強い女・弱い男(← タイトルに意味ナシ!!)










くそ暑い夏の『あの日』ほど、イヤなモノは無いわよね?
魔法は使えないから、涼む事も出来ないし。
・ぅ・・・つらひ。
「おや、リナさん。どうしたんですか、憂鬱そうな顔をして。」
・・・そんでもって、こんな時に限って、目の前には逢いたくも無いごきぶり魔族がいるし。
「そりゃ無いですよ〜!」
「ゼロス・・・あんた何しに来たのよ。」
「いやぁ。今日はリナさんをおちょくっても、攻撃される事が無い日だから。
ひ・ま・つ・ぶ・し♪」
「何であんたがンな事知ってるのよ!」
にっこり微笑んだゼロスの頭を、スリッパでしこたまぶちのめす。
「魔法が使えなくても、『攻撃』は出来るのよぉ?」
「あうう・・・そのようですネ・・。」
全然堪えて無いクセに、律儀にも突っ伏してくれてるし。
「まったく・・・あ、いたたた・・・。」
「それにしても、人間ってつくづく不便に出来ているモンですねぇ。僕、同情しちゃいます。」
目頭をそっとハンカチで拭う仕種をして、ゼロスがしみじみと呟く。
「同情するぐらいなら、替わって頂戴よ!あんたどうせ魔族なんだから、これぐらいど〜って事ないでしょお?」
「パス!」
ちきしょお、即答かい?
途端、ゼロスが何故かにやりと微笑んだ。
「僕が替わってあげるより、いい人がいるじゃあないですか♪」
「・・・ほえ?」
何を言い出すんだ、こひつは?
「いやぁ、それは確かに面白いですね!リナさん、今回も退屈しなくて済みそうです!
それじゃ、早速。」

言うが早いか、ゼロスが楽しそうに姿を消した途端、私のもやもやした痛みは消えていた。

消えてはいたんだけど・・・。


「・ぅうううう・・・痛ぇ・・・・。」
ガウリィが、青ざめた表情をしてベットに突っ伏していた。
「・・・何やってんの?」
「いや・・・何だか知らんが、いきなり下っ腹がしくしくと・・・。」
「何か悪いモンでも拾い喰いしたんじゃない?」
「ンな事する訳・・・あだだだ。」

まさか・・・まさかとは思いますが・・・ひょっとして。

「ね、ねぇガウリィ。ひょっとして、腰なんかも痛くない?」
「おぉ、そう言えば・・・。」

・・・・大当たり、だ。
よりにもよって、あんの腐れ魔族、ガウリィに『あの日』を移していきゃ〜がった!

「なぁ、リナぁ。これって何ナンだぁ?」
言える訳ないでしょ!『あの日』の痛みです、なんて!
「き、きっと食あたりか何かでしょ?兎に角、ゆっくり休んでたら?」
「そぉかな〜・・・ひででで・・・。」
うっすら涙なんか浮かべながら蹲るガウリィを見る。
・・・情けない。
男って、こんなに痛みに弱い訳?
「薬でも貰ってきてあげるから、寝てなさいね?」
「おぅ、済まんな・・・。」
それでも微笑んでみせるガウリィを後に、ほんのちょこっとだけ罪悪感を感じながらも。
楽になった躯を楽しんでいる私もいたりして。(← 鬼ですね。)

「ガウリィさん♪」
「・・・ゼロス・・・何の用だ?・・・・っとほほほ・・・。」
「おやおや、どうしたんですか?苦しそうですねぇ?」
「楽しそうに言うなよな・・。」
「いやぁ。(実はとっても楽しいです)実は、ガウリィさんにその痛みの原因を教えて差し上げようかと思いまして。」
「原因?」
にっこりと微笑んで。
「そうです。・・・さて、ここで一つ問題です。リナさんは現在魔法を使えません。
・・・何故でしょうか?」
「何故って・・・『あの日』だからだろ?」
「おぉ!流石ガウリィさん!リナさんの事なら何でも御存じでいらっしゃる。」
いや・・・まぁ、何だ。
「二つめの問題です。いつもリナさんは『あの日』の時に、どんな身体状況に陥るのでしょうか?」
「身体状況・・・?」
「はい、それが『答え』です。では、失礼しますね。」

言いたい事だけ言うと、ゼロスはさっさと消えていった。
・・・つまり、それって・・。


「ガウリィ、薬貰ってきたわよ。・・・どうしたの?」
妙に真剣な顔つきをしたガウリィが、私にいきなり謝ってきた。
「済まない、リナ。俺、何にも知らなかった。」
「はぁ?」
「いつもこんなに辛かったんだな・・・『あの日』。」
・・・・・・・・・・・・・・って。
ぜ〜ろ〜すぅ!!バラしやがったなぁああああ!!
「魔法が使えなくなった上、こんな痛みまであるなんて。・・・本当に済まない。」
「ちょっと、何でガウリィが謝る訳?」
「・・・済まん。」
しきりに謝ってくるガウリィに、私は思わずため息を漏らした。
ガウリィの横に腰掛けて。
「ガウリィ。何で女だけがこんな目にあうか知ってる?」
「?」
仕方が無い、教えてやるか。
「いつか、大事な人の赤ちゃんを産む為なのよ?」
「・・・へ?」
「あのねぇ、赤ちゃんを産むのって、そりゃあ大変で苦しいもんなのよ。その痛みに耐えられる様に、女は準備段階として、『あの日』に痛みを経験する訳。
そうすれば、いざって時に心構えが出来てるから、無事に赤ちゃんが産めるのよ。」
「そういう・・・モンなのか?」
「そ。だから、これは仕方が無い事であって、ガウリィが謝る事じゃあ無いの。解った?」


昔、近所のおばちゃんに聞いた話。
「どうして?」と尋ねた私に、おばちゃんは微笑んで。
「確かに、辛い時もあるけどね。この子を授かる為の準備なら、どぉって事ないわよ?」
幸せそうに赤ん坊を抱くその姿に、子供ながら「いいなぁ」って思ったっけ。


「そっか。じゃあこの痛みは、いつかリナが俺の子供を産む為の準備って事だよな?」
「・・・・・・・・・・・え?」
い・・・いま・・・何て言いました?
俺の・・・・・子供ぉおおおお?
満身の笑みを浮かべ、ガウリィが私を引き寄せる。
「なななな何すんのよ〜!離せぇええええええ!!」
「や〜だ。そうと解れば、今度からは労らなくちゃなんないなぁ。」
もがく私をしっかり抱き締めながら、1人うんうんと頷いている。
何1人で納得してんのよぉおおおおお!
「俺には、この痛みを替わってやる事出来ないけど、その代わり、もっと強くなってお前を護ってやるからな。」
抱き締める腕に力を込めて、優しく耳もとで囁く。
あまりにも真剣に言われて、どんな顔をしたらいいか・・・。
「リナ、耳まで真っ赤だぞ?」
「うぅうううっさいわね!」
「・・・本気、だからな?」

ガウリィが小さく、『いつか、子供つくろうな?』と呟いた。
「・・・・そ・・その時が来たら、ね?」


「取り合えず、今回は替わってあげられたし・・・・いででで。思い出したら急にぃ・・・。」
「うあ、言ったそばから情っさけな〜!」
「だって・・・男は子供産めないからなぁ。」
「・・・・・お馬鹿。」


楽しみついでに食事を取ろうとしていたゼロスが、思わぬラブラブ攻撃に撃墜され、泣く泣く退散したのは、言う間でも無い事・・・だね?

<終わる!>