Passion Days









……暑い……。
なんだってこう毎日毎日暑いんだ?
カチャリ…と音を立ててオレはフォークを置いた。
「ほへ? ガウリイもう食べないの?」
瞳にありありと心配の色を浮かべながらリナが問いかけてくる。
「ガウリイ全然食べてないじゃないっ!?
 こんなに暑くちゃ、食べるもん食べなきゃもたないわよ?」
「ああ…わかってる……。
 わかってるんだが……」
リナが心配するのも無理はない。
夏バテ、というわけではないのだが。
このところ、オレは食欲がない。
今だって、一人前食べただけだ。
いつもなら軽くメニューの上から下まで平らげてるはずのオレが。
これじゃリナが心配するのも無理はない。
無理は、ないんだが……


           『Passion Days』


夏。
蝉の声がやかましいほど聞こえてくる陽気。
暑がりなリナは、「日に焼けちゃう」と言って日中まったく外に出ない。
その結果。
宿の部屋で魔道書を読み耽っていることが多いのだが。
時々不意打ちのように本人曰く「なんとなく」来るのだ。
オレの部屋に。
別に部屋に来るのはいい。
いや、正直来てくれるのはメチャメチャ嬉しい。
だが。
暑苦しい中、炎天下を歩き回っているわけでもなく。
室内でくつろぎきってるリナの格好は。
冷気の魔法をかけたマントで全身をすっぽり覆い隠しているわけでなく。
タンクトップに短パンという実に涼しげな出で立ちで。
そのすらりとした華奢な肢体を惜しげもなく晒している。
しかし。
リナの薄着が見れて嬉しいと思ったのは、ほんの一瞬のことだった。
ベッドの上に無防備に投げ出される細い手足。
暑さ故、髪の毛は束ねられ、白い項が見え隠れしている。
その上…オレが見たところ……リナはノーブラなのだ。
部屋に来た頃はチラチラと見えそうで見えない男心を擽るタンクトップが。
部屋を出る頃には汗でピッタリとその胸の形に沿って張り付いていることを。
果たしてこいつは気付いているのだろうか?
食事の前には流石に着替えてくるのだが。
目線がどうしても胸の辺りにいってしまうのは……哀しい男の性ってやつだ。

この生殺しの日々。
こう毎日毎日理性が絶叫を上げつつける日が続けば。
いくらオレでも、食事が体力とダイレクトに結びついていることくらい想像できるようにもなる。
そして、体力が性欲と深く関わり合っているということも。
だからオレは食事を控えるようにした。
いや、意識して控える必要はなかった。
なにしろ目の前の食事よりリナの方が美味しそうで。
皿に乗ってる食材なんか、食う気がしないんだから――…


そして冒頭に戻る、というわけだ。



そんな日が何日も続いて。
食欲のないオレを夏バテと信じて疑ってないリナが。
子供のように無邪気な笑顔で。
とんでもないことを言い出した。
「ガ〜〜ウリイ♪
 あたしが作ったスペシャルディナーよ!
 油控えて薄味にしたんだから、頑張って食べなさいよ?」
その言葉にテーブルを見れば。
所狭しと並んだ料理の数々。
   鰻の蒲焼き。
   鮪の赤身。
   牛肉のタタキ
   焼き鳥(レバー)
   長ネギの串焼き。
   水餃子。
   ニンニクのホイル焼き。
   ニンジンとブロッコリーの温野菜。
   オクラとニラの卵あえ。……などなど。
「一応ドリンク剤も用意したんだけど、それはまた今度ね。
 胃がちゃんとしてない時は、少しずつ食べ物で栄養とらなきゃ。ね♪」
そう言って微笑みかけてくるリナの瞳は。
「まさか残すなんて言わないわよねぇ?」と雄弁に語っていた……。

リナは知ってるんだろうか?
滋養のある食べ物というのは、精力増進の食べ物でもあるということを……。
きっと…いや間違いなく気付いてないんだろうなぁ……リナは。
リナに気付かれないように、そっと溜め息をつく。

「あんたの夏バテが解消されるまで、毎日作ってあげるからねv」
天使の笑顔でオレを追い詰める小悪魔。
こんな内容のもん、毎日食ってたら……
どうなるか、わかってんのか?
オレ、いい加減我慢できないぞ?

それでも残さず食べたオレ。
リナが作った飯だから。
だけど理性はもう限界。
軽くリナの腕を引く。
「わきゃ!?」
オレの方に倒れ込む華奢な躰を抱き寄せて。
唇を重ねた。
そのまま片手で頭を固定して。
細い腰を抱き締めて。
一気にベッドにもつれ込む。
藻掻く躰を押さえ込み。
抵抗できなくなるまで。
深くキスをする。

今まで我慢してきたんだ。
責任取って付き合ってくれよな、リナ?

end.