永遠ガ消エル日
ズット・・・続クト思ッテタ・・・・・


















永遠に続くと思ってた。
オレの傍にはリナがいて、リナの傍にはオレがいる。
ずっと、あの紅の瞳がオレを映して、
ずっと、あの声がオレの名を呼んで、
ずっと、あの光がオレを照らしてくれて。
ずっとずっと。
変わらずにずっと。
ずっと続くと思ってた―――・・・










「リナ=インバースよ。我と契約せぬか?更なる力を欲せぬか?」
「・・・・・・・・・・・・・」

オレは静かに剣を抜き放つ。
彼女の答えなど聞かずとも手に取るように解るから。
ただ彼女が闘い易いようにすればいい。
オレとリナの、暗黙の了解。

リナもそれが解っているのか、不適な笑みを持って相手と対峙する。


「答えはNOよ。あたし、終わりのないゲーム(人生)って嫌いなの」

リナらしい答え。
どんな時もリナはリナ。
リナ=インバース。
紅玉の瞳も、華奢な体も、跳ねる髪も、強大な魔力も
その身に降り掛かる災いさえも。
リナがリナである死の紋章(エンブレム)




「そうか・・・・・」

突然降ってきた厄災は闇色のドレスを纏った闇色の女体。
嘆息混じりに呟くと、生粋の闇の手を翳す。

何も起こらなかった。
少なくとも、オレ自信には――

けれど………

リナの肩が一瞬震え・・・・そして・・瞳が急速に力を失ってゆく――


「戦わずして滅びゆく者とは、なんと哀れなものかな――・・・・・・」


その響きが空間に吸い込まれる前に、リナの体が揺らぐ。

「リナ・・・・・・リ・・リナぁぁ!!!」

「・・・・ガ、ウリ・・」

彼女自信、何が起こっているのか解らないようにオレを見つめ、こちらに手を伸ばす。
守る剣を捨て、力をなくし地面に崩れ落ちそうになる所を寸でで抱き留めるも、その身体には既に死の予兆が顕れていた。

彼女の紫色に変色した唇が震えを刻み続ける。
その唇が紅を取り戻したのは・・・・・・
喉の奥から溢れた鮮血が鮮やかに染めあげることによって。

「リナっ…リナリナぁぁぁっっ」

狂ったように彼女の名を連呼する。
彼女の顔からは汗が噴き出し、全身が痙攣し始める。


「もはや、それは滅び行くだけの人形。・・・・・のぉ、盾になることさえ叶わぬ弱者よ。今度は汝に問おう。我と契約せぬか?承諾の意あらば、汝が欲する力を与えよう――・・・」

「リナっリナぁっっ目を・・目を覚ましてくれ!!!」

「なんと美味な絶望と恐怖。これよこれ。死に逝く者への救われぬ叫び・・・
男よ。魔法は使えぬのだろう?助ける術を持たぬのだろう?
リナ=インバースを助けたいのだろう?ならば、我を受け入れよ」

「オレは――・・・・」

「さぁ・・・・・どうする?」

絶望の淵から闇の手が差し伸べられる。
この手を取れば・・・・・・リナは・・・・
誘われるままに手を伸ばしかけ――…


「立ちなさい。ガウリイ=ガブリエフ」

「・・・・リナ!?」

リナは光を失った瞳を隠すように、閉じたまま言葉を紡ぐ。
穏やかに、透明な響きを奏でて。

「立ち上がりなさい。ガウリイ=ガフリエフ」

それは、女神の力ある言葉。

「あたしは休むわ。目覚める為に・・・・」

それは、女神の休息。

「立ちなさい。人間として。
 生き続けなさい。あたしと再び出会う為に」

それは、女神の残酷な命令。

「敵は、アンタに任せるから。負けたら・・・承知しないんだからね」

そして・・・・リナの願い。

オレは答えず、頻りに頷く。
溢れ出た透明な涙は、幾筋も幾筋も頬を伝い、
幾粒もの透明な雫が彼女の手を、頬を、瞼を潤していく。

彼女の願い通り、震える手を握ったまま、オレは傍らの剣を握り締めた。

「そうか――・・汝も我に従わぬ・・・か。ならば、もはや用済みだな」

再び闇の手に闇玉が宿る。
それは消滅することなく放たれ、爆風がオレ達を引き離す。

オレは木の幹に叩きつけられたが、リナは・・・・!


「あ・・・あぁぁ・・・ああああああああ!!!!!!!」

近くに流れていた濁流に・・・・呑まれ、押し流され、消えていった。


「おやおや・・・これは失礼した。土葬を望みだったか?」

「き・・きさまぁぁあああ!!!!!!」

剣の柄から闇色が溢れだし、全てを切り裂く魔剣が低く唸る。
リナを護る為に彼女と見つけた、純魔族をも滅ぼせる伝説の剣。

「そ、それはっ…ブラストぉぉぉぉおおぉぐぎぁぁぁあああぁ…!!!」

断末魔を上げながら魔族が斬妖剣に貫かれ、呆気なく闇に還る。


その場に残ったモノは…抜き身の剣を握ったままのオレ、ただ一人。


全てを失った生きる屍が、ただ一つ・・・・・だけ。














透明な雫が血の色に染まる頃。
無性に笑いがこみ上げてきた。

「くっくっ・・・・くははははは・・・っくっくっくっくっ・・・・・
くはははははははははははははははは!!!!!!」

オレは狂乱したように笑い出す。

呆気ない・・・・
人間も、魔族も、心も、想いも、何もかも!!

何が護るだ・・・・・・何が傍にいるだ!
結局は失ったじゃないか!!!!

「・・・・っくぅ・・・・・」
嗚咽を喉で押し殺し、ソラを見上げる。




不意に甦る、あの頃の何気ないやりとり――


『なんかさ。空ってガウリイみたいよね』
『なんだ?それ?』
『遠くて、近くて、けど、どんな時だって在り続ける。
ふと、見上げたら、いてくれる。ずっとずっと、永遠に。
そんな気がするの。だから・・・かな?』
『よく分からん』
『かもね』

鮮やかに笑った少女は、記憶に彩られたまま、時に埋もれてゆく。


鮮やかに消えた少女。

弔いさえも、彼女には似合わない。

たとえば、夢幻のように、
たとえば、陽炎のように、

何一つ残さず消えていくんだ。




彼女に心を囚われた愚かなオレだけを残して。
















『あたしは休むわ。目覚める為に・・・』

リナらしい別れ。
どんな時もリナはリナ。
リナ=インバース。
濁った昏い紅玉の瞳も、土気色の頬も、瞼も、手も
その身に訪れた散り際さえも。
リナがリナである死の紋章。









『ガウリイ!いくわよ!』


記憶の中のリナは光の彼方へと歩き出す。
その先に広がる絶望の海へと。

どこまでも付いて行くよ。
いつまでも一緒にいるよ。
オレがオレで在るために。


「そうだな・・・・・・」

オレの前には、闇の手が差し伸べられていた。
果てしない絶望の道へと誘う手・・・・・・・
オレは迷わずその手を取る。

例え、それが絶望でしかないとしても。
例え、それが彼女が望む道ではないとしても。

オレは狂ってしまったから。


吐き気がする。
何もかも。
生を請う人間も。
滅びを望む魔族も。
彼女の言葉に逆らえず滅びを望む人間のオレも。

全て全て、消えてしまえばいい。











オレがオレで笑えるように。
幸せな永遠が続くと思ってた。
オレの傍にはリナがいて、リナの傍にはオレがいる。
ずっとずっと。
変わらずにずっと。
ずっと続くと思ってた―――・・・・













〜fin〜