ソレハ風ノ悪戯?








久しぶりにあたしは、魔道士姿以外の服を着た。

それは静かに、同じ宿で泊まっているガウリイに悟られないように。
近くの町でこっそり購入したそれに、袖を通す。
あたし一人で、行きたかった。

そして袖を通して、鏡の前へ。
その服を見て。
溜め息一つ。
どうしようもなく、虚しいような、悲しいような。
そんな気分になる。

いっそいつも通りの服を着ていけば、もう少しあたしらしく明るくいけるのだろう
か。

いや、そんな気分にはなれないだろう。
『彼女』の前に立てば。
涙が自然に溢れてしまうほど。
懐かしくさびしい気分にさせられるだろうから。


「久しぶりに着る普通の服が、これ…だなんて…ね。」
自嘲気味に。
そう呟いて。



そうして着た服は、真っ黒い烏のような…
喪服だった。



「さてと、行きますか。」
あたしはこれも秘密裏に購入していた花束を持って、相棒のガウリイには何も言わず
に、出ていった。







―――セレンティア・シティ


あたしが来ているのは、その町だった。


そこは…悲しい思い出が、眠る町。


それは、あたしが仲間を失った場所であり。

そして一人の男が、憎悪に塗れてしまった場所でもある。




そして、あたしが向かうのは…セレンティア・シティの北。

ほとんど町外れといってもいいその場所。
見晴らしのいい、小高い丘。
よく手入れされた芝生。
憎らしいぐらい、なにも変わっていない場所。





―――セレンティア・シティ共同墓地。





『彼女』


…ミリーナが…眠る場所。



あたしは、その白い墓標の前に、静かに花束を置く。



「……終わったわよ……」



皮肉にも、以前あたしがここでいった言葉が、最悪の形で繰り返されるとは、思って
もいなかっただろう。

「知ってるとは、思うけど………」
あたしはぽつりぽつりと、白い墓標の前で話し始める。

少し、前。
彼女の相棒、ルークが、魔王と化した。
そして…あたしは戦った。


もう、彼を止める事は出来なかった。


彼の。
彼女への想いが。
彼女を失った悲しみが。
そして、彼女を失った事でうまれた憎悪が。


あまりにも深すぎて。


あたしは、戦う事を選ぶしか、なかった。


「ごめんね、また…救えなかったみたい……」

そして…あたしは勝った。
彼の死というカタチで。


今までで一番、悲しい勝利だった。



彼は、逝きたがっていた。
彼女の、ミリーナのいる世界へ。
だけど
それは本当に正しかった?
彼は、彼女の元へ逝けた?
あたしは、ちゃんと救えたの?

そればかりが不安。


ただ墓標の前で、独り言のように言葉が流れる。
本当に独り言のように。

「ねぇ、ミリーナ……」

寂しく笑ってあたしは尋ねた。

「彼は…ルークは…一緒の場所に、いる?」

勿論答えてくれる人はいない。
わかっていた。
そして残ったのは虚しい沈黙。

ふぅ

溜め息が、漏れて。

あたしは立ち上がる。
黒いスカートがひらりと揺れる。

「そろそろ、帰るね。あたしの自称保護者さんが心配するだろうから…誰かさんみた
いに、心配性なのよ、あいつ。」
そうして後ろを向き、顔だけ墓標に向ける。
「許して、あげてね…ルークのこと…『人を嫌いにならないで』っていう言葉、彼は
受け入れられなかったみたいだけど…でも…許してあげて……」
そう墓標に呟き踵を返してそこから離れ―――

ザザァ………

風が、吹いた。


(仕方ないですね…本当に、不器用ですから…ルークも……)


風の音に混じって聞こえた声。
「ミリーナ……?」
それはミリーナに、似ていた。


ザザザザァァァァァァァ………


(ごめんなさい。迷惑をかけてしまったようね。)
(悪ィな。迷惑かけちまった。)


風の音と一緒に聞こえた、小さな声。

「ルーク…?ミリーナ……?」
あたしの呟きも、風に飲まれて……

最後に聞こえた二人の言葉に。
あたしの頬に涙が流れた。


『ありがとう…』


ありがとう?
ありがとうって、いってくれるの?
あたしのせい…なのに…
怒って、ないの…?
あたし、嫌われてないの?


そう思うと自然に、後から後から涙が流れた。

ねぇさっきのは、幻聴?風の悪戯?
もしそうだったとしたら、許してもらえるかもって今思ってるあたしは傲慢?


「リナ!」


呼ぶ声で我にかえる。
息を切らしながらガウリイが走ってくるのが見えた。
「一人でいくな…よな……」
その言葉に、また涙が溢れた。
「がうり……」
「ど、どうしたんだ!?何泣いてるんだ!?」
ひどく慌てた彼の顔。
思わず笑みがこぼれた。
「ううん、ちょっと………」


もしこれが、あたしの願いから生まれた幻聴や、風の悪戯であっても。
本当は嫌われていても。


大丈夫。


ガウリイがいる。
一人でいくなといってくれる人がいる。
だから大丈夫。
この罪が償えるように、生きていける。


あたしは、大丈夫。



「風の悪戯のせいなのよ……」

〜〜〜FIN〜〜〜