「 帰郷にて(?side) 」



俺は、天気が良いと言う理由だけで、うちの母ちゃんに、
仕入れに行って来い と言われ、渋々 行きつけの
業者ん所に、行って来た帰りだった。

手には、皮袋いっぱいの商人の命の源、それを傷つけねぇ
様に、家へと街道を歩いていた。

ポカポカした陽気は、気持ち良いもんだぜっ！


「ふぁ〜〜っ」


大きく伸びをし、途端に 欠伸が出る。

他人から　見りゃあ、口にくわえている火のついてねぇ
タバコが、欠伸が出た瞬間、見事に 落ちんで
俺の口にある事が、不思議でたまらねぇだろうなぁ。

それに、タバコに火がついてねぇ事も、もう１つの
オマケだな。


「んっ？」


だら〜っ と、歩いていると　後方の遠ぉ〜くの方に、
見知った気配が２つ。

１つは、俺の大事な宝物のうちの１つ、
そして、その隣に居るのは、天然・・・・・。

俺は、気配なんかを 読み取るのが、得意だ・・
だからこそ、この気配が、何者であるかが、手に取る
様に分かっちまう。


「フン、　世間は、狭めえなぁ〜」


思わず、苦笑いが出ちまう。


おっと、あちらさんも、俺の存在に気付いた様だ・・・
気配の１つが、探りを入れてきた。

神経を研ぎ済まして、俺の事を伺っている、
もちろん、気付いたのは、天然じゃねぇ・・・・、
俺の宝物の方だ。

俺は、振り向きもせずに、気配を背中で感じつつ、
その存在が、俺に向かって　突っ込んで来るのを、読み
取っていた。


「ただいまぁ〜〜〜！！！」


加速をつけたまま、俺の首に飛びつく宝物。

普通の奴なら、この首に飛びついた時点で、逝っちまう
だろう。
まぁ、これぐれぇで　逝っちまう様じゃ、コイツと
他んヤツを見守るなんて 芸当　出来んだろ。


「おっ、リナじゃねぇか」


リナ・・・、俺と母ちゃんとの２番目の娘、だから、
宝物ってワケだ。

俺は、リナの頭を 姉ちゃんに泣かされたと言っては、
俺ん所に来て泣いていた時、していた様に、頭をゆっくり
と撫でた。


「いきなり、帰って来たのに、驚かないの？」


キョトンとした姿は、まるで 母ちゃんの生き写しだな。
驚くも何もねぇよな、リナの通った後に来る噂って
ヤツが、一人歩きして先に来ちまうし、何より、俺の街の
側に、巣くっていた盗賊共が、白旗上げて投降して
来た・・・とかなっ。
まっ、盗賊に人権なんてモンは、ねえってリナも言って
るから、白旗上げたって、俺にゃあ、関係ねえがな。


「あぁ？ ・・驚くも何も、テメェの通った後の噂って
　ヤツが、先に耳に入っちまうからなぁ」


んなコトを言うと、リナの顔がみるみる内に　青ざめて
いく。

　　クスッ・・・

今、リナのヤツが、考えている事が分かっちまう。
・・・リナの姉、ルナに、今　俺が内容を省いて言った
事が、耳に入っているかどうかだろうなぁ。

いつまでたっても、ルナには、弱ぇ〜ってコトか・・、
俺は、そんなリナを安心させる様に声を掛ける。


「お帰りな、リナ」


そのまま、俺は、この旅に送り出した時と同じ様に、
自分の愛娘の頬に、健康な姿で 無事戻って来てくれた
事に対しての接吻。

それをリナに送ると、リナの思考は、見事 こっちに、
向いた。

よし！ 青ざめた顔は、一瞬にして変わり、リナは、
俺に向かって、微笑んだ。


「ただいま、父ちゃん」


数年ぶりに、戻って来たリナは、性格は、そのまま
そうだが、しっかり 女になっていた。

親の俺が言うのも なんだが、綺麗になった。

その姿は、恋を知った女って所だろうなぁ・・・
そして、その恋の対象は、天然。

あんなに、子供だった リナがなぁ・・・。

それにしたって、接吻を送るタイミング・・それは、
計算されたもんだとは、思わんだろ。

それは、天然の視界に、俺とリナが入って来た時・・・、
もし、これで何も反応がねぇのなら、てめぇの目が、
節穴だって事だ。


だが、面白れぇ反応が、返って来た・・・・
リナの頬にキスした瞬間、天然から 殺気を含んだ空気が
ここまで 届いて来た。

リナは、気付いてねぇ、俺だけへの殺気・・・、
面白れぇなぁ・・からかいがいが、有りそうなヤツだ。


その天然を、俺は、遠目で チラリと盗み見る・・・と、
すんげぇ形相で、もうもうと砂煙を上げて、走って
来やがる。
　ニヤッ・・
コイツは、マジで リナに惚れてるなっ！
我が娘ながら、とんでもねぇヤツに、惚れられちまった
なぁ。


他合いない話をしていたリナに対して、
俺は、今　爆走してくる天然の事を話してみる事にした。


「ところでなぁ、リナよぉ」
「何？」


話の腰を折っちまったが、リナのヤツは、気にしちゃ
　いない・・まっ、その方が 俺も話しやすいが。


「後ろの方で、すんげぇ形相しながら、砂煙 上げて
　　走ってくる パッキンのガウリィ・・、
　アレ　お前の連れか？」


そう、天然ボケを、この俺に見事にかましたヤロー。
奴の名前は、ガウリィ・・、昔 気に入らねぇ事件の時に
出会った、暗い印象を持っていた男。

だが、今 パッと見た感じだと、ヤツは、俺の娘に出会っ
て印象までも、変えられたらしい・・・・・、
まっ、俺の娘を相手にするならしゃあねぇなぁ・・・。


「へっ？」


ハトが、マメ(銃弾)を食らって、ハト鍋になる様な顔
してんじゃねぇよ。

にしたって、まさかチラホラ耳に入って来る情報が、
本当だったとはなぁ・・・。


「俺の情報からだと、お前の回りを、ウロチョロしてる
　物好きな男がいるって話だが・・・」


　いわゆる一つの物好き・・。
親の俺が言うのも何だが、娘らは、そこら辺の男共に
愛想振りまく様な事は、絶対にせん・・・・、
だからこそ、物好きだと 思っちまう。

もしコビるなら、それは、自分の立場を守る為だけ、
・・・例えば、宿を壊した時とか、値引き交渉の 時。


「父ちゃん、ガウリィの事 知ってるの？」


俺とガウリィが知った顔だってんのが、不思議らしい
俺だって、うちのリナが、あのガウリィと旅をしている
なんて思ってもねえからなぁ。


「湿気た面して歩いていやがったんで、ハッパ掛けて
　やったって記憶がな」
「湿気たって、ガウリィがぁ？」

　プッ！

俺の 言った事に対して、リナは、おもいっきり
吹き出した。

・・・そぉか、天然は、俺の言った事を守ってるんか。
　『惚れた女の前でだけは、
　　　　　　悩んだ姿を見せるんじゃねえぞ』
出会った時、物の例えで　俺は、そう言った。
それに、リナのお蔭で奴は、変わった・・。

笑っているリナに、俺の顔は、自然と綻ぶ・・人間一人の
性格さえも変えた俺の娘に対して。

剣のイザコザ云々より、自分に今 出来る事を精一杯し、
そして、執着出来る何かをヤツは、見つけた。

その結果が、ヤツの暴走・・・湿気た面より、人間
感情豊かに育たんといけねぇぞ！

俺の横では、リナが腹を抱えて、未だ 笑っている。


「ちょい、ストップな リナ」
「うみゅ？」


俺は、リナに声を掛ける。
もちろん、俺らのすぐ側まで、走って来たガウリィに、
対応する為・・・・、
後ろを振り返る必要は ねえが、念の為に振り返る。

それに釣られる様に、リナも振り返って・・俺の言った
通りに、砂煙が上がっているのを見、呆然としている。

無理もねえか、今 砂煙のド真ん中にいるのは、自分の
相方だモンなぁ。
しかも、この様子だと ヤツがここまで感情を出した事が
無いらしい。

リナは、確実に ガウリィの今の姿に、驚いている。

待つ間、俺は、リナの頭ん上に 腕を乗っけて寛ぐ、
突拍子のねぇ事をいきなりするのは、ご愛敬。
・・・リナも、それを分かっている。


一分も経たねぇ内に、俺とリナの前に立つ、
さって、開口一番　何を吐くつもりだろうか。


「おい、おっさん！」
「何だ、青ケツ」


お〜ぉ〜、殺気が入りまくった感情剥き出しの野獣かい、
こんなコトに、対応出来ねえようじゃ、まだまだ
子供だな。


「てめぇが、ロリコンだったとはなぁ」
「ロリコンだとぉ・・・」


ロリコン？　この俺が？
よせやい、俺は、俺の母ちゃんが 一番なんだ、
ましてや、自分の娘を相手にするのに、何で、ロリコン
扱いされにゃならん！！


「てめぇ、リナの何だ？」


お〜、嫌だねぇ・・・心に余裕のねぇ、焦っている
ヤツは。

まぁ、ガウリィから見りゃあ、いきなり 第三者が、
リナの前に現れ、しかも、挨拶とは言え、惚れ腐っている
女の頬にキスされりゃあ、荒れるわな。

俺は、リナの頭の上に乗せていた腕を降ろし、今度は、
自分の頭を、リナの頭の上に 乗っけて　上目で、
ガウリィを見上げ、冷静に結論を出す。


「保護者だ」


俺の言葉に、どう返す？　ガウリィ？

俺は、まさに してやったりと・・耳に入って来た情報、
[自称]を名乗っている保護者の反応を伺う事にした。


「リナ、お前さん オレの他に 何人の保護者が、
　居るんだ？」
「へっ？」


ヤツの言葉に、俺も リナも、ほぼ無反応、
は？・・・・てっ、天然は、直ってねえのか・・・・・。


「天然は、健在か・・・」


俺が思うに、リナに 考える事を任せて、頭が退化して
ると見た。


「３人いるわよ、一応」


リナが ３人と口を開くが、コイツ、ルナも一応 数に
入れたのか・・・・・、

　ったく、普通に２人って 言えば、天然だって分かる
だろうに。


「３人、・・それが そのうちの１人か？」
「それだと・・・」


人間、自分の一個人の人格を アレとか，コレとか，ソレ
とかで、表しては、ならねぇ・・・、
ましてや、視線だけで それ扱いをされりゃあ、
たまったモンじゃね〜！！


「ガウリィく〜ん、保護者って言うのは、普通
　誰の事を言うのかなぁ？」


おい、リナ。いくらなんでも、そんな質問、
５歳児でも答えられるぞ。


「へっ？ 誰だっけ？」


・・・・・・・ガッ、ガウリィ。
お前って、脳ミソを 何処に置いて 来たんだ？
バカだ。 天然を通り過ぎて、バカ・・・・・・。


「バカだ・・コイツ」


俺の呟きを聞いたリナは、俺の頭置きにしていた所から、
ユラ〜リ と歩きだす。
あらら、リナのヤツ、青スジ作ってんぞ！
こりゃ駄目だな。

　スパ〜〜〜ン！！！！
「両親でしょうがぁ〜〜〜〜！！！！」


どっからともなく、取り出したスリッパを ガウリィの
頭に 振り降ろして、何も無い街道に、音が響く。


「３人・・、父ちゃん, 母ちゃん, 姉ちゃん」


半分、切れながらも、ガウリィに 分かる様に説明して
いるリナ。


「えっと、リナ 分かる様に、言ってくれ・・・・」
「はぁ・・」


やはりか・・・、
リナにも それが分かっていたらしく、大きな溜め息。

・・・・さってと、俺も そろそろ　帰んねぇと、
母ちゃんの手料理が、冷えちまう、それに、コイツらの
夫婦漫才を見てんのも、飽きたし、帰るかな。


「リナ、先に行っちまうぞ」
「待って、あたしも行くから」


俺の発言に対して、まだ　話し足りないのか・・・、
はたまた、一緒に帰って、母ちゃんと姉ちゃんを
驚かすつもりか、リナは、慌てた様に言う。


そんな リナに対して、俺は、返事の代わりに、
ガウリィとリナの間に割り込んだ。

まっ、人の恋路を邪魔するわけじゃねぇし、
馬に蹴られたくもねぇ・・が、これじゃ、いつまで
経っても、母ちゃん お手製の料理にありつけない。


「ガウリィ、一回しか言わんから よ〜く聞け！」
「何だよ」


ガウリィが、返事をするのを確認して、
　俺は、口を開く。


「リナは、俺の娘だ」

　　ピュウ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ　

俺の言葉に、固まるガウリィ ・・・だろうな、普通。

好きな女に近寄る男が、実は、父親だった・・・
本とかに、よくある話だが、気付かねぇガウリィは、
おマヌケ そのものだな。


「さっ、行くぞ リナ」


リナに声を掛けるが、リナは、何故　どうして？ って
顔して困っている。


「あ、うん。父ちゃん、でも・・・・」
「コイツなら、今は、動かんだろ」


動かんじゃなくて、動けんの間違いだが、今は、そっと
しておいてやろう、・・・俺って、何て 優しいんだろ。


「ちゃんと、後で来てよね　ガウリィ♪」


リナは、それだけ言うと、俺の開いている腕に、
手を絡ませてきた。

・・・小さな手は、まだまだ 小さいまま。

だが、サイは 投げられた・・今からどうなるのか
そして・・・・アイツが、俺らに追いつくのが、
楽しみになった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｆｉｎ