運命、そして宿命。 番外編その3 その前 〜過去の場合〜 |
……ルーナ=ガブリエフは、4歳にして反抗期の真っ最中だった。 世間からすれば遅いほうだが、それ故に反抗の仕方もすごかった。 たとえば、食器類をむやみに割ろうとするなんてのは可愛い方で、 庭に乾しておいた洗濯物を泥だらけにしたり、 近所の八百屋さんの果物をかっぱらったり。 挙句の果てには、リナの研究室を荒らしたりした。 そんなこんなで、とうとうリナがキレかかったとき。 セイルーンから、旧友が子供を連れてやってきたのだった。 「えっと、僕、フェリオ=グレイ=ティル=セイルーン、です。 はじめまして!」 にぱぁっ、と微笑みながら、少年は自己紹介した。 「はじめまして、リナよ。よろしくね」 「ガウリイだ。 お前、偉いなー。そんな長い名前、覚えてられるなんて」 「……いくら長くたって、自分の名前忘れるのなんて、あんたくらいのもんよ。 さ、ルーナ。あんたもちゃんと挨拶しなさい」 母親の促しに、しかしルーナは、ガウリイの後ろに隠れるだけ。 それも、影からフェリオを見つめる瞳には、敵意を込めて。 その様子を見たリナは、ふぅ、とため息をつくと、 「あのね、ルーナ。 反抗期だかなんだか知らないけど、挨拶も出来ないような子は、あたしの子じゃな いわよ」 「……お母さんの子じゃなくてもいい」 負けじとルーナも言い返す。 「え?」 「……お母さんの子供じゃなくてもいい! お父さんの子供なら、それでいいっ!! ルナさんが、いつでもお母さんになってくれるんだからなっ!」 言いたいことだけ言い切ると、ばたばたと走り去るルーナ。 そのまま彼女は、2階の自室に閉じこもった。 ――お母さんが、お母さんじゃなくてもいい。 お父さんがいれば、それでいい―― それが、今の彼女の信念だった。 「……まぁた姉ちゃんが、ヘンな事ルーナに吹きこんだのね」 「いいんですか?放っておいて」 「別に平気よ、夕食の時間になれば出てくるわ。 単なる反抗期だから、気にしないで」 心配顔のアメリアに、軽い口調でリナは言った。 「でも……」 「やめとけ、アメリア。 リナにはリナの考えがあるんだろう」 納得のいかないアメリアに、今度はゼルガディスの声がかかる。 「……わかってます。 でも……反抗期にしては、激しすぎるような気がして……」 「フェリオくんのときはどうだったのよ?」 「……結構すごかったですよ。 2歳の頃に来たんですけどね。 何が気に入らないのか、ご飯は食べないし外には出てこないし服は着替えないし。 最終的にはなんとかおさまったんですけど、あのまま出てこなかったら、ひからび てましたね。フェリオは」 「……僕、よくわかんないや」 母親の昔話には興味を示さないフェリオ。 今の彼の心は―― 部屋に閉じこもった、1人の少女に向いていた。 「さて、そろそろ夕飯の支度しなきゃ。 あんた達も食べてくでしょ?ぱっぱっと作っちゃうから、そこらへんのソファでで もゆっくりくつろいでて」 「あ、私も手伝いますぅ」 リナとアメリア。2人の女が台所で料理に取りかかる。 リビングでは、男3人――うち1人は、まだ幼いが――が、他愛もない話をしてい た。 だがそのうちに、ゼルが思い出したように、 「――ルーナのことだが」 そう切り出した。 「あれは、本当に反抗期なのか? ……いや、反抗期なのは確かだが…… あれは、『反抗期なだけ』なのか?」 「……わからん。 ただ、なんでかしらんが、俺にばっかりなつくんだ。 ――というか、リナには接しようとしないんだ」 「……うちとは正反対だな。 フェリオは、今でこそ俺によくなつくが、昔は世話役の執事にべったり。俺には怯 える始末だったんだ」 「……どこの家庭も、なんかしら苦労してるんだな……」 しみじみ言うガウリイ。 ――と。 くんっ。 「え? ……あ、なんだ。どうしたフェリオ?」 服のすそを引っ張られ、ゼルは息子に聞いた。 するとフェリオは、その大きな瞳を実父に向けながら、 「あのね、けはいがしないの」 理解不能なセリフを言った。 「……はぁ?」 「あのね、さっきのおんなのこの、けはいがしないの」 ゼルの聞き返しに、フェリオはもう1度答えた。 ――さっきのおんなのこ――? 「ルーナか!?」 こくりとうなずくフェリオを見ずに、ガウリイは愛娘の部屋へと走った。 迂闊だった。 昔の仲間との話にのめり込み過ぎて、娘の気配の消失を見逃してしまった。 「――ルーナ!?」 叫んでガウリイは、ルーナの部屋のドアを勢い良く開ける。 そこには、開いた窓から吹き込む風に、ぱたぱたとはためくカーテン。 争ったあとなどはなく、唯一の異変といえば、窓から垂れ下がった長いロープ。それ と、ごっそりと衣服が抜き取られたタンスに、手紙。 手紙には、なんとか読めなくもない、というような字で書かれた文があった。 ―――お母さんなんか、大っきらいだ! お父さんも、お母さんのことすきだから、きらい!! だから、このおじさんについてくっ!!じゃあなっ!!――― 「……『このおじさん』……?」 疑問符を頭に浮かべるガウリイ。 だがしかし、下の方に小さく書かれていた一文を見た瞬間、それは綺麗に消し飛ん だ。 ―――娘さんをどこに連れていくかは、秘密です♪――― 「……ゼロスのヤロー……」 「旦那、とにかく外へ行こう。 まだそこらへんにいるかもしれん」 後から来て、横から手紙を覗いたゼルが言った。 「なぁなぁおじさん、どこに行くんだ?」 「……だから、僕はおじさんじゃなくて、ゼロスですってば」 ルーナの問いには答えずに、彼女を抱えた青年――ゼロスは苦笑しながら言った。 ちなみに、この2人――ゼロスを人と数えていいのかどうかは不明だが――がいるの は、高い空の上。 地面に足をつけた人間が、肉眼で見るのは不可能なほどに高い場所――のはずだった のだが。 「いたっ!!あそこだっ!!」 下の方から、聞きなれた声がした。 目を向ければ、そこにはこちらを指さすガウリイが。 「さすがですねぇ……もう見つかっちゃいましたか。 ルーナさん、少し高度を下げますよ」 ひゅんっと空間を渡り、肉眼で捕らえる事が可能な高さ――しかし、長身のガウリイ が手を伸ばしても、届く事が出来ないくらいの高さまで下がる。 「やっぱりお前か、ゼロス……!」 「お久しぶりです、ガウリイさん♪ おや、ゼルガディスさんまで。……あれ?」 第3の小さな人影を見とめ、思わず眉をひそめるゼロス。 だが、しばらくして思い出す。 「……ああ、ゼルガディスさんの息子さんでしたね。 でも、この子にとっては初めまして、ですね♪」 「あ、はじめましてっ! フェリオ=グレイ=ティ……んぐ」 「こんなのにわざわざ自己紹介しなくていい、フェリオ」 無邪気な息子の口をふさいでから言うゼルガディス。 「こんなのって……ひどいですねぇ。 まぁ、いいですけど」 ゼロスは、ルーナを再び抱えなおすと、 「ルーナさんは、僕があるところまで連れていきます。 ご本人の了承もとれてるんで、ご安心を♪」 「そうだもんっ! あたし、このおじさんについてくって決めたんだ!!じゃますんなっ!」 ゼロスに続き、ルーナも叫ぶ。 隣でなにか言いたそうな顔をするゼロスだが、それとは別のことを言う。 「ね?とれてるでしょう? まぁ、心配なさらなくても大丈夫ですよ。 しばらく経ったら、ちゃんとお返ししますから」 「しばらくって……どんくらいなんだ?」 「そうですねぇ」 ゼロスは、しばらく考え込むと、いつものような笑顔を浮かべ、 「4,50年ほどです♪」 「長過ぎるわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」 かきぃぃぃぃぃぃん! 乾いた音を立てて、ゼロスの頭に直撃したのは、おたま。 それを投げ放ったのは―― 「リナ!」 「まぁぁぁったく。 夕飯できたってのに、リビングに誰もいないと思ったら……」 エプロン姿のまま言うリナの隣には、同じくエプロン姿のアメリアもいる。 リナは、きっとゼロス――いや、そのゼロスに抱えられているルーナを睨みつける と、 「いつまでそーやってひねくれてるつもり、ルーナ! そんなのについてったら、もれなくガウリイが泣くわよっ!」 「別にいいもんっ! お父さんが泣こうと、お母さんが泣こうと……! どうせ、あたしのこときらいなんだろ!?泣くはずないもんっ!!」 「……あのねぇ。 まぁ……今は、嫌いだのなんだのって討論してる場合じゃないけど…… そのことについては、あとできっちり話し合いましょ。 そのためにも―― ゼロス。ルーナ、返してくれる?」 「申し訳ありませんが、それは出来ませんね。 これも一応、お仕事なんですよー」 「……仕事?」 いぶかしげに問い返すリナ。 「いいでしょう。リナさんに免じて、特別にお教えしましょう。 僕が今回、獣王様から受け賜った仕事は―― 『カタート山脈で復活を待ち望んでいるであろう赤眼の魔王様の封印を、ルーナ=ガ ブリエフに解かせろ』です」 「……………はぁ?」 「正確には、解かす、というか……ルーナさんに、依り代になっていただきたいんで すね」 「……依り代……?」 「リナさんは、あの御方の依り代になったことがおありですよね? あれからヒントを得たんですよ、我が主は」 ゼロスは説明を続ける。 「ルビーアイ様は、実は長年氷づけになっていたせいで、力が弱まってらっしゃるん です。 ですから、今の状態で封印から解放しても、具現化できない可能性があるんです よ。 そこで我が主が考え出されたのは、人間を依り代にすること。 でも、生半可な人間では、かえって力が半減してしまうでしょう? だからって、リナさんを依り代にすることは不可能。そうでしょう?」 「当たり前よ。あたしがそんな誘い、受けるわきゃないでしょーが……って、あ!」 「どうやら思いつかれたようですね。 そう。あなたの娘であるルーナさんですよ。 今のルーナさんは、人間で言うところの『反抗期』だそうですね。 失礼ながら、そこにつけこませていただきました。 ――ルーナさんには、ルビーアイ様の依り代になっていただきます」 「ちょっとルーナ!! 今の解説聞いたでしょ、それでいいわけ!?あんたは!!」 「………………」 沈黙するルーナ。どうやら、少し迷いが生じたらしい。――が。 「……ルーナ…… 今ここで戻ってこなかったら、一生おやつ抜き」 「はなせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! とっとと放せよ、おじさん!あたしは帰るっ!戻るっ!! だからおやつはとっといてくれぇぇぇーっ!」 母親の言葉に、ころりと意見を変えた。 「……おやおや…… ですがね、ルーナさん」 その様子を見たゼロスは、 「魔王様の依り代となり、この世界を滅ぼせば、おやつどころか毎日食べ放題ですよ ?」 ――毎日食べ放題―― 「……おやつ一生抜きでいいや♪」 またも意見を反転するルーナ。 ゼロスの言葉は、あながち間違ってはいないだろう。 魔王の依り代となり、世界を滅ぼす――そうすれば、毎日、とまではいかなくとも、 しばらくは魔族の食物である負の感情は食べ放題だ。 むろん、そこまでわかりやすく説明するようなゼロスではないが。 「……あのバカ娘……」 「なぁ、リナ」 「……そこで『これってなんの騒ぎだ?』とか聞いてきたら、張り倒すわよ?ガウリ イ」 「いや、そーじゃなくってさぁ」 ガウリイは、頭をぽりぽり掻きながら、 「思ったんだけど…… あんなちみっこいルーナに憑依した魔王って、強くなるのか?」 …………………………… しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん…… 「……そうだった…… ゼロスぅー。 もうわかってると思うけど、ルーナって、よく考えたら魔力がまだ育ってなかっ たー」 「……わかってます……今わかりました……」 しくしく涙を流すゼロス。 「わかったなら、ルーナ返してくんない? これから、最重要家族会議やるんだから」 「……はいはい。お返ししますよ。 ですから――」 ゼロスは、にっこりと微笑むと―― 「ちゃんと受けとって下さいね?」 言って、ルーナを空中に放り出す! 「え?」 状況がわからぬまま、ルーナは地面へと落ちていき―― 落ちていく先は、幼い少年の上。 「――フェリオっ!受けとめろっ!!」 叫んだゼル自身にも、不可能であると思われたことを―― フェリオは、やり遂げた。 「はーいっ!」 元気良く返事をして―― ……ぽすっ。 拍子抜けするくらい軽い音を立てて、ルーナの小さな体は、フェリオの小さな腕の中 に落ちた。 「………え?」 「こんなところで死なれちゃ困りますんで。僕の方で、少し重力と引力を操作させて いただきましたよ」 ふわりと降りてきたゼロスが言う。 「忘れないでくださいね、ルーナさん。 僕は、あなたのことを諦めたわけではありません。 あなたが成長して、魔力が育ちきったとき――また、お迎えに上がります。 そうしたら、ついてきてくださいね♪」 「なぁーにいってんのよ。 成長したルーナが、簡単にあんたについてくわきゃないでしょーが」 リナのツッコミも聞かずに。 ゼロスは、虚空へと溶けた。 「……それじゃあリナさん、また」 「ええ、ありがとね。アメリア、ゼル。 それと……フェリオくん」 「え、僕…?」 別れ際。 リナに名前を呼ばれ、フェリオは大きな瞳をきょときょとと動かした。 「ルーナを助けてくれて、ありがとう」 「俺からも。ありがとな、フェリオ」 「……えっと……なんだっけ…… あ、どういたしまして、だぁ!どういたしましてっ!!」 無邪気なその動作に、大人達からくすくす笑いが漏れた。 ――そして、別れ。 「またな」 「では…」 「さよおならっ!」 ゼルガディス、アメリア、フェリオ。 セイルーン家が、帰路に着く。 ――そのとき。 「……ありがと」 ぽつりと、ルーナが呟いた。 「え?」 「っだ……だからっ! ありがとうって言ってるんだっ!」 顔を真っ赤にしたルーナが、今度は叫ぶ。 「いっ…い――かっ!? あたしは借りを作らない主義なんだっ! だから、いつかおっきくなったら、今度はあたしがお前を助けるからなっ!覚えと けっ!!」 実は、この時点できっちり借りになってるのだが、ルーナはそれに気づいていない。 「………うんっ!覚えとくっ!!」 そして。 今度こそ、3人は帰っていった。 その背中を見送り、そして見えなくなった後。 「……ルーナ」 リナが静かに言った。 ぴくり、と震えるルーナ。 リナは、ルーナと目の高さを合わせるために、娘の前でしゃがみこんだ。 そして、すっと手を上げる。 「――!」 頬にくる痛みを予想して、ルーナは目を固く瞑り―― くしゃっ。 「…………え?」 だがしかし。 次に来たのは、叱られるときの平手打ちではなく、誉められるときの頭撫でだった。 「……な…なんで……?」 頭にクエスチョンマークを浮かべる愛娘に、リナはにっこりと微笑むと、 「『ありがとう』って、ちゃんと言えたね。 ――偉いわよ、ルーナ」 「…………」 顔を真っ赤にして沈黙するルーナ。 そんな様子に、リナはさらに笑みを深くすると、 「――さぁぁぁぁって。 それはそれとして。 『どうせ、あたしのこときらいなんだろ!?』の意味、きっちり話してくれる? ルーナ」 一瞬にしてルーナの顔が青くなる。 「……それはその……」 「………ま、こんなとこで話してもしょーがないわ。 家に入りましょ」 そして。 家の中に入ったあと、リビングでは、『最重要家族会議』が始まった…… 「……へぇー。ンなことがあったのか、6年前に……」 「僕、ちっとも覚えてないや」 6年前、『最重要家族会議』が行なわれたリビングで。 今度は、ガウリイがルーナとフェリオに昔のことを教えていた。 昔、とは、ルーナとフェリオが初めて会った6年前の事。 「でもなんであたし、母さんの事そんな風に思ってたんだ?」 「いや、それがまた可愛い理由でさぁ。 ルーナ、昔っから宝石とか好きだろ?」 「まぁな。だって綺麗だし、高く売れるし……まぁ、気に入ったのは売らねーけど」 「僕も宝石好きだよっ!おじい様、よくくれるんだ!!」 「……さすが1国の王…… まぁとにかく、それでさ、昔はルーナ、よくリナに宝石をおねだりしてたんだ。 マジック・ショップとかに連れてくたんびに、ショーケースの中の宝石指差して、 『これ買って♪』って。 イミテーションをあげても、すぐにバレて、またおねだりしてくる。 んでリナが負けて、買い与えたりしてたんだけど、それで出費がかさみまくって さ。 それでつい――リナも無意識だったんだろうな、こう言ったんだ。 『男の子だったら、こんな高いのねだったりしないだろーに……』 ……ってな。 そんで、それを聞いたルーナが、勘違いしたってわけだ」 実は、ルーナの男言葉もそこが原因の1つだったりするのだが、ガウリイはそこまで 言わなかった。 「ふーん…… しかし、昔のあたしって、結構はちゃめちゃやってたんだなぁ」 ――今ははちゃめちゃやってないつもりなのか? 心の中でつっこむガウリイ。 言わなかったのは、言ったら怒るに決まってるからである。 「――あ、いたいたルーナ。探したわよ」 そこへ、リナがやってきた。 フェリオとルーナが2回目の出会いを果たしたとき、そんなに目立ってはいなかった お腹も、すでに膨らみきっている。 出産まで、秒読みといったところだろう。 普通なら安静にしておくべき時期なのだが、ガウリイが何を言っても、リナは動く事 をやめない。 理由は簡単。じっとしていると、かえって落ち着かないからである。 かかりつけの医者も、「じっとしてストレスがたまるのより、動いてそれを発散させ るほうがいいでしょう」と、適当なことを言う始末。 そしてガウリイも、リナに勝ちを譲ったわけで――こうして、普通の主婦のごとく動 いているのだ。 「ん?どーかした?」 「アスカちゃん、来てるわよ。クッキー焼きすぎたから、おすそ分けだって」 「ほんと? アスカのクッキー、美味しいんだよなぁ……♪」 言いながら、ルーナは玄関へと向かった。 そして、リナも主婦業に戻り―― 男2人の空間となったところで、フェリオは言った。 「……あのね、僕実は、昔のこと、覚えてるんだよっ☆」 「え?なんで覚えてるんだ、お前?」 「だって、ルーナが覚えてろってゆったから! でもルーナは覚えてないみたいだから、僕も覚えてない振りしてるの!!」 「……なかなかの食わせ者だな、お前」 「え?僕、食べれるの?」 こくん、と首をかしげるフェリオ。 昔となんら変わらない動作に、ガウリイは思わず苦笑する。 ――ふと、思い当たることがあった。 「なあフェリオ…… ひょっとしてお前、それ、演技か?」 わざと情けない少年を演じて、 あまり人を寄せ付けないルーナに、自分を『特訓』させるよう――そばに置いておく よう、仕向けた――? 「…なんのこと?」 にっこりと微笑む少年のそれは、天使のような笑みであると同時に、悪魔のような笑 み。 ――なるほどな―― ガウリイは思った。 自分とこの少年は、同じだ、と。 惹かれる人間も――その人間を手に入れるための、方法も。 「……長い付き合いになりそうだよな、お前とは」 「うんっ!」 元気良くフェリオがうなずくと―― 扉の向こう――玄関から、ばたばたと走ってくる音が聞こえた。 <おわり> ・・・なぜ、こんな長くなってしまったんだろう・・・? しかもフェリオ、人格が暴走してるし・・・(汗) あ、そうそう。 本文の途中、「出産まで秒読み」とか言ってますが、次回作はこれのちょっと前の話 になります。 ・・・って、なに予告してんだろーね(笑) |