瞬きする間に・・・









 はぁっ
 溜息が一つ短く落ちた。
 眠れない。


「・・・・」



 ごろん・・・
 寝返りをうつと・・・目の前には壁。


「・・・・・」
 

 この壁の向こう側に不眠の原因、彼が居る。

 ふっ・・・・・

 意味もなく目頭が熱くなった。
 溢れ出した涙は止まらない。
 毛布を頭からかぶり、声を殺して泣き続けた。


 どのくらい、こんな夜を過ごしただろう。
 眠れない夜を・・・・・・過ごしただろう。



「ばかくらげぇぇ・・・ひぃっく・・・」


 もうヤダ・・・こんなの気持悪いよぉぉ・・っ。

「も、いい!別れる・・・別れてやる!!」
 
 ぽろぽろ涙の粒がシーツを濡らして行く。
 思い出すのは金色の髪の青年のことばかり・・・・
 優しい声で傍に居ると落ち着いて・・・・
 なのに苦しくて・・・・酷く、居心地が悪い。

 振り返ると憎らしいほど呑気な顔。
 その目がとても綺麗な虚空の色をしていて・・・・
 何の曇りも無くて、憎らしいの。


 明日こそ・・・・さよならって言ってやるんだから・・・
 へーき・・・なんだから・・・あんなの居なくなっても全然・・・・

「へーきなんだから・・・」

 なのに涙は止まらない。







 青年は眠れずベットに座っていた。

 耳に残る少女の声。


 もしも・・・俺達が別れたら・・・・
 無駄になるのか?護ってきた月日、全部か?


「・・・・・・」


 そんなの・・・・嫌だ!

 自分に問い掛けて見る。

 
 
 ――― 別れたら・・・ ―――

 その少女の問いに芽生え始めた不安。

 青年は壁を睨む。
 その向こうは少女の眠る部屋。

 なんで・・・・あんな事、言ったんだよ。

「気になって眠れなくなっただろ」


 そんなに俺を振り回して・・・・面白いか?
 いつも年下の彼女に振り回されてばかりの自分。
 

 すっと立ち上がって壁まで歩き、凭れる。



 ――― リナ ―――
 

 そのまま床に腰を降ろし、凭れる。

 
 酷く、切ない。
 ずっと・・・・・傍に居てほしいと願う。
 傍でずっと笑ってて欲しい。


「・・・・好きだよ」
 零れ落ちた自分の言葉に―――口を覆う。

 え゛・・・・今のなんだ?

「・・・・」

 俺―――・・・惚れてたのか?
 あのリナに・・・・・?

 
 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ふっ・

 笑みが漏れた。
 始めて自覚した気持。


「まいったなぁ・・・」

 わしわしわし
 と頭を掻く。



 ――― どう、伝えたらいいだろう ―――






 いつもの朝、いつもの食事風景。
 何も言えない二人が居る。
 歩き出す二人。


「・・・・・」

 言ってやる!
 今日こそ『さよなら、バイバイ』って言ってやるんだから!
 少女は振り返る。

「ガウリイ!」


 
 どう伝えよう・・・この照れ屋の少女に・・・
 青年は溜息を落す。
 
 伝え方を間違えると逃げられかねない。

 まるで・・・・釣りだな・・・・?
 
 
「ガウリイ!」
 
 びくっ

 少女が振り返る。
 今日は何を言って俺を驚かす気だ?
 身構える。



 さぁ、言うのよリナ!さよならって・・・・

「・・・・・」

 綺麗な笑顔。

 とくん

 この人は目だけじゃないんだ・・・・
 鼻もきれー。
 肌もすべすべしてそうだし・・・・
 ・・・・・・

 柔らかそう・・・・

 とくん

 凄くきれー・・・


「ガウリイ・・・・」
「なんだ?」

 優しい声・・・凄く安心する。

 ふわり

 両手を彼の顔に伸ばす。

 とくん

 凄く綺麗な髪・・・

 とくん

 一瞬、何が起こったのか分らなかった。
 さよならを伝えるつもりだった唇は・・・・それを口にしなかった。



 え゛っ?
 それは・・・・瞬き一つするくらいの時間だったけど・・・・


「―――・・・」

 青年は少女の柔らかなそれが触れた口に手をやる。

 今、何した?
 リナが俺にキスした?

「・・・・」






 唇が気持ち良かった。
 なんか、すっきりした・・・・。

 うん!

 いいじゃん?いいじゃん!

 あたしは気持が楽になるのを覚えた。

「さてと、行くよぉぉ・・・ガウリイ・・・」

 駆け出し振り返る。






「・・・・・」

 ばくばくばくばく・・・

 また、やられた・・・・

 彼女は多分、自分の行動の意味を知らない。

 はぁ―――っ

 深い溜息が落ちた。

 頭を抱え、しゃがみこむ。

「・・ヤロ・・・・・・バカヤロー・・・」
 

 どうしてくれるんだよ?暫らく立ち直れねぇぞ・・・俺。




 いきなりしゃがみこんだのを見て、慌てて駆け寄る。
「どーしたのぉぉー?」

 うわっ!近付くなぁぁ!!
 そっとしといてくれよぉぉぉ・・・頼むからぁぁぁ!!

「お腹でも、痛いの?食べ過ぎ?」


 違うだろリナ・・・・
 ああ・・・やっぱり、自覚してない。

 顔を上げると真っ先に、紅い瞳が飛び込んできた。

「・・・・・・」

 朝の日差しに透ける栗色の髪が眩しくて目を細める。
 桜色の其処が自分のそれに触れたのだと思うと・・・・・
 心臓がばくばく波打つ。

「ガウリイ・・・・大丈夫ぅぅ?宿に戻る?」
 心配そうな顔。
 

 可愛いよな。お前さんは・・・・・

 くすっ


「・・・・・・ん?」



 仕返ししてもいいか?いいよな・・・・?


 リナはどんな顔、するだろう。


「リナ・・・・・・・・」
 俺はゆっくり立ち上がる。
 目の前の緋色の瞳の少女に気持を伝える為に―――


 君はどんな顔をするだろう・・・・




 






   おしまい