たとえ別れる日が来ても










「・・・別れようか。」
















俺は今、ある町の病院に入院している
病室から 通りを見渡しながら 俺は今までのことを反芻していた・・・

いろいろやった。

誰彼かまわず喧嘩をふっかけたことも
金で買った女に一夜限りの温もりを求めたこともあった


そんなある日 俺は、彼女にめぐり会った


彼女は腑抜けの俺を、闇の中から救い出してくれた
・・・俺にとっては女神も同然の存在。

俺はたちまち彼女のとりこになった
俺は・・・彼女に想いを打ち明けた。

帰ってきた言葉は、俺にとってはこの上もなく素敵な言葉

「・・・あたしも、その、あ・・あんたのこと、好き・・・だよ?」

元来恥ずかしがりやな彼女が、ここまで言ってくれたことに俺は狂喜した。

そして一年・・・俺は、突然倒れた

自分でも気がつかないうちに、俺の体は病んでいたのだ
俺には身寄りがないから、当然のように 医者は俺自身に病名を告げた。




・・・悩まなかったと言えば嘘になる

それは、過去の俺が犯したあやまち
それは、けっして治ることのない病気

だから・・・俺は倒れた翌日に見舞いに来てくれた彼女に告げた

「・・・別れようか。」

・・・と。

「・・・ガウリイ?・・・・・なに言ってんの?」

彼女はその綺麗な赤い瞳をぱちくりさせた

・・・可愛いよな・・・

俺は無表情という仮面をつけて うそぶいた

「お前には悪いけどな・・・飽きたんだよ。」

「・・・飽きた・・・。」

「そう、俺の勝手だし、お前さんに落ち度はない・・・だけど
・・・すまんが 別れてくれないか?」

彼女が、うつむいた・・・

俺はいつもの彼女の行動パターンから考える

きっと彼女は 怒る
泣きはしないと・・・思う 彼女は強いから。

だとしたら・・・
・・・く、来るか? リナの必殺スリッパ攻撃・・・

ひそかに身構える俺の目の前で、彼女は、・・・苦笑した

「・・・リナ?」

「あんたってホントにくらげね。」

言いながら彼女は、俺のベッドの横の椅子に腰をおろす

「・・・昨日、この病院に電話して聞いたわ
・・・あんたの病名も、なにもかも。」

俺の顔が強張るのがわかった
リナにだけは、愛しいリナにだけは、知られたくなかった

俺の病気は、『後天性免疫不全症候群』・・・つまり、『エイズ』だから

この病気にかかった者に対する周囲の偏見のすさまじさは、
俺も耳にしたことがある

リナに移したくない
・・・いや、それ以上に リナにそんな目で見られでもしたら
俺はきっと・・・壊れてしまう・・・!

だから、リナにだけは・・・知られたくなかったのに・・・

俺は今、絶望のふちに立たされていた・・・

そんな俺に あろうことかリナが手を伸ばしてくる!
俺はとっさに身を引いた

「・・・ガウリイ?」

「・・・・・・・。」

「・・・そんなに怯えなくていいのよ?」

リナは笑って 俺の頬に手を触れさせた
・・・暖かかった・・・

「・・・リナ・・・どうして・・・?」

どうして俺に触れてくれる?どうして俺に笑いかけてくれる?

「・・・くらげ・・・あのね、『エイズ』ってのは
すっごく感染力が弱いのよ! 頬に触れただけで移るわけないでしょうが!」

毒づきながらも 優しい微笑を絶やさないリナ・・・

「リナ・・・。」

「怖かった?拒絶されるのが?」

「・・・ああ。」

「ガウリイ。」

リナは 俺の頭を優しくなでた
いつも、俺がするように・・・

「あたしにとっては どんな病気にかかっても、どんなにくらげでも、
・・・・・ガウリイは、ガウリイだよ・・・
拒絶する理由なんて、どこにもないから・・・。」

優しく、諭すようなりナの声に
俺は がらにもなく泣きそうになった

嬉しくて、愛しくて、リナを抱きしめたかった・・・・でも・・・

「・・・俺のせいで、リナが・・・周りの奴らに
酷いこと言われたりしたら・・・。」

「ガウリイの馬鹿くらげ。」

リナは悪戯っぽく笑っていた

「このあたしが そんなこと気にすると思う?」

「・・・いや、思わない。」

俺は少し微笑した

リナのこと、俺はよく知っている

きっとリナは・・・俺が死んだ後、泣くだろうな・・・
だったら・・・やはり今のうちに・・・

ぎゅうううううっ

「い、いひゃいっ!(い、痛いっ!)
にゃにしゅんらリナっ!?(何すんだリナっ!?)」

リナは少しむっとした顔で
俺の頬をつねっていた手をどけると

「あんた、今なんか悪いこと考えたでしょ?」

「うっ・・・。」

な、何故突然鋭いっ!!

ばつの悪そうな俺を、リナは見つめて言った

「ねぇ、ガウリイ・・・
あたし、いつも言ってるよね?」

「・・・ん?」

「あたしは後悔したくない・・・って。」

「・・・ああ。」

「あたしは、あんたにも後悔してほしくないの。」

「・・・・・・・。」

「まだ発病してないし、時間はあるわ
・・・たとえ別れる日がきても、
後悔なんてさせてあげないんだから!」

「・・・リナ・・・すまん。」

「な、なによっ・・・なに謝ってんのよ・・・っ!」

「お前さんを、泣かせちまった・・・。」

「馬鹿言ってんじゃないわっ!あたしは泣いてなんかっ・・・。」

そう言うなり下唇をかんで 涙を止めようとするリナ
俺は、ゆっくり彼女を抱きしめた・・・。

「リナ、・・・・嬉しかったぜ。」

「・・・・っうん・・・。」

「なぁ・・・リナ・・・。」

「あによ・・・っく・・・。」

「・・・キスすると、エイズって移るんだっけ?」

「・・・・・・・・・・・・・馬鹿くらげ・・・。」











数年後、

リナに看取られながら、俺は息を引き取った

俺は、リナと過ごしたこの年月に 至極満足していたから、
彼女に残す言葉には、伝えきれない程の感謝の念をこめて



「・・・ありがとう・・・リナ。」



俺の死に顔は穏やかで、リナもつい、泣きながら微笑んでしまうほどだったらしい。




〜fin〜


どおもっ!ガウリナかぶれのへたれ大学生春日海(かすが かい)ですっ!!
初めてダーク小説を書きました〜(ダークと言えるのか・・・?/滝汗)

授業で、ある洋画をとりあげたんですよ 
『エイズ』に関する差別や偏見と戦う主人公さんに、春日は至極感激したのでありますっ!
んで、できたのがこれ(上)です。

駄文ですみませんっ!俺は逃げますっ(脱兎/笑)