祝 福 の 後 に |
甘い声と熱い吐息が治まった室内。 余韻を味わうように二人で身体を寄せ合い、男の金髪と少女の栗色の髪が互いに混じり合う。 月光が照らし出す色は暗い闇に浮かび上がるような朱金――― 男はその色に瞳を細め、嬉しそうに口元を綻ばせる。 手を伸ばし、2色の髪を掬えば指の間からこぼれ落ちてゆく。 「鬱陶しい髪よね〜」 ガウリイの胸をくすぐる吐息は、呆れるように呟いた。 「そうか?」 軽く首を傾げ、もう一度掬う。 今度は幾筋か引っかかり、彼はそれを零すまいと握りしめる。 「そうよ」 リナはガウリイの方に手を伸ばし、愚痴のように零す。 「前髪なんか片目隠してるし、あたしより長い…しかも男のくせに綺麗〜」 彼女が言葉を紡ぎながら、その場所の髪に触れていく。 「だんだん憎たらしくなってきたわ」 拗ねたように口を尖らせると、髪を強く引っ張る。 「リナ、痛いぞ」 「だってぇ〜〜〜」 ぷぅ。と頬を膨らせてみせる。 「男が長くて何が良いのよ」 「リナは嫌いか?」 「別に、嫌いじゃないけど…どうせ、ただほっぽってただけでこーなったんでしょ?あたしは結構、気ぃ使ってんのよ」 確かに、リナの言うとおりだったが。 「オレ、今の自分の髪、結構気に入ってるんだ」 「女装は地毛でイけるモンね」 「おいぉぃ……」 話の腰を折られて、苦笑する。 リナに目をやれば、小悪魔のような笑みを浮かべていた。 「他にあるの?」 「お前なぁ〜」 ガウリイは先ほど手に絡めた2色の髪をリナの前に差し出す。 「何よ…比較してまで自慢したいわけ?」 「違うって。ほら…」 月光にかざす……と、混じり合った髪が朱金に変わる。 「な、綺麗だろ?」 「………うん」 「短かったら、リナの髪と絡めないし、この色じゃなきゃリナの髪を飾れない」 「アンタ以外の長髪で金髪は?」 「不許可」 即座に返すガウリイが可笑しくて、思わず笑みが漏れる。 心外とばかりにリナを深く抱き寄せる。 「当たり前だ。お前誰にも渡さない」 「あの時は、アンタだけには死んでも渡すもんかと思ったんだけどね」 すっとぼけたリナの口調ですら、ガウリイの肩が震える。 「…すまん」 「謝るなら始めっからやらないでよ」 「………………」 「反省した?後悔した?」 「反省はしたさ。あんなやり方でしか長年の想いを伝えられなかったんだから。 けど、後悔はしなかったな。リナを初めに手に入れたのがオレだったから。どんな罰でも受ける覚悟はあったから」 「ふ〜ん…。あたしの罰も予想済みだった?」 ガウリイは思い出して、苦笑いをする。 「アレは予想外だった…地獄の生殺しだったよ」 「ホントは短期決戦だったのよ。あの朝…アンタの顔を見て、"さよなら"を言うつもり…」 さよならと、リナの口から出た瞬間、ガウリイはリナの身体を強く抱き締める。 「つもりだった、って言ったのよ?」 「ああ…」 「それでも嫌なの?」 「ああ」 顎に手を掛け、キスを贈る。甘く切ない触れるだけのキス。 「これで騙されちゃったのよね」 ほんのりと頬を赤く染めながらぼやく。 「うん?」 「精一杯の勇気掻き集めて、アンタに"さよなら"を……んっ…」 繰り返した禁句は強引なキスで行き場をなくす。 舌が回らなくなるくらい激しいキス。 執拗に舌を絡めてくる… 「………ばか。そーや…って…直ぐ…誤魔化すんだから」 ガウリイはそれだけでは飽きたらず、リナの細い首筋に顔を埋め、ひときわ鮮やかな華を一枚散らす。 「リナ。続けてくれよ」 しっかりと放さないように抱き締め、近距離からリナを射抜く。 「もぅ…悪戯しないでよ?で、言おうとしたらアンタがいきなりキスして、なけなしの勇気まで吸い取られちゃった。その日の夜も。次の朝も。あたしね。アンタがあたしを襲ったの、正直言って衝動的なものだと思ったわ。許せなかった…憎んだわ。けど、キスをくれるたび……自惚れてきたのよねぇ〜『ガウリイはあたしが好きなんだ』って。だから、お仕置きを思いついたの。アンタが我慢できなくなるまで。言葉をくれるまで――…」 「オレのキス、お前に伝わってたんだな」 柔らかい前髪を掻き上げ、リナの顔にキスの雨を降らせる。 頬に。おでこに。くすぐったそうに閉じられた瞼に―― 「オレ、こーゆーのくせになりそう」 「え?」 「リナとぬくもりを分かち合うってやつ」 二人の素肌に、相手の熱が伝わる。 昨日までは考えられなかった情景。 「これからはずっと一部屋にしような」 「やーよっ」 「お前さん、寒がりだろ?これからの厳しい冬は最高じゃないか?」 「ダ〜メ。ガウリイとこれからもずぅぅっと一部屋になったら盗賊いぢめが出来なくなるじゃない」 「変わんないなぁ…お前さんは」 「ふんっ 変わってたまるもんですか」 「そうだな。変わらなくても良いよ。オレは無鉄砲で意地っ張りなリナに魅せられちまったから」 「ケンカ売っての…アンタ…」 「良い意味で言ったんだけどな。まぁ、オレは言葉は苦手だから。 想いを伝える為に、ここは一つ、実演とするか」 ジト目で睨むリナをそっと自分の胸に抱き寄せ―― そのまま下に組み敷く。 「で…この体制はなんなの……?」 ジト目から引きつった顔へと変貌したリナに、にっこりと微笑む。 「もちろん………愛の実演講習」 リナは呆れたように、けれど恥ずかしそうに瞳を潤ませながらも、そっとガウリイの首に自分の腕を絡めた。 「もう…体力バカくらげ。……手加減してよね?」 そして夜は更けてゆく。 満月は柔らかく輝き続け二人を見守っていた。 |