無 題









いつもより遅く起きた朝。
あたしが宿の部屋のドアを開けた時、3人の話し合っている姿が目に入った。
「俺は別にあのままでもいいと思うけどな」
ポリポリと頬を掻きながらガウリイが言う。
「・・・いや、やはりもうちょっと・・・な」
ゼルガディスが腕を組んで椅子にそりかえる。
「そうですよ、もう方法はわかっていることですし。やりましょう」
お茶をすすりながらゼロスが言う。

さっきから何話してるんだろ・・・?
手すりに頬杖をついて様子をうかがう。
この店は2階が宿、1階が食堂となっている。
その食堂の端のテーブルでガウリイとゼルガディス、そしてゼロスが座っていた。
何話しているのか妙に真剣な顔で、ちょっと近づきにくい。
・・・もう少し様子みよ・・・・・
欠伸を噛み殺しながら、3人からは視覚となる一角に身を寄せ、聞き耳をたてる。
眠い。
明け方近くまでアメリアと馬鹿な話で盛り上がってしまったせいよ!
ちなみにアメリアは呼んでも、揺すっても、蹴っても起きなかったので、
あきらめて部屋に置いてきたんである。

「問題は誰が・・・だな」
ゼルがため息とともに言う。
「ガウリイさんじゃあないんですか?」
ニコニコとゼロス。
「俺かぁ?」
お茶を持つ手を止めてガウリイが困ったような声を出す。
チラリとガウリイに目を向けてから、あさっての方を見るゼル。
「・・・なんなら・・・俺がやってもいいが・・・」
「・・・・・!!」
ゼルが言葉にガウリイがやおら立ち上がる。
「どうする?」
意地の悪い笑みをうかべて、ガウリイを見るゼル。
ゼロスもニコニコとイタチ目を浮かべてガウリイを見つめている。
「・・・俺がやる」
憮然とつぶやくように言うガウリイ。
「よし、決まりだな」
ゼルが満足したようにお茶をすする。

だーっ!何が決まりだぁー!?さっぱりわからーん!!
あたしは、1階へ降りていくことに決めた。
「おはよー。真剣な顔してなんの話をしているの?」
盗み聞きしていたことなど露ほども感じさせず、さわやかな笑顔を浮かべて3人に近づいていく。
「よぉ、リナ。おはよーさん」
ガウリイが片手をあげて挨拶をよこす。
あたしも片手をあげる。
「んで、なんの話?」
気になってしょうがない。両手を腰にあてて笑顔で質問。
「何って・・・」
ガウリイが頬をポリポリかきながら、ゼルとゼロスの方をチラっと見る。
そして、あたしの方に向き直ると、人差し指をビッと立て、
「お前さんの胸が小さいってことについて、今後の対策を・・・」
「んなこと、真剣に話してるなぁ〜っ!!!」
スパコーン!!!
スリッパ攻撃にガウリイが撃沈。
んっとにもう。ほんっとにボケクラゲなんだから!!
「で、ゼル・・・ほんとは何の話を・・・」
振り返りながらゼルに問いかけようとしたが、テーブルにはゼロスしかいない。
・・・ゼル・・・テーブル移動して、他人のフリしてるし・・・

あたし達は隣の街へとやってきた。
ゼルは「少し用がある」と言ってアメリアと町に残り、
ゼロスも「ちょっとヤボ用が・・・」と姿を消した。
今は自称保護者のガウリイと2人だけなのである。
「ねぇ、ほんとに朝何を話してたの?」
気になってしつこく聞いてみたりする。
あの後、ゼルとゼロスに問い詰めたが、ゼルは「俺は知らん」の一点張り。
ゼロスは「それは、秘密です」を繰り返すばかりだった。
「・・・だから、お前さんの胸についてだってば」
ガウリイがこともなげに言う。
ピキッ
まぁだ、言うかこの口は!!
「ガ・ウ・リ・イ〜?ほんとのこと言いなさいよぉー!?」
あたしはガウリイの口の端をおもいっきしひっぱって、微笑みを浮かべる。
「ほ、ほんひょらっへば」
ガウリイが涙目になりながらも言う。
「・・・・・あんな真剣な顔して?」
コクコク首振るガウリイ。
・・・どうやら嘘ではなさそうである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
他人に真剣な顔してまで心配されるあたしの胸って一体・・・
そこまでペチャパイじゃないわ!!
「・・・お前さん、胸が大きくなる方法があるって言ったら・・・どーする?」
赤くなった口の端をさすりながらガウリイが言う。
ぬぁんですって!?
「方法って!?」
両手を胸の前で組み合わせて、瞳をうるうるさせながらガウリイに詰め寄る。
「どーすればいーの?ねぇ、どーすればいーの!?」
そんな方法があるなら早く教えてくれればいーのに!!
「・・・試してみるか?」
ガウリイはポリポリと頬を掻いて言うガウリイ。
決まってるでしょーが!!
「やるわ!」
おもいっきし拳に力を込める!(ってこれじゃあアメリアみたい)
薬でも魔法でもなんでも来い、よ!!
「じゃあ・・・夜な」
「へ?夜?夜じゃないと出来ないの?」
いきなり気が抜ける。
「まぁ・・・夜の方がいいと思うけど」
「・・・ふーん」
なるべく早い方が嬉しいんだけどなぁ。
ま、これから調べ物しなきゃいけないんだけど。
夜ね・・・。今日は早く寝ようと思ってたんだけど・・・。
でも!
胸が大きくなることに比べたら、多少の夜更かしぐらいなんでもないわ!!

そして夜。調べ物をしてきたあたしはガウリイの待つ宿に着く。
ガウリイが部屋を予約していたはずなのだが・・・
「な、なんで一つ部屋なのよ!?」
ガウリイは宿に部屋を一つしか取っていなかったのだ。
あたしが怒るのも無理はない。
「だって、・・・大きくするんだろ?」
不思議そうな顔であたしを見つめるガウリイ。
「???・・・そんなに時間がかかるの???」
すぐ終わると思っていた。てっきり薬かと考えていたのだが・・・
寝る時間もないぐらいにかかってしまうものなのだろうか?
徹夜・・・かぁ・・・。
うーみゅ。寝ちゃいそうだなー・・・。
でもせっかくの機会だし・・・。
あたしがしぶい顔していると、ガウリイがポンと頭に手を置く。
「まぁ、リナは寝ててもいーぞ」
「へ?そーなの?」
うーん。ますますわからない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・でも・・・これでやっと!!胸が!!!大きく!!!
うふふふふふふふ・・・・
もう、あたしの頭には胸が大きくなることしか浮かばない。
胸が大きくなったら・・・
トゲトゲのショルダーガードをつけた、怪しげな女魔道士にからかわれたことなんて、
闇の彼方に葬ってしまえる!
子供扱いするこのガウリイも見返してやれる!
そういえば、あいつとか・・・あんなやつとか・・・
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・
見てなさいよぉ〜!!

部屋に戻るとガウリイはまだ戻ってきていなかった。
「風呂入ってからにするか」
というガウリイの言葉にあたし達はそれぞれお風呂に出かけていたんだったのである。
「ふあー」
あたしはバスローブに包んだ体をベッドに預けた。
あー眠い。もー眠い。疲れたー。
今日は、胸が大きくなるという喜びでいつもより余計な力が入っていたらしい。
その上、昨日はあんまし寝てないし・・・
このままだと眠っちゃいそう・・・・・・・・
あー・・・そういや今はバスローブだ・・・
・・・ガウリイが戻ってくる前に着替えちゃわなきゃ・・・
・・・・・・・・・・ぐー・・・・・・・・・・・
そして、あたしはそのまま眠りこけた。

うー・・・ん。
あったかくて気持ちいい・・・。なんだろ・・・?
あたしは重いまぶたをこじあける。すぐ目の前に蒼い瞳が覗きこんでいるのが見えた。
金色の髪がハラリとあたしの顔にかかる。
えっと・・・?目がだんだん覚めてくる。
「・・・な!?」
気づけば、ガウリイがあたしの上にまたがっていた。
そして、バスローブの中のあたしの胸を・・・胸を・・・
「よぉ、リナ。寝てて良かったのに」
ガウリイが人懐っこい笑みをあたしに向ける。
って!寝てられるかぁ〜っ!!
叫びたかったがあまりのことに口がパクパク言うだけである。
その間にもガウリイは・・・あたしの胸をずっと・・・・・・揉んでいる。
顔が赤くなっているのがわかる。何を言ったらいいのかわからない。
「ち、ちょっと・・・」
あたしはやっとのことで声を絞り出す。
「どーした?」
手を休めることなく、むしろより強く揉みながら問い返すガウリイ。
・・・どーしたって・・・えっと・・・
あたしの胸はガウリイの大きな手のひらに、それぞれすっぽり収まっている。
「な、何して・・・」
しどろもどろのあたし。何も考えられくなっている。
「何って、お前さんの胸を大きくするためだろ。刺激を与えてるんだよ」
微笑みながら、あたしの胸の頂きをちょっとつまむ。
「あっ・・・」
体がピクリと反応する。
それを見たガウリイが・・・手の動きを止める。
そして・・・・・・そっとあたしに口づけた。触れるだけのやさしいキス。
「ガ、ガウリ・・・」
「あ・・・、スマン」
驚いて目をみはったあたしに気づいて、ガウリイがあやまる。
「リナがあんまり可愛かったもんで」
そう言ってウインク一つ。
〜〜〜!!
あたしは耳まで真っ赤になっているだろうことが自分でもわかった。
恥ずかしくてガウリイの顔が見られない。
って違う!
その前にこの状況はなんなのよぉぉぉ!?一体なんでこんなことに!?
は!?そもそもゼル達はこの為に別行動を取ったんぢゃ・・・?
頭の中で自問を繰り返すあたし。
「・・・リナ」
名前を呼ばれて我にかえる。真剣なガウリイの顔。
トキンと胸が弾んだ。
蒼い瞳があたしをまっすぐに見つめる。
「やっぱリ俺・・・胸だけは我慢出来ないわ」
そしてガバッとあたしを抱きしめる。
「うっひゃあぁぁぁぁ!?」
がっちりした胸板の肌の熱さを感じる。
ジタバタ暴れるが、ガウリイの腕の中はビクともしない!
ちょっとぉーーー!!!
「大丈夫!ちゃんと胸も揉むから!」
「そういう問題ぢゃなぁ〜い!!」

―そしてやっぱりその夜。結局・・・徹夜したりする・・・(爆)


おまけ
「あ、リナ」
朝、あたしを腕に包み込んでガウリイが一言。
「毎日やらないと、胸大きくなるかわかんないぞ?」
「ボケ〜!!(///)」

おまけのおまけ
「やっぱりこうなったか・・・(笑)」
「やーとうとう春がきましたねぇ」
「良かったですねぇ、ガウリイさん!・・・そしてリナさん(爆笑)」