いつもの・・・










  宿屋で目覚める、いつもの朝。
  晴れてても雨が降ってても風が吹いてても。
  オレにとっては然程変わりない、いつもの朝。    
        
  いつもの服に着替えて。
  いつもの防具を身につけ。
  いつもの剣を腰に携える。

  階下の食堂に行けば、いつもの仲間たち。
  オレの姿に気がついて、「おはよう」と言ってくる。

  リナはとびっきりの笑顔で。
  ゼルガディスはコーヒーを片手に。
  アメリアは元気良く。
  オレもいつものように、片手をあげてそれに応える。 
 
  そして ―― オレとリナの、食事争奪戦が始まる。

  それは、いつもの日常。いつも一緒にいる仲間。

  オレがボケてリナにスリッパで引っ叩かれたり。
  呪文で吹っ飛ばされて空を飛んだり。
  アメリアが木から飛び降りて着地に失敗して。
  ゼルガディスがやれやれと、首根っこ引っ掴んで立たせてやる。

  夜盗や魔族が襲って来たり。
  リナが真夜中に抜け出して盗賊いぢめに行ったり。
  それをオレが阻止しようとしたり。

  変わらない『いつも』 変わって欲しくない『いつも』
  でも時々、ふと変えてみたくもなる『いつも』
  
  その日。
  少し寝過ごしたオレは、いつもの支度をして食堂に向かった。
  でも、そこには・・・誰も、いなかった。

  リナが。ゼルガディスが。アメリアが。
  誰も、いない。オレだけ。

  とりあえずテーブルについて、朝飯を頼む。
  きた料理を1人静かに食べる。
  1人の食事は美味くない。
  いつも奪い合うリナも。
  いつも呆れて見ているゼルガディスとアメリアも。
  誰もいない。オレ1人。
  
  ・・・これは『いつも』じゃない。
  オレはこんなの望んじゃいない。
  たった独りの『いつも』はもういらない。

  ふいに。眩い光が射し込める。
  「はぁ〜・・お腹へったぁ〜〜!―― あーっ!!ガウリイずるいっっ!!
   先に食べてるなんて〜〜っっ!!!」
  開かれた宿屋のドアから。突然戻ってきたオレの『いつも』
  いつも鮮やかに輝く『いつも』のリナ。
  オレの1番大事な、何よりも大切な・・・。

  その後ろから、ゼルガディスとアメリアの姿。
  「どこ行ってたんだ?」
  「どこって・・・あんたねぇ・・・・(怒)」
  あ。なんかヤバイ。
  「昨夜話した事もう忘れたんかこのくらげぇーーっ!!」

   すっぱーんっっ!!!
  
  あう。やっぱり叩かれた。いつもだけど・・・痛ひ・・・(涙)
  「アメリアのツテで、貴重な魔道書をみせてもらいに行くって
   言ったでしょっ!責任者が留守にしちゃうから、朝早くって約束でっ!!」
  「・・・そーだっけ・・・?」
  「そーなのっ!!ったく、んな簡単な事あっさりきっぱり忘れるなぁっ!!」
  「・・・ま、ガウリイだからな。」
  「そうですね。ガウリイさんですもんね。」
  「いやぁ・・(てれっ)」
  「誉めてないっっっ!!!」

  戻ってきたオレの『いつも』
  騒がしくてめちゃめちゃだけど、失いたくないオレの『いつも』
  やっぱりまだ、この『いつも』は変わらなくていい。
  傍にいてくれる、ただそれだけで。
  オレは、安心できるから。

  そしてオレは。
  いつものように、リナの栗色の髪をくしゃりと撫でた。

                           えんど