運命、そして宿命
その後 〜騎士の場合〜









「……え?リナの弱点……?」
父さんの言葉に、あたしは神妙な面持ちでこくりとうなずいた。
「んなこといわれてもなぁ……
 第一、なんでそんなこと知りたがるんだ?」
「復讐。」
きっぱりと言いきるあたし。
「……ふくしゅー、って……」
「………こないだのフェリオとの1件でっ!! 
 あたし、ピーマン入りおかゆ食べさせられたんだぞっ!?
 あれはかなりのダメージくらった!!
 だから、復讐してやるんだっ!!
 っつーわけだから、弱点教えてくれ」
呆けた顔で尋ねてくる父さんに、あたしは一息にまくしたてた。
「……弱点ねー……
 って、そういえばお前、フェリオはどうしたんだ?
 今朝も『特訓してやる』とか言って、庭先で剣振り回してたよーな……」
「おおっ!!
 父さんが今朝の出来事を覚えてるっ!?
 ……やだなぁ、そんな怖い顔すんなって。冗談だよ冗談。
 フェリオは、昼前にセイルーンから迎えが来たから、いったん帰したんだ。
 ありゃあ多分、ゼルガディスさんの差し金だな。書状、ゼルガディスさんの字だっ
たし……」
「ふーん……
 今頃、ゼルに泣きついてるんじゃないか?フェリオのやつ」
「きっとな。
 ……って、話逸らすなよ、父さん。
 母さんの弱点、早く教えろよ」
「う゛っ……」
低く呻く父さん。
やっぱし、このまま話を流す気だったか……
「で、でも……
 言ったら、俺、リナに怒られちまうし……」
「それは……ありえる、な。
 でも、別に平気だろ?バレなきゃ」
「…………………う〜ん……」
まだ悩んでいる。
……意外と口が硬いんだな……
よぉし。
「父さん。取り引きしねーか?」
「え?取り引き?」
いきなりなあたしの申し出に、父さんはきょとんとする。
「そう。取り引き。
 あたしに、母さんの弱点を教えてくれるんだったら、ある物を父さんにやるよ。そ
れでどうだ?」
「ある物、って……
 生半可な物じゃ、取り引きになんねーぜ?」
「わかってるって。
 じゃあ、取り引き前に特別に見せてやろう」
言いながら、あたしは懐から、『ある物』――――――
―――ルナさんからもらった、母さんの幼少期時代の写真を取り出した。

「……で、弱点はわかったの?」
「ふっふっふ。ばっちり♪」
飾ってある花をいじりながら聞いてくるアスカに、あたしはガッツポーズを取りなが
ら答えた。
アスカ――アスカ=サウンドは、あたしの数少ない友達の1人である。
……数少ない、っつっても、勘違いすんなよ。
そもそもあたしは、友達は作らない方なのだ。
でもアスカとは、なにかと気が合う。こうしてあたしの家に訪ねて来てくれるのも、
あたしとしてはなぜか嬉しかったりするので、友達になっているのだ。
……ってそんなことはともかくとして。
「しっかし、まさかうちの母さんが、なめくじ嫌いだとはなー」
ベッドに身を沈めながら、あたしは呟いた。
そう。
父さんと取り引きして手に入れた『弱点』――それは、なめくじだったのだ。
どーりで梅雨を毛嫌いしてると思ったら……
「なめくじ……って、梅雨に出てくるアレでしょ?
 だったら、ちょうどいい時期じゃないv」
――そうなのだ。
アスカの言う通り、今はちょうど良い時期――雨期なのだ。
あたしはもちろん、すでに外で活きの良いなめくじをGETしてきている。
「あとは、タイミングだけなんだが……」
「あら。タイミングなんて必要なの?」
「……これを、おやつ前にやってみろ?
 あたしのおやつ、抜きになっちまう」
「それもそうね……
 じゃあ、おやつ食べ終わって、お母さんがほっと一息ついた時に、ばぁーってやっ
たら?」
アスカが提案した、その時。
階下から、母さんの呼び声が聞こえてきた。

リビングに並べられたおやつには、律儀にもアスカの分も入っていた。
あたしはリビングに、なめくじ入りのビンをこっそりと隠し持っていくと、そ知らぬ
振りでおやつを食べ始める。
食べ終わった後の事に期待しているのか、それともおやつが美味しいのか、アスカの
顔には満面の笑みが浮かんでいた。
――そして、あらかたおやつを食べ終わり――
わくわくしながら、あたしの方を見てくるアスカ。
何も知らずに、リビングでくつろいでいる母さん。
……びっくりしすぎて、流産なんてことにはならないでくれよ……?
「母さん」
「んー、なぁに……」
油断しきった母さんが振り向いて――
あたしはその顔の前に、小ビンから出したなめくじを突きつけた!!
そして!
「とりゃあっ!!」
ばさぁーっ!!
「えっ!?」
掛け声をかけながら、母さんがなめくじに何かを振りかけた。
とたん、あたしの掌の上で、なめくじが溶けていく。
これは――
「……し、塩……?」
「んふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪
 あ・まーい♪
 あたしに勝とうなんて、8千7百56億年早いのよー♪」
「な……なんでそんなもの持ってるんですか……?」
期待が外れて、半ば放心状態のアスカが尋ねる。
「さっきね、ガウリイがあたしに、
『ルーナがお前をなめくじで狙ってるぞ』って言ってくれたのv
 それであたしは、塩を常備してたってわ・け♪」
……あんのくそおやぢ……もらうもんもらっといて、裏切りやがったな……?
……………こーなったらっ!!
「ふっ……
 母さん。まさかあたしの復讐が、こんなもんで終わるとは思ってないよな?」
「はぁ?復讐って、なんのことよ?」
「問答無用っ!!
 あたしには、まだ奥の手が残ってるんだぜっ!」
そう!
いつか、本当に困ったときにだけ使おうと思っていた、真の奥の手っ!!
アスカの前で言っちゃってもいーのかどうか、ちょっぴり不安だが、今はンなこと気
にしちゃいられんっ!!
あたしは、深く息を吸うと、母さんに向かって言った。

「……できちゃった結婚なんだってな♪」

――かくて。
あたしの復讐は成功に終わった。
だが、あたしに『できちゃった結婚』の情報を教えてくれたアメリアさんが、どー
なったのか――
ちょっと怖いので、なるべく聞かないことにしたあたしなのだった。

<えんど>