ス キ ー |
「あ〜〜〜っっ寒い寒い寒いぃ〜〜〜!」 あたしは思わず声を上げていた。 「そりゃそーだろ。冬で、しかも雪山なんだから。」 「まったくぅっあたし寒いの嫌いなのよ!まぁったく雪のヤツ人の気も知らないでわ んさかふりまくって!」 ガウリイの珍しく冷静なツッコミも今は感心している暇はなかった。 とにかく寒ひ…寒すぎる…! まあガウリイの言う通り冬真っ盛りの雪山にある宿の前に立ってるんだから仕方ない けど…。 「やっぱりあたし、部屋に帰っとく。」 あたしが踵を返して帰ろうとするとガウリイにぐいっと腕を掴まれた。 「何言ってるんだよリナ。スキーでも行こうぜ。こんなに積もってるんだから勿体無 いだろ?」 う…… あたしはたらりと汗を流す。 「で、でもね……ガウリイ。」 あたしは説得を試みようとするがガウリイにはまったく効果がない。 「文句ばっかり言うなよ。さ、行こうぜ。」 強引にぐいぐい引っ張っていくガウリイ。 「ちょっとぉ〜〜〜!」 あたしの叫びは雪の中に虚しく消えた。 「うわー積もってるなーリナ!」 子供のようにはしゃぐガウリイ。 「そりゃまあ、雪山だし……」 あたしは覇気のない返事をする。 「どーしたリナ?」 「なんでもない…」 「じゃ、行こーぜ。」 ガウリイがスキー板を履いたあたしを突然ぐいっと引っ張る。 おいっっっ!!! 「きゃあッッ!」 ずるどしゃっ あたしは盛大にひっくりこけた。 「お、おいリナ、大丈夫か?」 「い、イキナリひっぱんないでよねッッ!」 あたしは立とうとした。が。 ずるっ…ずるっ… すべって…立てない。 「リナ?」 ガウリイが怪訝そうにあたしを見つめ――― イキナリにまりと笑う。 な、なによぉぉ… 「お前、滑れないんだろ?スキー。」 「………!」 あたしは思わず赤くなる。 「へーえ、ドラマタのリナにもできない事があったんだなァ♪」 にまにまと面白そうに笑いながらあたしを見るガウリイ。 〜〜〜〜!! リナ=インバース一生の不覚! だってスキーやったことないんだからしょうがないでしょ!! でも、なんかこいつにこういう風に笑われると腹立つ!! 「す、滑れるわよ!!」 「へぇ、滑れても立てないのか?リナは。」 「………っ!」 「ほら、つかまれって。」 ガウリイがひょいっとあたしを立たせる。 「意地張らなくてもいいんだぜ?お嬢ちゃん。」 お嬢ちゃん。 昔の呼び名にかぁっとなる。 なんだか、いつもより子供扱いされてる気がして。 「意地なんか張ってないわよっ!見てなさいったら!!」 そう叫んであたしはざっと前へ滑り出す。 今度は転ばずに前へ進む。 なんだ、簡単じゃない。 「おい、リナッそっちはッ!」 あ、やば。あっち崖じゃない。 止まらなきゃ…って……あ…れ…止ま…んない!! 「リナァッ!!」 ガウリイの声を遠くに聞いた。 「い…たた………」 あたしは衝撃と痛みに顔をしかめながら呟いた。 目の前には薄暗い森が広がっている。 上を、見上げる。 「………た、高………」 高かった。そりゃあ死ぬほど高かった。 よく、生きてたな…あたし。 雪がクッションになってくれたのだろう。 こーいう時だけは運いいのよね。 日頃の行いの賜物よ、うんうん…じゃなかった。 「なんでこんな危ない崖があるわけッ!宿のオヤジに絶対後で慰謝料ふんだくるんだ からッ!」 そう叫んではっとする。 そ、そういやオヤジに 『ここの雪山は崖が多くて危ないですよ。あんまり上手でない方は危ないのでやめた 方がいいと思います。』 って言われたような―――― でもガウリイの手前滑れない、とは言えなくて 「誰にものを言ってるのよっ!」 っていったような気がするなぁ… 「あ〜〜〜もうっ慰謝料ふんだくれないじゃない〜!ガウリイの馬鹿っ!そもそもあ いつがあんな事言うから…」 そーよ、あいつが全部悪いのよ。 だから宿に帰ったら全部あいつに奢らせよ。 よし決定。 「さて…。」 立ちあがろうとする、が。 ズキンッ 「………つッ!!」 足に激痛が走る。 見ると、右足が青紫色に腫れている。 これでは、立てそうもない。 「どーしよ……」 そういった瞬間寒さをはじめて意識した。 「さむ………」 あたしはぶるりと震える。 そうしているうちに温度を奪われ手が悴んで動かなくなってくる。 そして降り積もる雪に、あたしの体が隠されていく。 白い、白い雪。 あたり一面真っ白に埋め尽くされていく。 地面も。森も。あたしも。 すべてを。 無にかえすかのように。 「……………。」 無。虚無。 そんな言葉を思い浮かべた瞬間。 あの時を思い出した。 金色の魔王と同化した時。 あたしが消えるかと、思った。 まあ結局消えなかったのだが。 あの時は本当の虚無で、黒っぽい印象だったのだが。 相反するものはその実よく似ていると聞いたことがある。 虚無。 それは黒だとおもっていただ白でもあるのかもしれない。 全てを飲みこむ、ただの黒。 全てを消し去りそうな、ただの白。 それは違うようで似ていて。 「…………ぁ………」 声も、出なくなってくる。 凍えて体全てが動かない。 思考ですらも、白く白く……なっていく。 薄れていく頭の中、あたしはただ考えていた。 死ぬって、こういうこと? あたし、死ぬのかな。 死んだら、どうなるんだろ? 死んだら、どこへいくの? 死んだら、皆どう思うかな? 死んだら、皆にも会えなくなるのよね。 そう思って、急に恐くなる。 じゃあ、ガウリイ…にも? ガウリイにももう会えないの? もう声も聞けないの? 笑いあったりじゃれあったり時には喧嘩したり。 全部、消えちゃうの? いや、いや、いや、いや。 いやだよ。 そんなの、いやだよ! 「ガウリイィィィィ!」 ありったけの力を振り絞ってあたしは叫ぶ。 山に響いて。そしてまた静かになる。 答えてくれる人の声はない。 あたしはもう動けない。 もう、駄目なの? 「リナッッ!?」 声が、する。誰…ガウリイ? 森から出てきたのは、ガウリイだった。 「リナ!!!」 「が…うり………」 あたしは彼の姿を見たとたん、気を失った。 「………ん………」 あたしは目を開けた。 そして周りを見まわす。 ベッド。暖炉。そう宿の一室である。 「気がついたのかリナ!!」 部屋の隅で椅子に座って俯いていたガウリイが慌ててあたしの近くにくる。 「大丈夫か!?」 取り乱した様子で尋ねてくる彼にあたしは多少面食らって答えた。 「う、うん……」 「そうか………」 安心したようにガウリイはしゃがみこむ。 「ごめん…リナ。」 「ガウリ…?」 「俺がリナをからかったから……」 ガウリイが俯いて呟く。 「いいわよ、別に気にしてないし。」 「でも、リナ……俺は…」 「だぁっ!もう辛気臭いッ!」 ぱしこぉぉぉっ あたしはスリッパで思いきりガウリイの頭を叩く。 「り、りな?」 「気にしてないって言ってるんだからいいでしょ!?別に!!ぐちぐち悩んでんじゃ ないわよらしくない!!そういう態度とられた方が迷惑だわッ!それにッあたしが勝 手に崖から落ちただけなんだからあんたは気に病む必要全くないのよっ!」 「でも……」 う、まだウジウジしてるし。だぁぁぁっもうっ! 「でももなにもないわよっ!それに!あたしを探してくれたんだから別に、あんたを 恨んでるわけでもないし怒ってるわけでもないんだから…」 「ん、わかった。」 ガウリイはやっと笑顔を見せた。 「…ま、当然今夜の夕飯あんたの奢りね♪OK?」 「えぇぇぇ〜〜!今なにもしないでいいって言わなかったか!?」 「気にしてはないけど何もするなとはいってないわよ♪まだまだ甘いわねガウリイ。 てことで、い・い・わ・よ・ね?ガウリイ君?」 「…はい…」 ガウリイは素直に首を縦にふった。 「そーと決まればさっさと食べに行くわよー!」 あたしはそう言ってベッドから飛び出て走っていった。 〜〜とりあえずおわり〜〜 〜〜おまけ〜〜 その夜。 「なあリナ。滑れないのなら俺が教えてやるぞ?俺は滑れるし、今日みたいに崖に落 ちられても困るし。」 ガウリイはにこにこ笑いながらそう言った。 ………何嬉しそうに笑ってんの??? 「どーでもいいけど嬉しそうよあんた。」 あたしは訝しげな顔で尋ねた。 「だって、男の夢だぞ?こーいうの。」 「保護者が被保護者にスキー教えるのが?」 「………ま、まあ……そんなもんか。」 ガウリイはやや間の抜けた顔でそう言った。 ふ〜ん…そういうもんなんだ? 「そういうもんなの?別にいいけど…」 「じゃあ明日からやろーな♪」 やたらと嬉しそうなガウリイにあたしは眉をひそめるばかりだった。 さらに次の日。 あたしはガウリイの指導のもとスキーをし始め、持ち前の運動神経で一日でスキーを マスターしたのだった。 「きゃースキーって楽しいわねー…って何変な顔してんの?ガウリイ?」 あんなに昨日やる気まんまんだったのに…どーしたんだろ? 「別に……」 ガウリイがそうぼそりと言ってから。 ガウリイが呟いた言葉をあたしは知らない。 「リナに手取り足取り教えられると思ったのに…こんな上達早いんだもんな……」 ガウリイは深く溜め息をついてリナの後を追いかけたのだった。 〜〜今度こそ本当におわり〜〜 |