HAPPINESS? |
かつて共に戦った仲間との悲しい争いの後、 オレ達はゼフィーリアに向かっていた。 リナが、オレの行きたいところでいい、と言ったからだ。 「なんでゼフィーリアなの」と問うリナに、オレは 「葡萄が食べたいから」なんてとぼけたのだが、リナはそれを本気にしたのか…… それ以上何も聞いてこなかった。 ふうぅ…… 自然と、ため息が漏れる。 女性の故郷に行きたい、即ち御家族に会わせて欲しい。 普通ならそれが何を意味するのかわかるはずだ。 でもまさか「葡萄」なんて本気にするとはなぁ…… オレはもう何回目かわからないため息をついた。 こんな風に、リナを思う日が来るとはなぁ。 自分の気持ちに、はっきりと気付いたのはいつ頃だったけ…… そうだ、ブラスト・ソードを見つけた、ソラリアの事件のすぐ後だ。 忘れっぽいオレでも、あの時の事はよく覚えてる。 あのときは、たしか…… ソラリアでの事が終わった後、オレ達は大きな宿場町に来ていた。 宿を取り、まだ夕飯までは時間があるから、とオレとリナは町に繰り出した。 大きな宿場町だけあって、たくさんの人が行き来している。 と、突然、オレの隣にいたリナが走り出した。 「おっおい、リナぁ!」 オレの呼びかけに答えず、リナは走って行ってしまう。 「ったく、しょうがねぇな」 オレもリナを追って走り出す。 そのオレの目に飛び込んで来たものは……男の手を握る、リナの姿だった。 むかっ あれ?なんで気分悪いんだ? 自分の中に芽生えた違和感に、オレは首をかしげる。 「やだぁ!ユーリじゃない!ほんとひさしぶりよねぇ!」 リナのはしゃいだ声に、我にかえる。 「リナ、リナだよな!ひさしぶりだなぁおい!」 ユーリ、と呼ばれた男が笑顔で答える。 「ほんとよねぇ、もう何年ぶりかしら。元気してた?」 そのまま始まる二人の会話に、オレは付いて行くことが出来ず、ただ立ち尽くしていた。 胸にわずかな痛みを感じながら。 そのあとオレ達は、一緒に晩飯を食うことになり、近場の食堂に入った。 なんでもこのユーリとかいう奴、リナの幼馴染で、かなり昔に一人で旅立ったらしい。 年の頃はオレと同じくらいか、それより若いかな…… 「いやー、でもしばらく見ない間に、リナにも男が出来たか」 テーブルに満載された食事を食べながら、オレ達は話し始めた。 「ちょっ!ちょっと違うわよ!べつにガウリイとはそんなんじゃないんだから」 顔を真っ赤にしながら、あわててリナは言う。 「ガウリイはあたしの旅の連れ。かなり腕の立つ剣士なのよ」 リナにそう言われるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。 ユーリはへぇ、と言いながらオレをじろじろ見る。そういえばこいつも傭兵か? 柄に派手な飾りの付いた剣を腰から下げている。 「そんなに強いんですか。一度お手合わせしてみたいなぁ」 「やめといたほうがいいわよ。ガウリイには勝てないから」 リナの言葉に、すこし顔を曇らせるが、それ以上なにも言わなかった。 オレがびみょ〜に放つ殺気に気付いたか? でもオレ、なんで初対面の、しかもリナの幼馴染に対して殺気なんか出してんだろうか。 いま気付いた。 「相変わらずよく食うなぁ」 料理をすごい勢いで頬張るリナを見て、ユーリが笑う。 いつもならオレも負けないのだが……今日は何だか食欲が無い。 何でだろ……。 「ガウリイさんも大変じゃないですか?こんな大食いと一緒じゃあ。だってリナって いつも人の二倍や三倍は食べるんですよ」 ユーリが呆れ顔で言ってくる。 そんなことくらい、いつも一緒にいるんだからオレだってわかってるっつーの。 それに、二倍どころか五倍ぐらい食うんだよ。いまのリナは。 「だりぇがほほくいらってうーのよ!」(だれが大食いだって言うのよ!) 「おまえなぁ、口の中のもの飲み込んでから喋れよな」 呆れたようにユーリが言う。 「すぐムキになるし、赤くなるし、こんな子供のお守り、大変じゃないですか?」 「誰が子供よっ!もうじゅーぶん大人なんだからっ!」 ムキになって否定する。それがダメなんだって……でも子供?子供なんかじゃないぞ。 最近きれいになってきたし、けっこう女らしいとこもあるんだぜ。 照れ屋だからすぐ赤くなるけど。 「いっつも我が儘ばっかり言ってんじゃないですか?こいつ」 リナをあしらいながら、ユーリが言う。 我が儘?たしかにそうだけど、でもいつもいろんなこと考えながら行動してるんだぜ、リナは。 それに、オレが嫌だってことは絶対しないし、本当は優しいしな。 「まだ弱いものいじめとかやってんじゃないのか?」 「そんなことしてないよーだ!」 べぇ、と舌を出す。オレ以外の奴にそんな顔見せたこと無かったのに……リナ…… それに、弱いものいじめ、なんてな。 リナがいじめるのは盗賊だけだぞ。弱い奴には甘いんだからな。リナは。 だからいつもトラブルを引き受けちまうんだ。 「もおぉぉぉ!何なのよあんたは!久しぶりに会ったのに、喧嘩売ってんの!!」 「悪い悪い、そんなつもりじゃねぇんだけどさ」 「そんなつもりもこんなつもりもあるかー!」 「ははは、相変わらず、かわいいな」 ユーリは笑いながら、リナの頭をくしゃっと撫でた。 むかむかっ それはいつもオレがやってることっ! なんだか異様に腹が立つ。 オレの目の前でじゃれあってる二人を見てると、いらいらしてくる。 リナはユーリとばっかり話してるし。 オレのことはどーでもいいのか? 苛つくオレを知ってか知らずか、二人は話を続ける。 「お前って、いくつになってもガキだよな」 「なによそれっ!もう立派な大人だって言ってんでしょうが!」 「どれどれ?」 そう言って、ユーリがリナの胸をぽんっと叩く………………………………ぷち。 ―――――――――― 殺す おもわず、剣に手を伸ばしかけ、 ほんの一瞬だけど、オレの体から殺気が噴き出した。その時。 「なっ!なぁにすんのよおおおぉぉぉぉぉ!」 リナの必殺アッパーがユーリの顎に決まる。 さすがに幼馴染相手に呪文は使えないらしい。 「いてててて、じょーだんだよ。冗談」 「冗談で人の胸さわるなああぁぁぁ!」 「べつに減るもんじゃないだろ」 「減る!!」 ユーリは顎を擦りながらも笑っている。 それがさらに気に食わなかったらしく、リナはなおもユーリに食って掛かる。 オレはこれ以上、ここに居たくなかった。見たくなかった。 「リナ、オレ先に宿に戻ってるから」 「え?ガウリイ?」 オレはリナの返事も待たず、テーブルを立った。 後ろから、ユーリの小さな声が聞こえる。 「ガウリイさんって、怖い人だな」 聞こえてるぞ。 やっぱりオレの殺気に気付いてたか…… 一人、宿に帰ったものの、こんな気持ちで眠れるはずも無く、オレは宿のおやじから 酒とグラスをもらって部屋に入った。 テーブルに座って、グラスに酒を注いで一気に飲み干す。 熱い液体が喉の奥を焼きながら流れていく。 「ふうっ」 なんだか、やっと呼吸が出来たような気がする。 今日のオレはおかしい。 リナは何年か振りに幼馴染に会ったんだ。はしゃいで当然だし、ユーリだって、 オレの知らないリナを小さなころから知っているんだから、兄の様にリナに接しても おかしくない。 なのに、何でオレはこんなにも苛つくんだろう。 いつもオレがいるはずの場所にユーリがいたからって、こんなにも胸が痛くなるものか? 「くそっ」 オレはもう一杯酒を飲み干す。 何なんだ、これは。これじゃまるで嫉妬してるみたいじゃないか………………嫉妬!? 嘘だろ……オレ、妬いてるのか……リナが、オレじゃない男を見てるから…… 「ちょっ、ちょっとまて」 オレは自分に言い聞かす。 オレは、リナの保護者だった。初めから、ずっと。 でも、今は……? 『保護者』なんて呼ばれるの、嫌なんじゃないか? だって、ずっとリナは子供だと思っていたんだ。大飯食らいで、我が儘で、すぐムキになるし…… でも、本当は優しくて、意地っ張りだけど、照れ屋で、いつだってまっすぐ前を見ていて、 強くて……。 こんな小さな体のどこにそんなパワーがあるのか不思議だった。 いつだって前向きなリナにオレもずいぶん力を貰った。 ただ、護ってやりたくて。 でも、それはオレがリナの側にいたかったからか? オレは、リナを護りたくて、支えてやりたくて、そして頼りにしてほしかった。 「……嘘……だろ……今ごろ、自分の気持ちに……気付くなんて……」 子供だなんて思ってない。ほんとはいつも女として見てた。 でも、今のままの関係を壊したくなくて、失いたくなくて、 自分に、嘘をついてた。気付かないふりをしていた…… 「オレ……リナが好きだ……」 きっと、誰よりも、何よりも。 今ごろ気付くなんて。 この気持ちは、どうしたらいいのだろうか。 「コンコン」 突然のノックに体がびくり、と震えた。 まったく人の気配に気付かなかった。 もう真夜中だ。こんな時間にいったい…… ……この気配は……リナか! 「ガウリイ、もう寝ちゃった?」 やっぱり、リナだった。 どうしてこんな時に……お前のことを愛してるんだ、と気付いたばかりなのに。 まだ、心の整理が終わってないのに。 このまま、寝たふりをしようかとも考えた。しかし…… オレは、一つ深呼吸をする。 「リナか。開いてるぞ」 オレがそう言うと、ドアが開き、リナが部屋に入ってきた。 どきんっ 風呂上りだろうか。すこし赤くなった頬。そしてパジャマ姿。 何度も見慣れてるはずなのに、心臓が高鳴った。 お前……夜中に男の部屋にそんな格好で来るなよな! 「どうした、何か用か?」 「今日は、どうしたの?ガウリイ」 オレの目の前まで歩み寄って、リナが問う。 「別に、どうもしてないぜ?」 嘘だ。リナにだってそれはわかってる。 「嘘よ。今日のガウリイはおかしかったもん。ご飯だって食べてないし、ずっと機嫌悪かったし」 「そうか?」 「そうよ!何怒ってんのよ。あたし何かした?ユーリにだって悪いじゃない!」 やっぱりバレてるよな。オレが機嫌悪いのなんて。 「別に怒ってなんかいないよ」 まっすぐに見つめてくるリナの瞳から逃れようと、オレは横を向く。 それがさらに怒っているように見えてしまったらしい。 「やっぱり怒ってるじゃない!何なのよ!」 リナは完全に怒ってしまった。まずい…… でも、本当にオレは怒ってないしなぁ。まさか、嫉妬してました、とは言えないし…… ……しょうがない、嘘も方便だ。 「本当に怒ってなんかいないって。ただ、体の調子が悪くてな」 「え?そうなの?どうしたのよ?」 先ほどまでの怒りはどこへやら。急にリナの顔が心配そうな顔になる。 やっぱり、優しいんだよな、リナは。 「ちょっと、頭が痛くてな。だから、機嫌悪かったんだ。すまない」 「なんで早く言わないのよ。そうすれば無理させなかったのに」 そう言ってリナがオレの顔を覗き込む! どきん、どきん、どきん…… 目の前に小さなかわいい顔。きれいな目。そして唇…… ……キスしたい……じゃなくてっっ! おっおいおい、リナ、何する気だっ! 「どれ?」 こつん、と自分の額をオレの額に当てる。 さらりと落ちてくる栗色の髪、情けないことに金縛りにあった様に動けないオレ。 とたんに、顔が熱くなってくるのがわかる。 「すこし熱いかしら?顔も赤いし」 そう言ってリナが離れる。やっぱり顔が赤くなってるらしい。 子供じゃあるまいし、どうしたんだオレは! 「まったく、熱があるのにお酒なんか飲んで。早く寝なさい!」 腰に手をあててリナが言う。 そんな姿もかわいい……じゃないだろ! 早くリナに出て行ってもらわないと、オレ何するかわからん。 「わかった。もう寝るよ」 オレは出来るだけ平静を装って言った。でも、心臓はバクバクいっている。 「よし、いい子ね。ほら、早く!」 リナがオレの手をぐいっと引っ張る。そしてそのままベッドに倒れこむ。 オレはリナに押し倒されるような形でベッドの上にいた。 どきんどきんどきんどきんどきんどきんどきんどきんどきんどきんどきん……… 心臓が早鐘の様に鳴り出す。 おわあああぁぁぁリナぁぁ!なんてことすんだああぁぁぁ!! 「ほら、ちゃんと寝てなさいよ」 そう言ってオレに顔を近づける。リナの体から香る石鹸のいい香り…… ああ!もうこのまま抱いてしまいたいっ! でも、でもだめだぞっ!我慢しろオレ!がんばれ理性! 「あれ?また顔が赤くなった。ひょっとして熱上がったんじゃないの?」 そう言ってオレの額に手を伸ばす。 うわあああぁぁぁぁぁ!今、ちらりと胸元がああぁぁぁぁ! こういうチラリズムに男は弱いんだってばああああぁぁぁぁぁ!! オレは動けずにいた。動いたら、きっとリナを抱きしめちまう。 だから、がんばれオレの理性!負けるな理性! 「だっ!大丈夫だからっ!もう寝る!」 オレはどうにか体を動かし、頭から布団をかぶる。 「そう?それじゃおやすみ、ガウリイ」 そう言い残し、リナは部屋を出て行った。 オレは布団の中から、顔を出し、大きなため息をついた。 「……これから毎日こんな気持ちですごすのか?……耐えられるだろうか、オレ……」 そのまま目を閉じる。明日の朝にはいつもどうりの保護者になってなきゃいけない。 でも、今夜は眠れそうに無かった……。 あれから、しばらく経つ。 オレは相変わらず保護者としての仮面を被ってはいたが、それでも少しづつ、リナに 気持ちを打ち明けていた。 まあ、この鈍感娘には伝わってないんだろうけど。 よく我慢してるよな、オレ。 『お前さんと旅をするのに、理由なんていらない』って言ったオレの気持ち、リナは わかってるんだろうか? なんでゼフィーリアに行きたいのか、わからんかなぁ。 ひょっとしたら、わかってるのかも…………う〜ん………… ま、いいか。 ゼフィーリアまでにはまだまだあるし、少しづつでもリナに伝えていこう。 この鈍感でもわかるように。 オレは前を歩く栗色の髪の魔導師を指差す。 覚悟しろよ、リナ。オレの愛はものすんごいんだからな! END いや〜ん終わりました〜v(蹴)はうっ! 飛鳥さんからのリクエスト『嫉妬するガウリイ(またの名を生殺し)』をもとに 書いてみたんですけど……いかがでしょうかっ! まったくだめですね!(胸を張るな!) 飛鳥さんとお知り合いになれた記念に、リク貰って書いたのに…… こんなものですみませ〜ん(涙) このあと、リナちゃんはガウりんのものすんごい愛を実感することでしょう。ふふっvv 靖春はこのまま書き逃げします!! 飛鳥さんごめんなさいっ!(号泣) 靖春でしたっ!! |