過ぎ去りて、風に流るる































――どうして……

 俺はベットに横たわるリナの手を握り、俯く。

――どうしてもっと早く…言わなかったんだろうな……
     『アイシテル』って……――

 頬を一筋の涙がぬらす。
 それをきっかけとし、止めど無く溢れる。
 これは何の為の涙か……
 顔を上げれば、それまでカラフルだった景色がモノクロに変わっていく。
 色づいて見えるのは――目の前に横たわるリナのみ……
 全ては終わってしまった……
 これから――どうすれば良いのだろうか……


「なぁリナ。本当に休まなくても良いのか?」
「大丈夫よ!急ぐ旅ってわけじゃないけど、これ以上遅らせるわけにはいかないでしょ」

 俺の問いかけに、まだ顔色の悪い顔を向けて、笑いながら答えるリナ。
 リナはつい一週間前、体調を崩していた。
 それからなかなか完全に回復せず、医者にも見せたが『ただの風邪』と言われた。
 だが、ヤブっぽかったし信用も出来ないので大きな街に行って診てもらうことになったのだが……
 ふと、俺は目の前を歩く小さなリナに目を向ける。
 …無理だけはさせたくないけど、本人が言うんじゃあな……
 
 ふぅ……

 俺は小さく溜め息をつき、

「リナ。辛くなったらちゃんと言うんだぞ。」
「はいはい。分かってるわよ、保護者さん♪」


 …この時に、俺がちゃんと休ませてやってれば良かったんだ……
 例え、どんなにリナの意志に反しても。
 もう少し、気遣ってやれば良かったんだ。
 ただ――あまりにもリナが笑うから……
 自分が苦しいのに、俺を気遣って微笑むから……
 

 そして、リナが倒れた。
 日も落ちてきて、空が紺碧色に染まり始める頃。
 丁度、村に入った頃に――

「リナ……大丈夫か?」
 
 こんなベタな言葉しか出てこない。
 気のきいた台詞なんて出てこない。

「大丈夫よ。だから……そんな顔しないで…?」

 それでもリナは微笑んだ。
 弱々しい微笑みで……
 そんなリナを愛しくおもう。
 俺はリナの細い手を握る。
 俺もリナも喋らない。
 部屋は虫の声ひとつせず、ただ、静かで。

「…ガウリイ……」
「なんだ?」
「あんたに言いたいことが、あるの」
「…………」
「もし、あたしが居なくなったとしても…あたしのこと、忘れないでね……」
「な…なに言い出すんだよ……そんな、縁起でもないこと……」
「それから……あたし、ガウリイのこと…好きだから……」
「!」
「だから絶対、忘れて欲しくない。
 これはあたしの我が侭……だけど……」

 俺はリナを抱きしめる。
 俺はなにも言えなかった。
 言葉がなにも出てこない。
 言いたいことがたくさんあるのに……
 伝えたい事がたくさんあるのに……
 だけど、なにも出てこない。
 一番言いたかった「アイシテル」と言う言葉さえ。
 ただ、抱きしめることしか出来ない。

「ねぇ……くらげ頭でも、なんでもいいから……あたしのこと……忘れないで…ね……」

 段々と、小さくなっていく声。

「……リナ……?」
「…ガ…ウリイ……あり…がと………」
「なぁリナ…なんの…冗談だ……?」

 リナは、なにも言わない。

「俺、まだお前に言ってないぞ……?」

『アイシテル』って……








 風が、渡る。
 空を、大地を、海を、世界を。
 止むことなく、決して立ち止まらずに。

「リナ……決して忘れない。忘れたりなんかしない。何があっても……」

「お前を愛してる」




 呟いた言葉は、風に流れた。




                                ――END――










☆一応、解説☆☆
ども。いきなりですが、こんな暗い話しでゴメンナサイ……(汗)
えっと、リナちゃんが死んでしまった原因ですが、
『短期間での強力な魔法の使いすぎ』と言う事で……
たぶん、読んでても意味がわからないと思うので、ここで解説入れときました。