晒さないでくれ。しかも、半分無意識でやっているのが攻撃に拍車を掛けている。 そうなのだ。 リナはオレに『可愛げがない』と言われたのがよほど癪に触ったのだろう。 どうしてもオレに『可愛い』と言わせたい・・・らしい。 言った日の夜・・か?リナが部屋でそう意気込んでいた。 それが部屋越しにオレの耳まで伝わり、事の次第を知った訳だ。 次の日から次々に繰り出される容赦ない攻撃。 ある時はオレの部屋に来て、酒盛りのどさくさで言わせようとしていた。 →リナが先にベロベロになって失敗。 ある時は夜に忍び込んできて、唐突に後ろから抱きついてきた。 →盗賊いびりは駄目だぞ?と茶化してぶっ飛ばされ、結局有耶無耶。 一昨日は、怪しげな薬を使って自白させようとしていた。 →これはそこそこにヤバかったが、そこはそれ。オレの日頃鍛えた自制心で『早く大人になれ』程度まで白状し、リナの呪文で空をフライトしてセーフ。 昨日なんて、オレの目の前で瞳閉じて・・・・ってのまであった。 →危うくリナの顎に手を掛け、顔を寄せるところまでいったが、『目にゴミでも?』などとボケて見せた。 我ながら天晴れなクラゲと保護者ぶり! 心構えがなけりゃ、あっさりとリナの手に落ちていただろう。 身も心も疲れ果ててるのに、リナの攻撃はいっそう過激になっていく。 オレの戸惑う反応が面白いんだろう。 じゃなきゃ、人一倍…いや、ン百倍ウブなリナが『甘える』なんてコトできる筈がない!! オレも『可愛い』ぐらい言ってやりたい。 しかし・・・・・・そんなコトを言えば、リナの顔は熟れたイチゴみたいに真っ赤になるだろう。 その顔を見て、オレは自分を抑える自信がまったくない!! 自慢じゃないが、今でも限界なんだ。 一度などは、理性を総動員させて何気ないフリを装い、『可愛い、可愛い』と言って頭を撫でてやったのに、リナの反応は『誠意が籠もってない!』とか『子供扱い』だとか言ってヘソを曲げる始末。 オレも保護者ぶりが板に付いているせいか、リナへ浴びせる言葉はどうしても子供扱いになっちまうし…。 リナもオレにそこそこの好意を持っていることは解る。 …ただそれが、何処までの「好き」なのかが問題なんだ。 清く正しい男女交際レベルのリナにいきなり遠慮無く襲いかかったりすれば、今までの苦労が水の泡。 オレはリナを蹂躙して奪い尽くしたいわけじゃない。 刹那的な快楽より、死ぬまでリナを愛し、愛されたいんだ。 だから、今は堪えることが得策なわけで…… ・・・ったく・・・・ 「はぁ。ホント、お前さんはワガママだな。」 「な、なによぉ〜…・・きゃ!?」 イキナリ抱き上げられたリナは小さく悲鳴を上げる。 リナに触れるのは辛いが、だからといって折角のチャンスを無駄にする男じゃないぞ。オレは。 口では嘆きつつも、本心ではそう思っていない。 リナがオレだけに甘えてくれるから。 人気がない所でしか露骨に甘えてくれないけどな。 けど、それがまたヤバイんだよ。 いくら悲鳴を上げたって、誰にも聞こえず、誰も助けに来ない・・・ そんなコトを考えると、もう一人のオレが耳元で囁く。 欲望を解き放て、と。リナを抱け、と。 うるさいぞ。 オレはそんな声に耳を貸さない。絶対に。 だから・・・・ 「つかまってろ。」 絶対、我慢し通してやるからな。 「・・・・う、うん//////」 それだけで赤面するリナの顔が間近にあって。 華奢で柔らかい身体が腕の中にあって。 理性が吹っ飛びそうになる。 「っはぁ・・・」 こっそりと深呼吸して、なんとか持ち堪える。 今のはヤバかった・・・ 我慢はするさ。するけど・・・・・ リナ、頼むからそんなにオレの理性を揺さ振らないでくれ。 せめてオレの想いに気付いてくれ。 そうでもしないと、いつかプッツンといっちまいそうだ・・・・。 きゅ、と首に巻きつく細い腕とともに、リナの香りが強くなる。 こ・・・これは試練なのか!? むしろ嫌がらせの部類じゃないのか!? 柔らかい体、温かい体温、香水を付けているわけでもないのに甘い香り… しかも、それは腕の中にいる惚れた女。 ・・・・・我慢・・・・・・・我慢とは涙を誘うものだと初めて知ったぜ。 とにかく、一刻も早く町に着こう。 オレは微かに潤んだ視界で、まだ見ぬ町を仰いだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・やあらかいリナの体を抱えたまま。 ああ・・・嬉しい。 辛いしキツイしどうしようもなく身体が反応しているのに、手を出さず我慢していることに満足感を覚える・・・。 男って・・・・・・・・・悲しい生き物だ・・・・ 不条理とリナを抱えたまま、オレ達はどうにか町に辿り着いた。 途中、葛藤に疲れたオレにリナが、「ガウリイ? 疲れた?」などと殊勝に尋ねてきた。 勿論、オレとしてはリナを抱きたいのを堪えてるなんて口が裂けても言えない。色々と溜まっているせいで、リナの願望に応えるわけにもいかない。 答えは勿論・・・・・ 「重い。・・・・・・・・お前・・・・・太っただろ?」 「なんですって!?・・・闇よりもなお昏きもの夜よりも・・・・」 「じょっ、じょーーだん!冗談だ!!」 ああ、オレの口。何でそんなに墓穴を掘るんだ? むしろリナはもっと肉を付けた方が良い。 軽すぎるぞ? そんなんじゃ、オレに抱かれたとき体力が・・・・と、ととと・・・ それしか頭にないわけじゃないんだが、リナを意識しちまって、どうしても頭の方向がそっちに行く。 由々しき事態だ……。すまん、リナ。もう保たんかもしれん……。 「オレは平気だ。お前こそ、身体が辛くないか?」 「うん。楽ちん楽ちん♪」 もう機嫌が直ったリナはオレの腕の中で音符マークを飛ばしている。 我慢・・・我慢ってツライなぁ・・・・・。 これに悦びを見い出すようになったら、オレ、どうしよう? 流石のリナも町の中までは抱き抱えられて歩きたくないらしい。 町の入り口付近まで来た時、放せぇ!と暴れ出したんで、リナを地面に降ろしたんだ。 ホッとしたけど、残念だったな。 さてさて・・・・・ 今度は理性の溶けかけたオレじゃなくて、外敵退治だな。 圧倒的な存在感は人の目を引きつけるリナ。 くるくると変わるその表情や、初めての町を満喫するリナは見ているだけで飽きない。 飽きはしないが、同時に気が気じゃない。 リナに向けられる野郎共の視線。 ったく・・・リナは気付いてないんだろーな。 いや、気づいてはいるんだろうけど、敵意じゃないから気にもとめないんだろうな。 オレはリナを狙う奴らを一瞥し、牽制をかける。 コレはダメ。非公認だけどオレの女。 何人かの男は舌打ちして、オレの存在を認めざるをえなくなる。 諦めの悪い連中はまだリナを遠巻きに見つめる。 無理だぜ。 そんな遠い所から眺めたって。 こんなに近くたってリナは気付いてくれないんだからな。 微かな優越感を味わいながら、隣を歩くリナを見る。 途端、オレの背筋が寒くなる。 リナの笑み・・・・そう、良からぬ悪巧みをしている笑みを浮かべている。 き・・きたか・・・・次の拷問が・・・・こんな町の中でナニをする気だ? 「ガウリイ・・・・・・」 なんだ? 今度はどんな攻撃だ? 「あたし、ガウリイと腕組みしたいな♪」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いすぎるぞ、リナ。 可愛い素振りで可愛いおねだり。 明らかにエスカレートしてきてるな。 絶句しているオレの様子に、満足気なリナ。 初々しくも妖艶な笑みを浮かべている。 オレが困り果てて、どんな返事を返すのか楽しみながら待ってる、そんな笑みだ。 ・・・完全に遊ばれてるな。オレ・・・。 「なんだぁ?腹減って動けないのか?」 鈍感を装いボケてみる。 分かってるさ。リナが望んでることぐらい。 リナもコレは予想外だったんだろう。 笑みを崩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さない!? 予想済みだっのか!? 「そうなの♪ね♪だ・か・ら・がうりい♪寄り添ってても・・・いい?」 そーきたか・・・・・・ 嘆息して、折れる。 「仕方ないな。ホレ」 片腕を隣の愛しい小悪魔に貢げば、直ぐさま絡みついてくる細い両腕と栗色の髪。 柔らかい。愛おしい・・・・・・・・それ以上の欲望が沸き上がってこないように軽く頭を振り、煩悩を振り払う。 オレってつくづくリナに溺れてるな・・・・・・ そんな様子を見ていた残りの連中が次々にオレ達から視線を外す。 オレ達を恋人同士だと認めたんだろう。 純粋な優越感が湧く。 「ねぇ・・・ガウリイ♪」 「なんだ?」 語尾の♪マークは要注意だ…。何故か目に見えるように分かるぞ? 「あたし達、周りからどーゆー風に見えるかな?」 当然、恋人同士だろ? こんなに似てない兄妹も珍しいだろうしな。 「さぁな」 正直に言えないところがまた切ない・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・剣士と魚屋さんかもね」 ポソ、と呟いたリナの寂しそうな声。 傷付けちまったか?…ゴメンな。リナ以上に素直じゃないオレのせいだ。 オレ、臆病だから・・・・・。 お前に想いをぶちまけて拒絶された時、笑える自信なんてない。 それが引き金で離別を宣言された時、オレは冷静に受け止められる自信がない。 それなら、欲望に喘ぎ、耐え続けていた方が何千倍もましだ。 卑怯な手を使って返事を有耶無耶にしちまう。 その上でこのポジションを保持しようとする。 そんなオレだから、ゴメンな。 「なんだ?ソレ?」 内心を悟られないように平静を装って尋ねる。 「いつだか、アンタがそう言ったんじゃない。」 リナが肩を竦めながらもちゃんと答えてくれた。 「そ〜〜だっけ???」 覚えがない。 リナとのことなら覚えてないはずがないんだけどな… 「ほ〜んとっクラゲなんだからっ」 そんなオレの様子を見て、以外にあっさりと機嫌を直してくれるリナ。 呆れたと言った方が正しいだろうけど・・・。 けど、リナはオレの腕を放さないで居てくれる。 それが泣きたくなるほど嬉しかった。 ごめんな。・・・・ありがとな、リナ。 甘苦しい雰囲気を打ち破ったのは、むにゅ…というなんとも言えない柔らかい感触だった。 こ・・・このやぁらかい感触は・・・・・・・ 気付いてしまったからには、そこに神経が集中してしまうのが、悲しい男のサガ。 リナの身体が密着しているせいでオレの腕に当たるのは、男にはない膨らみ。 甘やかな誘惑に大打撃を食らうのはもちろん理性。 クソッ、耐えろ! なんでよりによってこんな時にっ!? 今の今まで結構シリアスなオレだっただろ!? 何でシリアスが続かない!? くそっ誰かの陰謀か!?(どこからともなく怪しげな笑い声が・・) う゛っ・・・・リナのヤツ、ないないとバカにしていたが、思っていたよりあるじゃないか。 細身だから気づかなかっただけか?それとも成長したのか? 硬直していくオレの自制心と自戒心。 それとは裏腹に熱く熱を帯びてゆくオレの身体。 本格的にヤバイ。 気分転換にリナと話すか・・・・・。 「オレ達って・・・こーやってると、恋人同士みたいに見えるかもな」 含みがある問い掛け。 リナはちょっとビックリしたようにオレを見る。 ホントはこの答えが欲しかったんだろ? そのリナは、直ぐに挑戦的な瞳を輝かせて、にっこりした笑み♪ ぁぁ・・・また要注意♪マークが・・・・・・ 「あたしとガウリイが恋人同士に見える?そんな分けないわよねぇ〜 ・・・ねぇ、保・護・者・さ・ん♪」 う゛う゛う゛・・・・はい。そのとーりです。 確かに言ったさ。言ったけどよぉ・・・・リナぁ・・・そんなにオレをいじめて楽しいか? オレはお前のこと好きなんだぜ? リナの逆襲はさらに続く。 「ねぇ、ガウリイ。いつかあたしも誰かとこうやって歩くのかな♪」 ムッ… リナが本気で言ってないのは分かる。 けど『もし』でも『かも』でも嫌なモノは嫌だ。 オレ、自慢じゃないが独占欲はメチャクチャ強いんだぜ? 「おやぁ? 保護者様は子離れできないのかなぁ〜?」 眉間に皺を寄せたオレに意地の悪い笑みを浮かべたリナが言う。 実は分かってやってないか、お前さん? 「お前さんの隣を歩けるチャレンジャーは世界に数少ないぜ。 そいつを大切にしとけ」 そうそう。言っとくけど、オレのことだぞ? 剣もなかなか使えるし、頑丈で使い勝手も効く。 目減りもしない。おまけにリナにベタ惚れ。 こんなお買い得品をほっとく手はないと思うぜ? 「ま、考えとくわ♪」 リナの方が一枚上手・・・か。 まぁいいさ。 これからじっくり時間をかけて落とすつもりだし。 さて、そろそろ日も暮れるし、宿を探さないとなぁ。 ふっ・・・・今日もリナの攻撃に耐えきったぜっ! 『いつまで、そんな悠長な台詞を言ってられるかな?』 聞こえないフリはしても、ふとした折りに否応なく耳に届く薄汚い欲望。 それはまさしく欲望に忠実なオレの囁き。 悪魔の如く狡猾に、神の如く慈悲深く、オレに甘く甘く囁き続ける。 『誰かに奪われる前に、奪い尽くせ。貪り尽くせ。 ・・・・リナを抱いて、逃げ道を塞いでしまえ。 身も心もぼろぼろにして手中に収めろよ。』 絶対に嫌だね。 そんなのお断りだ。 卑怯な手段でリナを奪えば、きっと彼女をたわめてしまう。 後悔したくないからな。 壊したくないからな。 お前はオレの中で黙って見ていろ。 オレはオレのやり方でリナを奪ってみせるから。 「リナは可愛いよ。他の誰よりも。 …惚れた欲目ってのも入ってるかもしれないけどな。」 独り言のつもりで呟いた本音。 オレの腕に絡んでいるリナが、照らされる夕焼けの朱とは違い、明らかに頬を紅潮させていたことを、オレは知らない。 「ふん! ちゃんと言うまで許さないんだから。」 そう呟いて、次からの攻撃をさらに強化しようと思案を巡らす彼女の想いも、オレは知らない。 知らないまま、オレは決意を新たにする。 『オレ、明日も我慢するからな。いっぱい甘えてくれよ?周りの奴らが妬けるくらいに。もう一人のオレが羨ましがるくらいに。それまで「可愛い」の一言は心の中だけに留めておくから…』 そうして今日が終わる。 それぞれの思いを明日に込めて――― END☆ |