リナのやめさせ作戦!









つん。


ぷに。


「……へへっ♪」

……まぁぁぁたやってるよ、あの子は……
あたしは心の中で、こっそりとため息をついた。
―――――出産を終えて、1ヶ月。
あたしは無事退院し、すでに主婦業に戻れていた。
赤ちゃん達も、無事生まれてくれたし……
だが。
1つ、問題が出来た。
「……へへへv」
……そう、これである。
古来より、赤ちゃんの頬は、ぷにぷにしてて気持ちいーとゆー説がある。
そして、あたしの赤ちゃん達も、その例に漏れなかったのだが……
ルーナが1回、赤ちゃんの頬をつっついてみたのだ。
そして――ハマった。
以後、うちのベビーベッド付近では、赤ちゃんの頬をつっつくルーナが見かけられる
が――
問題はそれじゃない。
ルーナの気持ちもよくわかるし、なによりこの光景、結構ほほえましいものがあるの
だ。
だが……
ぷにぷにするたびに、顔を崩しまくって妖しげな笑みを浮かべるのはやめてほしいも
んである。
「ふっ……くすくすくす……」
あ。またやってるし。
「……なぁリナ。
 あれ……やめさせたほーがいいんじゃないのか?
 なんか、あのまま放っておくと、アブナイ道に行きそーな気が……」
さすがに見かねたのか、ガウリイが言ってくる。
「とは言ってもねー……
 赤ちゃん達どっかに隠すわけにもいかないし、ルーナを説得するのなんて無理だ
し…」
「んー……
 なんかねーのか?赤ん坊に興味を無くさせる魔法とか」
「ンな魔法あるわきゃないでしょーが」
言ってから、あたしは少し考え込むと、
「……いや、待てよ。
 要するに、ルーナの興味を別のものに向けさせればいいのよね?」
おお、我ながらナイスなアイデア♪
「ガウリイ…あたしやるわ。
『ルーナの赤ちゃんいじりやめさせ作戦』!やるわよっ!!」
「……そのまんまじゃねーか。その作戦名」
あたしはツッコミをいれたガウリイを、スリッパで黙らせて、そのままリビング――
もとい、作戦会議室へと引きずり込んだのだった。

作戦そのいち:
とりあえずご飯(エサ)で釣ってみる

「ルーナ〜〜〜!昼食の時間〜〜〜〜っ!!」
あたしは叫んだ。
すると。

……どだだだだだだだだだだだだだだだだ!!
がたんっ!
ばくばくばくっ!ごっくんっ!もぐもぐもぐっ!!ごっくんっ!!!
がたんっ!
「ごちそーさまでしたぁーっ!!」
どだだだだだだだだだだだだだだだだ……!!

「…へっ……?」
思わず呆けた声を出すあたし。
ちなみに、ルーナが昼食を食べるのに使った時間は、わずか10秒――いや、それを
軽く切っていただろう。
……我が娘ながら、つくづく恐ろしい子だわね……
「作戦そのいち、失敗か……!」
「っていうか、今朝の朝食のときもそーだったんだから、別に昼食のときに再実験す
ることなかったんじゃあ……」
すぱしぃぃぃぃぃぃんっ!
「うっさいわね!読者はそこんところ知らないんだから、黙ってりゃわかんないの
よっ!!」
「……読者って誰……?」
またまたいらないツッコミをしてくるガウリイを、あたしは今度は素手で殴り倒し
た。

作戦そのに:
アスカちゃんと遊ばせてみる

「……え、赤ちゃんいじりにハマってる?
 どーりで最近、クッキーねだりにこないと思ったら……」
作戦協力を仰ぐため、あたしはアスカちゃんを呼び出し、事の顛末を説明した。
フェリオくんがいれば、彼女に迷惑をかけることもなかったのだが……彼は今、アメ
リアが産休のために出来なくなった仕事を手伝うため、セイルーンに一時帰国してい
るので、仕方がない。
「いいですよ、協力します。
 ルーナと遊べないのは、こっちとしてもつまんないですし」
「ありがとう♪
 うちのガウリイよりよっぽど頼りになるわね♪」
「……悪かったな」
あたしのちょっとした冗談に、ガウリイはすねたような声を上げた。
……いやだから、冗談だってば。決してあたしは、『ガウリイなんて所詮頼りない』
なんて思ってないからね。

そして――
ベビーベッドには、相変わらず赤ちゃんをいじくり倒しているルーナと、一緒になっ
て赤ちゃんの頬をつっつくアスカちゃんの姿が見えた。
……ミイラ取りがミイラ取りになってるしぃ……
「……これでも、俺の方が頼りになんないのか?」
ガウリイが意地悪く問いかけてくる。
……だからぁ、あれは冗談だってのに……

結局今日は、失敗――どころかかえって被害を拡大するだけに終わったのだった。

作戦そのさん:
魔道士協会に放りこむ

「……放りこむ、って……
 でもそーゆーのって、入会試験とかあるんじゃねーのか?」
「あんたが入会試験って言葉を知ってるとは思わなかったわねぇ……
 まぁ、そこらへんは大丈夫よ。
 裏から手ぇ回して、試験なしでOKってことになったから」
いやー、あたしのネームバリューがこんなところで役立つとはねー。
まさか、結婚して主婦に専念してからも自分の名前を使うことになるとは思ってな
かったけど……
「……それ、脅迫じゃねぇか…………いや、なんでもないです。
 …ところで、気になったんだが……お前さん、ひょっとして昨夜、寝てないのか?
くまがうっすらと…」
「あ、うん。まぁね。
 早急になんとかしないと、って思ったら、眠れなくて。作戦考えるのに使っちゃっ
たわ。
 ……あ、でも大丈夫よ。
 これも、子供の教育のためなんだから♪」
心配顔のガウリイに、あたしはウィンクしながら返事した。

……………あたし、子供の教育方法間違えたのかしら……
半壊した魔道士協会を前に、あたしは1人、胸中で呟いた。
壊したのは、もちろんルーナ。
今朝、ルーナが起きたてで思考が正常に機能してないうちに、魔道士協会へと捨てて
――じゃない、預けてきたのだが――
その30分後に、協会からボロボロの格好をした使いの人が来たのだ。
その人が言うには、
「お、お宅の悪ガ……い、いえ、お嬢様がいきなり攻撃魔法をぶっ放して……!!」
……とのこと。
それを聞いたあたしとガウリイは、あわてて協会に来たのだが……
このバカでかい協会を半壊するような広範囲の魔法は、おそらく『ドラグ・スレイ
ブ』。
多分、思考が完全に目覚めたとき、自分のいるところが見た事もない場所だったた
め、パニクってドラ・スレを放ってしまったんだろう。
……修理費、あたしの名前でチャラになんないかなぁ……?
呆然としているガウリイの隣で、あたしはそんなことを思うのだった。

作戦そのよん:
こーなったらお説教

「だぁかぁらぁっ!
 いーかげん赤ちゃんいじるのやめなさいってばっ!!」
「だぁかぁらぁっ!
 絶対にやだって言ってるだろっ!?」
「……平行線じゃねーか?これ……」
今回ばかりは、ガウリイの言葉が正解だった。

作戦そのご:
打つ手がないので最終手段

「最終手段……?
 そんなもんあったのか?」
「あったのよ。
 当初の目標とはちょっと意味合いが違っちゃうから、今まで使わなかったんだけ
ど……しょうがないわ。
 こればっかりは、ルーナにもクリア不可能なはずっ!!」

たたたたたっ。
軽い足音を立てて、ルーナがベビーベッドに近づく。
……ふっ……愚かな娘め……
ルーナは、いつものように赤ちゃん達のぷにぷにほっぺに手を伸ばし――
ぴしっ!!
そのままの格好で、硬直する!
しばらくして硬直状態から脱したルーナは、震える手を名残惜しげに下ろした。
ふっ!予想通りっ!!
「あら〜、どうしたのルーナ?
 『その条件』さえクリアできれば、いっくらでも触ってい〜のよ?」
あたしは未練がましく赤ちゃん達を見つめるルーナに、意地悪な声をかけた。
「………母さん……
 いくらなんでも、これはひどいって……」
「何いってんのよ、魔道士協会壊しといて。
 これぐらいとーぜんよねぇ?」
「う゛……」
がっくりと肩を落とし、ルーナは去っていった。
…えっ?何したのかって?
なんのことはない。すでにお気づきの方もいると思うが――
ただ単に、ベビーベッドに張り紙をしておいただけなのだ。
『赤ちゃんいじり1回につき、ピーマン1個生で食べること』と書いた、張り紙を。


かくて、ルーナの赤ちゃんいじりは、この日を境にぱたっと止んだ。
こっそりとつっつきに来る事もあるが、そこはそれ、あたしの監視によって断念せざ
るをえないのだ。
そして――


「……なぁリナ。
 よく考えたら……出産してから、1ヶ月たったんだよな?」
「え?そうだけど?」
「んで、子供達の夜泣きもほとんどなくなったよな?」
「…?確かに最近、夜泣きで起こされることて少なくなったけど……なんで?」
「………いーや、別にぃ♪」
「?」

そして。
別の意味で眠れなくなったのは、言うまでもなかった。

「あたし思うんだが……
 あたしの赤ちゃんいじりより、父さんの母さんいじりの方が、よっぽどやめさせた
方がいいんじゃないか?」
「……今必死で、やめさせ作戦考えてるとこ……」


<おわり>


どこらへんがガウリナか。
・・・聞かないで下さい・・・(泣)