ぴーまん日和








<ぴーまん日和>



『い…いっそ、いっそのこと、
すっぱりと殺してくれぇぇぇぇぇえっ!(血反吐)』
そんな心境のことを、世のひとは生殺しと呼ぶ。
最近オレ、ガウリイ=ガブリエフは、
まさに身を持ってこの言葉の意味をかみ締めているのだった。
…例えば、魔族になます切りにされたって、これよりはマシな気分に違いない。

生殺しの味は、オレの憎悪する(なんであんなもんが世のなかにあるんだ?)
ピーマンよりもなお苦かった。

************

冬も近付く某日、
オレはリナのいる部屋で剣の手入れをしていた。
腕を伸ばせば届く場所に、惚れた女がちょこんと座っている。
木の椅子に腰掛けたオレは、さっきからちらちらとリナを背中を見ていた。
座布団をオレから無理矢理奪い取り、
リナは床の上でなんかごそごそやっている。
実は、ちょっと前に気持が通じあったオレ達(はぁと)
そわそわ♪うずうず♪
ベッドも白いシーツもスタンバイOKな同室、
いやが上にも高まる期待ッ!!

…しかし。
何故リナがオレの部屋で鼻歌歌いながら荷物整理をしているかというと、
今しがらへち倒してきたらしい盗賊団の、
そこそこ腕の立つ魔道士を無傷で取り逃がしてしまったかららしい。
「いや〜お宝さんさえ後ろになきゃ、ちょちょいのちょいだったんだけどね♪
奴も復讐なんて時代錯誤なことしなきゃいーんだけど。
ちょっと用心悪いから、あんたの部屋行くわよ」
をいをい…。
平気な顔で言われてオレは情けないよ〜な、やっぱり嬉しいよ〜な、
複雑な気分だった。
…オレも男だって分ってないだろ、リナ。
でもまぁ、基本的に美味しい状況は大歓迎である。

「り〜な♪」
「あぁ?何よガウリイ」
「…二人っきりだな♪」

びし。
まともに凍り付いたリナの、ぴくりと震える肩の曲線♪
からかい半分に、オレはそこから一房の髪の毛を掬い取る。
「ど〜したんだぁ?」
「ななななな、なぁ〜に言ってるのかなぁ?ガウリイ君」
お。耳まで赤いぞリナ♪かぁいいなぁ(切ない溜息)
「…ん?恋人同士のかたらい」
「ば、馬鹿いってるんぢゃないわよッ。なんで…」
「リナも照れるなって♪…ほんっと、こーゆーのにウブだよなぁ」
そこもたまらんのだけどな♪
椅子から降りて、床に膝をついた。
それから、ここまでオレがアピールしているのに、
強情にあくまでこっちを向かないリナの細い髪の毛をつんつん引っ張る。
はっきりいって、
オレにはなんかよく分らんうちに気持を伝え合ったあの時♪以来、
美味しい場面はなかなか訪れてくれなかった。
(今がチャンスだ!オレ!)
これを活用しないよーな男は、本能そのものが死んでいる。
なんてったって愛しい愛しいリナと部屋に二人っきり♪
無防備でリラックスしていた可愛い後姿!
条件は揃っている。
オレを男として意識…してもらうのは今からでも充分ぢゃないか(ニヤリ)

「あ、あんたねぇっ。変なことはしちゃだめって、あん時言ったでしょ!?」
「ヘンなことって何だよ」
「(かぁあああっ!!)変なことってのは、つまり…ごにょごにょ…」
くす。口篭もるリナに、思わず苦笑が漏れる。
「むか!ガウリイあんた今笑ったわねっ!?人をからかうのもいーかげんに…」
「いや、からかってはいないんだが」
どう言ったものか、しばし考え込む。
そしてオレは、ようやく振りかえったリナの、
長い睫毛に縁取られたどんぐり目を覗きこんだ。
「…なぁ。どのへんまでが、その『ヘン』なことなんだ?」
ほへ?
虚を突かれた顔で、オレの顔を見つめ返すリナ。
くぅううううっ!!間近でみると、ぐぐっとくるぞ!
思わず涎が出そうになるのを堪え(笑)、オレはなるべくまぢめに続けた。
「………キスは?」
「へっ!?」
「キスするのも駄目なのか?」

オレには、目の前の唇にキスするだとか、
華奢な身体ぎゅうぎゅう抱きしめるだとか。
果てはベッドでリナと二人裸になって、
心ゆくまでたぁっぷっりと愛し合うということさえ、
『変』なこととは思えない。
切望こそすれ、それらにオレが、
違和感や躊躇いを覚えるようなことは絶対にない。
これには、経験のあるなしも関係するだろう。
でも煎じ詰めれば、よ〜するにそれだけ、オレがこの少女がスキってことだ。
しかし長く「オレはお前さんの保護者」
と言いつづけてきたこともあるし、
リナが『変』なことをして欲しくないなら、
ある程度我慢はしなけりゃならないだろう。

「なあ。リナ?」
「う…(汗)」
「オレとしては、この状況でキスもできないってのは、
ちょっと辛いもんがあるんだが。
リナが嫌なら無理強いはしない」
傭兵なんぞをやっていて分ったのは、
男が思うほど抱いたの抱かれたのという事実が力を持たないということだ。
…過去に他の女で試してみたことさえ、
何より大事なリナを絡め取る自信にはなり得ない。
「リナ」
優しく掴んだ髪をまた、つんつんと引っ張った。
「…」
真っ赤になって恨めしそうな顔でオレを見ながら、
今この場所にある雰囲気に、リナが黙り込む。
機を逃さずに、オレは急いで身を乗り出した。

「ん」
「…」
「…んむ」
「は」

………あぁっ!!オレやばいかも(笑)。
思わず、初めてなのにでぃーぷなキスをしてしまった!
(スマン、リナ!)
でも普通、無理だろ!?
こぉおんな恋焦がれた唇に触れるだけで済むか?

「んん」
「…あむ」

ああ今、夢にまで見たリナのキスがオレのものに!
小っちゃい柔ぁらかい舌。
なんつーか味わうと溶けそーに滑らかだ。

「う」
「んぬ〜!」

ばしいッ、ぐぐぐ。
なんか背中をスリッパでしばかれたり、
手袋嵌めた手に思いっきり髪を引っ張られたりしてるよ〜な気もするが、
今のオレには瑣末事でしかない♪
逃げ回る愛しい舌の感触が、理性を揺さぶる。
ぷち。
甘いリナの感触に自分の理性があっさり切れる音を、オレは遠く聞いた。
………前言撤回決定♪

(このまま押したおして、なにがなんでもリナとする。)

芯まで熱に浮かされた頭で鼻息も荒く、
ブラストソードより固い決意を呟いた瞬間。
ぴくくうっ!!とリナが反応した。
まるで、オレの心の叫びが聞こえたよ〜なタイミングだった。

どごぉっ。

「!?〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「はぁっ、はぁっ…こんの、馬鹿すけべぇっ!」
茹ダコのよ〜に上気したリナが視界の端に見えたが、
しばらくオレはそれどころではなかった。
「〜〜〜〜っ(涙目)」
リナ…をまい、男の急所を…。
しかも、これまでにないスバラシイ状況に、
思わずちょっと反応しかかっていたんだぞっぉ?!
使いモンにならなくなったら、
一体ど〜してくれるんだっっ(血涙)
「〜〜〜…を、をまいなぁ…」
「問答無用よっ」
悶絶して倒れ伏すオレに、
さらにびしばしとリナがスリッパ制裁を加えてくる。
「なんつーこと考えてるのよボケがうりいっ!」
「……痛いだろっ(怒)たんにキスしただけぢゃないか」
「それだって長過ぎるわぁぁぁあっ!」
「…へ」
「一体いつまで続ける気だったのよ、窒息死させる気ぃ!?」
…はい?
なんとか痛みをやり過ごしたオレは、リナの言葉にきょとんとしてしまう。
「長かったか?」
名残を惜しむ暇もなく離れてしまったのに。

「ばっ…ガウリイ、あんたってやつ……は…」
「……」
「まったく……」
「……」

沈黙が、部屋を支配した。
お互いに、視線で状況を確かめる。

「……雷撃」
「ぐぎえぇえええっ」

突然リナが投げやりに詠唱した呪文で焦げたのは、
オレではない。
窓の外に顔を覗かせた知らん男だった。
「お、おのれリナ=インバ…」
さっき言ってた…復讐しにきた魔道士か?
よくは分らんが、黒っぽいずるずるした服を着ている。
「ええい、うっとぉしー!もひとつ雷撃」
「ぐぎぎぎぎ!」
窓の桟に捕まって頑張っている痩せた男。
ま〜ちょっぴり哀れではあったが、
普段は温厚なオレとて、
リナと二人きりという状況を壊した他人に同情などできる訳がない。
「はっはっは♪コイツなで切りにしてもいいか?リナ」
「ひ、ひどいっ…せめて呪文のひとつぐらい…」
「煩いわぁっ!!勝手にどっか飛んでけ振動弾っ!」

暗い夜空に吸い込まれて行った、
情けないその姿を見届けるのもそこそこに。
リナが溜息をついてくるりと背を向けた。

「ぢゃ、あたしは部屋に戻るから」
「へ!?」
「やっぱし夜更かしは美容の大敵!
お・や・す・み、ガウリイ…眠り<スリーピング>♪」

どた。
ぐ…ゆ、油断したぁっ!!!
部屋の冷たい床の上に転がるオレを見て、
まだ薄っすら赤い顔に明らかにほっとした表情を浮かべ、
顔で扉から出て行こうとするリナ。
オレは必死で手を伸ばそうとしたが、
指の先すら、ぴくりともしてくれなかった。
あぁあああああ!!(号泣)
リナ。
オレが悪かった〜!
今度からは、押し倒すのはなんとか我慢する。
頑張る。理性を飛ばさないよーに修行でも苦行でも耐えてやる。
だから、
せめて眠り<すりーぴんぐ>なんか唱えずに、
お休みなさいのキス♪とかしてくれよ〜!!
うむ、我ながらそれ…いい考えだなぁっ♪

…ぱたし。

はっ。
非情に閉まるドアの音がオレを現実に引き戻した。
……。
なんかも〜哀しくて泣きたい。
おのれぇえ、あのざこ魔導士の馬鹿野郎ぉっ(恨)
折角!!
せっかくリナと部屋に二人っきりだったというのに…。
せめて夜明けまで待つとかゆー心づかいはないのか?
世の中に神はいないのかっ?
いるのは魔族とかそんなのばっかしか?

身体は動かないくせに、
さっきのたった一回こっきりのキスで目が冴えて眠れない男の純情を、
リナ、お前一体、
ど〜してくれるんだぁああああああ!!!!!


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もう一度言おう。

『い…いっそ、いっそのこと、
すっぱりと殺してくれぇぇぇぇぇえっ!(血反吐)』
そんな心境のことを、世のひとは生殺しと呼ぶ。

あれ以来、妙に用心深くなったリナは、
キスもさせてくれなくなった。
一度蜜の味を知ったガウリイ=ガブリエフは、
ぴーまん地獄よりなお苦しい日々を送っている。




終わり♪