お子様の質問









ある日突然。
ルーナが言った。
「父さんと母さんって、なんで結婚したのさ?」
ぶはっっ!!!
あまりといえばあまりの質問に、思わず吹き出すあたし。
「るっ……るるるルーナ……いきなりなにを……?」
「いや、ちょっと気になったから聞いただけだけど。いけなかったか?」
どぎまぎしながら聞き返すあたしに、へーぜんとルーナは答える。
――結婚してから、およそ10年。娘のルーナも10歳になり、この男言葉さえなけ
ればあたし似の可愛い女の子。
その娘に、結婚理由を言え、とな……!?
…………言えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
言えないっ! 絶ぇぇぇっ対に言えないっっっっ!!!!!
「だってさぁ。母さんって、結婚前は最強の魔道士だったんだろ?父さんも、結構す
ごい傭兵だったとか。
 でも、結婚しちゃったら、そーゆーのって意味なくなるだろ?なのにも関わらず結
婚したのはなんでかなー、って」
あたしの言葉を待たずに言うルーナ。
「………誰に聞いたの……?その、あたしが最強うんぬんってのは」
ようやく落ち着いてきたあたしも聞く。
「え?えっと……
 アメリアさんと、ゼルガディスさん」
……覚えてろよ……ゼルにアメリア……      (注:このとき、セイルーンの
王室で悪寒を感じた人約2人)
「そーゆーのって、父さんがいるときは、母さん照れちゃって、本当の事言ってくれ
ないだろ?父さんに聞いても、のほほんとかわされちゃうし。
 だから、父さんが仕事でいないうちに、聞いておこうと思って」
………確かに、ガウリイがいるときにこんなこと聞かれたら、顔が沸騰して固まっ
ちゃうと思うけど………
わが娘ながら、本当に計算高いわね。
でもだからって、『あの事』を言うわけにはぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
「あ、あのねルーナ。
 ……そ、そそそーいうのは、あなたがもーちょっと大人になってから……」
「この間、『ルーナはもう大人だから』とか言って、町内のドブさらいの当番、あた
しに押し付けたのは誰だ?」
「………あたしです………」
くっそーう……口の上手さはあたしに似たみたいね……
「さ、母さん。
 言っちゃいなって」
ううう〜……
「あ、あらやだ、もうこんな時間。
 夕飯の支度しなくっちゃ」
「まだ昼過ぎ」
「そうだ、姉ちゃんに頼み事が……」
「ルナ姉さんは仕入れで、あと3日しないと帰ってこない」
「そうそう、ペットにエサを……」
「うちにペットはいないっ!
 ……ったく……そんなに言いたくないのか?」
「………あはははははは♪」
乾いた笑いを漏らすあたし。
だって………ねぇ?
『あれ』だけは、言うのにちょっと抵抗が……
……しょーがない、こーなったら……
「わかったわよ……」
「言ってくれるのか?」
ガウリイと同じ、青い瞳にあたしを映しながらルーナは言った。
「ん。言わないと、納得してくれそうにないし。
 ……ルーナはさ、さっき、『結婚したら、魔道士や傭兵だった意味がなくなる』っ
て言ったじゃない?」
「うん」
「確かにあたしは凄腕の魔道士だったし、ガウリイも腕の立つ傭兵だった。
 あたしはそのことを、誇りに思っていたわ。そのこと自体が、あたしのプライドで
もあった。
 ………でも、ガウリイに求婚されたときね、揺れたのよ」
「プライドが?」
「ええ。
 それで、どうしたらいいのかわかんなくなった。
 だから、彼に相談したの。
 ……そしたら、笑ってガウリイは言ったわ。『待つ』って。
 それでわかったの。あたしは、結婚とプライドを天秤にかけていたんだって。
 そして、その天秤は、はじめっから結婚の方に傾いていたんだって……」
「…………つまり、何が言いたいんだ?」
「……確かに、長くなってわけわかんないわね……
 要するに。
 あたしは、ガウリイが好き。ガウリイも、あたしのことが好き。
 だから、結婚した―――それだけのことよ」
「ふぅーん……本当に?」
疑いのまなざしをむけてルーナが確認する。
「ほ、本当よっっ!」
「……ふぅん……そーなんだ……
 ――良かったな、父さん」
ルーナの言葉に、彼女の後ろのドアが開き――
「………ウ、ソでしょ………?」
「本当なんだなこれが」
いたずらっぽくそう言ったのは、仕事がえりのガウリイだった。
「仕事が思ったよりも早く済んでな。入ろうと思ったら、話し声が聞こえて」
「あたし、すぐに気付いたぜ?」
そんなら早く言えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!
「き、聞くけど………どこから……?」
顔を真っ赤にして言うあたし。
「んー?そうだなぁ……
 確か、ルーナが『関わらず結婚したのはなんでか』って言ったあたり」
「…………ってことは……やっぱり……」
ますます顔を赤くするあたしに、ガウリイはにっこりと微笑むと、
「俺はお前さんが好きだし、お前さんも俺のことが好きなんだよな、リナ♪」
ぼしゅっっ!!!
音を立てて、あたしの顔が沸騰する。
なんで笑いながらそーゆーことが言えるんだガウリイっっ!!!
「ったく……らぶらぶだよなぁ、ほんと」
呆れながらルーナが言う。
「じゃ、あたしは部屋に戻るんで。
 お二人さんでゆっくりしてな」
そう言って、立ち去るルーナ。
そして……今まで娘と二人でいたリビングには、あたしとガウリイが残された。
うわ、なんかめっちゃ狭く感じるんだけど……
「リナ」
ぎゅ。
「……ってあのねぇっ!
 いきなり抱きつかないでよ、こんな真っ昼間から!」
「素直じゃないな。
 ルーナの前じゃあ、結構素直に話してたのに」
「……しょーがないでしょ?
 まさか、『あの事』を言っちゃうわけにもいかなかったし」
「『あの事』って……『あの事』か?」
「そ。『あの事』」
そう。言えるわけがない。
ガウリイがあたしに求婚した、そもそものきっかけ――それが、『できちゃった結
婚』だなんて!
言えないっ!何があっても!
「……でも、計算すればわかっちゃうよーな気がするんだけどなぁ……」
「大丈夫よ、結婚記念日ひた隠しにすれば!」
「……この間、結婚記念日パーティやったのは誰だ?」
「………あたしです………」
さっきのルーナとのやりとりと、同じ会話をするあたし達。
「でもまぁ、別に素直じゃなくてもいーけどな」
「……へっ?なんで?」
ガウリイの180°回転した意見に、思わず聞くあたし。
「だって、さ。
 昼間素直じゃなくても、夜にはちゃーんと素直になるから」
「なっ!?
 ……あ、あんたまさか……今夜も……?」
「いやぁ。実は、明日は休暇が取れたんだ♪」
ぴきぃっ!
楽しそうなガウリイの声に、あたしはきっちりと硬直した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
 お願いだから、昨日みたいなのはやめてぇぇぇぇぇっっ!!!」
「昨夜の事か?
 ………そー言われると、ヤリたくなるのが男、って奴だよな♪リナ♪♪」
「いやマジで!マジでやめて!
 あたしには、その、いろいろと事情ってものが……!」
「焦るなって、リナ♪
 まだ夜まで何時間かあるんだし。
 ……今の内に寝といた方がいーぜ?」
「だからやだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
あたしの叫びが、ゼフィーリアの小さな家に響き渡った……。


えんどっっ!!!



昨夜、リナとガウリイの間に何があったのか?
それは、秘密です♪(オイ)