願い叶いし時・・・



















「ん・・・・もう、あさ?」

閉じた瞼に光が当たってるのが分かる。
あたしは重い瞼を無理矢理開く。
焦点の合わない瞳がぼんやりと朝日にきらきらと輝く糸を映し出す。

綺麗・・・・なにこれ・・・

掴もうとするが体が自由に動かない。
あれ? 体がだるい?  なんで・・・?


「起きたのか?まだ寝てても良いぞ?」

低い男の声。
そしてあたしの髪を優しく梳く大きな手。

気持ちいい・・・・って・・・え?

眠気が吹っ飛ぶ。
焦点を合わせれば、目の前にあるのは糸ではなく、朝日に反射する彼の金髪と素肌が晒された広い胸。
頭がはっきりすると、シーツが直接素肌に触れているのが分かる。
・・・・それから彼の温かい体温も。
あたし、服着てない?


ゆっくりと視線を上に上げていけば、自分の片腕を枕にしてこちらを優しく見つめる青年の顔。


「がっ ガウリイ!?」

「起きちまったか・・おはよう。リナ。」

少し残念そうに言って、髪を梳いていた手であたしの頬を撫でる。
ちょっとだけ身じろぎすると、あたしの体に鈍い痛みが奔る。

なにこれ・・・ズキズキする・・・あたし怪我なんかしてな・・・・・・・あ!?

・・・・そうだ・・・・・昨日 あたし・・・・・・ガウリイと・・・

かあああああああ・・・・/////////




顔に血が上っていくのが自分でもはっきりと分かる。
どうしてあたしが裸なのかも、隣にガウリイがいるのかも、全て分かった・・・・

うわわわわっ 恥ずかしいっっ!!
とてもじゃないけど顔合わせられないっっ!!!

あたしは体ごとガウリイに背を向け、ずりずりとベットの縁の移動する。

あたしとガウリイの間に隙間が出来て冷たい外気が入り込んでスウスウする。


「なんだよリナ。寒いだろ?」

ガウリイがあたしの腰を攫ってまた自分の胸に引き戻す。
あたしの素肌に触れる彼。

「うきゃぁぁっ!放せ〜!!!」

あたしの抵抗虚しく、ガウリイに後ろから抱き締められる。

「リナ・・・」

耳元で聞こえるガウリイの声にぴくん、と体が反応してしまう。


「・・・・・お前・・・後悔しているのか?」

少し固い声。
・・・・・・・・・・ばか。

「・・・・・・後悔するくらいなら始めっからこんな事はしないわ。
 ・・・ただ、ちょっと恥ずかしいだけ。」

「そうか・・・」

ガウリイの体から力が抜けていくのが分かる。
あたしは思い切ってガウリイの方に寝返る。

「・・・・?・・・・あんた眠らなかったの?」

よく見ると、ガウリイの瞳が赤い。

「リナが・・・」

「え?あたしそんなに寝相悪かった?」

「違うよ」

あたしの髪を愛おしむように梳き始める。

「リナが・・消えちまいそうで・・・これが夢だったらって・・・」

「バカね。消えたりしないわよ。もちろん夢でもね。」

「今でも幸せすぎて夢心地なんだ。」


ガウリイはあたしの髪の一房を取り、それに口づける。
なんか・・・普通のキスより恥ずかしいかも・・・

「それに・・・」

彼が髪から唇を離し、再び言葉を紡ぐ。

「やっぱり寝相?」

「違うって・・・リナの寝顔があんまり可愛くってなぁ。
 寝ちまうのが勿体なくてさ。」

「ばか」

シーツをひっぱて赤い顔を隠す。
ふと自分の体を見れば、至る所についた赤い刻印。
ガウリイのものだという確かな紅の印。

「可愛いなぁ・・リナは」

シーツをめくり、ガウリイがあたしを覗き込む。

「う゛ーーーみゃう!」

ガウリイに耳をぺろりと嘗められ思わず変な声を上げてしまう。
悪戯っぽそうな蒼い瞳があたしを見つめる。


「リナは耳も弱いよなぁ〜」
「・・・・
ばか

ちっちゃい声で言ってやる。
くすっと笑ってガウリイがあたしの首筋に顔を埋めてくる。
ガウリイのさらさらの金髪があたしの素肌に触れる。

「くすぐったいよぉ」

首筋に頬に瞼に小鳥が啄むようにキスの雨を降らせてくる。
ガウリイのキスは、自分でも気付かない内に強張らせていた体からゆっくりと力を抜き取ってくれた。
そして少しずつ彼に委ねていく。・・・心も・・・体も、全て。




「ホント可愛いなぁ。お前さんは・・・」

ガウリイがきゅっと抱き締める。




「ガウリイは・・・・」
「うん?」
「ガウリイは・・・・あたしを抱いたこと、後悔してない?」

彼の温かい体温が心地良い。
この腕の中にいると今までの大事件が嘘のよう。
でもあたしはこの腕に守られてきた。ずっと・・・・

だからこれ以上望むのは贅沢だって思ってた。
こんな日が来るなんて・・・


「後悔なんかしてないぞ?ずっと望んできたことなんだから。」

耳元で囁く彼の低い声も心地良い。
彼の想いが籠もった言葉だからこそ、こんなに心地良く聞こえるのかもしれない。
でもあたしからそんな事は恥ずかしくて言えないから、ガウリイの言葉のあらを拾う。
素直じゃないあたしの言葉をちゃんと受け止めてくれるって知ってるから・・・・

「ずっとそんな事考えてたの?えっちっ!」

「オレだって男だからなぁ」

「散々子供扱いしてきたくせに〜」

ちょっと拗ねてみる。
好きな男に『子供扱い』されてあたしがどんなに傷ついたか知ってんのかしら?

「お前だってオレのこと男として見てなかったろ?」

「そんなことないわよ。」

「オレだってそんな事ないぞ。リナが欲しくて・・・でも『子供』って言葉で自分を戒めて・・・。リナがオレを受け入れてくれるまでは、ってずっと待ってたんだからな。」

「なによぉ・・やっぱり子供扱いじゃない。このロリコンおやぢ!」

「こら! 誰がおやぢだっ」

ガウリイがじゃれてあたしの上に覆い被さる。

「重いーーっ!」

あたしは上に乗っかっている金色のオオカミをどかそうともがく。

「リナ」

彼の優しい声で抵抗を止める。
この人があたしの名前を呼ぶ声・・・大好き。


「リナ 愛してる。」

あたしの指に自分の指を絡め、あたしの紅い瞳に自分の蒼い瞳を絡めて、偽りのない言葉をくれる。

それに応えようとあたしも少しの勇気をだす。




「・・・
あたしも・・・・・・スキだよ・・・」

蚊の鳴くような小声でもちゃんと伝わったようだ。
ガウリイの顔に満面の笑みが浮かぶ。

言の葉と瞳の交差を合図に、あたし達はもう何度目になるか分からない・・・・
だけど、今の想いを込めたたった一度だけのキスを交わし合った。











「もう少しここにいような。」

「えっ・・・・それって・・・・?」

「ゆっくりと今までの清算をしようじゃないか」

「えっ?・・・・・だって、昨日散々したじゃない!」

「オレ、体力には自信あるから。それにリナは途中で気絶しちまったし」

「・・・・・・えっと・・・分割ってのは?」

「却下」

「じゃぁ・・・・あんっ・・・ちょっ 待っ・ん・・」

「ちなみに今からのが今までの分。これからのは後日改めてな」

「それじゃ休む暇も・・・んっ」

「大丈夫だって。足腰立たなくなったらオレが抱いて運んでやるよ。」

「ちょっ・・・やぁ だめぇぇぇ」










もしかしてとんでもない奴に捕まったのかもしれない・・・・・

3日目の朝、まだ同じベットの上で疲れ果てた体を彼の太い腕に包まれながら、ふと、そんなことを思った。











おしまい。