greeting
―Love ゲーム―


















「スキだよ。ガウリイ・・・誰よりも。あなたが」

「リナ…?・・・・・・・・・・・お前・・・・何言って・・・・・・・・・・?」

それぞれの時間を過ごす、ここは宿屋に備え付けの酒場。
他の雑音に掻き消されないように、相手の目をじっと見据えて言う。
言われた相手――ガウリイは驚愕の表情。
そして、そのまま困惑顔で押し黙ってしまう。




―――あたしの負け――か・・・。


「なーーんてね。冗談よ。ビックリした?」
「お…おいおい。そっかぁ、そーだよなぁ。変なからかい方するなよ」

心底ほっとした表情で納得する彼とは裏腹に、あたしの胸が悲鳴を上げる。
けど、あたしはそれを表に出すことなく微笑んだ。

「ごめんね。ヘンな事言って。・・・・あたし、なんか疲れたからそろそろ寝るわ。 さよなら…ガウリイ」
「え?今日は早いんだな。あ、盗賊いびりに行かずにちゃんと寝るんだぞ!」
「うん。じゃあね――・・・・」
「ああ…お休み」





―――賭けを、したの。
自分の人生を左右する人生ゲームを。

ガウリイがあたしを女として見てくれるなら、……首を縦でも、横でもいいから、振ってくれたら、返事をくれたなら、このまま傍にいようって。

それが、勝つための条件。

そして、そのどちらでもない。
子供として、彼の恋愛対象に入っていない曖昧な返事なら、あたしは消える。

それが賭けの負けを意味する。

そして、あたしはあっけなく賭けに破れた―――・・・・



ここの宿泊費は前払いしてあるし、ガウリイはもう少し酒場に居るはず。
あたしはこのままドロン。
部屋には、既に荷造りされた荷物が静かにあたしを待っていた。


分かってはいた。
ダメで元々だって。

ただ、ハッキリとさせたかった。
ウジウジと悩んでいるのはもう沢山。
アイツの一挙一動に胸を焦がすのも、
アイツの『子供扱い』という言葉に胸を引き裂かれるのも。

だから、あたしは答えが欲しかった。
そして、答えが出たから、・・・・あたしはリタイアするの。
彼への想いを。
彼に最も近いあたしの在処を。
誰に強要されたワケじゃない。まして、ガウリイに言われたワケでもない。
言ってくれないからこそ、辛いんだ。
子供扱いしたと思えば、思わせぶりな仕草・・・・
あたしはどっちを信じればいい?
分からない。
思考が麻痺していく・・・・。
でも、『別れ』は自分の意志。
自分から、手放すんだ。


窓から浮遊の術でそっと出ると、酒場からはざわめきとアルコールの芳香。
あたしはそれら全てに背を向け、街灯の灯りさえ届かぬ闇へとゆっくり歩き出した。
















「ふあ〜〜・・やっぱ夜通し歩きっぱなしってのはキツイわ」


独り言をぼやきながら、小川で顔を洗う。
街道が川に沿って奔ってるから、土手を降りるだけで面前に広がるのは川。
あたしは、水量が減った川に顔や手足を冷やしている。
夏も間近だからといって、水は決して温かくない。
それでも、涙で腫れた瞼と、歩き疲れた足にとっては最高だった。

一休み。
ふ・・・と、力を抜いて、土手に仰向けに倒れる。
否応なく映る空。
映った蒼には陰りがなく晴天だった。
アイツを彷彿とさせて嫌な天気・・・だけど、気持ちいい。

少しだけ、ほんの少しだけ休ませて。
あいつの瞳に似た蒼穹と、あいつの気配に似た温かいお日様の下で――・・・

夜は眠る気などしなかったが、日の光と熱があたしの緊張を解いてしまい、眠気と気怠さがあたしを包み、意識を失うようにと誘う。
あたしはそれに委ねると、あっという間に引き込まれていった・・・・・











「う・・・・ん・・・」



影が差している。

もう日暮れなの・・・?
起きなきゃ。次の町に着けなくなっちゃう。

渋る瞼を無理矢理開けると、目の前に広がるのは金の海。
それが、まだ高度が高い太陽の光を遮って、輝いていた。
そして・・・・・・・・・
海の中には、蒼穹の双眸。
あたしを映したそれが、嬉しそうに細められる。
「起きたか・・おはよう、リナ」
「な・・・・・・んで・・・・・・」
あたしの上に覆い被さり、あたしの耳の横に両手をついた状態で挨拶をしてきたのは・・・・ここには居ないはずの彼。

・・・・ガウリイ・・・・・だった。

天空にはまだ太陽が輝いているのに、ガウリイが太陽にとって代わったように眩しいくらいの笑顔を見せる。

「なんでって言われてもな。『お休み』っていったら、『おはよう』がなくちゃダメだろ?」

「・・・・・・『さよなら』に続く言葉はないわ」


そうか。追ってきたんだ。
考えてみれば、それほど予想するのは難しくない。
可能性としては十分考えられた。
この底抜けのお人好しにしてみれば被保護者が消えて放っておけるわけがないのだ。
あたしがそれに気付かなかったのは・・・・気付きたくなかったから?
自分で自分を騙して、ガウリイが追ってくるという可能性を残して置いたの?
それじゃ、賭けはイカサマよ。その賭けに負けはない。
あたしが無意識に自作自演しているなら・・

すると、太陽の笑みが消え、月の静かな静寂を宿した瞳に変わる。
空に・・・太陽に、月に、それぞれを象徴するモノが彼の中にある。
澄んでいて、生粋で混じり気のない蒼の双眸に静かな意志の力が宿る。

「『さよなら』に続く言葉はあるぜ。それが、オレに向かってリナが言った言葉ならな。その言葉の続きは、『嫌だ、別れたくない』・・・かな。どんな単語を用いても、否定と拒絶しかないけどな」
「どうして――・・・」
「どうして?それはオレの方が聞きたいな。どうしてオレを置いていった?それと、あの言葉の真意もな」

あの言葉・・・?

『スキダヨ、がうりい・・・』

あれ・・・か。

本当よ。悔しいけどね。
あれは、あたしの精一杯の勇気。
人生を賭けた酔狂極まりない大勝負よ。

でも、このまま彼に真実を告げれば、どうなる?
もし、偽るなら、どうなる?
彼への想いと在処、どちらを選ぶ?

あたしは・・・どっちが欲しい?

「あたしは・・・・」
「いや・・・」

考えが纏まらないまま口に出した言葉が、ガウリイに遮られる。

「悪い。リナにばっかり問い詰めてるな。自分を棚に上げておくのは卑怯だよな。リナ、オレの話を聞いてくれるか?」

言葉にならない想いを飲み込んだまま、小さく頷く。
それを見たガウリイは柔らかく微笑み、あたしの頬に手を添えた。

「オレは臆病だから。ずっと先延ばしにしていたんだ。
 もう少しなら、いいかって。今の関係が心地よかったから。・・・そりゃ、辛いときもあったけどな。変わりたかったけど、変わりたくなかったから」

臆病?辛い?変わりたい?ガウリイが??????

「でもな、部屋に戻ろうとしたらリナの気配がしなくて。部屋は蛻の殻で・・・・その時になって初めて後悔した。リナに何一つ言えなかった事が。だから、追ってきた。迷惑・・・・だったか?」

首を横に振る。
ガウリイはホッとしたみたい。
僅かに笑みを浮かべ、すぐに真顔に戻る。

「ちゃんと言うよ。オレはリナが好きだ。誰よりも。だから親愛でもいい。冗談でもいい。リナが好きだって言ってくれて嬉しかった」

蒼に瞳に射抜かれたあたしの目が見開かれる。
頬に添えられた手が優しく撫でる。

「お前の事は途中から子供扱いなんかしてない。でも保護者はある意味本当だった。オレはリナを守りたい。誰からも。オレの薄汚い欲望からだって、守ってやりたかった」


『オレはお前の保護者だから』


それはあたしを傷付ける刃だった。
その度に刃向かって、その言葉を取り消そうとした。
ガウリイは一度も取り消してくれたことはなかったけど。
けれどあたしは・・・・その言葉に今まで守られてきたんだ・・・・
それが分からなかったあたしは、確かに『子供』。

あたしは、そっと頬に添えられたガウリイの手に自分の手を重ねる。

「・・・・・親愛でも、冗談でもない」

口から滑り出した真実。
あたしが欲しいモノは、想いと在処、その両方よ。
選べないなら、両方とも貰うまで。
そうよ。何、乙女チックな思考回路してんのよ。
これがあたし、リナ=インバース。
そして、そのあたしが惹かれたのは頭にバカが付くくらいのお人好し、
ガウリイ=ガブリエフ。
失う必要なんか何一つない。
なんてったって、コイツはあたしの所有物じゃない。
イカサマだろーが、なんだろーが賭けは賭け。
あたしの勝ちが決まってた、ね。


「リナ・・・・」

そっとガウリイの顔が近づいてきて、金髪があたしの頬を掠めていく。
このままなら、唇と唇が・・・・って展開なんだろーけど、
ふふ〜ん・・・・あまーーい。

「と、言いたいんだけど、
 あたし、結婚するなら玉の輿って決めてるのよね〜〜」

雰囲気に酔っていたガウリイの進行がぴたっと止まる。

「と、言うことで悪いんだけど、いまの、保留ね」
「んなのアリかぁぁっっっ!?!?!?」

よほど期待していたのだろう。
涙目で絶叫したかと思うと、今度は果てたようにガックリと脱力する。

「ま、あたしの魅力に気付かないバカ王子どもしか居なかったら、アンタを栄えあるあたしの恋人候補に入れといてあげるわ」

はぁ、とため息を吐くガウリイ。
そして、いつものようにわしわしっとあたしの頭を撫でる。

「あんまり待たせるなよ」
「さぁってね〜」

そらっとぼけてやる。
そう、あたしがあんなに悩んだお礼はちぁんとお返ししなきゃね。
今度はガウリイがあたしの一挙一動に悩まされる番よ。
あたしはもう悩まないから。
賭けは、何時だってあたしの思い道りになるはず。
ならないなら、ならせるだけの事。
他の女なんかに構っていられないほど、手を焼かせて、焦らせてやる。
そう、あたしがあんたの傍に居る限りはね。

「んじゃ、次の町に行ってみようか」

差し伸ばされた手を取って、起き上がる。
この分なら、日暮れまでには町に着ける。






「なあ、確認しとくけど、オレ、もう『子供扱い』はしないからな」

そうガウリイが言ってきたのは、やっと目的の町が見えてきた頃のコト。

「とーぜんよ」

このあたしを捕まえて『おこちゃま』などとほざいた日には、本物のクラゲと共同生活して貰う。
と、何故かあたしの言葉に満足げに頷くガウリイ。

「よしよし。じゃ、恋人候補からの格上げを目指しますか」
「ま、精々ガンバってね」

あたしの言葉ににんまりと笑うガウリイに、なんか引っかかるモノを覚えつつも、彼の前を歩き出す。



「それじゃ、保護者のオレにはちょっと目をつぶって貰って、早速今夜は夜這いといきますか」
「ん?なんか言った?」

振り返って、仰ぎ見たガウリイの顔は晴れ晴れしていて、あたしはなんの危機感も感じず、首を傾げて再び町を目指した。

今度はあたしがいつまで持ち堪えられるかって、賭けをしようかな。
初夏の陽気漂う昼下がりを二人で歩きながら、あたしはふと、そんなことを考えていた。













程なくして、賭けの期間を設ける前にそれは終わる。
何故かって?

・・・・・・・・・。
・・・・・・・ガウリイが思っていたより、お手つきが早かったのよっ
くそぉぉぉぉっっっこれからもずっとずぅぅぅぅぅぅぅっっっっと扱き使ってやるんだからっっ!!!

だから、

「お休み。また、明日」

一つのベットを分かち合って、眠りにつく前の『あいさつ』。
が、あっさりと交わされ、まだ当分夜更かしする模様。

この調子だと、きっと、明日のお昼に『おはよう』がくる。
それでも、あたし達の挨拶が切れることはない。


これからも、ずっと。






〜END〜