if − もしもの話 − |
前を歩いていた少女がふと、立ち止まって空を仰いだ。 そして、 「ねぇ・・・・もしも・・・・今、ここであたし達別れたら・・・・・ も、二度と会えなくなるのかな?」 そう独り言のように囁いた。 俺は『もしも』という単語が付いていたにもかかわらず・・・・ 驚きで顔色を変える。 「そしたら・・・・あたし達のこれまでの時間って・・・・ 無駄になるのかなぁ・・・・・そんなの・・・・寂しいよね」 そう呟いて小さく笑う気配。 また、俺たちは歩き出す。 もし、リナとここで別れることになったら・・・・俺はどうするだろう? 前を揺れる栗色の髪を見詰めながら考える。 自分にとって、この少女はどんなポジションに位置するのだろう。 今まで考えもしなかったことが次から次へと、自分の中に疑符として浮かんでくる。 最初は子供に見え、護らないとと思った。 だけど、彼女は子供なんかじゃなく・・・・ 俺よりずっと先を見続けられる精神の持ち主だった。 その強さに惹かれ、一緒に居るようになって早、数年経つ。 「リナは・・・・もしも、俺と別れることになっても・・・・・・・・・・・ 平気なのか?」 ぴくり、少女の肩が震え、また、立ち止まる。 穏やかな木漏れ日に二人、包まれて沈黙する。 俺は彼女の次の言葉が怖くなった。 もし、『平気』と返ってきたらどうしようかと・・・・・怖くなった。 それで初めて気付く。 自分がこの少女から離れたくないことに。 「分んない」 少女はぽつり、呟き、歩き出す。 ほっとしながら、その後についてあるく俺。 なんだか・・・・情けない気もしないでもない自分の行動に苦笑が漏れた。 後ろの金髪の青年が自分のことをどう思っているのかが、 分らず少女は溜息を落す。 このまま一緒に居てもいいのだろうか? そう思うようになってきていた。 だから、問い掛けたのに・・・・・・・・・ 逆に問い返されてしまった。 傍に居るのが当たり前になった青年と、年頃になってしまった自分。 一緒に居るのが不自然に見える今日この頃。 少女は時に切なく、溜息を落すようになった。 別に好んで青年から離れたい訳ではなく、むしろ――― 傍にいたいと思う。 それが何を意味しているのか、少女自身、分らない。 「ガウリイ・・・・・」 青年に振り返る。 「ん―――?」 二人の間を蝶がひらひらと飛んで行く。 少女は自分に浮かんでいた筈の言葉を忘れてしまう。 「蝶ね」 「え?・・・・・・春だな」 「うん」 また、歩き出す二人。 本当は答えはもう既に、お互いの中にあるのかもしれない。 だけど、それをどう、形にして行っていいのか・・・・分らない。 息詰まる午後の昼下がり、 大人なのに大人になりきれない二人が其処に居た――― おしまい |