Forever You





















「…ガウリイってさ。時々あたしのコト、不思議な瞳で見るわよね?」

「へ?」

町から町へ移動している街道の途中で、くるりと振り向きざまにそう言ったのは、ここ数年来、旅を共にしている少女。
その動作でふわりと髪が靡く。

あの髪、触り心地がイイんだよな…。

「ほら、また…!」


その言葉に驚いてリナの瞳を見つめ返すと、彼女は眉を顰めてこちらを見ていた。

その紅い大きな瞳。
これを潤ませたらどんなに相手を煽るのだろう。


…ふとした疑問に何故かもやもやする自分。


「なんか…変な感じだな…」


妙に神妙な面持ちで呟くとリナがぱちくりと瞳を瞬かせ、そして大きく頷いた。


「で、でしょ!! そのアンタの見つめ方!!絶対変よ!」


言葉の真意を取り違えたリナ。
違うぞ。
オレが言いたいのは、近い将来お前の前に現れるかもしれない男がオレの知らない
お前さんを見たり、知ったり、感じたりすること。

リナの瞳の奥にある強い意志が流される瞬間とか。
リナの魔道士姿に包まれた肌とか。
リナの寝顔やオレも知らないキスの仕方や甘い声。

そんなモノがオレじゃない相手から引き出されるかもしれないなんて。

冗談じゃねぇ…。
ンな事されたら、速攻でそいつを斬り殺す。


……??????あ、あれ????


「な、なぁ、リナ。一つ聞いてもいいか?」

「んー?何よ。珍しいわね〜」


焦り気味に『分からないコトはなんでもリナに訊く』習性が身に付いてしまったのか、思わず切り出してしまう自分。
リナは何事かと興味津々に見上げてきた。

「えっと、な。……その……」
「歯切れ悪いわね?そんなに重要なコトなの?」
「重要に決まってる!」

少なくともオレは、だが。
ウンウンと唸りながら熟考するオレにリナは苦笑してオレの隣に並んだ。


「ほらほら。悩めるガウリイ君。このリナちゃんが相談に乗ってあげるから、分かる範囲で言ってみ?」

悪戯っぽい目で問うリナに不意に動機が激しくなる。
なんでコイツの瞳って、こんなに色っぽいんだ?

って、ただのドングリ目じゃないか……。


どきどきどき。
ばくばくばく。

…ふ、不動脈だったっけ? オレ……

なんとか動悸を整えて平然を装うと、それとなく視線を宙に漂わせて切り出す。


「まず、ほっとけないヤツが居て、だなぁ〜」
「ふむふむ」

「そのほっとけないヤツに居もしない恋人を想像して、だな」
「うみゅうみゅ」

「………腹ン中煮えくりかえるほどムカツクってーのは、どんな感情だと思う?」

「うーん…。単純な答えとしては1つしかないけど、枝分かれして3つくらい思いつくわ」


腕組みをして虚空を睨むリナを横目にしてオレは目で答えを促す。

「まずそれは感情で言うと『相手を独り占めしていたい』の独占欲ってヤツね。そんでもって、理由は様々。父親みたいに家の可愛い娘はやらんぞー、とか。 子供の頃にあったような『仲のいい子が別の子と一緒にいるのは嫌!』とか。 あとは…純粋にその人の事が好きだから、『コレは自分のだ』とか…かしら?」

リナが指折りで数え、最後の三本目を出し終えた頃、
オレの中のもやもやが一層濃くなったような気がした。


「……でもそいつはな、ずっと一緒にいて…。そう、家族みたいなモノでな…」

「だったら一番目のヤツにモロ的中じゃない?」

「でも、血は繋がってないし!第一、そんなに不自然な年の違いでもない」

「なら、二つ目のヤツで決まりじゃない?」

「それも違う。そんな生やさしいモンじゃない」


「じゃ、3つ目ー」

「…………」

投げやりに言うリナに少しムッとする。
真剣に考えてくれよ?
これはお前のためでもあるんだぞ?


「ずっと、子供だと思ってたのに、急に――か?」


リナを精一杯真摯に見つめながら問うても、彼女は前を向いたままこちらを見ようとはしない。
届いていない、オレの想い。

不意にリナがこちらを向き、「またヘンな目で見てたでしょ?」と小さく漏らしてから真剣な顔で応える。


「子供はやがて成長するわ。育ったその子は旅をしたり、どっかで美味しいモノを食べたり、
 自分を愛し、愛される人と巡り会うかもしれないでしょ?」

「…じゃ、子供の隣に居たヤツはどうなる?お払い箱か?」

「それはその人とその子次第でしょ。別れるも、見守ってきたその人と共に一生を生きるのも」

肩を竦めてみせるリナにすら苛立ってくる。
ずっと見つめてきたのに、最後は使い捨ての駒みたいに捨てられるかもしれないって言うのか?

この命かけても惜しくない、そんな大事な相手なのに。
彼女はオレのことを愛しくは思ってくれないのか?
オレはこんなにも…………


いつの間にか胸のもやもやが晴れ、ひっそりと現れたのは………壊れやすいガラス細工のような想いの結晶。

見てくれ、オレの事を。
知ってくれ、オレの想いを。
感じてくれ、オレの深さを。

オレはお前しか愛せない。
オレはお前としか共に生きられない。



「ま、マジかよ〜〜〜〜〜っっ」

唐突に頭を抱えるオレ。
そりゃーそうだろう。
今の今までガキだぺちゃぱいだと思ってきたのに、気付いてみれば虜になっていた。

オレは自分でも知らず知らずのうちにリナに呼びかけてた。

リナに気付いてほしくて。
リナにオレを想ってほしくて。


少し赤らんだ顔を隠すように口もとに手を当てる。
辿り着いた答えがコレなんて………どーすりゃいいんだ………オレ…。


「ま、何考えてたのか知らないけど、悩み過ぎるとハゲるわよ?」
「おいっ」

けらけらと笑うリナ。

少しだけ意地悪をしたくなって、叱咤すると同時にリナの小さな体を抱き込んでやった。
少女特有の甘い芳香が鼻をくすぐり、艶やかで柔らかい髪の中に手を入れてわしわしと感触を楽しんでみる。

そして一頻り満足した後、弾力のある瑞々しい頬を両手で包み込む。
すべすべして気持ちいい。


「な、ななななななななっっ!?!?!?」

顔を紅して戸惑うリナが可愛くて、口から言葉が滑り出た。


「オレ…お前の事………」



そこまで言って、はっと正気に返る。

……もし、リナがそんな風に想ってくれていなかったら?
言った後、微笑んでくれなかったら?

最悪、ここで別れるようなことになったら――――?


―――その時、オレはどうすればいい?

……………。

考えを改めて、後の言葉を飲み込む。

まだ、もう少しだけ。
ちゃんと手応えがあるまで、このままで一緒にいよう。

その代わり、オレ以外の男など見つめさせないから。
お前だけを想って耐えるから。

オレがさっきの続きを言ったその後に、お前さんが微笑んで頷いてくれるように。
ずっと、リナだけを想うから。



だから―――――

目を白黒させるリナににぃ、っと意地悪く笑う。


「可愛いくてたまらんなぁ。キスしていいか?」


まずは、男として認識させる。
そこから始めよう。




……やれやれ。
オレの欲求が満たされるまで先は長そうだ。

まぁ、これはこれはで楽しいからイイかもな♪


「あ…で……でぃ……」
「あで?」

真っ赤でホントにキスしたいくらい可愛いリナの姿。
今誓ったばっかりなのに…理性切れそう…。

二人の距離を縮めると、リナが叫ぶのは同時だった。



「でぃるぶらんどーーーー!!!!!!!」



どごしゃぁぁぁああっっっ!!



こうして、オレの野望は早くも挫折したのだった……。

早く復活してリナの所に戻らないとな。
何処でどんな男に目ぇつけられるか分かったもんじゃない。


その、ちまっこくて真っ赤になって『馬鹿にすんじゃないわよーーーっっ!!!』って絶叫してる女はオレのだからな!!
売約済みってヤツだ。

誰も…手ぇだすなよっっ!!



















   *  *  *   お・ま・け♪




「ばぁ〜か。あの視線に気付かない乙女なんていないわよ」

ぺろっと舌を出す少女。
何度も振りかえさせられた、彼からの視線。

言葉に出さなくたって伝わってくる。
言葉に出来ない想いならそれでも良かった。

けれど……

「甘い、甘いわよ」

くすくすと微笑むリナは空高く舞い上がった男の姿を捕らえる。

鈍感クラゲの事などお見通しなのだ。
それを確かなものとして感じられるまでどれだけ心を砕いたことか。
彼の言動に一つ一つ悩まされて、苦しめられて。
思いを募らせては、溜息をついた。
だから―――少しくらい、仕返ししてやりたい。

胸の奥にあるなら、大事にしまって置かないで吐き出して。
伝えきれないのなら、伝えきるまで話してみて。



全部、受け止められる自信はあるから。

ずっと耳を傾けて、聞いていたいから―――








  *  *  *




オレは当然その言葉を聞くことなど出来ず、もう暫くは欲望と理性の葛藤が続くようだった。






…合掌。







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これはとあるお方へのお礼(お目汚し)のために書いた駄文。
これもホントはサイトのアップする予定じゃなかったのですが…
なんとなく、メールを整理していたら出てきたので、コレを機に掲載しておこうかな〜。ということで。
ちなみに、暫定な更新なので、飛鳥の気分によっては今後撤去されるやもしれません。(あくまでお礼の品というか贈り物なので)