「 Midnight 」


夜になり、俺は、家をこっそりと出て 夜の酒場へと、
歩き出していた。

店内に足を踏み入れると、店ん中は、薄暗く、
タバコの臭いと酒の臭いが充満し、活気溢れる男共の
 笑い声・・・・、
俺は、そんな物を片っぱしから、無視して 店内に
ドカドカと入って行く。

俺が、一直線に向かった先には、思った通りの先客が、
カウンター席に一人、

・・・俺の娘の旅の連れ、ガウリィだ。


「ここに座んぞ」


俺は、ガウリィの真横の席に陣取る・・・だが、
ヤツは、何も言わない。

相当、昼間のアレが、ショックだったらしい、
まぁ、当たり前と言えば、当たり前の話だが・・。

そして、俺は、いつものを頼む、
俺の注文に、バーテンダーが、シェイカーを取り出す。


「一人 酒を、かっ食らうのも良いが・・・、
  負け戦になるからって、何もせんで
 ウジウジすんのは、良くねぇぞ」


ガウリィは、何もしないで、一歩も進もうとせずにいた。

・・・俺が、惚れている女の親 だって事を知って、
リナを手放しかけていた。

手放す事は、出来なくても・・どうしたら良いのか、
自己放棄に陥っているのは、確かな事だ。


「惚れてんだろ、俺の娘に・・・」
「?!」


俺の言葉に、今まで、下を向いていたガウリィが、
 バッと俺の方を見た。
何で?って顔をしているが、おいおい、これで分からん
ヤツの方が 少ないと、俺は、思うぞ。


「俺に言う前に、前に向かって 真っ直ぐ走っている
 リナを振り向かせんと、資格は、ねぇぞ」


リナは、後ろを振り向く事は、無い・・・・前を真っ直ぐ
見据えて、何事も 一生懸命 走っている。

だからこそ、リナが後ろを 任せられる人物に出会えて、
あの子は、光り輝いている。
声を掛ければ、あの子は、きっと ガウリィに向かって、
 満面の笑みを返すだろう、

  ・・・・それが、コイツには、分かっていない。


「言ってねぇだろが・・・」


ガウリィは、俺の娘に惚れてるが、物には、順番が有る。

リナだって、コイツの本心を聞いてみたいだろう、
コイツの想いを、だからこそ、俺は、コイツに 釘を
刺す為にやって来た。


そこまで言うと、バーテンダーが、俺の前に、グラスを
差し出す。

それには、俺の好きな カルーア・ミルクが、
注がれていた・・・俺は、それを手に持ち、一気に飲む。
それを見ると、バーテンダーが、次のおかわりを、
作り始める。


「そりゃ、照れくせぇのは 分かるが、女ってヤツは、
 ストレートな直球を、投げた方が、回りくどい事を
 するより、分かってくれる」


反対に、回りくどい事をするのは、女は、全然 分かって
くれねぇ。

それに、告白ってヤツは、男からした方が、女は、
喜んでくれるし・・・・・、
ましてや、好きな男からの告白 だったら、尚更だ。


「相手がリナなのにか・・・」


相思相愛ってヤツなのに、何を臆病になって
やがるんだか・・・・。


「リナを恐がって、俺ん所に言いに来るよっかマシだ」
「恐がる?」

  カラン・・

ガウリィの飲んでいた酒に 入っていた氷が、ガウリィの
動きに反応するかの様に、音を立てる。


「そうだ・・・お前は、リナに言うという前に、
 俺に言うつもりだった・・・・違うか?」


ガウリィが、黙る。
図星だったらしいな・・・、ガウリィは、俺ん所に、
 直接『お嬢さんをオレに下さい』とでも言いに来る
ハズだったのだろう。

だが、その予定は、俺と言う予想外の人物だった為に、
根っコから、脆くも崩れてしまった。


そんなんだから、リナに気付いてもらえないんだ・・・、
見てる こっちが、うっとうしい。


「お門違いも、いい加減にしろ・・・・、
 俺の前に現れるのは、リナを 自分の方に振り向かせて
  残りの人生をリナが、てめぇに 預けた時だ」


そう・・・大事なリナに何も言わないで、先に話を進め
ようって言うのが、間違いだって言うんだ。

こう言うのは、キチンと リナ本人に、話をつけてくれ。


「チャンスは、一回」


俺は、そう言うと、席から立ち上がり、金をカウンター
に置く・・・。
話をしながら、俺は、ちゃっかり、4杯のカクテルを、
飲んでいた。


「リナの目をしっかり、見て 言ってみやがれ!」

 去り際に、俺は、そう吐いた。



           *****



俺が、店を出て 家へと歩いていると、一つのシルエット
 が俺の前に踊り出す。

長い栗色の髪が印象深い、真紅の瞳を持ち合わせた女性、
俺の恋焦がれた存在・・・回りの人間が、羨ましがる程の
愛妻家の俺の相手。


「・・・・母ちゃん」


家から、出て来る時、気配を殺して出て来たのに、
母ちゃんには、ばれていた。


「貴方も、私に『好きだ』って、直球を投げて
  下さいましたものね・・・・」


長い髪を揺らしながら、俺の側に進み寄る、
 俺の愛しい妻・・・・・、
俺が 告白した時の事は、今だって覚えている。


「聞いてたのか・・・」


俺の肩に手を添えて、微笑む・・妻・・・・・。

俺は、彼女に一生を捧げた、
そして、今の幸せ・・・俺の居場所。


「はい・・・・
  リナの幸せが、私達の幸せ・・・・でしょ、貴方」


俺は、驚いて、母ちゃんの方を見る。

確かに、そうだ・・・リナとルナには、幸せになって
 もらいたい。

それは、俺の願い、・・・母ちゃんの願い。


「ちっ、食えんなぁ 母ちゃんは」
「帰りましょ・・我が家へ・・・・」


リナ、お前が幸せを掴めるなら、俺は、いくらでも、
お前の踏み台になってやる!

だから、幸せになれ、俺らみたいな
 なんでも、分かちあえる夫婦に・・・・。


俺は、母ちゃんの幸せそうな顔を見ながら、我が家へと
 帰って行った。


                     Fin