運命、そして宿命。
その後 〜姫君の場合〜









「お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
城に着くなり――
いや、出迎えた俺の顔を見るなり、フェリオはそう叫んだ。
……よっぽどのことがあったんだろうな……ルーナの『特訓』で……
まぁ、それで少しは甘えん坊が直るのならいいが……
「お帰り、フェリオ」
「た、ただいまぁっ!ふえぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇんっ!!
 こ、こ、こ、怖かったよぉぉぉぉ!!」
フェリオは俺に抱きつくと、いきなり泣き出す。
……あんまり変わってないじゃねーか……
「あーよしよし。
 何があったんだ?ルーナの『特訓』で」
俺の質問に、しかしフェリオは、物凄い形相でぷるぷると首を横に振るだけ。
……そんなに怖かったのか……?……口にしたくないくらい……
「まぁいい。
 それより、俺が今日お前をここへ呼んだのは、別にお前を助け出すためじゃない」
「………へ…?」
泣くのをようやっと止め、大きな瞳をこちらに向けるフェリオ。
「……今朝。お前の母様――アメリアが、倒れた」
「!?」
「今、城下の魔法医のところで診察中だ。
 ……もし、アメリアの体に、何かあったのだとすれば……
 それがなんであれ、一大事だ。王族会議を開くことになるだろう。
 だから、お前を呼び戻した。……わかるな?」
こくりと、フェリオはうなずいた。
「いいか?お前は、このセイルーンの王位継承者だ。
 たとえまだ10歳だろうと、甘えが許される席じゃない。
 それをよく認識しろ。――以上」
「はい。
 ……でも……お母様、こないだルーナの家で見たときは、あんなに元気そうだった
のに……」
「……人間ってのは、そういうもんなんだ。
 とりあえず、正装に着替えろ。
 …じいが、お前の帰りを心待ちにしていたぞ」
「じいが!?本当に!?
 わぁいっ!!すぐ行ってきまぁーす!!」
ばたばたと、フェリオは自分の部屋へと走っていった。
ちなみにじいとは、フェリオの世話係の愛称だ。
小さい頃のフェリオは、今のようによくなついていたな……じいにだけ……
「……昔、俺にはなつかないくせにじいにはなつくから、ちょっと嫉妬してたなん
て……一生言えないな……」
俺はぽつりと、呟いた――

「ゼルガディス様。王様がお呼びです。
 その際には、フェリオ様もお連れするようにと――」
執務室で。
書類を片付けていた俺とフェリオに、フィリオネル王直属の兵士はそう言った。
「わかった。すぐ行こう」
兵士に囲まれて、俺とフェリオは長い廊下を歩く。
そして、一際豪華な細工が施してある部屋にたどり着いた。
「フィリオネル王様。ゼルガディス様と、フェリオ様をお連れ致しました」
「ご苦労」
手短な返事。
玉座には、立派な風体のフィリオネル王が座っていた。
「おじいさ…むぐっ」
叫び出そうとしたフェリオの口を、俺はあわてて押さえる。
そんな様子を見て取ると、
「はっはっは。別にかまわぬよ、ゼルガディス。
 フェリオ、よくぞ帰ってきた。ガブリエフ家はどうじゃった?」
豪快に、フィリオネル王は言った。
「…ぷはぁっ。あのねあのね、おじい様!!
 ルーナはね、すっごいの!!ちょっと怖いけど……
 でもね、とぉーっても優しいの!!でね、強いの!!
 僕ね、ルーナのこと、大好きなんだ!!!」
ぶっ。
『大好き』の部分で、思わず吹き出す俺。
……いや、きっとフェリオにとっちゃあ、単なる『好き』なんだろうが……
「『おっきくなったら、きせーじじつ作ってでも結婚』するの!!」
ずるぅっ!
今度は、フィリオネル王も一緒になってずっこける。
「ふぇ……フェリオ……
 お前、どこでそんなこと覚えた……!?」
「へ?ルーナが教えてくれたよ?
 『好きな人が出来たら、おっきくなってからきせーじじつ作ってでも結婚するべ
し』って。
 でも、きせーじじつって、なんなんだろ?」
………あのませガキめ………
「……なかなかユカイな『特訓』を受けてるようじゃな……」
苦笑しながら、フィリオネル王は言った。
「――ゼルガディス。フェリオ。
 アメリアの主治医から、診断結果が出た」
その言葉を言うフィリオネル王の顔は、真剣そのもの。
俺も顔を引き締め、フェリオも無意識にか、姿勢を正す。
そして、フィリオネル王は口を開いた。

「――今日が、出来てちょうど1週間目だそうじゃよ」

「……あ、ゼルガディスさん!」
病室。
そこのベッドに横たわったアメリアの顔は、幸せそうだ。
「おめでとう。それと……ありがとう」
「え?あ、い、いえ!
 そんな……お礼を言われるほどのことなんて……」
「お礼ぐらい言うさ。
 2人目だぞ?王子としても、父親としても、嬉しいんだ」
「………私も、嬉しいです。
 ゼルガディスさんの子供を、また産めるなんて……」
「いや。俺の子供じゃないさ」
俺は、アメリアの腹部を、布団越しにそっと撫でると、
「――俺と、お前の子供だ」
「ゼルガディスさん……」
ふと。
あることに気づき、俺は辺りを見回した。
すると――
「……フェリオ、お前そこで何やってるんだ?」
そう。
一緒に連れてきたフェリオは、なぜかドアの隙間から、じぃっとこちらを覗いている
のだ。
「『覗き見』してるの」
「……はぁ?」
「ルーナに、教えてもらったの。
 『覗き見』って、らぶらぶをこっそり観察することなんでしょ?
 でね、ルーナに、『らぶらぶ』のことも教えてもらったの。
 『らぶらぶ』って、辺りの空気が、ほわぁってするような感じのことなんでしょ
?」
…………今度会ったら、あのませガキ剣で斬ってやる……
フェリオは、とてとてとてっとアメリアの方に駆け寄ると、
「あのねあのね、おめでとう!
 ……よくわかんないけど、おじい様が、『わしの分もそう言っといてくれ』って
ゆったの!!
 だから、おめでとう!!」
「………ありがとう、フェリオ。
 嬉しい」
「ほんと!?
 わぁいっ!!」
ぴょんぴょん跳ねまわる。
「お前も嬉しいか?フェリオ」
「うんっ!!
 だって、お母様が嬉しいと、僕も嬉しいもんっ!」
「………そうだな。
 俺も……
 アメリアやフェリオが嬉しいと、嬉しい」
「……私もです。
 きっと、産まれてくるこの子も……」

そして。
数ヶ月後、ゼフィーリアとセイルーンに、新たな命が誕生するのは、また別のお話。

「あ!そうだぁ。
 ねぇねぇ、お父様」
「ん、なんだフェリオ?」
「どうしてルーナのおとーさんは、『夜行性の体力バカ』なの?」
「なっ!?」(////)

<おしまい>