四月の始めに…









俺は、リナを愛してる。
偽る事なんてもう出来ない、この想い。
伝える、今日こそ。

唐突な始まり方だったのだが。
とにかく俺、ガウリイ=ガブリエフは一緒に旅をしているリナ=インバースという女
の子、いや女性に惚れこんで四年になる。
最初は保護者のつもりだった…でも惹かれてた。
だから今日こそこの気持ちを伝える気でいた。
どうして急にこんな気持ちになったんだろう。
でも、気持ちは本当だから。
今日こそ、愛してると言う。
俺はそんな決心をしながら、リナの待つ食堂に向かったのだった。

本当に、いつも通りに振舞った。
いつも通りに飯の取り合いをして、いつも通りに笑って。
でも、いつも通りにはもう甘えない。
俺は食後の紅茶を飲んでいるリナを見た。
「なあリナ。」
真剣な声で、リナを呼ぶ。
「何?ガウリイ。」
リナが紅茶を置く。
「俺…」
一瞬の沈黙。
「お前の事、愛してる。」
リナを見つめて、そう言った。
リナは、一瞬呆然として、そして―――
悲しそうな、顔?

ぱしゃり

そう思った瞬間、冷たい感触が頭に広がった。
水だった。
リナがコップに入った水を俺に向かってぶちまけたのだ。
「最っ…低………」
「リ…ナ?」
「……性質の悪い冗談の区別ぐらいつけてよねッ!頭冷やせバカッ!」
リナはコップを乱暴に置き、食堂のドアを乱暴に開けて、去っていった。
「……………………」
俺はぶちまけられた水を拭くこともせず、周りの興味津々な視線の中で、ただ呆然と
していた。
やっとリナの言葉の意味が浸透して。
今更激しい胸の痛みが襲ってきた。

気がつくと俺は、この街が見渡せる小高い丘に走ってきた。
頭を整理したくて、静かな場所にいたかった。
リナは、迷惑だったんだろうか。
俺の気持ち、迷惑だったんだろうか。
すごく、悲しそうな顔で俺を見ていた。


……性質の悪い冗談の区別ぐらいつけてよねッ!


冗談なんかじゃないのに。
俺は、お前を愛してるのに。
どうして信じてくれなかったんだろう。
もし、冗談だって思ってるならどうしてあんなに怒ったんだ?
わからないことばっかりで、そしてこのどうしようもない胸の痛みで、どうになか
なってしまいそうだ。
頭を冷やせと言われたが、冷えたら何か、わかるんだろうか。
「リナ………」
名前を呼んでみる。
呼んでも、何が変わるわけでもないけれど。
ただ呟いて。
空を見ていた。
そうしてもう夕方になった。
空が真っ赤になって夕日が沈む。
昼飯は食べていない。
食べる気も起こらなかった。
だけど、ずっと立っていても答えなんか見つからなかった。
根も葉もない推測。
それらが俺の頭の中で生まれては消える。
悪循環。
俺は、突然首を振る。
考えるのをやめて俺はふぅと息をついた。
やめよう、こんなところで留まっていても答えなんか出るわけない。
聞きに行こう、リナに。
真剣に、また愛してると言って。
信じてもらうまでは、ちゃんとした答えを貰うまでは、あきらめてなんか、やらな
い。
宿に向かって走っていった。

宿にはリナは帰っていなかった。
宿の親父さんに聞いても知らない、と言われて俺はリナの気配を探しながら夜になっ
た街を探した。
気配が、した。
そっちの方に向かっていくと………酒場?

カランカラン…

ドアを開けて中に入ると意外に洒落た酒場だった。
奥のカウンターには、小柄な影があった。
リナだ。
「お客さんッ飲み過ぎですよっ!」
焦った店員の声がする、リナに向かって言ってる…?
「うっさいわねぇっあんたにはカンケーないでしょぉ!」
リナの足下には酒瓶がごろごろと転がっていた。
しかも………
「関係あるぞ。」
押し殺した声でリナがふりかえる。
「あによ、ガウリイ…………」
「朝から…ずっと飲んでるのか?」
「………そーだけど?」
「お前、酒弱いのにこんな強いの……!」
その酒は、強い酒だった。
俺も傭兵時代、飲んだことがあった。
俺でも最高三瓶ぐらいまでしか飲んだことがない。
そのぐらい、強い酒。
だが、転がっているのは三、四などという量ではなかった。
「いーじゃない別に……あたしの勝手。」
リナはそう言ってコップに酒をなみなみと注ぐ。
「馬鹿、お前体壊すぞッ!」
慌ててコップをもぎ取ろうとするが、リナはそれを一気にあおった。
「リナッッ!!!」
「何よ、これぐら……大丈夫………」
「おいっ!?」
ふらりと傾きかけた身体を慌てて支える。
「全然大丈夫なんかじゃないだろっ!?」
「大……丈夫よ………もう、子供じゃない………」
そう言ったリナがまた酒に手を伸ばす。
俺はそれをひったくる。
「返してよ…」
「ダメだ。もう、これ以上飲むな。」
リナはガタンと席を立った。
「どこ行くんだ、リナ?」
「別のトコで、飲みなおすわ…」
「ダメだ。」
リナがきっとこっちを睨みつける。
「どーしてッ!?あんたにあたしのことをどーこーいう立場なんてない!」
「俺は………!」
「『お前の保護者』でしょ!?もうあたし19なの!あんたにとやかく言われるほど子
供じゃないんだ…から…!」
「なっ…!」
リナがそう叫んで、俺がかっとなって言い返そうとした瞬間。
ふらり…
リナの身体が傾いて、倒れた。
「リナ!!!!」
叫んだ声は、虚しく酒場に響いた。

リナが倒れて、俺は慌てて宿に連れかえった。
医者によると、ただ酔いつぶれているだけだそうだが…
リナの顔を見つめて。心の奥で呟いてみる。
どうしてだ?どうしてお前はあんなこと…
なあ、俺のせいなのか?
「う………」
うめいてリナが目を開ける。
「気がついたか?」
「…………あたし、どーしたの?」
虚ろな瞳で尋ねてくるリナ。
「酔いつぶれて、倒れたんだよ。」
「そう………」
素っ気無い一言を発してリナはくるりと背中を向ける。
「なあ…どーして……あんなに酒飲んだんだ?」
「別に…何となく………」
「嘘つくなよ。」
「別に……嘘ついてなんかないわよ。ただ無性にむしゃくしゃしてただけ。」
「じゃあ、聞き方をかえる。朝、俺が言ったことで、怒ってるのか?」
「……………………」
「それなら…なんで怒ったんだよ。」
「性質の悪い冗談なんか言うからよ。」
「冗談なんかじゃ…」
リナはベッドから起きあがる。
「嘘つき!!まだあたしをからかう気なの!?それともあたしの気持ちがわかって同
情でもしてるわけッ!?やめてよねッ!そーいうの一番最低ッッ!!」
「冗談なんかじゃないッ!ずっと…ずっと想ってた!お前のこと愛してるって!!」
リナが悲痛な叫び声をあげる。
「じゃあ何でよ…ッ!何で今日告白すんの!?どーせからかってるだけなんでしょ!
?お子様だって笑ってるんでしょ!?」
意味がわからない。何のことを言ってるんだ?
「何でそんなこと言うんだよ!何で今日告白しちゃダメなんだ!?」
「今日四月一日よ!エイプリルフールじゃないッ!わかってて言わせないでよ!」
あ………!
「俺、そんなこと忘れて…」
言いながら、本当は逃げてたんじゃ…と思う。
リナが受け入れてくれなかった時、冗談だ、今日はエイプリルフールだろ?と軽く笑
えるように…俺は逃げてた?
「いいのよそんなに取り繕わなくても!嘘つけるほどあたしのこと子供としてみてる
んでしょ!?少しでも女としてみてたらそんな嘘つかないもんね!冗談じゃないわ
よっ!あたしはあんたのことずっと男として見てるのに…!」
え!!?
「おいっ!?」
リナを無理やりこっちに向かせ、尋ねる。
「お前、今なんて……?」
「…………。」
「男として見てるって…俺のこと男として見てるって言わなかったか?」
声が震える。聞き間違いじゃないことを切に願って。
「言ったわよ……」
「嘘じゃ、ないんだな?」
「…………そーだけど。あんたと違って性質の悪い冗談は言わないし。」
俺は彼女をぎゅっと抱きしめる。
「ちょっ!?何するの…!」
「嘘でも同情でも親愛でもない。お前を、女として愛してる、リナ……」
リナが耳まで真っ赤になる。うろたえた顔で呟く。
「う…嘘つき、保護者だって言ったじゃない……そー簡単に信じてなんか、あげない
んだから…だって今日は嘘ついても許される日でしょ。」
そうリナが言った瞬間柱時計が十二時を告げる。
「もう、エイプリルフールじゃないな。」
俺はそう確認して言った。
「俺は、お前を…リナを愛してる。女として愛してる。保護者っていうのはある意味
本当だ。お前を何からも、守ってやりたい。愛してるんだ、誰よりも深く。これで、
わかったか…?」
リナが赤くなって言う。
「月並みだけど及第点をあげるわよ。」
そしてリナは耳元で呟く。小さく。俺はそれだけで十分だった。
「ありがとう、リナ。」
ぎゅうと彼女を抱きしめた。

〜〜おまけ〜〜
それからちょっと悪戯心が働いて、言う。
「でも…信じてくれなかったのは、ちょっとショックだったんだけど?」
「う゛……でもそれはガウリイが紛らわしい時に言ったからでしょ。それに、保護者
とか紛らわしいこといってんのが悪いんじゃない。」
とそっぽを向くリナ。
「水、冷たかったなー」
などとぶつぶつ呟いてみる。それに堪えかねたのかリナが観念して尋ねた。
「だぁもうっ!どーして欲しいの!?」
「キスしてくれたら許すけど。」
冗談めかして、でも本気で言ってみる。
「却下。」
ぷーいと横を向いてしまったリナに。
「りなぁぁ〜〜」
子犬のように言う俺。リナ、これに弱いからな。
「〜〜〜ッ!もうっ」
かすめるだけの、キス。
そして恥ずかしいのかまた顔をそらす。
それだけで俺の小さな恋人さんは真っ赤になっている。
大人になるにはまだまだかな。
俺はそんな事を思いながら、真っ赤になったリナを見てくすりと笑った。

〜〜おわり〜〜

〜〜あとがき〜〜
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ悲鳴がッ悲鳴が出るぅぅぅ!!
スミマセンッ!
お見苦しいもん見せちゃいました〜〜!!
(だっしゅで逃げッ)